転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜

万実

文字の大きさ
上 下
18 / 105

僕と一緒に遊ぼうよ

しおりを挟む
ませた事を言う子だな。
綺麗だなんて、小さいのに大人を喜ばせようと思っているのかな?
助かったのが嬉しくて、そんな風に言うのだろう、きっと。

「そうだよ、私は君を助けに来たの」

「うわー、ありがとう!!僕ね、ずっと待ってたんだよ。お姉さんに会いたかった。ねぇねぇお姉さん。名前は?なんていう名前?」

ええっ?!

なんだかナンパされてるみたいなんだけど、この子は子供よね···。
気にし過ぎかな。別に名前を教えたって問題ないよね。

「私は雪村深月。深月って呼んでね」

「ミツキ?僕はハヤトだよ」

「ハヤトくん?」

『違う』

あ!扇の声が頭に響いた。
違うって、この子は嘘の名前を言ってるってこと?
どういうことなんだろう。
でも、なにか理由があるのかもしれないし、今はその件は保留にしておこう。

「ミツキ、僕はミツキとずっと一緒に居たい。ねえ、ここで僕と一緒に遊ぼうよ」

「えっ、ここで遊ぶの?いやいや、お父さんとお母さんの所に帰ろうよ」

何を言い出すのやら。
この子のペースに巻き込まれそうで焦るよ。

「僕にお父さんとお母さんはいないんだ。だから帰るところもない」

ハヤトくんはそう言うと、うえーんっと泣き崩れた。
大変!
こんな子供を泣かせてしまった。
子供の扱いなんて分からないよー。
一体どうしたら良いものか。

えーと、とにかく謝っておこう。

「ハヤトくんごめん、変な事聞いちゃったね。あのね、私はこれからあの悪い人と戦わなきゃならないの。それが終わったら一緒に遊ぼうよ」

ハヤトくんは顔をあげ、美女の方を一瞥すると言った。

「ふーん、あのおばちゃんをやっつければいいの?」

おばちゃんって···。
ん、やっつける?

「あの、ハヤトくん?」

ハヤトくんは立ち上がって私の手を取る。

「ねぇミツキ、約束だよ。僕があのおばちゃんをやっつけたらさ、遊んでよ」

はあ?
今まで磔にされていた子供が何を言い出すのやら。

「ハヤトくん、ありがとう。その気持ちは嬉しいけど、戦うのは私だから、安全な所で待ってて」

ハヤトくんはあからさまに機嫌が悪くなり、私の手を離した。

「ミツキはここから出られないのに、どうやって戦うのさ」

「ハヤトくん、何を言っているの?」

おかしい。
結界があって出られないことを何故知ってるの?
それに、僕がやっつけるとか、こんな小さな子供がなんだってそんなことを言うのだろう?

「僕、行ってくる」

「ええっ!ちょっと待って!」

私の制止を聞かずにハヤトくんは歩き出した。
まずいよ。子供一人を行かせる事なんてできない。
慌てて私は後を追った。
ハヤトくんは水の膜の前まで来ると、右手を突き出した。

パーンと大きな音がしたかと思うと、ハヤトくんの右手を起点に結界に穴があき、それはパリパリと音を立て脆く崩れ去った。

それは一瞬の出来事で、私はそれを唖然と見つめるしかできなかった。

そして、スタスタと歩き出したハヤトくんは、美女の前まで来ると、両手を腰に当てて叫んだ。

「おばちゃん、あんたはもう用済みだから消えてくれる?」

えっ?!
用済み?

美女の顔色は一気に青ざめた。
その為に力が緩んだのだろう。
隙をついて伶さんは美女の手を振り切り、ロザリオの剣を美女に突きつけた。

しかし、美女の目はハヤトくんを追っており、伶さんの事なんか眼中に無いように見える。

「ま、待ってください。私はただ貴方様の言う通りに動いただけではありませんか」

「お喋りな大人は嫌いだよ。バイバイ、おばちゃん」

そう言うと、ハヤトくんは右手を美女にかざした。

美女の身体から何かがハヤトくんに流れ、吸収されてゆく。
それはドクッドクッと音のする、水の流れのようにみえる。
美しかった美女の顔は急激にやせ衰え、みるみる年老いて、腰は曲がり、シワだらけになった。

「ひっ!嘘、嘘よっ···助けて!」

美女は自分の衰えるさまを受け入れきれずに叫び続ける。
そしてついに枯れ木のように朽ちて、「ひぃっ」と一声上げて倒れてしまった。

その瞬間、美女のコピー達も一人残らず消え去った。

この力、只者ではないし、人のものではない。
あんなにてこずった美女を一瞬で倒してしまったのだから。
これで明らかになったのは、ハヤトくんは今回の黒幕的存在だということ。
だけど、氷の十字架に磔になっていたのはなんの為?

ハヤトくんは私の前までやってきて、残忍な笑みを見せながら囁いた。

「ほら、悪いやつはいなくなったよ。ミツキ、遊ぼう?」

私はハヤトくんから一歩後ずさった。

「ハヤトくん、君は何者?普通の人間ではないよね」

すると瞳に涙を浮かべながら訴えかけてきた。

「人間かそうでないかなんて、僕にはどうでもいいことだよ。それよりも、僕との約束は?遊んでくれるんでしょう?ミツキは嘘をつかないよね」

そう言うと私ににじり寄り、右手を天高く掲げた。

「深月、そこから離れろ!」

ユキちゃんの声が響いたけれど、時すでに遅し。
私とハヤトくんの周りには、幾何学模様の浮かび上がった水色の膜が出現した。

あっ!
これは結界?!

「ハヤトくん!何をするの」

これは、先程の結界の比ではない。
滑らかで、そして堅固で、美しい。
肌で感じる。
今まで見た結界の中でも、最高で最強。

どうあがいても、私の力でこれを破るのは無理だ。

「ミツキ、これで僕と遊べるね」

「ねえ、ハヤトくん。どうしてこんな事をするの?これじゃ、私帰れないよ」

「ミツキ、ここで僕と一緒に暮らそうよ。ここではお腹も空かないし、時間もない。年を取らないんだ。永遠にその若さでいられるよ」

「私、いくらでもハヤトくんと遊ぶよ。でも、ここにずっと居ることはできない」

「どうして?」

ハヤトくんは泣きそうな顔で私にすがりついた。

私はハヤトくんを諭すように、ゆっくりと話した。

「私には大切な人がいるの。そう、この結界の外にいる人たちだよ。私は彼らと一緒に居たいの。だから、ハヤトくんと遊んだら私は帰る。帰してくれるよね?」

「うん、分かった!···なんて言うと思う?」

「······」

素直に言うことを聞いてくれるなんて思わなかったけど、やっぱりね。

「なんの為に僕が氷の十字架に磔にされてたと思う?」

私は首を傾げると、ハヤトくんは目を細めてほくそ笑んだ。

「君を、ミツキを捕まえるためだ」

「えっ?!」

なんで?
私?!

「こんな姿で磔にされていたら、きっと君は動かずにいられない。そうだよね、ミツキ。いや、祭雅」

祭雅って言った?
その名前を知っているということは!

「ハヤトくん!」

「長かったよ、君がこの世界に現れるまで随分待ったんだ。もう離さない」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

狐メイドは 絆されない

一花八華
キャラ文芸
たまもさん(9歳)は、狐メイドです。傾国の美女で悪女だった記憶があります。現在、魔術師のセイの元に身を寄せています。ただ…セイは、元安倍晴明という陰陽師で、たまもさんの宿敵で…。 美悪女を目指す、たまもさんとたまもさんを溺愛するセイのほのぼの日常ショートストーリーです。狐メイドは、宿敵なんかに絆されない☆ 完結に設定にしていますが、たまに更新します。 ※表紙は、mさんに塗っていただきました。柔らかな色彩!ありがとうございます!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

処理中です...