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僕と一緒に遊ぼうよ

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ませた事を言う子だな。
綺麗だなんて、小さいのに大人を喜ばせようと思っているのかな?
助かったのが嬉しくて、そんな風に言うのだろう、きっと。

「そうだよ、私は君を助けに来たの」

「うわー、ありがとう!!僕ね、ずっと待ってたんだよ。お姉さんに会いたかった。ねぇねぇお姉さん。名前は?なんていう名前?」

ええっ?!

なんだかナンパされてるみたいなんだけど、この子は子供よね···。
気にし過ぎかな。別に名前を教えたって問題ないよね。

「私は雪村深月。深月って呼んでね」

「ミツキ?僕はハヤトだよ」

「ハヤトくん?」

『違う』

あ!扇の声が頭に響いた。
違うって、この子は嘘の名前を言ってるってこと?
どういうことなんだろう。
でも、なにか理由があるのかもしれないし、今はその件は保留にしておこう。

「ミツキ、僕はミツキとずっと一緒に居たい。ねえ、ここで僕と一緒に遊ぼうよ」

「えっ、ここで遊ぶの?いやいや、お父さんとお母さんの所に帰ろうよ」

何を言い出すのやら。
この子のペースに巻き込まれそうで焦るよ。

「僕にお父さんとお母さんはいないんだ。だから帰るところもない」

ハヤトくんはそう言うと、うえーんっと泣き崩れた。
大変!
こんな子供を泣かせてしまった。
子供の扱いなんて分からないよー。
一体どうしたら良いものか。

えーと、とにかく謝っておこう。

「ハヤトくんごめん、変な事聞いちゃったね。あのね、私はこれからあの悪い人と戦わなきゃならないの。それが終わったら一緒に遊ぼうよ」

ハヤトくんは顔をあげ、美女の方を一瞥すると言った。

「ふーん、あのおばちゃんをやっつければいいの?」

おばちゃんって···。
ん、やっつける?

「あの、ハヤトくん?」

ハヤトくんは立ち上がって私の手を取る。

「ねぇミツキ、約束だよ。僕があのおばちゃんをやっつけたらさ、遊んでよ」

はあ?
今まで磔にされていた子供が何を言い出すのやら。

「ハヤトくん、ありがとう。その気持ちは嬉しいけど、戦うのは私だから、安全な所で待ってて」

ハヤトくんはあからさまに機嫌が悪くなり、私の手を離した。

「ミツキはここから出られないのに、どうやって戦うのさ」

「ハヤトくん、何を言っているの?」

おかしい。
結界があって出られないことを何故知ってるの?
それに、僕がやっつけるとか、こんな小さな子供がなんだってそんなことを言うのだろう?

「僕、行ってくる」

「ええっ!ちょっと待って!」

私の制止を聞かずにハヤトくんは歩き出した。
まずいよ。子供一人を行かせる事なんてできない。
慌てて私は後を追った。
ハヤトくんは水の膜の前まで来ると、右手を突き出した。

パーンと大きな音がしたかと思うと、ハヤトくんの右手を起点に結界に穴があき、それはパリパリと音を立て脆く崩れ去った。

それは一瞬の出来事で、私はそれを唖然と見つめるしかできなかった。

そして、スタスタと歩き出したハヤトくんは、美女の前まで来ると、両手を腰に当てて叫んだ。

「おばちゃん、あんたはもう用済みだから消えてくれる?」

えっ?!
用済み?

美女の顔色は一気に青ざめた。
その為に力が緩んだのだろう。
隙をついて伶さんは美女の手を振り切り、ロザリオの剣を美女に突きつけた。

しかし、美女の目はハヤトくんを追っており、伶さんの事なんか眼中に無いように見える。

「ま、待ってください。私はただ貴方様の言う通りに動いただけではありませんか」

「お喋りな大人は嫌いだよ。バイバイ、おばちゃん」

そう言うと、ハヤトくんは右手を美女にかざした。

美女の身体から何かがハヤトくんに流れ、吸収されてゆく。
それはドクッドクッと音のする、水の流れのようにみえる。
美しかった美女の顔は急激にやせ衰え、みるみる年老いて、腰は曲がり、シワだらけになった。

「ひっ!嘘、嘘よっ···助けて!」

美女は自分の衰えるさまを受け入れきれずに叫び続ける。
そしてついに枯れ木のように朽ちて、「ひぃっ」と一声上げて倒れてしまった。

その瞬間、美女のコピー達も一人残らず消え去った。

この力、只者ではないし、人のものではない。
あんなにてこずった美女を一瞬で倒してしまったのだから。
これで明らかになったのは、ハヤトくんは今回の黒幕的存在だということ。
だけど、氷の十字架に磔になっていたのはなんの為?

ハヤトくんは私の前までやってきて、残忍な笑みを見せながら囁いた。

「ほら、悪いやつはいなくなったよ。ミツキ、遊ぼう?」

私はハヤトくんから一歩後ずさった。

「ハヤトくん、君は何者?普通の人間ではないよね」

すると瞳に涙を浮かべながら訴えかけてきた。

「人間かそうでないかなんて、僕にはどうでもいいことだよ。それよりも、僕との約束は?遊んでくれるんでしょう?ミツキは嘘をつかないよね」

そう言うと私ににじり寄り、右手を天高く掲げた。

「深月、そこから離れろ!」

ユキちゃんの声が響いたけれど、時すでに遅し。
私とハヤトくんの周りには、幾何学模様の浮かび上がった水色の膜が出現した。

あっ!
これは結界?!

「ハヤトくん!何をするの」

これは、先程の結界の比ではない。
滑らかで、そして堅固で、美しい。
肌で感じる。
今まで見た結界の中でも、最高で最強。

どうあがいても、私の力でこれを破るのは無理だ。

「ミツキ、これで僕と遊べるね」

「ねえ、ハヤトくん。どうしてこんな事をするの?これじゃ、私帰れないよ」

「ミツキ、ここで僕と一緒に暮らそうよ。ここではお腹も空かないし、時間もない。年を取らないんだ。永遠にその若さでいられるよ」

「私、いくらでもハヤトくんと遊ぶよ。でも、ここにずっと居ることはできない」

「どうして?」

ハヤトくんは泣きそうな顔で私にすがりついた。

私はハヤトくんを諭すように、ゆっくりと話した。

「私には大切な人がいるの。そう、この結界の外にいる人たちだよ。私は彼らと一緒に居たいの。だから、ハヤトくんと遊んだら私は帰る。帰してくれるよね?」

「うん、分かった!···なんて言うと思う?」

「······」

素直に言うことを聞いてくれるなんて思わなかったけど、やっぱりね。

「なんの為に僕が氷の十字架に磔にされてたと思う?」

私は首を傾げると、ハヤトくんは目を細めてほくそ笑んだ。

「君を、ミツキを捕まえるためだ」

「えっ?!」

なんで?
私?!

「こんな姿で磔にされていたら、きっと君は動かずにいられない。そうだよね、ミツキ。いや、祭雅」

祭雅って言った?
その名前を知っているということは!

「ハヤトくん!」

「長かったよ、君がこの世界に現れるまで随分待ったんだ。もう離さない」
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