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人質

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美女は目を細めて、頭から足元まで舐めるように私を見る。

「忌々しい小娘よ、見てなさい」

そう呟くと、右手を前に突き出した。

急に目の前が白くなり、凄まじい冷気が私達に襲い来る。

パリッパリッと急速に全身が凍りつてきて、咄嗟のことに対応しきれない。

ヤトも私の隣で剣を片手に凍てついている。

動きたくても、冷たさと痛みで動けない。尋常ではない痛みで、声を絞り出そうにも無理だった。
もうどうにもならないの?
これ、かなり不味いんじゃない?
絶体絶命というやつなのかも。

そう思ったとき、ふんわりと誰かが私を包み込んだ。
それは暖かい陽だまりのようで、身も心も癒やされるような気がした。

その中で、魔法が解けるかのように、全身の凍てつきは一気に解消された。

そして、私を包み込んでいた誰かは、ガクリと膝を折る。

私は慌ててその人の顔を覗き込んだ。

「ユキちゃん!!」

私を包み込んでいたのは、ユキちゃんだった。
彼は扇の中にいたはずなんだけど、私の危機を察知して出てきてくれたのだろうか?

彼は苦しげに息を吐く。

「深月すまない、もっと早くに出るべきだった」

「何言ってるの?!ユキちゃん、ごめん。また私あなたに助けられた」

そう言うと、ユキちゃんはふわりと微笑んで、私の頬に手を触れて囁いた。

「深月、謝るな。私はお前のもの、お前を守ることが私の役目だ」

私はこらえきれずに、一筋頬に涙が伝った。

「私は死なないと言っただろう?これしきのことでは、びくともしない」

嘘、それはやせ我慢というものでしょう。痛々しすぎる。
ユキちゃんは私の頬の涙をそっと拭うと立ち上がった。
その表情は引き締まり、白い美女を睨めつけている。

「ちょっと、ユキちゃんダメよ。私が行くんだからね」

今にも戦闘態勢に入りそうなユキちゃんの袖口を掴んで押し止める。

「いや、深月はそこにいてくれ」

「いやよ」

私は頑なに首を振る。
ユキちゃんは眉根を寄せ、ため息をついた。

「深月、お前をこれ以上危険な目に合わせる訳にはいかない。現に今、危機だっただろう?」

「私、初心者だから、そんなこともあるのよ。今スキルアップしてる所だから、広い心で見守ってね。もっともっと強くなるから」

こうでも言わなきゃユキちゃんは無理するに決まってる。
深手を負っている今は、なんとしてでもユキちゃんを戦いから遠ざけなければならない。
それに私、本当に経験を積んで、みんなを護れるくらい強くならないといけないんだ。

「深月···」

ユキちゃんは私の頭をポンポンと撫でると、ギュッと抱きしめてきた。

うわ!
あの、みんなの前なんだけど!っていうか敵前なんですけど。
彼はよくギュッと抱きしめるけど、挨拶かなにかだと思ってるのだろうか?
こっちは、心臓がドキドキなんだよね。

「あんた達。どうでもいいけど、私を無視しないでくれるかしら」

眉間に皺を寄せ、こちらを睨む美女はイライラを募らせている。

「ちっ」と、舌打ちしたユキちゃんは、私を解放し美女に向き直った。

気がつけば、周りにいた美女軍団は全て姿を消しており、伶さんはじめ、所員の面々は私の周りに集結した。

伶さんは私の前に進み出ると言った。

「深月、今日は見学の筈なのにすまない。後は任せてくれ」

「伶さん、···わかりました」

私とユキちゃんは顔を見合わせて、一歩引いた。
ここは、所長である伶さんに任せよう。
これでユキちゃんを戦わせずに済む。本人は何でも無いようなフリをしているけど、かなりダメージを受けているはずだ。
ホッとしてユキちゃんを見上げると、私の視線に気付き、ニコっと微笑んだ。
その微笑みはとても綺麗で、またしても私はドキドキしてしまい、慌てて顔を背けた。

私の隣で凍りついていたヤトは、悠也さんに呪符を貼り付けられ、術を解除してもらっていた。
そしてゼイゼイと荒く息を吐くと、その赤い瞳で美女を睨みつけた。

「祭雅、私が戦ってあの首をお前に捧げよう」

「うわ、首?!いえ、結構です。首なんてもらっても少しも嬉しくないから」

もう、ヤトったら相変わらずだよね。
ヤトは腕を組み首を傾げた。

「では、何が嬉しい?どうしたらお前を喜ばせることができる?」

そこまでしてもらわなくてもいいんだけどね。
んー、強いて言えばあれかな。

「そうだな。みんなが無事に帰れたら私は嬉しいな。そしたら、みんなでパーティーをしよう」

「パーティー?」

「えーと、祝杯を上げようってこと。みんなで美味しいご飯やスイーツなんかを、ワイワイ言って食べたり飲んだりしたら、きっと楽しいだろうね」

「祝杯か、それはいい!」

ヤトにどうしろと言うわけじゃないけど、みんなで無事に帰ることが目的だ。

祝杯とかパーティーは、いわばおまけ的なもの。
誰一人、怪我することなく戻りたいものである。

そうこうしている内に、伶さんは身構え、アメノウズメが先行して美女に攻撃を仕掛ける。

「あんたの相手はこっちだよ」

美女はアメノウズメに向かってフッと息を吹きかけると、いなくなったと思った美女軍団が復活したではないか。
アメノウズメは美女たちに取り囲まれ、孤立してしまった。

「あら、お楽しみはまだまだこれからよ」

美女はこちらに向かって息を吹きかけ、私達の周りにも先程倒したはずの美女たちが復活した。
これではいくら倒しても切りが無い。
やはり、本体を倒すしかないようだ。

「そう思い通りには行かせない」

美女本体の一番近くにいる伶さんは、一気に美女本体に走り寄り間合いを詰めた。

「あら、やっと来たのね」

美女はニヤリと笑い両手を胸の前に出し、集中している。
両手の上には氷でできた小太刀が現れ、それを持つと伶さんに斬り掛かった。

キーンと、小太刀と剣の交わる音が響く。

美女は女性で力が弱い様に見えるけど、そんなことはなく、伶さんと同等かそれ以上のパワーがある。
妖魔とは、人間の常識が当てはまらない。

しかし、その妖魔の上を行く伶さんのスピードと剣技。
美女の腕には無数の傷ができ、そこから流血している。
美女は青ざめ、数歩引いて体勢を立て直す。

「あなたは本当に人間なの?!」

そう呟く美女の声を無視し、伶さんはこの機に乗じて一気に畳み掛ける。
数撃の打ち合いの後、美女の小太刀を軽々と跳ね飛ばし、喉元に剣を突きつけた。

「ま、待って。これを見なさい」

顔を引きつらせながら、後方を指差す。

先程までそこは濃い霧がかかり、全く見えなかった。
しかし美女が指さした途端、術が解けたようで、さあっと霧が引いてゆく。

そこには、氷でできた十字架が見える。そしてそこに磔になっている人物が見え、私達は騒然となった。
何故ならその人物とは、小さな子供だったからだ。
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