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依頼

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悠也さんに預けていた月雅を返してもらい、私たちは車に乗り込んだ。
大人数が乗り込んでも平気なほどの、広い白のワゴン車だ。

運転手は悠也さん。助手席には伶さん。
そして、後部座席に拓斗さん、私、ヤトが座る。

ユキちゃんは乗り物は好まぬと言って、月雅の中に入ってしまった。
常に近くにいて、見守ってくれていたから、なんだか不思議な気がした。

「車の中でも授業するからな」

現場まで少し時間が有るということで、拓斗さんの新人教育が始まった。
顔は笑ってるんだけど、目がちっとも笑ってなくて怖い。

「陰陽五行説って知ってるか?」

「いいえ」

何それ、初めて聞く言葉。

「陰陽とは宇宙の全てを陰陽に分ける考え方で、五行説とは宇宙の全ては五つの元素、木火土金水(もく·か·ど·ごん·すい)からなるという考え方のことをいう」

あら、なんだか難しそう。
私が眉間に皺を寄せていると、拓斗さんはそれに気づいて補足してくれた。

「ああ、分かりやすく言うと、陰陽は、明暗、天地、男女、善悪、吉凶とかだ。前者が陽、後者が陰となるわけだ。そしてそれはどちらが優れていて、どちらが劣るというものではない。それぞれはどちらがかけても成り立たない。わかる?」

「うん、なんとなくだけど」

「これからが本番。五行説だけど······」

説明の途中で、周りの雰囲気が妖しくなってきた。

「なんだか寒くない?」

急に車内に冷気が走り、手足が凍えてきた。
悠也さんは慌ててエアコンを入れるけど、何故かあまり効果がない。

「そうだな···伶さん、この寒さ、依頼と無関係じゃないですよね」

「ああ、その通りだ。間もなく現場に着く。拓斗は防寒具を皆に配布、悠也は呪符を頼む」

「「了解!」」

車は高速道路を降り、真っ直ぐに進み大きな建物の前で止まった。
その建物は大きな倉庫。
倉庫の壁面は全て真っ白に凍てついている。
ここが現場であることに間違いない。

そして、ワゴン車に積まれた荷物の中から、動きの妨げにならないようなジャケットや帽子が配られた。
なんて用意がいいんだろう!

「深月、今回の案件は見学していていいから。うちの事務所のやり方を覚えてくれ」

「はい!」

悠也さんは紙の束を車内から取り出した。
なんと書いてあるのかわからない不思議な文字や文様のある紙で、これが先程言っていた呪符というものなのかな。

そして、方位磁石を手のひらに載せ、倉庫の周りをぐるりと一周した。

何箇所かに目星をつけている。

「悠也さんは何をしているの?」

「あれか?方位を調べてるんだ。鬼門って知ってるか?」

あ!昨日聞いたよね。伶さんと拓斗さんが鬼門を閉じに行くと言っていた。

「鬼門は建物の中心からみて丑寅、つまり北東の方角のことをいう。そして、その反対の裏鬼門は未申、つまりは南西の方角。鬼門と裏鬼門は鬼(邪気)の通り道なんだ。今回の場合、鬼門と裏鬼門から他の鬼や妖魔の類を呼ばれたくないから、予め封じておくんだよ」

へえ、そういうことなんだ。

悠也さんは紙の束から一枚呪符を取り出して、倉庫の壁に向かい呟いた。

「臨·兵·闘·者·皆·陣·列·在·前」


ん、これはなんの呪文だろうか?

そして、呪符を壁面に押しあてた。
悠也さんの右手からは赤い光が放たれ、呪符を包み込む。
呪符もその光に連動するように光り、倉庫の壁面を赤く照らした。

その作業を二箇所で行って、それは互いに作用しあっているように見える。

「呪符OK」

悠也さんは伶さんに右手を上げて合図すると、頷いた伶さんは前に進み出る。

懐からロザリオを取り出し、それを額の前に持っていくと、目を瞑った。
凄い集中力だ。
個人的に言わせてもらえば、この人は何をしていてもカッコいい!!

伶さんの周りから、ふわっと銀色の光が放たれ、それが私達を含めた倉庫全体へと広がる。

これはもしや結界なのかな?

「よし、結界もOK。それでは今回の案件の説明を行う。この倉庫内に妖魔が立てこもっている。その妖魔の撃退が目的だ。この冷気から妖魔の属性は水と思われる。各自、気を引き締めて当たってくれ。では、行くぞ」

伶さんは倉庫の入口にて、パスワードを入力しロックを解除した。

入口の扉を開くと、そこから白い冷気が迸る。
丁度、ドライアイスに水を入れた感じ。
その冷気が外へと抜けると、中の様子が見えだしてきた。
広い倉庫の中はたくさんのダンボールが積まれ、私達はその間を歩く。
進むにつれて寒さは増していく。凍てつくという表現の方が適しているのかも。
足元は凍り、周りのダンボールも雪を被ったように真っ白だ。

広い空間に出た。
ここは倉庫の中央に当たる部分だろう。そこは一面が銀世界でその中に女性らしき姿が見えた。

その人物は白いワンピースに白いハイヒール、髪は白のリボンで結い上げている。
全身白ずくめの、凄い美人だ。
彼女は私達を見るなり、うっすらと微笑んだ。
そして右手を掲げると、その周りからキラキラと輝く氷の結晶が現れだした。

この美女が妖魔なの?!


「伶さん、まず俺が行きます」

そう言って私達の前に拓斗さんが進み出て、カードの束の中から一枚引き抜き叫んだ。

「式神·剛力」

ヒュっと投げられたカードはたちまち力強い鬼神·剛力の姿になり、白い美女目掛けて走り出した。

剛力が剣を振りかざしたとき、美女の目が妖しく光った。
美女の周りに現れていた氷の結晶が、剛力を取り巻き始め、全身を白く覆った。

「あんた、醜いわね」

美女が嫌そうに呟いたとき、剛力は一瞬で凍りつき、身動き出来なくなった。
あの鬼神結構強いはずなのに、こんなに簡単に破られるなんて、あの美女の外見に騙されてはいけない。

「おいおい、瞬殺かよ」

青ざめた拓斗さんに伶さんが声を掛ける。

「拓斗、私が行く」

拓斗さんは頷き後退し、伶さんと入れ代わった。
伶さんの戦いは初めて見る。
楽しみ!って思うのは失礼なのかもしれないけれど、きっと戦う姿も素敵なんだろうな。

美女は私達の動きを目で追い、伶さんをひと目見た途端、目を輝かせて彼を賛美し始めた。

「まあ!なんて美しいのかしら」

伶さんは、それがどうしたという表情で、至って冷静だ。

「人間でこれ程の美貌を持つ男を私は見たことがないわ。ここで待った甲斐があったというものよ!貴方を連れ帰りコレクションに加えたらどんなに見栄えがするかしら」

うわぁ!
コレクションとか言ってるよ。
やめてー!
伶さんはあんたのものじゃないんだから。
私は精一杯怖い顔をして、白い美女を睨んだ。

伶さんは美女の物言いに心底うんざりし、ため息をついた。
そして懐からロザリオを取り出して、胸の前に掲げ叫んだ。

「式神·アメノウズメ」

妖艶な姿の女性の式神·アメノウズメが、伶さんの持つロザリオから飛び出し、私達の前に降り立った。
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