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赤星事務所

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「案内するから付いてきて」

弓削さんに促されて部屋から廊下に出ると、目の前には今出てきた部屋と同じ造りの扉がある。左隣も同様での造りで、廊下を挟んで二部屋ある。
私のいた部屋と同じ部屋が合計四部屋あるようだ。

右手には玄関が見える。

そして廊下を左に進み突き当りの扉を開くと、そこは大きなリビングダイニングキッチンだった。

「あの、ここは?」

「ここは事務所ビルの一階、赤星事務所の寮みたいなものだ。食事も用意してあるから支度を済ませて食べるといい。って、コンビニ弁当だけどな」

テーブルの上を見ると、三人分のお弁当が用意されている。
式神たちの分まで用意してくれるなんて、とてもありがたい。

「わあ!美味しそう。弓削さん、ありがとう」

「いや、お礼は所長に言って」

そうか、所長が準備してくれたんだ。

私は改めてこの部屋を眺める。
白を基調としたこの部屋には大きな木製のテーブルがあり、キッチンは対面式だ。
スッキリとしていて、大変居心地が良い。
こんなところに住めたらどんなにいいだろう。

この事務所、ホントに凄い。
こんなに広いスペースの一階と二階を借り上げるなんて、一体いくら掛かることか。

余程の才覚がないと維持していくのさえ困難だ。

所長は若くてあんなにステキな上に、気が利くし才能豊かだなんて!
きっとまた、私の瞳はハートになっているに違いない。

私は感心しながら、身支度を整えた···と言っても着替えもメーク道具もないことだし、手早く顔を洗って食卓についた。

人の姿になって一緒に食卓についているユキちゃんとヤトは、コンビニ弁当が珍しいようで、まじまじと見つめたり、匂いを嗅いだりと忙しそうだ。


私は式神についての常識がないので、わからないことだらけ。
この際、色々聞いてみることにした。

「ねえ、ユキちゃんにヤト。あなた達は食事は普通に取るの?式神ってどういうものか、イマイチ理解してなくてわからないんだ」

ユキちゃんはコンビニ弁当の蓋を持ち上げながら、嬉しそうに話し始めた。

「我らは霊獣。今は深月の式神だ。お前から力が供給されるから基本食事は必要ではない。しかし、食事をとることもできる。まあ、色々と楽しめるということだ」

へえ、そうなんだ。
食べても食べなくても大丈夫だなんて便利だね。

ヤトは唐揚げを一つ摘みながら言った。

「私は食を好む。特に酒がいい。一杯やりながら祭雅を喰らうのが夢だった」

うわーっ!
そうだ、こいつはヤバい奴だった。聞くんじゃなかった···。

もうやめやめ。
ヤトに今聞いたことは忘れて、美味しそうなお弁当を食べよう!

私も早速お弁当を広げた。
普段は節約のために自炊をしているから、コンビニのお弁当を買うなんて贅沢はしない。
しかも今日はスイーツまでついてるから、嬉しくて仕方がない!

あっという間にお弁当を平らげ、スイーツのプリンに舌鼓を打つ。

大好きな甘いものを朝から頂けるなんて感激だ。
しかもこのプリン、滑らかで生クリームたっぷりでかなり濃厚。カラメルのほろ苦さがプリンと絡み、最高である。
最近のコンビニスイーツは高品質で素晴らしい!と、心のなかで大絶賛し、笑みが溢れる。

「そんなに美味いのか?」

気がつけばすぐ隣にユキちゃんが来ており、こちらを見下ろして微笑んでいる。
私は見上げながら頷いた。

「うん!凄く美味しい」

「どれ」

ああ、食べてみたいのね。
そういえば、男性陣のスイーツはコーヒーゼリーだった。それも美味しそうだけど。

私はプリンとスプーンをユキちゃんに渡そうとした。

ユキちゃんはプリンを受け取るかと思いきや、少し屈んで私の顎に右手を添えたと思うと、唇のすぐ横をペロリと舐めた!

うわあぁ!!!

驚くやら恥ずかしいやらで、顔を真っ赤にした私は、椅子から飛び上がり叫んだ。

「なっ!なにすんのー」

ユキちゃんの予想外の行動に慌てまくった私は、ゼイゼイと息を吐いた。

ユキちゃんは一瞬ポカンとした顔をしてから、ニヤリと笑った。

「いや、口の横に甘いものが付いてたから舐めただけだが」

「ええっ!?」

なんなのそれー!
あんたは犬か?!
いや、虎だった。
うう、そうか。動物だったら普通の行動なのかもしれない。
でも、今は人の姿なんだから、ちょっとは考えて行動してほしいよ。

それにしても、危なかった!
危うくキスになるところだったよ。

私は涙をうっすらと浮かべた目でユキちゃんを見ると、彼は大変良い笑顔でガシガシと私の頭を撫でた。

なんだか、遊ばれているような気がしてならない。

しかも、あの目つき。
私が動揺するのを分かってて、ワザとやってるんじゃなかろうか。


「そろそろ食べ終わった?」

弓削さんは、私達の食事が終る頃に来ると言っていたけど、ホントに丁度よい頃にやって来た。
私は動揺を治めようと、胸に手を当て深呼吸をしつつ答えた。

「はい、ごちそう様でした。あの私、一旦家に戻ろうと思って」

「ん、そうだな。で、その後はどうする?」

昨夜は倒れたとはいえ、しっかり睡眠も取れたしバッチリ回復している。
この後はすぐにバイトでも大丈夫そうだ。

「支度を済ませて、またここに来てもいいのかな?ええと、出勤扱いになるかって事なんだけど」

「ああ、大丈夫。今日から仕事に入っても構わないよ。それと、帰るときは十分気をつけて。今は明るいから、昨晩みたいに鬼に遭遇することはないと思うけど、何が起こるか分からないから」

そういえば、昨夜はひたすら鬼が出て、まともに帰れなかったんだよね。
でも今はユキちゃんとヤトがいるし、私も戦いの手段があるから大丈夫!

私は式神二人を伴って、帰路についた。

空を飛んで帰る?
そんなことを考えたけど、日中は目立つんだよね。
騒ぎになったらマズいので、三人で歩いて帰ることにした。
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