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白虎
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強い心で叫んだとき、銀孤の足元から強烈な光が四方八方へと走り、銀孤はその光に押されるように大きく後退した。
空宙へと駆け上がるように見えるその光は、だんだんと大きくなり、私の真上まで来ると降下してきた。
ああっ!?
光の中に見えるのは、大きな大きな白い虎?!
真っ白くて太く大きな四肢。
鋭い牙は獰猛さと、澄んだ黒い瞳は精悍さ。その両方を併せ持つ顔。
その虎は黒い瞳を細めて私にすり寄ってくる。
うわぁ!
なんでこんな大きな虎が私に懐くの?タジタジとして、私は思わず後ずさろうとした。
あれ、ちょっと待って。
···この虎ってもしかしたら。
「···ユキちゃん?」
恐る恐る小さな声で呟くと、虎は喜んで返事をする。
「グルゥ」
ひえぇぇっ!
驚いた!
でも、でも。
良かった。
無事でいてくれた。
ほっと胸を撫で下ろした私の瞳には、うっすらと涙が浮かんだ。
「やっと本来の姿を現したか」
銀孤は警戒して空に舞い上がり、上空からこちらを窺っている。
本来の姿?この姿が本当のユキちゃんだっていうの?!
私はまじまじと見つめると、それに気付いたユキちゃんは、鼻先を私の頭に擦りつけて、穏やかに口を開いた。
「私は西方の守護者·白虎のユキ。我が主、深月よ。さあこの背に乗るがいい」
ええっ、喋った!!
まさか、喋るとは思っていなかったのでとても驚いた。
それに白虎?やっぱり普通の猫ではなかったんだね。
色々有りすぎて、私はユキちゃんの言葉に答えられずにいた。
「どうした深月?」
「いや、まさかユキちゃんと話せるなんて思わなかったから···」
「はは、そうか。でもな、そうもゆっくり話していられる状況ではなさそうだ」
そう言ってユキちゃんは上空を睨む。
「深月、話は後だ。ひとまず私の背に跨がれ」
「う、うん」
私はおっかなびっくりユキちゃんの背に跨った。
猫のときはもふもふだったけれど、白虎の今は長くて靭やかな毛並みで、しっかりと掴まる事ができる。
「深月、振り落とされないように気をつけろ」
「わかった」
私の言葉を聞いたユキちゃんは、頭を低くし力強く一歩を踏み出した。
ええっ?!
あの、空を歩いてるんですけど!!
うわぁ。
私は驚いて周りをキョロキョロと見回した。
どこをどのように歩いているのか?
ユキちゃんは空宙に足場があるかのように、空へと駆け上る。
しかも、物凄く早いスピードだ。
こちらの様子を窺っていた銀孤も追ってくるけど、とても追いつけないように見える。
白虎のユキちゃんに聞きたいことは山ほどあるけど、今はそんな場合ではない。
銀孤をどうにかしないとならない。
大空を駆けるユキちゃんは、今いる所から人気のない場所へと向かっているようだ。
人々の多く住む街並みを越えて、緑の多い小高い丘へとやってきた。
そこで私はユキちゃんの背から大地へと降りたった。
私達の後を追ってきた銀孤は、空中で静止し一定の距離を保ち、周りに青白い炎を出現させている。
私はユキちゃんの真横に立ち、背を撫でながら言った。
「ユキちゃん、銀孤とは私が戦う。だから後ろで見守っていてくれる?」
「それはどういうことだ?」
目を見開いたユキちゃんは、私の言葉が信じられないというように後ろ足で地面を蹴った。
「私、あなたが死んでしまったと思って凄くショックだった。目の前で大事な友達を失うなんて絶対にイヤなの。私はみんなを護れるような強さが欲しい、だから私が戦う。そう決めたんだ」
「深月···」
ユキちゃんは少しの間考えを巡らせて、頷いた。
「大切な話をしようか」
そう言って頭を高くし「ヒュウ」と細く鳴いた。すると私達の周りは虹色の膜で覆われたようになった。
「これは?」
「結界を張ったから、暫くは安全に話せる」
結界?
そういえば、事務所の周りにも所長が結界を張ってたよね。
あれと同じものであるなら、暫くの間は銀孤の攻撃に耐えることができそうだ。
案の定、銀孤が青白い炎を飛ばしてきたけど、この結界は見事にそれを防いでいた。
「深月、私はお前の式神だ」
「ええっ?!ユキちゃんって私の式神だったの?」
私は驚きの声を上げた。
もしかしたらとは思ってたけど、須弥山にいた事とか普通ではないもんね。
あ、でも。
式神っていうと、私は弓削さんが使っていたカードの式神、炎の剣士や雷の戦士しか見たことがない。
確かあれは、戦いが終わったらすぐにカードに戻ってしまったような気がするけど。
そもそも式神って、話せたり背に乗って空を飛んだりとかできるものなの?
私が首を傾げていると、ユキちゃんは私の疑問を察して話し始めた。
「深月、式神と話したり実体化が継続していることが不思議か?」
「うん、他の式神はすぐにカードに戻ってしまったから。でもユキちゃんは違うでしょう?」
「式神を扱う術師の力量による所が大きい。お前のように霊力が高い者だと、式神もそれに比例して強力になる。実体化が継続したり話したりできるのは、お前のおかげと言って良い。通常、実体化を継続させることは、多大な霊力を必要とする。下手に実体化を継続させると、それだけで術師の力が尽きるだろう」
「そういうものなんだ」
霊力が高いとか言われても、さっぱりわからないんだよね。
だけど、自分の式神と話せるのは嬉しい。
ユキちゃんは頷き、話を続ける。
「深月、約束しよう。私はお前の目の前で死んだりはしない」
「本当に?」
訝しむ私に、ユキちゃんは尻尾をパシパシと地面に叩きつけた。
「式神は主を護るためだけに存在する。主を護ることが、己を護ることになる。だから、深月の気持ちは嬉しいが、私に戦わせて欲しい。どうかお前を護らせてくれないか?」
その言葉は私にとって、とても嬉しいものだ。
だけど、私は決めてしまった。この決意は変えられない。
「ユキちゃん···ありがとう。でも、私はお荷物になりたくない。だからお願い、一緒に戦わせて」
ユキちゃんは一瞬遠い目をして、ため息を吐いた。
「やはり、お前は昔と変わらない。その強情さ、一度言い出したら絶対引かない所はそのままだ」
そう言って私に頬擦りし、囁いたその声はとても嬉しそうで。
「いいぞ、お前の好きにするがいい。ただし、危なくなったら必ず助けに入る。それは忘れるな」
「うん!」
私は嬉しくなって、ユキちゃんに抱きついた。
この靭やかな毛並みに顔をうずめていると、ユキちゃんの温もりが伝わってくる。
ああ、なんて心地が良いんだろう。
戦いの前のこの一時、とても癒やされる。
幸せな気持ちになって目を瞑り、毛並みを撫でていた私は、不意に違和感を覚えた。
あれ?
なんだろう、触った感じが毛ではないような気がする。
これはまるで滑らかな布地のようではないか。
それに心なしか大きさや形が変わったように感じるのは、気のせいではないと思うんだけど。
絶対におかしい。
私はゆっくりと目を開いた。
私の目に映ったのは、やはりユキちゃんの毛並みではなく、どう見ても滑らかな白い衣装のようだ。
大変嫌な予感がする。
私は恐る恐る視線を上方へとスライドさせてみた。
「うぎゃ!」
驚きのあまり私は奇声を発した。
なぜなら私が抱きついていたのは、白虎のユキちゃんではなくて。
輝く白髪をサイドの部分だけ長めにし、高い鼻に薄めの唇、真実を見通すような黒く美しい瞳の美男子だったからだ。
空宙へと駆け上がるように見えるその光は、だんだんと大きくなり、私の真上まで来ると降下してきた。
ああっ!?
光の中に見えるのは、大きな大きな白い虎?!
真っ白くて太く大きな四肢。
鋭い牙は獰猛さと、澄んだ黒い瞳は精悍さ。その両方を併せ持つ顔。
その虎は黒い瞳を細めて私にすり寄ってくる。
うわぁ!
なんでこんな大きな虎が私に懐くの?タジタジとして、私は思わず後ずさろうとした。
あれ、ちょっと待って。
···この虎ってもしかしたら。
「···ユキちゃん?」
恐る恐る小さな声で呟くと、虎は喜んで返事をする。
「グルゥ」
ひえぇぇっ!
驚いた!
でも、でも。
良かった。
無事でいてくれた。
ほっと胸を撫で下ろした私の瞳には、うっすらと涙が浮かんだ。
「やっと本来の姿を現したか」
銀孤は警戒して空に舞い上がり、上空からこちらを窺っている。
本来の姿?この姿が本当のユキちゃんだっていうの?!
私はまじまじと見つめると、それに気付いたユキちゃんは、鼻先を私の頭に擦りつけて、穏やかに口を開いた。
「私は西方の守護者·白虎のユキ。我が主、深月よ。さあこの背に乗るがいい」
ええっ、喋った!!
まさか、喋るとは思っていなかったのでとても驚いた。
それに白虎?やっぱり普通の猫ではなかったんだね。
色々有りすぎて、私はユキちゃんの言葉に答えられずにいた。
「どうした深月?」
「いや、まさかユキちゃんと話せるなんて思わなかったから···」
「はは、そうか。でもな、そうもゆっくり話していられる状況ではなさそうだ」
そう言ってユキちゃんは上空を睨む。
「深月、話は後だ。ひとまず私の背に跨がれ」
「う、うん」
私はおっかなびっくりユキちゃんの背に跨った。
猫のときはもふもふだったけれど、白虎の今は長くて靭やかな毛並みで、しっかりと掴まる事ができる。
「深月、振り落とされないように気をつけろ」
「わかった」
私の言葉を聞いたユキちゃんは、頭を低くし力強く一歩を踏み出した。
ええっ?!
あの、空を歩いてるんですけど!!
うわぁ。
私は驚いて周りをキョロキョロと見回した。
どこをどのように歩いているのか?
ユキちゃんは空宙に足場があるかのように、空へと駆け上る。
しかも、物凄く早いスピードだ。
こちらの様子を窺っていた銀孤も追ってくるけど、とても追いつけないように見える。
白虎のユキちゃんに聞きたいことは山ほどあるけど、今はそんな場合ではない。
銀孤をどうにかしないとならない。
大空を駆けるユキちゃんは、今いる所から人気のない場所へと向かっているようだ。
人々の多く住む街並みを越えて、緑の多い小高い丘へとやってきた。
そこで私はユキちゃんの背から大地へと降りたった。
私達の後を追ってきた銀孤は、空中で静止し一定の距離を保ち、周りに青白い炎を出現させている。
私はユキちゃんの真横に立ち、背を撫でながら言った。
「ユキちゃん、銀孤とは私が戦う。だから後ろで見守っていてくれる?」
「それはどういうことだ?」
目を見開いたユキちゃんは、私の言葉が信じられないというように後ろ足で地面を蹴った。
「私、あなたが死んでしまったと思って凄くショックだった。目の前で大事な友達を失うなんて絶対にイヤなの。私はみんなを護れるような強さが欲しい、だから私が戦う。そう決めたんだ」
「深月···」
ユキちゃんは少しの間考えを巡らせて、頷いた。
「大切な話をしようか」
そう言って頭を高くし「ヒュウ」と細く鳴いた。すると私達の周りは虹色の膜で覆われたようになった。
「これは?」
「結界を張ったから、暫くは安全に話せる」
結界?
そういえば、事務所の周りにも所長が結界を張ってたよね。
あれと同じものであるなら、暫くの間は銀孤の攻撃に耐えることができそうだ。
案の定、銀孤が青白い炎を飛ばしてきたけど、この結界は見事にそれを防いでいた。
「深月、私はお前の式神だ」
「ええっ?!ユキちゃんって私の式神だったの?」
私は驚きの声を上げた。
もしかしたらとは思ってたけど、須弥山にいた事とか普通ではないもんね。
あ、でも。
式神っていうと、私は弓削さんが使っていたカードの式神、炎の剣士や雷の戦士しか見たことがない。
確かあれは、戦いが終わったらすぐにカードに戻ってしまったような気がするけど。
そもそも式神って、話せたり背に乗って空を飛んだりとかできるものなの?
私が首を傾げていると、ユキちゃんは私の疑問を察して話し始めた。
「深月、式神と話したり実体化が継続していることが不思議か?」
「うん、他の式神はすぐにカードに戻ってしまったから。でもユキちゃんは違うでしょう?」
「式神を扱う術師の力量による所が大きい。お前のように霊力が高い者だと、式神もそれに比例して強力になる。実体化が継続したり話したりできるのは、お前のおかげと言って良い。通常、実体化を継続させることは、多大な霊力を必要とする。下手に実体化を継続させると、それだけで術師の力が尽きるだろう」
「そういうものなんだ」
霊力が高いとか言われても、さっぱりわからないんだよね。
だけど、自分の式神と話せるのは嬉しい。
ユキちゃんは頷き、話を続ける。
「深月、約束しよう。私はお前の目の前で死んだりはしない」
「本当に?」
訝しむ私に、ユキちゃんは尻尾をパシパシと地面に叩きつけた。
「式神は主を護るためだけに存在する。主を護ることが、己を護ることになる。だから、深月の気持ちは嬉しいが、私に戦わせて欲しい。どうかお前を護らせてくれないか?」
その言葉は私にとって、とても嬉しいものだ。
だけど、私は決めてしまった。この決意は変えられない。
「ユキちゃん···ありがとう。でも、私はお荷物になりたくない。だからお願い、一緒に戦わせて」
ユキちゃんは一瞬遠い目をして、ため息を吐いた。
「やはり、お前は昔と変わらない。その強情さ、一度言い出したら絶対引かない所はそのままだ」
そう言って私に頬擦りし、囁いたその声はとても嬉しそうで。
「いいぞ、お前の好きにするがいい。ただし、危なくなったら必ず助けに入る。それは忘れるな」
「うん!」
私は嬉しくなって、ユキちゃんに抱きついた。
この靭やかな毛並みに顔をうずめていると、ユキちゃんの温もりが伝わってくる。
ああ、なんて心地が良いんだろう。
戦いの前のこの一時、とても癒やされる。
幸せな気持ちになって目を瞑り、毛並みを撫でていた私は、不意に違和感を覚えた。
あれ?
なんだろう、触った感じが毛ではないような気がする。
これはまるで滑らかな布地のようではないか。
それに心なしか大きさや形が変わったように感じるのは、気のせいではないと思うんだけど。
絶対におかしい。
私はゆっくりと目を開いた。
私の目に映ったのは、やはりユキちゃんの毛並みではなく、どう見ても滑らかな白い衣装のようだ。
大変嫌な予感がする。
私は恐る恐る視線を上方へとスライドさせてみた。
「うぎゃ!」
驚きのあまり私は奇声を発した。
なぜなら私が抱きついていたのは、白虎のユキちゃんではなくて。
輝く白髪をサイドの部分だけ長めにし、高い鼻に薄めの唇、真実を見通すような黒く美しい瞳の美男子だったからだ。
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