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裏国家資格
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赤星事務所に戻ってきた。私たちは事の顛末を所長に説明する。
「そうか。雪村さんも初日から大変だったね。今日は満月か、鬼門が開いていてもおかしくないな。拓斗、これから鬼門を閉じに行く」
「わかりました」
「えっ!私は?」
「雪村さんはここにいるといい」
「え、一人で?」
「ここは結界が張ってある。よっぽどの奴じゃないと入ってこれないから、安心して休んでいるといい」
「よっぽどの奴なら入ってこれるの?」
私はひきつりながら訊ねると所長は笑って答える。
「この結界を破れる奴は事務所を開いて以来いないから大丈夫だ」
「はい。安心してここにいます」
所長の素敵な笑顔に釣られて、ついつい答えてしまったけど、正直、今は一人でいるのは怖いなあ。大丈夫、なんだよね····。
二人が出ていった後、私は事務所のシャワーを借りて、仮眠を取ろうとソファーに横になろうとした。
ミシ、ミシミシ····
ねえ、何か軋む音がするんだけど、何かな?
鬼じゃないよね、違うよね。
そう自分に言い聞かせるけど、相も変わらすミシミシと軋む音は鳴り止まず、ギシギシという音に変わる。
やだ、絶対何かいる。しかもここに入ってこようとしている。やめてよ、何でこう何度も私の所にくるの!
私は身の周りを確認する。
ここに石があるはずもなく、私は戦える手段がなにもないことに気づく。
まずい!どうしよう。とにかく何か探さなきゃ!
事務所の奥に続く扉を開けると、部屋の奥には小さな祭壇があった。あそこ、光ってる。
私はその光に惹かれて祭壇の前までやって来た。光は祭壇の中央からだ。
私は必死になってそこに手を伸ばした。
そのとたん、光は大きくなり私を、この部屋全体を眩しく照らす。余りにも強い光に、思わず私は目を瞑った。
どのくらいたったのか、目を開いた私は唖然とした。
だってここは私の知っている事務所の中じゃなかったから。
広い所、そう始めに感じた。
私の足下には白い一本道が通っている。ここはどこなんだろう?
うすぼんやりとしていて、辺りには霧でもかかっているのか先を見通す事が出来ない。
ふわふわとしていて温かく、嫌な感じはしないんだけど、私の住んでいるところと比べるとあまりにも異質だ。
私は目の前に続く道を歩いて行くことにした。
このまま進んで事務所に帰りつけるのかは分からないけれど、とにかく進むしかないんだろうな。
事務所に帰れば、怖いやつが待っているのは分かってるけど、ずっとここにいる訳にはいかないからね。
しばらく歩き続けたら、一本の大きな木が道の先に見えた。
その木には赤い果実が実っている。それは艶やかでとてもいい香りがする。
林檎のような実で桃のような香り。私は手を伸ばしてそれをもぎ取ろうとした。
「待て」
うわ!ビックリした。まさか誰かいるなんて思わないじゃない。
私は伸ばしていた手を引っ込めて声のする方を見た。
そこには白髪、長い白ひげ、ついでに眉毛まで白く長いお爺さんが杖をもって立っていた。
「おぬし、それを食べたら帰れなくなるぞ」
「えっ!それ困る」
「そうであろう」
「爺、余計な事ばっかり言ってないでさっさと行くわよ。そんなの放っておきなさい」
「姫、相変わらずよのう。知っていて知らんぷりなんてできんのでのう」
うわ!もう一人いる。
なんなの?声の主は若い女性なんだけど、とても高飛車で気の強い感じ。
私と同年代かな?髪は長くてポニーテールにしている。
「あなたたちは誰なの?ここは何処?」
「ふん。ここは何処ですって?知らずにここにいるって言うの?しかも一人で」
うわあ、不機嫌。でも、気になる。色々聞いてみたい。
「私は雪村深月。あなたは?」
「···ふうん、雪村ねえ。私は如月彩香」
「私、気がついたらここにいたんだけど、ここはどういった所なのか教えてくれる?どうやって帰ったらいいのか分からないの」
「へえ、そうなの」
彩香はそう言うと爺と目を見合わせ意地悪そうに微笑んだ。
「ここは須弥山」
「須弥山?」
「ええ。力のある者のみが訪れることのできる陰陽師の聖地」
「···陰陽師?」
「まさか陰陽師を知らないってことは無いわよね?」
陰陽師?
何となく聞いたことのあるような気がするけど、詳しくは分からないな。
あ!もしかして弓削さんがカードを使って鬼と戦ってたよね。式神とか言って。
ああいう人たちの事を陰陽師って言うのかな?
「式神を使う人?」
「あら、知ってるんじゃない。まあ、陰陽師とは式使いだけではないけれどね。ここ、須弥山は陰陽師の国家資格を得るのに必須のアイテムが眠る場所なの。力のある陰陽師のみが訪れる事のできる秘密の場所」
えっ、国家資格?陰陽師なんて国家資格あったかな?
私は首を傾げながら彩香の話を聞いた。
「まあ、首を傾げるのも分かるわ。表向きの資格ではないから。陰陽師の国家資格は一部のものしか知り得ない、裏の資格。でもこの資格を得れば国の専属になって、お偉い方々からの依頼が増える訳よ。その報酬も破格なのよ」
へえ!そうなんだ。
彩香は得意げに話し続ける。陰陽師の国家資格って初めて聞いた。破格な報酬という言葉に引かれるものはある。
でも私に陰陽師とかは関係ないな。
あんなおっかないのと渡り合うのは所長と弓削さんで、私は後から石でも投げて援護できればいい訳で。
そう、私はアシスタントで十分なんだ。とにかく今は事務所に帰らなきゃならない。
「うん、話はわかったよ。それでここから帰るにはどうしたらいいのかな?」
彩香はまたも爺と顔を見合わせてほくそ笑んだ。
「あら、ここから出るには試練を受けないと」
「えっ?!試練ってなに」
「式神を手に入れる事と」
「うんうん」
「あとはあるアイテムを手に入れる事」
「あるアイテムって何?」
「あなたね、私だって初めてここに来たのよ。そんな細かく知る訳無いでしょう、自分で見つけるのよ」
「えーー」
「爺、さあ行くわよ。こんな所で油を売ってられないわ。深月、またね」
「えっ?彩香!ちょっと待って」
私はもっと詳しくここの事とか試練を受けて帰る方法とか知りたかったけど、彩香は爺と共にすたすたと歩いていってしまった。
追いかけようと周りを見るけど、煙に巻かれたように二人の姿は見えなくなってしまった。
陰陽師の試練、良くわからないけど事務所に帰るためにそれを受けないとならないらしい。
情報を得たとはいえ、考えたって状況が変わるわけではない。とにかく動いてその試練とやらを見つけないと。
私はまたどこかに続くであろう一本道を進むことにした。
「そうか。雪村さんも初日から大変だったね。今日は満月か、鬼門が開いていてもおかしくないな。拓斗、これから鬼門を閉じに行く」
「わかりました」
「えっ!私は?」
「雪村さんはここにいるといい」
「え、一人で?」
「ここは結界が張ってある。よっぽどの奴じゃないと入ってこれないから、安心して休んでいるといい」
「よっぽどの奴なら入ってこれるの?」
私はひきつりながら訊ねると所長は笑って答える。
「この結界を破れる奴は事務所を開いて以来いないから大丈夫だ」
「はい。安心してここにいます」
所長の素敵な笑顔に釣られて、ついつい答えてしまったけど、正直、今は一人でいるのは怖いなあ。大丈夫、なんだよね····。
二人が出ていった後、私は事務所のシャワーを借りて、仮眠を取ろうとソファーに横になろうとした。
ミシ、ミシミシ····
ねえ、何か軋む音がするんだけど、何かな?
鬼じゃないよね、違うよね。
そう自分に言い聞かせるけど、相も変わらすミシミシと軋む音は鳴り止まず、ギシギシという音に変わる。
やだ、絶対何かいる。しかもここに入ってこようとしている。やめてよ、何でこう何度も私の所にくるの!
私は身の周りを確認する。
ここに石があるはずもなく、私は戦える手段がなにもないことに気づく。
まずい!どうしよう。とにかく何か探さなきゃ!
事務所の奥に続く扉を開けると、部屋の奥には小さな祭壇があった。あそこ、光ってる。
私はその光に惹かれて祭壇の前までやって来た。光は祭壇の中央からだ。
私は必死になってそこに手を伸ばした。
そのとたん、光は大きくなり私を、この部屋全体を眩しく照らす。余りにも強い光に、思わず私は目を瞑った。
どのくらいたったのか、目を開いた私は唖然とした。
だってここは私の知っている事務所の中じゃなかったから。
広い所、そう始めに感じた。
私の足下には白い一本道が通っている。ここはどこなんだろう?
うすぼんやりとしていて、辺りには霧でもかかっているのか先を見通す事が出来ない。
ふわふわとしていて温かく、嫌な感じはしないんだけど、私の住んでいるところと比べるとあまりにも異質だ。
私は目の前に続く道を歩いて行くことにした。
このまま進んで事務所に帰りつけるのかは分からないけれど、とにかく進むしかないんだろうな。
事務所に帰れば、怖いやつが待っているのは分かってるけど、ずっとここにいる訳にはいかないからね。
しばらく歩き続けたら、一本の大きな木が道の先に見えた。
その木には赤い果実が実っている。それは艶やかでとてもいい香りがする。
林檎のような実で桃のような香り。私は手を伸ばしてそれをもぎ取ろうとした。
「待て」
うわ!ビックリした。まさか誰かいるなんて思わないじゃない。
私は伸ばしていた手を引っ込めて声のする方を見た。
そこには白髪、長い白ひげ、ついでに眉毛まで白く長いお爺さんが杖をもって立っていた。
「おぬし、それを食べたら帰れなくなるぞ」
「えっ!それ困る」
「そうであろう」
「爺、余計な事ばっかり言ってないでさっさと行くわよ。そんなの放っておきなさい」
「姫、相変わらずよのう。知っていて知らんぷりなんてできんのでのう」
うわ!もう一人いる。
なんなの?声の主は若い女性なんだけど、とても高飛車で気の強い感じ。
私と同年代かな?髪は長くてポニーテールにしている。
「あなたたちは誰なの?ここは何処?」
「ふん。ここは何処ですって?知らずにここにいるって言うの?しかも一人で」
うわあ、不機嫌。でも、気になる。色々聞いてみたい。
「私は雪村深月。あなたは?」
「···ふうん、雪村ねえ。私は如月彩香」
「私、気がついたらここにいたんだけど、ここはどういった所なのか教えてくれる?どうやって帰ったらいいのか分からないの」
「へえ、そうなの」
彩香はそう言うと爺と目を見合わせ意地悪そうに微笑んだ。
「ここは須弥山」
「須弥山?」
「ええ。力のある者のみが訪れることのできる陰陽師の聖地」
「···陰陽師?」
「まさか陰陽師を知らないってことは無いわよね?」
陰陽師?
何となく聞いたことのあるような気がするけど、詳しくは分からないな。
あ!もしかして弓削さんがカードを使って鬼と戦ってたよね。式神とか言って。
ああいう人たちの事を陰陽師って言うのかな?
「式神を使う人?」
「あら、知ってるんじゃない。まあ、陰陽師とは式使いだけではないけれどね。ここ、須弥山は陰陽師の国家資格を得るのに必須のアイテムが眠る場所なの。力のある陰陽師のみが訪れる事のできる秘密の場所」
えっ、国家資格?陰陽師なんて国家資格あったかな?
私は首を傾げながら彩香の話を聞いた。
「まあ、首を傾げるのも分かるわ。表向きの資格ではないから。陰陽師の国家資格は一部のものしか知り得ない、裏の資格。でもこの資格を得れば国の専属になって、お偉い方々からの依頼が増える訳よ。その報酬も破格なのよ」
へえ!そうなんだ。
彩香は得意げに話し続ける。陰陽師の国家資格って初めて聞いた。破格な報酬という言葉に引かれるものはある。
でも私に陰陽師とかは関係ないな。
あんなおっかないのと渡り合うのは所長と弓削さんで、私は後から石でも投げて援護できればいい訳で。
そう、私はアシスタントで十分なんだ。とにかく今は事務所に帰らなきゃならない。
「うん、話はわかったよ。それでここから帰るにはどうしたらいいのかな?」
彩香はまたも爺と顔を見合わせてほくそ笑んだ。
「あら、ここから出るには試練を受けないと」
「えっ?!試練ってなに」
「式神を手に入れる事と」
「うんうん」
「あとはあるアイテムを手に入れる事」
「あるアイテムって何?」
「あなたね、私だって初めてここに来たのよ。そんな細かく知る訳無いでしょう、自分で見つけるのよ」
「えーー」
「爺、さあ行くわよ。こんな所で油を売ってられないわ。深月、またね」
「えっ?彩香!ちょっと待って」
私はもっと詳しくここの事とか試練を受けて帰る方法とか知りたかったけど、彩香は爺と共にすたすたと歩いていってしまった。
追いかけようと周りを見るけど、煙に巻かれたように二人の姿は見えなくなってしまった。
陰陽師の試練、良くわからないけど事務所に帰るためにそれを受けないとならないらしい。
情報を得たとはいえ、考えたって状況が変わるわけではない。とにかく動いてその試練とやらを見つけないと。
私はまたどこかに続くであろう一本道を進むことにした。
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