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遊園地

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「キャーーー」

悲鳴を上げているのはもちろん私だ。
目を見開いて、体に強風を受け、そして身動きが取れない。
ジェットコースターって、こんなに怖いんだっけ?
久しぶりすぎて忘れてたけど、子供の時に乗って、泣き出したのを思い出した。

ちらっと隣の陽貴先輩を見ると、余裕綽々でこちらを見て微笑んでいる。

嘘でしょ?

私、吐きそうなんだけど。

ああ、やっと終わったみたい。
クラクラとする頭を押さえ、よろよろとジェットコースターから降りると、陽貴先輩は私の腰を支えてくれた。

「美結、大丈夫?」

「······」

これが大丈夫に見えますか?
声すら出ない。
涙目で見上げると、陽貴先輩は爽やかにキリッと笑った。
うう、今はイケメンが眩しすぎて、涙が出そう。
イケメンが目に染みるなんて···今はそんな感じだ。

「美結、今度はそう激しくないのにしよう」

「賛成」

ジェットコースターで疲れ果てたので、大人しい乗り物なら大歓迎だ。

「···馬?」

次に連れてこられたのはメリーゴーランド。

一人で乗るかと思いきや、「おいで」と言われ、二人乗りに。
しかも、なんだか凄い密着状態なんですけど。
陽貴先輩の前に私が横乗りに座っている。

ひぃっ!凄く恥ずかしい。

周りの人たちが注目してるようだ。
さっきから周りの視線が突き刺さるんですけど。
流石イケメン。
私は恥ずかしさで、ぷちパニック状態だ。

周りに気を取られていたら、いつの間にかメリーゴーランドは終わった。

けれど、相変わらず注目の的には変わりがないわけで。
ホント、落ち着かない。

「陽貴先輩、今度は落ち着く乗り物がいいな」

陽貴先輩はしばし考え、はっと何かを思い付いたようで私の手を取った。

「よし、こっちだ」

なぜかルンルン気分で歩く陽貴先輩。
そんなに楽しい乗り物なのだろうか?

「うわぁ!」

私はそれを見上げた。次に連れてこられたのは、観覧車。
これなら確かに落ち着いて乗れそうだ。

二人してゴンドラに乗り込んだ。隣り合わせに座り、私は外を眺める。
かなり高い位置まで来ていて、遠くまで見渡せる。

「ここから学校が見えるかな?」

私の問に陽貴先輩は微笑んで答える。

「見えるよ」

どこだろうとキョロキョロしていると、「ほら、あそこ」と、陽貴先輩は指さして教えてくれる。

今はホントならあそこで授業を受けているはずなんだよね。
ユズもあそこにいる。

ユズの事を思うと、つきんと胸に痛みが走る。

「美結、ここのジンクス知ってる?」

「ジンクス?ううん、知らない」

「男女でゴンドラに乗って、頂上でキスすると、その二人は結ばれるんだって」

「へぇ」

そうなんだ。いろんなジンクスがあるもんだね。

「試してみない?」

「えっ?」

そう言うと、陽貴先輩は私の腕を掴んで引き寄せた。

あっと思うまもなく、陽貴先輩に抱きしめられた。

この流れだと、次はキス?!

だめだよ、···ユズ···。

私の心にはユズの笑顔が浮かび、彼への思いでいっぱいになってしまった。
こんな気持ちのまま陽貴先輩とキスなんて、絶対にできない。

どうしよう···。

こんな密室じゃ、どこにも逃げられないし、助けも呼べない。  

私、心の準備が何もできてない。

陽貴先輩を好きになれたらいい、そう思って付いてきたけど、私の心にいるのはやっぱりユズで。
 
ユズに対する思いにケリをつけなければ、どこにも進むことができない。

こんな状況になって、初めて気付いた。

ゆっくりと近づいてくる陽貴先輩の顔。
切れ長の美しい瞳を見ていたら、堪らなくなって涙がこぼれた。
彼の鼻先が私の鼻先に触れる。

「美結、やっぱりまだ辛いか?」

「陽貴先輩、ごめんなさい」

私は頷くと、陽貴先輩は私の頬に軽くキスをした。

「いや、俺が急ぎすぎた」

そう言うと、陽貴先輩は私をそっと解放した。

「私、陽貴先輩にとても悪いことをした。私の心にはユズが住んでいるのに、先輩を利用して、ホントに卑怯だと思う。こんな気持ちでは付き合えない」

「そんなことはない。俺は全て承知の上だったから。美結の心に他の男がいようと構わない。俺の隣にいて欲しいんだ」

そんなことできる訳がない。
私はかぶりを振り、これからの決意を口にする。

「私、決めた。玉砕覚悟でユズに自分の気持ちを伝える」

陽貴先輩は大きく目を見開くと言った。

「アイツには彼女がいるのにか?俺は美結の傷つくところは見たくない。なあ、考え直さないか?」

「ううん、もう決めたから。ダメもとで告白する。そうしないと、私は前に進めないから」

そう決めてしまえば、ホッとして心がやっと軽くなった。
もう、ユズにフラれたって構わない。
それを恐れて逃げ回っても、苦しいだけだから。


「そっか。美結は見かけより強いんだな。わかった」

陽貴先輩は微笑んで、私の手を取り抱きしめた。

「美結、これは友情のハグだ。頑張れ」

「陽貴先輩!ありがとう」

なんていい人なんだろう。陽貴先輩は。
私はすごく感激して、陽貴先輩をギュッと抱きしめた。

陽貴先輩、ホントに心が広い。
私も陽貴先輩のようになれるだろうか?


それから、私は陽貴先輩に送られてバイトへ行き、いつも通りの仕事をこなす。

今日のお客の入は多くて、何も考えずにひたすら働いた。

あっという間に帰りの時間になり、今日は定時に退勤できた。

店舗の入口にはユズが迎えに来ている。

私の心は軽く、昼間の動揺は嘘のように落ち着いている。
うん。
これなら自分の気持ちをしっかりと伝えられる。
バックヤードで支度を済ませ、ユズの元へと向かった。

彼を見ると、珍しく不安そうな表情で佇んでいる。

「ユズ、お待たせ」

「美結、大丈夫?」
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