なあ、一目惚れって信じる?

万実

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柚希のランチ

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お昼休みのベルが鳴り、俺は美結の作ってくれた弁当を抱えて立ち上がった。

「ユズ、学食行くんだろ?早く行こーぜ」

「ああ」

今、俺に声をかけてきたのは、親友の大友陽貴。

昨日は、失恋したから死ぬとか大騒ぎしていた割に、今日はケロッとして立ち直っている。

何かあったようだ。
詳しい話を昼にすると言っていた。

まあ、元気になって何よりだとは思うけど、立ち直るのが異様に早くないか?

「ハル、先に席取ってる」

「は?お前今日学食買わんの?」

「ああ」

そう言って俺は手に持った弁当を掲げて見せた。

「へえ、珍しいな。お前が弁当持ってくるなんて初めてじゃないか?」

「そうだな」

俺は席に座り弁当の包みを開いた。

エビフライ、卵焼き、ミートボール、彩りのサラダ、ほうれん草のソテー、根菜のきんぴら、おにぎり。

色とりどりでボリュームもあり、どれも美味しそうだ。

一口、卵焼きを食べる。
予想以上に美味しくて、思わず笑みが溢れる。

「お、エビフライじゃん」

「あ、こら!」

「何これ、すげー旨いんだけど」

陽貴が勝手にエビフライを食べて、感心している。

まあ、旨いのは当たり前だ。なにせ美結が作ったんだから。
陽貴は定食のトレーをテーブルに置くと、俺の前の席に座り、弁当について突っ込んできた。

「これ、誰が作った?絶対にお前の親父じゃないよな」

「まあ、親父じゃないし、俺でもない」

親父は料理好きだが、下手の横好きで腕前は底辺を彷徨っている。
その腕前をよく知る陽貴だから、間違えるはずもない。

「まさか、彼女じゃないよな」

彼女···

そう言われて俺は思わず口籠った。
これはどう説明したら良いものか?

「あの子が彼女だったらいいんだけど」

小さく呟けば、陽貴は驚いた顔をしてまじまじと俺の顔を覗き込んだ。

「おい、まじかよ!」

俺はふうっとため息をついて言った。

「なあ、一目惚れって信じる?」

陽貴は「ぐはっ!」と言って胸を押さえて一瞬のけ反り、目を見開いた。

「お前の口からそんなセリフが出てくるとは!天と地がひっくり返るんじゃなかろうか。今まで誰と付き合ったって、長続きしなかったお前が!一目惚れ?!」

「······」

ああ、やっぱりこんな反応されるよな。 
確かに言われた通りだけど。

「誰なんだよ、言ってみろ」

俺は首を横に振った。

「まだ、どうなるかもわからないんだ。それは彼女に直接言ってから報告する」

「何だよそれは」

陽貴はチッと舌打ちをし、不機嫌な顔をした。
そんな顔をしたところで、俺は喋らないからな。

「それより、今日は報告があるんだろ?」

朝から言いたくてウズウズしてるのが丸わかりだったからな。
陽貴は待ってましたとばかりに、前に乗りだした。

「俺が失恋したのは必然だった」

「何だよ、それは」

あれだけ死にたいとか騒いでおいて、必然とは何事なのか?
それに振り回された俺って···。

「まあ、聞けよ。昨日な、ばあちゃんが怪我してさ、女の子が助けてくれたんだ」

「······」

「その子がめちゃ可愛くて、ひと目見て恋に落ちたわけ」

「えっ!お前も一目惚れ?」

陽貴はコクコクと頷いた。
まさか、陽貴まで一目惚れするとは思わなかった。その相手とは、どんな人物なんだろう?

「でも、どこの誰かわからないんだよな。聞いても答えなかったし」

陽貴は腕を組んで考え込んでいるけど、どこの誰か分からなくて良いんだろうか?

「で、今後はどうするんだ?」

「なあ、必然って言っただろ?絶対に近くにいると思うんだよ」

「それって勘?」

「そう!俺の勘は当たるんだよなあ」

ハハハっと高笑いしている陽貴は置いといて、俺は食事を続けることにする。
せっかく美結が作ってくれた料理を、堪能しないでどうする。

そんな俺を横目に、陽貴は定食をあっという間に平らげ、すっくと立ち上がった。

「ユズ、俺はこれからあの子を探しに行く」

「あの子をって、ここでか?」

「そうだ。早く食えよ、置いてくぞ」

何だそれ。どうあっても俺を連れて行く気か!

「ちょっと待てよ。お前探すって言ったって、相手のこと何もわからないんじゃないのか?」

陽貴は首を横に振り言う。

「いや。ばあちゃん情報だとあの子は高校生ってことだ。だから、ここの生徒かもしれないだろ?」

なるほどね。
そういう事なら、失恋を乗り越え前向きに行動する陽貴に、付き合うとしますか。


俺は急いで弁当を食べきり、待ちきれずに先に出た陽貴の後を追った。
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