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大友家

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私はお店に入り、店内をぐるっと回った。

お店は広くて品物は種類が豊富で、見ていて飽きない。
キッチン用品やガーデニング資材なんかも置いてあり、とても楽しい。

これならば先輩が少々遅れたとしても、大丈夫そうだ。

「痛たたた···」

私の目の前で、白髪のお婆さんが座り込み、肩を押さえている。
大変!どうしたんだろう?
私はお婆さんの元に駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

そう声をかけると、お婆さんは恐縮しながら言った。

「肩を痛めたみたいないんだよ。荷物をどうしようかねえ」

お婆さんの近くには、品物の入った買い物袋がたくさんあるけれど、痛めた肩でこれを持って帰るのは無理があるよね。

「あの、私がお手伝いします。お家までこの荷物を運びますよ」

「いいのかい?ありがとう」

お婆さんはしきりに、「ありがたや」とか「なんまんだぶ、なんまんだぶ」と言って、ひょこひょこと歩いて行く。
肩の痛みはあるけれど、ゆっくりとなら歩くのには支障が無いようで安心した。

私は荷物を持ってお婆さんの隣に並んだ。

「お嬢ちゃん、あんた若いのに親切だねえ。うちの孫の嫁に来てくれないかい?」

「ええっ!?」

嫁って!
びっくりして吹き出しそうになっちゃったよ。
まだ彼氏もいないのにね。

「あの私、まだ高校生なんですよ」

「おやまぁ奇遇だね。うちの孫も高校生さ」

······

一体どこまで本気なのやら。

それからお婆さんの孫の自慢話が始まった。
イケメンだとか、優秀だけどちょっとドジだとか。
とにかく孫が可愛くて仕方がないみたい。

聞いていて微笑ましくなった。
こんなお婆さんがいてくれたら楽しいだろうな。

「お嬢ちゃん、もうすぐ家だよ」

ここまで結構歩いたな。でも無事にたどり着いて良かった。

玄関の表札には【大友】とある。

大友さん···。

学校の先輩に、大友陽貴はるきという人がいる。
綺麗な黒い髪と、切れ長の瞳。背の高い爽やかなイケメンで、学校でもかなり人気がある。
そして柚希先輩の親友。
二人は、生徒たちからユズハルと呼ばれ、アイドルのような存在だ。
うちの学校だけにとどまらず、他校の生徒もその姿を見に来る人気ぶりだ。

お婆さんには高校生のお孫さんがいると言うけど、まさかね。

お婆さんは家の前に立ち、玄関のチャイムを押した。

「はい」

男性の返事が聞こえて、玄関の扉がガチャっと開いた。

「あっ!」

思わず私は声を上げてしまった。
そこに現れたのはまさかの陽貴先輩だった。

ひえぇ、世間ってホント狭いよね。

陽貴先輩は私をガン見して、動かなくなった。

「陽貴、あんたいつまで見惚れてるんだい?」

「あ?ああ。ん、ばあちゃんどうした?」

「お店で肩を痛めてね、このお嬢ちゃんが親切に荷物を運んでくれたんだよ」

私は慌てて挨拶をし、買い物袋を陽貴先輩に差し出した。
先輩は荷物を受け取ると、ガシッと私の左手を掴んだ。

「お礼を兼ねてお茶を入れるから、入って」

ひええっ!
陽貴先輩の手が私の手を!あわわ···
予想外の出来事に動揺しまくっていると、お婆さんも頭を下げながら私を誘い出した。

「お嬢ちゃん、本当にありがとう。後生だから上がっていっておくれ」

うわああ!
どうするどうする?
お茶を頂いていく?

······

あ、ダメだよ。
けが人のケアが先でしょ!
それに柚希先輩を待たせているかもしれないのに、のんびりお茶なんて飲んでられないわ。
やっとのことで冷静さを取り戻した私は、頭を下げつつ言った。

「あの、お婆さんの肩を先に見てあげて」

「それはもちろん」

「それに私、友達を待たせているから行かなきゃ」

「そう、それは残念だ···」

「お婆さん、お大事に。ちゃんと病院に行ってくださいね」

「お嬢ちゃん、ありがとうね」

「おい君、名前は?」

「え?名乗るほどの者ではありませんので。私はこれで失礼します」

陽貴先輩は「···そうか」と言って、掴んだ手をやっと離してくれたんだけど、油断してるとまた掴まってしまいそうだ。

私は「ではまた」と言って大友家を辞した。

もと来た道を戻るけど、ああ、しまった。
私、絶望的な方向音痴だった。
どうやったら、先程のお店に戻れるのだろうか?

なんとなくこっちかな?って道をたどれども、日用品のお店にたどり着けず···。

ここは一体どこなんでしょう???


私は大空を見上げた。
ほわほわと白い雲が風に乗って流れていく。

ああ、私は何をやっているのか。

大きなため息をついたとき、スマホが鳴った。

『美結、今どこにいる?お店にいないみたいだけど』

うわああ、柚希先輩だあ。
良かったー。
あれ、この安心感は何なのか。

「先輩!私、どこにいるのかわからなくなっちゃった」

先輩には、けが人の手伝いをして迷子になったと説明をしたんだけど、なんて私は馬鹿なのかと思わずにいられなかった。
せっかく先輩に迷わない方法を教えて貰ったのに、少しも実行できなかった。

『迎えに行くから、そこから動かないで。近くの目印になりそうな建物とか、地名の分かりそうな物とかないかな?』

ええっ、そんなのあるのかな?
私は周りを見回してみた。

目の前には大きな白い建物がある。
そこはコーヒーの専門店で『カフェ·シリウス』と言う。
紺地に銀色の文字のオシャレな看板が出ている。
この建物なら目立つから目印になる。
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