9 / 25
大友家
しおりを挟む
私はお店に入り、店内をぐるっと回った。
お店は広くて品物は種類が豊富で、見ていて飽きない。
キッチン用品やガーデニング資材なんかも置いてあり、とても楽しい。
これならば先輩が少々遅れたとしても、大丈夫そうだ。
「痛たたた···」
私の目の前で、白髪のお婆さんが座り込み、肩を押さえている。
大変!どうしたんだろう?
私はお婆さんの元に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけると、お婆さんは恐縮しながら言った。
「肩を痛めたみたいないんだよ。荷物をどうしようかねえ」
お婆さんの近くには、品物の入った買い物袋がたくさんあるけれど、痛めた肩でこれを持って帰るのは無理があるよね。
「あの、私がお手伝いします。お家までこの荷物を運びますよ」
「いいのかい?ありがとう」
お婆さんはしきりに、「ありがたや」とか「なんまんだぶ、なんまんだぶ」と言って、ひょこひょこと歩いて行く。
肩の痛みはあるけれど、ゆっくりとなら歩くのには支障が無いようで安心した。
私は荷物を持ってお婆さんの隣に並んだ。
「お嬢ちゃん、あんた若いのに親切だねえ。うちの孫の嫁に来てくれないかい?」
「ええっ!?」
嫁って!
びっくりして吹き出しそうになっちゃったよ。
まだ彼氏もいないのにね。
「あの私、まだ高校生なんですよ」
「おやまぁ奇遇だね。うちの孫も高校生さ」
······
一体どこまで本気なのやら。
それからお婆さんの孫の自慢話が始まった。
イケメンだとか、優秀だけどちょっとドジだとか。
とにかく孫が可愛くて仕方がないみたい。
聞いていて微笑ましくなった。
こんなお婆さんがいてくれたら楽しいだろうな。
「お嬢ちゃん、もうすぐ家だよ」
ここまで結構歩いたな。でも無事にたどり着いて良かった。
玄関の表札には【大友】とある。
大友さん···。
学校の先輩に、大友陽貴という人がいる。
綺麗な黒い髪と、切れ長の瞳。背の高い爽やかなイケメンで、学校でもかなり人気がある。
そして柚希先輩の親友。
二人は、生徒たちからユズハルと呼ばれ、アイドルのような存在だ。
うちの学校だけにとどまらず、他校の生徒もその姿を見に来る人気ぶりだ。
お婆さんには高校生のお孫さんがいると言うけど、まさかね。
お婆さんは家の前に立ち、玄関のチャイムを押した。
「はい」
男性の返事が聞こえて、玄関の扉がガチャっと開いた。
「あっ!」
思わず私は声を上げてしまった。
そこに現れたのはまさかの陽貴先輩だった。
ひえぇ、世間ってホント狭いよね。
陽貴先輩は私をガン見して、動かなくなった。
「陽貴、あんたいつまで見惚れてるんだい?」
「あ?ああ。ん、ばあちゃんどうした?」
「お店で肩を痛めてね、このお嬢ちゃんが親切に荷物を運んでくれたんだよ」
私は慌てて挨拶をし、買い物袋を陽貴先輩に差し出した。
先輩は荷物を受け取ると、ガシッと私の左手を掴んだ。
「お礼を兼ねてお茶を入れるから、入って」
ひええっ!
陽貴先輩の手が私の手を!あわわ···
予想外の出来事に動揺しまくっていると、お婆さんも頭を下げながら私を誘い出した。
「お嬢ちゃん、本当にありがとう。後生だから上がっていっておくれ」
うわああ!
どうするどうする?
お茶を頂いていく?
······
あ、ダメだよ。
けが人のケアが先でしょ!
それに柚希先輩を待たせているかもしれないのに、のんびりお茶なんて飲んでられないわ。
やっとのことで冷静さを取り戻した私は、頭を下げつつ言った。
「あの、お婆さんの肩を先に見てあげて」
「それはもちろん」
「それに私、友達を待たせているから行かなきゃ」
「そう、それは残念だ···」
「お婆さん、お大事に。ちゃんと病院に行ってくださいね」
「お嬢ちゃん、ありがとうね」
「おい君、名前は?」
「え?名乗るほどの者ではありませんので。私はこれで失礼します」
陽貴先輩は「···そうか」と言って、掴んだ手をやっと離してくれたんだけど、油断してるとまた掴まってしまいそうだ。
私は「ではまた」と言って大友家を辞した。
もと来た道を戻るけど、ああ、しまった。
私、絶望的な方向音痴だった。
どうやったら、先程のお店に戻れるのだろうか?
なんとなくこっちかな?って道をたどれども、日用品のお店にたどり着けず···。
ここは一体どこなんでしょう???
私は大空を見上げた。
ほわほわと白い雲が風に乗って流れていく。
ああ、私は何をやっているのか。
大きなため息をついたとき、スマホが鳴った。
『美結、今どこにいる?お店にいないみたいだけど』
うわああ、柚希先輩だあ。
良かったー。
あれ、この安心感は何なのか。
「先輩!私、どこにいるのかわからなくなっちゃった」
先輩には、けが人の手伝いをして迷子になったと説明をしたんだけど、なんて私は馬鹿なのかと思わずにいられなかった。
せっかく先輩に迷わない方法を教えて貰ったのに、少しも実行できなかった。
『迎えに行くから、そこから動かないで。近くの目印になりそうな建物とか、地名の分かりそうな物とかないかな?』
ええっ、そんなのあるのかな?
私は周りを見回してみた。
目の前には大きな白い建物がある。
そこはコーヒーの専門店で『カフェ·シリウス』と言う。
紺地に銀色の文字のオシャレな看板が出ている。
この建物なら目立つから目印になる。
お店は広くて品物は種類が豊富で、見ていて飽きない。
キッチン用品やガーデニング資材なんかも置いてあり、とても楽しい。
これならば先輩が少々遅れたとしても、大丈夫そうだ。
「痛たたた···」
私の目の前で、白髪のお婆さんが座り込み、肩を押さえている。
大変!どうしたんだろう?
私はお婆さんの元に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけると、お婆さんは恐縮しながら言った。
「肩を痛めたみたいないんだよ。荷物をどうしようかねえ」
お婆さんの近くには、品物の入った買い物袋がたくさんあるけれど、痛めた肩でこれを持って帰るのは無理があるよね。
「あの、私がお手伝いします。お家までこの荷物を運びますよ」
「いいのかい?ありがとう」
お婆さんはしきりに、「ありがたや」とか「なんまんだぶ、なんまんだぶ」と言って、ひょこひょこと歩いて行く。
肩の痛みはあるけれど、ゆっくりとなら歩くのには支障が無いようで安心した。
私は荷物を持ってお婆さんの隣に並んだ。
「お嬢ちゃん、あんた若いのに親切だねえ。うちの孫の嫁に来てくれないかい?」
「ええっ!?」
嫁って!
びっくりして吹き出しそうになっちゃったよ。
まだ彼氏もいないのにね。
「あの私、まだ高校生なんですよ」
「おやまぁ奇遇だね。うちの孫も高校生さ」
······
一体どこまで本気なのやら。
それからお婆さんの孫の自慢話が始まった。
イケメンだとか、優秀だけどちょっとドジだとか。
とにかく孫が可愛くて仕方がないみたい。
聞いていて微笑ましくなった。
こんなお婆さんがいてくれたら楽しいだろうな。
「お嬢ちゃん、もうすぐ家だよ」
ここまで結構歩いたな。でも無事にたどり着いて良かった。
玄関の表札には【大友】とある。
大友さん···。
学校の先輩に、大友陽貴という人がいる。
綺麗な黒い髪と、切れ長の瞳。背の高い爽やかなイケメンで、学校でもかなり人気がある。
そして柚希先輩の親友。
二人は、生徒たちからユズハルと呼ばれ、アイドルのような存在だ。
うちの学校だけにとどまらず、他校の生徒もその姿を見に来る人気ぶりだ。
お婆さんには高校生のお孫さんがいると言うけど、まさかね。
お婆さんは家の前に立ち、玄関のチャイムを押した。
「はい」
男性の返事が聞こえて、玄関の扉がガチャっと開いた。
「あっ!」
思わず私は声を上げてしまった。
そこに現れたのはまさかの陽貴先輩だった。
ひえぇ、世間ってホント狭いよね。
陽貴先輩は私をガン見して、動かなくなった。
「陽貴、あんたいつまで見惚れてるんだい?」
「あ?ああ。ん、ばあちゃんどうした?」
「お店で肩を痛めてね、このお嬢ちゃんが親切に荷物を運んでくれたんだよ」
私は慌てて挨拶をし、買い物袋を陽貴先輩に差し出した。
先輩は荷物を受け取ると、ガシッと私の左手を掴んだ。
「お礼を兼ねてお茶を入れるから、入って」
ひええっ!
陽貴先輩の手が私の手を!あわわ···
予想外の出来事に動揺しまくっていると、お婆さんも頭を下げながら私を誘い出した。
「お嬢ちゃん、本当にありがとう。後生だから上がっていっておくれ」
うわああ!
どうするどうする?
お茶を頂いていく?
······
あ、ダメだよ。
けが人のケアが先でしょ!
それに柚希先輩を待たせているかもしれないのに、のんびりお茶なんて飲んでられないわ。
やっとのことで冷静さを取り戻した私は、頭を下げつつ言った。
「あの、お婆さんの肩を先に見てあげて」
「それはもちろん」
「それに私、友達を待たせているから行かなきゃ」
「そう、それは残念だ···」
「お婆さん、お大事に。ちゃんと病院に行ってくださいね」
「お嬢ちゃん、ありがとうね」
「おい君、名前は?」
「え?名乗るほどの者ではありませんので。私はこれで失礼します」
陽貴先輩は「···そうか」と言って、掴んだ手をやっと離してくれたんだけど、油断してるとまた掴まってしまいそうだ。
私は「ではまた」と言って大友家を辞した。
もと来た道を戻るけど、ああ、しまった。
私、絶望的な方向音痴だった。
どうやったら、先程のお店に戻れるのだろうか?
なんとなくこっちかな?って道をたどれども、日用品のお店にたどり着けず···。
ここは一体どこなんでしょう???
私は大空を見上げた。
ほわほわと白い雲が風に乗って流れていく。
ああ、私は何をやっているのか。
大きなため息をついたとき、スマホが鳴った。
『美結、今どこにいる?お店にいないみたいだけど』
うわああ、柚希先輩だあ。
良かったー。
あれ、この安心感は何なのか。
「先輩!私、どこにいるのかわからなくなっちゃった」
先輩には、けが人の手伝いをして迷子になったと説明をしたんだけど、なんて私は馬鹿なのかと思わずにいられなかった。
せっかく先輩に迷わない方法を教えて貰ったのに、少しも実行できなかった。
『迎えに行くから、そこから動かないで。近くの目印になりそうな建物とか、地名の分かりそうな物とかないかな?』
ええっ、そんなのあるのかな?
私は周りを見回してみた。
目の前には大きな白い建物がある。
そこはコーヒーの専門店で『カフェ·シリウス』と言う。
紺地に銀色の文字のオシャレな看板が出ている。
この建物なら目立つから目印になる。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく
矢野りと
恋愛
彼がかつて愛した人は私の知っている人だった。
髪色、瞳の色、そして後ろ姿は私にとても似ている。
いいえ違う…、似ているのは彼女ではなく私だ。望まれて嫁いだから愛されているのかと思っていたけれども、それは間違いだと知ってしまった。
『私はただの身代わりだったのね…』
彼は変わらない。
いつも優しい言葉を紡いでくれる。
でも真実を知ってしまった私にはそれが嘘だと分かっているから…。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる