媚薬の恋 一途な恋

万実

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ティアドロップ

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「フィン、何が目的だ。ここまでするからには何かあるんだろう?」

アレクの問にフィンさんは目を細め、頷いた。

「取引をしようじゃないか」

「·····」

「この女と、お前のその首に下げているペンダント、交換だ」

「やはりな、それがお前の目的か」

ペンダント?

えっ?それって、もしかして。

アレクの持っているペンダントって、私のティアドロップよね。
フィンさんがそんなものを欲しがるはずがない。

狙いはアレクの青銀色のリングだろう。

それは今、私が首に下げている。

アレクが大事にしているペンダントは、誰かに狙われるほどの価値があるということなんだ。

青銀色の金属なんて見たこともないからね。
余程のものなんだろうとは思っていたけど。

そして、フィンさんは勘違いをしている。

私のペンダントとアレクのペンダント。

二つは入れ代わってるんだけど、ペンダントのチェーン部分だけを見れば、どちらも同じものに見えるから、ペンダントトップさえ隠れていれば区別はつかない。

その事実をフィンさんは知らないんだ。

私はアレクに目で訴えると、彼は本当に小さく、私だけがわかる程度に頷いた。

アレクは首からペンダントを外した。

もちろん、フィンさんに見えないようにペンダントトップを手で握りしめている。 

「さあ、ペンダントを渡すから早くティア·フローレンスを開放してくれ」

「···やけに物わかりがいいな。そう簡単に応じるとは思っていなかったんだが」

フィンさんは訝しみながらアレクを睨んだ。

「いいか、僕にはティア·フローレンス以上に大切なものなんてないんだ。こんなペンダントの一つや二つ、お前にやったって惜しくはないし、後悔はしない」

「おい、嘘だろ?お前、【媚薬】を飲んで本当におかしくなったんじゃないのか」

「なんとでも言え」

アレクはとても冷静で、妙に堂々としている。

うーん。

もしかしたら、アレクはフィンさんを油断させるために演技をしているんじゃないだろうか。

そんな気がしてならない。

先程の女神だの美しいだの、そんな歯の浮くような、耳を塞ぎたくなるようなセリフもそうであって欲しいものだ·····。

「交換方法は?」

アレクの問にフィンさんは、この部屋をぐるっと見回し、そして私を一瞥して答えた。

「そうだな。まずは窓際の椅子にこの女を座らせる。いいか、事が終わるまで絶対に動くんじゃない」

そう言うと、フィンさんは私を椅子に座らせ、両足首に足枷を嵌め鍵をかけて、自由に動けないようにした。

足枷まで持ち出すなんて、フィンさんの用意周到さに息を呑む。

私は両足と右手が利かなくなってしまった。

右手首は紫色に変色し腫れ上がり、ズキズキと痛みが走る。

情けなさと痛みとで、涙が浮かんでくる。

なるべくアレクの負担になりたくないけど、動けない以上どうしようもない。

椅子に座る私の傍らに立ったフィンさんは、アレクを牽制するため、足枷の鍵を目の前にかざした。

「この足枷の鍵とお前の持つペンダントを交換する。アレク、お前はその位置から動くな」

ちょうど三階の階段の手前にいるアレクは、右手に持つペンダントを握りしめて、フィンさんが来るのを待つ。

この交換は私達にとっては不利だ。

なぜなら、動けない私がいるから。

私と自身の安全を確保しつつ、足枷を外さなければならないアレクと、ただペンダントを受け取るだけのフィンさん。

足枷を外す間に何かを仕掛けられたら、アレクも私もひとたまりもない。

それに、フィンさんは階段の手前に陣取る訳だから、逃げ道も封じられている。

大丈夫なのだろうか?

不安に苛まれ、私はそんなアレクをじっと見つめる。

アレクは一瞬目を見開き、私に何かを訴えかけた。

あっ!!

何かする気だ。

形勢を逆転するための考えが、彼にはあるようだ。

それが何なのか、わからないけれど。

今の私には、アレクの為に出来ることは何もない。

ただ、大人しく椅子に座り、アレクを信じて待つより他はない。

フィンさんはゆっくりと歩を進め、アレクのすぐ近くに立った。

お互いが右手に交換するためのアイテムを持っている。

ペンダントと足枷の鍵。

そして動きが止まり、フィンさんはアレクを誘導する。

「いいか、三つカウントして、お互いの左手に同時に置く。では開始する」

「いち」

「に」

「さん」

そして、ペンダントと足枷の鍵がそれぞれの左手に置かれた。

左手に足枷の鍵が置かれるやいなや、アレクは走り出した。

そして、フィンさんはというと。

自分の左手に置かれたペンダントを目の前に提げ、恍惚の表情でそれを眺めている。

その手にあるのは青銀色のリングのペンダント。

えっ?!

どういう事?

青銀色のリングは私が持っていて、あれは私のティアドロップのはずなんだけど。

「これが、後継者のリングか!!」

フィンさんは歓喜の声を上げ、更に高くそのペンダントを掲げた瞬間、変化が起こった。

リングが光輝き、その光がサラサラと下方へ流れ落ちるように見えた。

そして、そのペンダントは真実の姿を現した。

「なっ?!」

フィンさんは、驚愕して叫んだ。

その手に掲げたペンダントは、やはり私のティアドロップだった。
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