媚薬の恋 一途な恋

万実

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好きだよ

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アレクの仕事も終わったので、私達は菓子店エリーゼを出て、学園への帰り道を行く。

だけど。

なんだか不機嫌な様子のアレクに手を引かれ、少し足早に歩く。

お店を出てからというもの、ひたすら無口になっていて、その表情は険しい。

何か考え事をしているようだけど、足が早いよー。

アレクの歩幅について行くのは結構大変だ。

「あの、アレク。ちょっと早いよ」

はっとしてアレクは私の顔を見た。

「ごめん、ティア」

そう言うと歩くペースを落とし、ため息を吐いた。

「学園に戻る前にもう一箇所付き合ってくれる?」

「うん、もちろん」

そして歩を進めると、見えてきたのは大きな公園。

広くて緑豊かなこの公園の奥にある小高い丘に上がると、私達の住む街が一望できる。

「いい眺め。綺麗な所ね」

「そうだね。ここなら誰にも邪魔されないで話ができる」

「うん?」

「僕はケヴィンとの事で君に色々言ったけどね。急にそんな事を言われたってわからないよね」

「··そうだね」

正直、私は良くわからなかった。

ケヴィンさんは本当にアレクの事を心配していたように思うし、試作のケーキをもらって何がいけなかったのか···。

「ケヴィンと仲良く話している君を見て、凄く嫌だと思った。嫉妬してたんだ」

「······」

「だからね。僕は君に色々言う前に、自分の気持ちを伝えるべきだった」

アレクは少し潤んだ美しい瞳で私をじっと見つめる。そして私の腰に手を回し引き寄せ、耳元で囁いた。

「ティア、好きだよ」

ひえええっ。

今の私は、きっと耳まで真っ赤に違いない。

耳元でこのセリフ、破壊力抜群で腰に力が入らない。

好きだよって。

うわあああ。

パニックである。

でも待って。

これって【媚薬】の効果で好きって言ってるんだよね。

···嬉しいって思ってしまった。

「ねえティア、君は?」

「えっ?」

「君の気持ちを教えて」

「······」

アレクの好きという言葉を本気にしてはいけない。

これは薬の効いている今だけなんだから。

そう思っても、どうしようもなくアレクに惹かれる私がいる。

独り相撲かもしれないけど、やっぱり自分の気持は正直に伝えたい。

私は意を決して口を開いた。

「アレク、私もあなたが好き」

その言葉を聞いたアレクは、ぱあっと笑顔になった。

「ティア、本当に?!」

頷くとアレクは私を抱きしめ「嬉しい、ありがとう」とまたも耳元で囁く。

今だけかもしれない両想いの瞬間。

それでも、嬉しさが溢れ出して止まらない。

心臓はドキドキと音を立てて跳ね上がる。

それは私だけでなく、お互いの熱い思いと喜びが重なって、世界がとても美しく華やいで見える。

この瞬間が永遠に続いてくれればいいのにと、私は思うのだった。

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