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会場が静寂に包まれる。
それもそのはずか。
クラス、いや学年の中でタイトルカースト上位の人物がその真逆であるカースト最底辺に負けたのだ。
しかもその内容は条件がありながらも相手を圧倒してみせた。
我ながらかなりえげつない事をしたと自覚する。
試合結果は俺の勝ちになったけど、学校側はどんな対応をしてくるだろうか。流石にこの結果はタイトル授業の悪評を招く可能性が高いからな。
ちゃんと教育しているのか?とか。教師のレベルが低いのでは?とか。
「まぁ、その辺はどうにかなるだろ」
学校には感謝しているし、その反面もう少しどうにかならないかとも思っている。
良い思いも悪い思いも持っている俺では何かをすることはないだろう。
「大丈夫か?」
「...」
俺は目の前で大の字に寝転がっている神崎に声をかける。
しかし、返答は帰ってこない。
「まさか威力が強すぎて死んだなんてことないよな?」
「勝手に殺すなよ」
そこでようやく神崎は目を開き、声を発した。
「いや、なにも喋らないから。つい」
「死んではないが、体が動かせねぇんだよ。こっちはもう体力が空っぽでな」
その様子を見て俺はちょっと自信が湧いてきた。
元から自意識過剰な自信は嫌となるほど持っていたが、それとはまた別の感覚だ。
神崎は俺という存在に対して、体が動けなくなるほどに全力を尽くしてくれた。
その事実がなによりも嬉しかったんだと思う。
とはいえ、神崎は俺の前に三人も相手にしていたんだ。その点でいえばこれは、あまり公正とは言えないな。
「まさかここまでとはな...」
神崎がどこか遠くを見るようにそう言う。
試合の中で言っていたが、神崎は天才型というよりは努力型だ。俺と変わらない。一つ一つタイトルを強くするために訓練を繰り返していた。
「俺はお前のことを誤解していたな」
ゲームやライトノベルなどでお馴染みの言葉。それを自分自身に向けられて聞く日が来るとは。
少し前の俺。指輪と出会う前はこんなことになるとは思いもしなかった。
このタイトルを公衆の面前で使うことを躊躇っていた。
否定される。俺という存在が認められない世界。それらを恐れていた。
しかし、そんなことは些細なことだった。
己の信念を貫き通した女の子。そんな彼女が俺のことを信じてくれているのだ。
その期待を裏切るようなことはできない。
それこそ、俺が恐れていたことを彼女にしてしまう。
「いいや、誤解していないさ。今までの俺は神崎みたいに戦わず、逃げ続けていた。それこそが俺の本当の姿。それは今も変わらない。だけど、逃げ方を少し変えたんだ。自分が信じられる方に」
「...なるほどな。これは、頑固な俺の負けだな」
互いに納得し合った俺と神崎は、最後には肩を貸し合い、試験場から一度離れる。
俺は指輪たちがいる場所には戻らず、そのまま神崎のグループに残っている生徒と試合をする。
結果は俺の圧勝で、俺たちのグループは学年順位一位へと成った。
♢
中間試験発表に伴い、あの日の俺たちの試合を見ていた者全員に情報規制をかけるように命令が下りた。
その内容は、指輪が神崎に負けたことと俺が神崎に勝ったことの隠蔽。
結果、俺が神崎に負け、指輪が神崎に勝った内容へと改竄された。
「納得がいきません。あの試験を勝つことができたのは朝比奈くんのお陰だというのに。何故私が活躍したことになっているのですか?」
「仕方ないだろ。指輪が負けて俺が勝ったなんてまず信じてもらえないし、信じられると今度は混乱を招くことになるからな」
中間試験の成績表が張り出されている廊下を歩きながら、俺と指輪は世間話をする。
まぁ、別に周りの評判は気にしていないので俺は全然気にしていなかった。
ただありがたいところは、俺の成績がしっかりした評価をされ、去年やらされたような追試がないというところだろうか。
「おっ?あれは...」
と、そこで前方に二つの影を見つける。
そして、その影を作り出していたのは顔見知りだった。
「よう!牧村に柳沢。お前たちも成績表を見に来たのか?」
「おう!まさか俺の名前が学年一位のグループに入っているなんて驚きだぜ」
「...私も」
まぁ、この学校には他にも多くの実力者たちがいるからな。
その中での一位とは、これからの人生で、このタイトル至上主義の世界では特に大切になってくる。
「それにしても、試験中いきなりお前が無双しだした時は度肝を抜かされたぜ」
「...本当に。私たちがしていた心配が勿体ないくらいに」
「あぁ、正直。例の噂で変な先入観を持っちまってたから余計にな」
そうは言っているが、結局はあの試合を見て俺のことをちゃんと理解してくれている。
本当にいい奴らだな。
他の連中ときたら、不正だの、インチキだの。それしか言ってこなかったからな。
まぁ、一人例外を除いて。
「おい!」
「ん?」
後ろから呼ばれた声に反応し、体を向けるとそこには神崎の姿があった。
「どうした?」
「どうしたもこうしたもあるか。次は絶対に勝って見せるからな」
「なんだ神崎。負け惜しみか?」
「俺に負けた脳筋バカは黙ってろ」
「んだと?!」
「まぁまぁ、そんなに熱くならないで」
神崎と牧村がヒートアップする間を指輪が止める。
それによって、二人とも冷静さを取り戻す。
「牧村。いいこと教えてやるよ」
「なんだ?」
「神崎はツンデレだと思えばいいんだよ。あぁは言ってるが、ちゃんと俺のことを理解してくれているし」
「確かに、他の連中とは違うな...」
こっそり牧村に神崎の相手の仕方を教える。
こっちの方が牧村の性にあっているだろう。
神崎はあの試合以降、前みたいに俺に危害を加えるのを辞めた。
元々は、いつまで経ってもへらへらしていた俺が気に食わなかったらしい。根が真っ直ぐな神崎にとって俺は何の努力もしないクズに見えていたのだろう。
だからこそ、ちょっかいをかけ、俺を成長させようとしてくれていたのだろう。
正に反面教師だな。
「神崎。俺との再試合もそうだが、まずは指輪ときっちりやった方がいいんじゃないのか?」
「ぐっ...。もちろんそのつもりだ」
「...」
指輪は優しい。
あれだけ言い合い、感情を表に出した戦いの後だが、しっかりと神崎の言葉を待ってくれている。
「指輪。お前とのケリもそのうち必ず果たす。それまで俺個人の問題だが、時間をくれ」
「構いませんよ。私も神崎くんとはもう一度ちゃんとやりたいと思っていましたし、私も時間が欲しいと思っていたところです」
互いに再試合の意志があり、次こそはと訓練を積むつもりなのだろう。
そんなこんなで結局、俺たち五人は今後とも付き合っていくのだろう。
♢
放課後。俺は指輪と一緒に帰る約束をしていた。
学校入口で待っていたのだが、いつになっても来る気配がないので、俺は教室へと足を運ぶ。
すると、予想は当たっていたようで、いつの日かの教室のようにそこには指輪がいた。
あの時は先に俺が教室にいたけどな。
「指輪。いつまでここにいるんだ?」
「あれ、すみません。ついぼーっとしてしまって。早く帰りましょうか」
「...」
俺は気づいてしまった。
最初はただ優しい奴だと思った。そして、新しいタイトルを獲得しようかも悩んだ。
だが、その条件に混乱して、彼女を傷つけるような選択肢も考えていた。
しかし、今それは関係なく、彼女が俺と一緒にいてほしいと考え始めている。
俺のことを信じてくれた。だから俺も、彼女を信じ、自身の中でその存在を大きくしていた。
だけど、それはただの気持ちではない、より大切にしたいと思える気持ちに変化していた。
「なぁ、指輪」
「はい。どうかしましたか?」
「その、急な話なんだが...、えっと」
「?」
つい緊張してしまう。
だが、もう俺は昔の俺とは違う。
これからは逃げるだけを選ぶのは辞めるんだ。
「一緒に戦った仲だしさ、せっかくだから、名前で呼んでもいいか、な、と」
「...——ですよ」
「え?」
か細い、今にも消えてしまいそうな小さな声が聞こえた。
「いいですよ。私もこれからは朝比奈くんのことを名前で呼びますね」
「あ、あぁ。全然、構わない。こちらこそ、よろしく。...月」
「...はい。夕人くん」
俺の気のせいだろうか。
月の表情が少し、喜んでいるように見えた。
それもそのはずか。
クラス、いや学年の中でタイトルカースト上位の人物がその真逆であるカースト最底辺に負けたのだ。
しかもその内容は条件がありながらも相手を圧倒してみせた。
我ながらかなりえげつない事をしたと自覚する。
試合結果は俺の勝ちになったけど、学校側はどんな対応をしてくるだろうか。流石にこの結果はタイトル授業の悪評を招く可能性が高いからな。
ちゃんと教育しているのか?とか。教師のレベルが低いのでは?とか。
「まぁ、その辺はどうにかなるだろ」
学校には感謝しているし、その反面もう少しどうにかならないかとも思っている。
良い思いも悪い思いも持っている俺では何かをすることはないだろう。
「大丈夫か?」
「...」
俺は目の前で大の字に寝転がっている神崎に声をかける。
しかし、返答は帰ってこない。
「まさか威力が強すぎて死んだなんてことないよな?」
「勝手に殺すなよ」
そこでようやく神崎は目を開き、声を発した。
「いや、なにも喋らないから。つい」
「死んではないが、体が動かせねぇんだよ。こっちはもう体力が空っぽでな」
その様子を見て俺はちょっと自信が湧いてきた。
元から自意識過剰な自信は嫌となるほど持っていたが、それとはまた別の感覚だ。
神崎は俺という存在に対して、体が動けなくなるほどに全力を尽くしてくれた。
その事実がなによりも嬉しかったんだと思う。
とはいえ、神崎は俺の前に三人も相手にしていたんだ。その点でいえばこれは、あまり公正とは言えないな。
「まさかここまでとはな...」
神崎がどこか遠くを見るようにそう言う。
試合の中で言っていたが、神崎は天才型というよりは努力型だ。俺と変わらない。一つ一つタイトルを強くするために訓練を繰り返していた。
「俺はお前のことを誤解していたな」
ゲームやライトノベルなどでお馴染みの言葉。それを自分自身に向けられて聞く日が来るとは。
少し前の俺。指輪と出会う前はこんなことになるとは思いもしなかった。
このタイトルを公衆の面前で使うことを躊躇っていた。
否定される。俺という存在が認められない世界。それらを恐れていた。
しかし、そんなことは些細なことだった。
己の信念を貫き通した女の子。そんな彼女が俺のことを信じてくれているのだ。
その期待を裏切るようなことはできない。
それこそ、俺が恐れていたことを彼女にしてしまう。
「いいや、誤解していないさ。今までの俺は神崎みたいに戦わず、逃げ続けていた。それこそが俺の本当の姿。それは今も変わらない。だけど、逃げ方を少し変えたんだ。自分が信じられる方に」
「...なるほどな。これは、頑固な俺の負けだな」
互いに納得し合った俺と神崎は、最後には肩を貸し合い、試験場から一度離れる。
俺は指輪たちがいる場所には戻らず、そのまま神崎のグループに残っている生徒と試合をする。
結果は俺の圧勝で、俺たちのグループは学年順位一位へと成った。
♢
中間試験発表に伴い、あの日の俺たちの試合を見ていた者全員に情報規制をかけるように命令が下りた。
その内容は、指輪が神崎に負けたことと俺が神崎に勝ったことの隠蔽。
結果、俺が神崎に負け、指輪が神崎に勝った内容へと改竄された。
「納得がいきません。あの試験を勝つことができたのは朝比奈くんのお陰だというのに。何故私が活躍したことになっているのですか?」
「仕方ないだろ。指輪が負けて俺が勝ったなんてまず信じてもらえないし、信じられると今度は混乱を招くことになるからな」
中間試験の成績表が張り出されている廊下を歩きながら、俺と指輪は世間話をする。
まぁ、別に周りの評判は気にしていないので俺は全然気にしていなかった。
ただありがたいところは、俺の成績がしっかりした評価をされ、去年やらされたような追試がないというところだろうか。
「おっ?あれは...」
と、そこで前方に二つの影を見つける。
そして、その影を作り出していたのは顔見知りだった。
「よう!牧村に柳沢。お前たちも成績表を見に来たのか?」
「おう!まさか俺の名前が学年一位のグループに入っているなんて驚きだぜ」
「...私も」
まぁ、この学校には他にも多くの実力者たちがいるからな。
その中での一位とは、これからの人生で、このタイトル至上主義の世界では特に大切になってくる。
「それにしても、試験中いきなりお前が無双しだした時は度肝を抜かされたぜ」
「...本当に。私たちがしていた心配が勿体ないくらいに」
「あぁ、正直。例の噂で変な先入観を持っちまってたから余計にな」
そうは言っているが、結局はあの試合を見て俺のことをちゃんと理解してくれている。
本当にいい奴らだな。
他の連中ときたら、不正だの、インチキだの。それしか言ってこなかったからな。
まぁ、一人例外を除いて。
「おい!」
「ん?」
後ろから呼ばれた声に反応し、体を向けるとそこには神崎の姿があった。
「どうした?」
「どうしたもこうしたもあるか。次は絶対に勝って見せるからな」
「なんだ神崎。負け惜しみか?」
「俺に負けた脳筋バカは黙ってろ」
「んだと?!」
「まぁまぁ、そんなに熱くならないで」
神崎と牧村がヒートアップする間を指輪が止める。
それによって、二人とも冷静さを取り戻す。
「牧村。いいこと教えてやるよ」
「なんだ?」
「神崎はツンデレだと思えばいいんだよ。あぁは言ってるが、ちゃんと俺のことを理解してくれているし」
「確かに、他の連中とは違うな...」
こっそり牧村に神崎の相手の仕方を教える。
こっちの方が牧村の性にあっているだろう。
神崎はあの試合以降、前みたいに俺に危害を加えるのを辞めた。
元々は、いつまで経ってもへらへらしていた俺が気に食わなかったらしい。根が真っ直ぐな神崎にとって俺は何の努力もしないクズに見えていたのだろう。
だからこそ、ちょっかいをかけ、俺を成長させようとしてくれていたのだろう。
正に反面教師だな。
「神崎。俺との再試合もそうだが、まずは指輪ときっちりやった方がいいんじゃないのか?」
「ぐっ...。もちろんそのつもりだ」
「...」
指輪は優しい。
あれだけ言い合い、感情を表に出した戦いの後だが、しっかりと神崎の言葉を待ってくれている。
「指輪。お前とのケリもそのうち必ず果たす。それまで俺個人の問題だが、時間をくれ」
「構いませんよ。私も神崎くんとはもう一度ちゃんとやりたいと思っていましたし、私も時間が欲しいと思っていたところです」
互いに再試合の意志があり、次こそはと訓練を積むつもりなのだろう。
そんなこんなで結局、俺たち五人は今後とも付き合っていくのだろう。
♢
放課後。俺は指輪と一緒に帰る約束をしていた。
学校入口で待っていたのだが、いつになっても来る気配がないので、俺は教室へと足を運ぶ。
すると、予想は当たっていたようで、いつの日かの教室のようにそこには指輪がいた。
あの時は先に俺が教室にいたけどな。
「指輪。いつまでここにいるんだ?」
「あれ、すみません。ついぼーっとしてしまって。早く帰りましょうか」
「...」
俺は気づいてしまった。
最初はただ優しい奴だと思った。そして、新しいタイトルを獲得しようかも悩んだ。
だが、その条件に混乱して、彼女を傷つけるような選択肢も考えていた。
しかし、今それは関係なく、彼女が俺と一緒にいてほしいと考え始めている。
俺のことを信じてくれた。だから俺も、彼女を信じ、自身の中でその存在を大きくしていた。
だけど、それはただの気持ちではない、より大切にしたいと思える気持ちに変化していた。
「なぁ、指輪」
「はい。どうかしましたか?」
「その、急な話なんだが...、えっと」
「?」
つい緊張してしまう。
だが、もう俺は昔の俺とは違う。
これからは逃げるだけを選ぶのは辞めるんだ。
「一緒に戦った仲だしさ、せっかくだから、名前で呼んでもいいか、な、と」
「...——ですよ」
「え?」
か細い、今にも消えてしまいそうな小さな声が聞こえた。
「いいですよ。私もこれからは朝比奈くんのことを名前で呼びますね」
「あ、あぁ。全然、構わない。こちらこそ、よろしく。...月」
「...はい。夕人くん」
俺の気のせいだろうか。
月の表情が少し、喜んでいるように見えた。
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