上 下
11 / 16

歩いている場所の差

しおりを挟む
 闘技場の上で戦う二人とは違って、静観していた俺たち。

「...イタイ」
「ん、どこか怪我したのか?」
「大丈夫ですか?」

 急に柳沢が痛みを訴え始めた。

「...あなたたち、よく平気でいられるわね」
「え?」
「あの二人のタイトルの名前よ。イタイと思わない?」

 二人のタイトル、<黄金おうごん装甲そうこう>と<黒剣こっけん騎士きし>。

「確かに...。イタイってそっちの意味か」
「逆にそう思わないなんて、あなたたちも感性がおかしいのかしら。...もしかして二人も同じようなタイトルを」
「...」

 <炎宮殿えんきゅうでん主人しゅじん>を持っている俺。
 <全知全能ぜんちぜんのうなるもの>を持っている指輪。
 なんだろう。確かに俺も初めてこういうタイトルを手に入れた時は恥ずかしい気持ちを持っていたんだがな。次第にそういった感情は消えていた。
 指輪の顔を見れば、少しだけ赤くなっていた。俺と同じように昔を思い出しているのだろう。

「まぁまぁ、タイトルなんてそんなもんだよ。ハハハハハ——」

 とりあえずここは笑って誤魔化しておくしかないな。


 ♢


 攻防のせめぎ合いが続く。
 <黄金の装甲>は全ての攻撃を自身の肉体に通さず、受けたダメージを自身の力へと変換する。
 ただ、このタイトルはあまり俺と相性がよくない。変換する力が大きければ、変換後に自身に強化される力も大きくなる。相手の力があまりにも大きすぎると、自身が潰れてしまうほどの力を得ることになる。
 スタミナがない俺には何度もそんな大きさの力を扱うなんて芸当はできない。

「くっ...」
「今のをよく避けたな!」

 ドォン!!!

 力の変換は俺にはコントロールできない。
 なら、自身が耐えられるだけの攻撃だけを変換するしかない。
 強力な攻撃は避け、甘い攻撃だけを受けようと思ったのだが...。

「全部の攻撃がこの威力だとはな」

 闘技場の床を見る。そこには先ほどの神崎の攻撃した跡が残っていた。
 Aランクのタイトルでさえ壊れないとされる材質と力を付与されて作られた土台が抉られ、半壊していた。
 もうこれはSランクの攻撃と一緒じゃないか?

「どうするか」
「何を考えたって意味はねぇぜ?お前はさっさとやられな!」

 先ほどから神崎が放つ攻撃は、奴がもつ黒い剣が大きく伸び、辺りを崩壊させている。
 もうすでに五分以上はこんなことをしている。このままじゃ、力の変換をする前にスタミナ切れを起こしちまう。
 ならば、近づくしか方法はない。
 
「戦いの最中に考え事か?!」
「うおっと!」

 ドォン!!!

 とはいえ、この攻撃の中をどうやって進めばいいんだ?
 範囲が広く、高ダメージのくせに、やたらと攻撃のスピードが早い。
 やるとするなら、一つだけ突破できる方法があるが...。一か八かやってみるか。

「ほらほら!」

 先ほどよりも早い攻撃を繰り出す神崎。
 俺はその攻撃を三回避けた。

「ちょこまかと...、これならどうだ?!」

 そう言うと、神崎はそれまで放った攻撃よりも一際大きい力を黒剣へと注ぎ込む。
 おそらく、これが最初で最後のチャンスだ。気合を入れてけ。
 そう自分を鼓舞する。

「喰らえっ!」

 神崎は大振りな一撃を俺に向かって放つ。
 今だ!

 ドォン!!!

「クッ...」
「何!?」

 俺は神崎の剣を避けず、そのまま受け止めた。

「うおおおー!はっ!」

 俺は剣を弾き返す。
 今まで避けていた攻撃。次の攻撃は先ほどよりも振りを大きくしたため、次も避けると思っていたのだろう。
 急に攻撃を弾かれ、無防備になった神崎に距離を詰める。
 威力が高くなった攻撃を受けた俺はその力を変換し、身体能力を上げる。そんな状態で距離を詰めた場合、俺と神崎の間は一瞬で消えた。

「お返しだ!」
「くっ...」

 神崎の放った力をそのまま拳に自身の力として変換した攻撃を、下からのアッパーで返す。
 神崎はさっき俺が弾いた剣が頭上に未だ浮いており、なんとか反応した左手を体と俺の拳の間に挟む。
 その腕ごと吹っ飛ばしてやるよ!

 バァン!!!

 大きな炸裂音が辺りに響いた。


 ♢


 ぎりぎり見えた、攻防。
 牧村が一瞬で神崎に詰め、アッパーを放った。そして、それは神崎に確実に入った。
 そう見えたのだが...。

「勝者。神崎 聖司」

 審判が神崎の勝利を宣言した。
 闘技場は大きな力が放たれたことによって、粉々になり、煙立っていた。
 確かに、牧村は神崎の攻撃を自身の力に変換し、最大限の力を振り絞ったのだろうが、あと二歩足りなかった。
 一歩は牧村自身のスタミナ。変換した力の制御にすべてを持ってかれてしまい、大事な攻撃という場面でスタミナ切れ。威力が落ちてしまった。
 だがそれだけならば、神崎を倒せるだけの力はまだあっただろう。しかし、もう一歩だけ距離があった。それは...。

 ヒュウー

 二人の戦闘で煙が舞い、見えずらかった闘技場内部が風によって掻き消され、露わになる。
 そこには、審判のみが見えていた光景が俺たちにも見えるようになった。
 そう、あと一歩は神崎自身が防御系のタイトルを持っていたことだ。
 闘技場に横たわっている牧村。そして、その前に立っている黒い煙で覆われた神崎だった。

「はっ。バカのくせに、よくやるぜ」
「はは、褒め言葉と思っとくよ」

 第一試合は神崎の勝利で終わった。

「お疲れ。牧村」
「いやー、やっぱ強いな神崎は」
「...作戦はよかったと思うわよ」
「えぇ、見てる私たちも騙された一撃でした」
「はは、ありがとな。ま、結局届かなかったけどな」

 神崎が使ったタイトル。
 俺たちが見た時には、神崎を覆う黒い煙だけだった。
 あれはどういったタイトルなのだろうか。防御系だとは思うが、攻撃もできるのかもしれない。未知数なタイトルだ。

「...次は私の番ね」
「頑張ってください」
「応援してるからな」
「...恥ずかしいからいい」

 柳沢が闘技場へと登る。

「なんだ。次も雑魚か。やっぱり指輪は最後か?」
「...」
「けっ。だんまりかよ」

 いつの間にか修復された闘技場にまた試合開始の合図が発せられた。


 ♢


 こっわ。なにあの人。
 すごい睨みつけてくるし、口悪いし、図体でかいし。
 戦闘が得意な牧村がやられたんだし、私じゃ無理でしょうね。
 はぁ、せめて単位がもらえるくらいの戦績にしなきゃな。

「それでは、試験を開始する。はじめ!」
「<黒剣の騎士>」

 先ほどと同様に、神崎は<黒剣の騎士>を発動させる。

「...芸が変わらないわね」
「あ?」
「...さっきの黒い煙を私には使ってくれないのかしら?」
「へっ。そんな挑発はどうでもいい。あのタイトルが見たければ、そうしてみせろよ」
「...手加減してくれないかな。私は本来裏方の方が得意なの。あんまり慣れてない戦闘で私が本気を出すと、あなたを傷つけてしまう」
「ん?冗談か?」
「...忠告はした。<先見せんけん>、<暗殺者アサシン>、<無為無策むいむさく>」

 どうせやられるなら、さっきのタイトルの正体だけでも掴んでやる。
 そうすれば、後の二人に残せるものもできるでしょ。

「...どうぞ」
「弱いくせに傲慢に生きてると死んでも知らねぇぞ」
「...本当に弱いのはどっちかしらね」
「上等だ!」

 挑発にはのらないんじゃなかったのかしら。傲慢なのはあなたの方なんじゃないの?
しおりを挟む

処理中です...