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よく出会う二人

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 十一歳になった日。俺は、十一個目のタイトル、<器用貧乏>を所持した。

『<器用貧乏きようびんぼう>:以下の能力が常に発動します。
 ・タイトル所持数無限
 ・タイトル獲得条件表示
 ・所持者のレベルによって、獲得タイトルの昇華』

 それこそ、この世界ではおとぎ話のようなタイトルを俺は手に入れたのだ。
 しかし、そんなタイトルを手に入れても、周囲の俺への扱いは変わらなかった。
 第三者から見た俺の所持タイトル一覧では、タイトルは十個までしか表示されなかった。つまり、このタイトルを持っている証拠がなかった。
 自分たちに見えないモノを信じるということは、とても難しいことだ。閲覧することもできないタイトルの存在を認められることはない。
 結果、俺は空想を見ているイカれ野郎として、余計に自身の首を締めただけだった。
 俺自身も、他人に見えないモノを信じることができなかった。
 だが、神にも縋る思いで、信じてみることにした。そして、それは真実だった。

『<完璧彼氏かんぺきかれし>のタイトルの獲得方法を表示します。獲得方法:指輪 月の彼氏になること』

「...これは、どうしたものかな」

 <器用貧乏>のタイトル獲得条件表示。
 その名の通り、タイトルが渡されるための条件を、こうしてウィンドウに表示してくれる。
 最初は、この力で少しでも強くなろうと思い、タイトルを集めていた。しかし、次第に強さへの執着はなくなり、今では趣味と化していた。
 俺は毎日の多くをタイトル獲得に使っていた。このように条件が表示されれば、なんでもしていた。
 そう、普通なら...。

「タイトルはなんでも欲しい。しかも、<完璧彼氏>とか、能力も分からない未知なモノ。絶対に手に入れたい。...だが、なんでよりにもよって、彼女が関係してるんだよ!」

 昨日、関わらないと決心をしたばっかりだというのに、彼女と関係を持たなければ、獲得できないとか。
 しかもなんだ!?指輪と付き合うことが条件?一体どうなってるんだよ。
 今までにも、人が関係するタイトルはいくらでもあった。でも、特定の誰かを指す条件は、最低でも俺は見たことがなかった。
 ちら、とウィンドウの横を見ると、端正な顔が寝息をたてながら、気持ちよさそうに寝ている。

「たくっ。分からないことばっかりだな、この世界は...」

 俺は結局、屋上に留まることはなく、その場を去ることにする。
 一旦休んで、情報を整理しよう。

「...」

 パサ...

 春になって、日が暖かい時期になってきたとはいえ、まだ風が少し強い。
 外で何もない状態で寝ていた彼女が、明日には風邪をひいていたら、多少なり罪悪感が残る。
 自身が来ていたブレザーを彼女に掛けてから、俺はその場を離れることにした。

「よし」

 

 ♢


 結局俺は、学校の外に出て、家へ帰ることにした。

「でもな~、この時間に帰ると紗枝さんにまた怒られちゃうな」

 時刻はまだ昼過ぎ。本来なら、まが授業を受けていなければならない時間だ。
 なんとなくそんなことを考えると、歩く速さがゆっくりになっていく。
 結局、ぶらぶらと街中を歩いていく。

「どっか、その辺のカフェで時間を潰すか」

 朝から逃げ回ったせいで、少し疲れた。
 付け加えれば、彼女とあの意味不明なタイトルについて考えれば考えるほど、頭が痛くなってきた。
 カフェに入ると、俺はコーヒーを頼んで、席に着いて一息ついた。
 コーヒーはまだ熱く、猫舌の俺はすぐには飲まず、テーブルにカップを置き、冷ましておく。
 その間に、これから指輪 月とあのタイトルについてどうするかを考えていた。
 ただ、結局答えは出ないまま。頭の中で昨日見た、彼女の泣いている姿がちらつくことで、余計考えがまとまらない。

「...あぁ~、もう!」

 店内にいる人たちの迷惑にならない程度の声を軽く出すことで、またも思考を放棄する。
 ふと、テーブルを見て、さっき買ったコーヒーがあることを思い出す。
 手を伸ばし、口をつけようとした。
 その時だった。

 ドォン!

 ガシャン!

「は?」

 一際大きな音と振動が辺りを包む。
 その際に、コーヒーカップはテーブルから転がり落ち、黒い液体が地面へと広がっていく。
 おいおい、まだ俺は一口も飲んでいないんだぞ?どうしてくれるんだ!
 この事件の原因であろうモノの方を見やる。
 俺が向いた方、窓の外は広々とした道路が続いており、この時間なら、日が当たっているはずだ。
 だが、外は真っ暗だ。辺りには大きな影が広がっていた。

「はぁ、こりゃまたすごいのが出たな」

 人間が持つタイトルにランクがあるように、この世に現れる化物ケモノにも、同じようにランクが存在する。
 A~Eの五段階と、特例のSに振り分けられている。
 そして、今俺の目の前で起きた凄惨な事件を起こした原因である化物は、Bランク。
 分かりやすくいうと、一国がその化物一体に窮地へと追い込まれる可能性がある。数時間もすれば小さな街など、地図の上から姿を消し去ってしまうだろう。
 そんな力を持つ化物の名は、「ゴーレム」。三十回建てのビル、百メートルほどの巨体をしたモノがそこにはいた。
 ユダヤの話に登場する、土でできた人造人間のことだ。話に出てくるゴーレムは、作られた者に従い、人々をあらゆる攻撃から防いだとされている。
 しかし、このゴーレムは誰かの意志に従うことなく、目的もなく、ただ破壊を続ける兵器として存在する。
 過去、幾度となく現れたゴーレムは、そのたびに、多くの国を危機へと追いやったほどの有名な化物。

「たくっ、ふざけやがって。俺のコーヒーを奪った罪は高いぞ?」

 俺は、世界を危機から救おうとかそんなことはどうでもいい。
 ただ、今。今から飲もうと思っていたコーヒーを俺から奪ったことだけが悔やましい。
 街中の人がゴーレムとは逆の方向へ逃げているのにも関わらず、俺はゴーレムへと近づいていく。
 すると、ゴーレムは俺が自身に敵対するモノだと捉えたのか、こちらに攻撃をしかけようとする。
 でかい図体のくせに、頭もいいらいしい。

「丁度いい。器用貧乏がどれくらいのランクか確かめてやる」

 相手は、多くの人間を屠って来た怪物。
 そんな相手に自身がどれだけをすることができるのか、やってみよう。

「手始めに。<炎宮殿えんきゅうでんの——」
「危ない!」

 俺のタイトルとゴーレムの足が対抗しようとしたその時。
 背後から凄まじい勢いの声と物体が俺へとぶち当たる。

「いつつ...」

 気づくと、俺はゴーレムの足元から遠く離れたビルの壁にいた。

「大丈夫?怪我はない?」
「あ、はい。大丈夫ですけど...」

 正直なところ、邪魔をされたことについて色々思うところはあるのだが、ここは彼女にやってもらった方がいいだろう。
 俺を助けてくれた(?)者は俺が知っている人だった。
 またも、俺の前に現れた人物。それは、指輪だった。
 なんで彼女がここにいるんだよ。

「ならよかった。ここは危険よ。早く逃げて」
「でも...」
「安心して、あいつなら、私が倒すわ」
 
 本来なら、専門家が化物を処理するのだが、彼らは未だ到着していない。
 別に、彼らが絶対に化物を処理しなければならない規定はない。なんなら、強いタイトル保持者が倒してくれた方がありがたいと、国が言うほどだ。
 指輪は、ゴーレムを一人で倒す気なのだろう。
 別に俺は、なんの心配もしていない。指輪はBランクくらいを倒すことなど、簡単だろう。

「——<全知全能のなる者>」

 彼女はSランクのタイトル保持者なのだから。
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