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日常の一欠けら
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生きることが辛い——なんてことはく。
「ギャハハ!このバカが!」
「器用貧乏はそこに這いつくばってろ!」
校舎裏に呼び出されたと思ったら、いきなり三人の男子生徒に殴られ始めた。
どうやら俺のことを憂さ晴らしかとかそんなもので、サンドバッグにしているんだろう。
「っん...」
俺は言われた通りその場に這いつくばる。
「そうそう、お前はそうしてればいいんだよ。けっ」
三人の中に、俺をイジメる筆頭角が偉そうにそう吐き捨てる。
俺を這いつくばさせたことで満足したのか、三人はその場から去っていく。
完全に姿が見えなくなった時。
ピコンッ!
『<ガチムードメーカー>のタイトルが渡されます。受け取りますか?』
俺の目の前に、ゲームなどでよくあるステータスウィンドウが現れた。
更に<Yes>か<No>と書かれたタッチボタンも表示される。
もちろん俺は<Yes>を押す。
『<ガチムードメーカー>を保持しました。既存保持タイトルの影響で、<ガチムードメーカー>は<能ある鷹は爪を隠す>に変化します』
「...はは。やっっっっっと手に入れたー!」
俺は蹲った状態から、一気に飛び上がる。
「いやー、今回の条件は結構シビアだったからなー。更にタイトル昇華にも成功したし。良かった良かった」
さっきまで這いつくばって、泣き喚いていた自分が嘘だったかのように、とびきりの笑顔を浮かべる。
実際、嘘だったんだけど。
「俺の勘が確かなら、このタイトルの能力は...。よしっ、やっぱり隠密系の力だな」
俺は早速そのタイトルを使用する。
「これでもう少しマシな日常になるかな」
まさか、この歳にして日常のあれこれを問うとは。
俺、朝比奈 夕人はそんなことは考えながら空を見上げる。
「...ん?」
空を見上げていた途中、遠くにある時計が目に入る。
「やべっ。もうホームルームが始まっちまう」
俺は急いで教室へと駆けていく。
なんとか間に合った俺は、自分の席に着く。
そこで気づく、いつもなら嘲笑が聞こえてくるのだが、今日はその声が聞こえてこない。
これが<能ある鷹は爪を隠す>の力か。これは使えるな。
これで、しばらくは静かに過ごせそうだ。...少し疲れた。
俺は、顔を机に突っ伏し、そのまま目を閉じる。
♢
この世には、「タイトル」と呼ばれる能力が渡されることがある。
人間はそんな世界に適合するために、タイトル保持者にそれぞれランクを課した。
俺はそのランクの中で一番下。Eランクのタイトル保持者とされている。
もちろん、Eランクのタイトル保持者は数億といる人間の中に五万といる。
ただ、その中で俺は一番に目をつけられてしまった。そのせいで、日々イジメられている。
最初はそのことに悔しさや劣等感を感じていたが、俺は俺自身を信じることをできた。
その甲斐あって、今は逆に生きることに必死で、毎日を楽しく過ごせていた。
♢
「んがっ...。う~ん、あれ。俺寝てた?ていうか、今何時だ?」
どうやら、少し休むつもりが、かなりの時間を寝ていたらしい。
気づくと、周りに他の生徒はおらず、ただ夕日が窓から差し込んでいた。
そのまま時計を見ると、すでに全ての授業が終わった後だった。
いつもなら、誰かに殴られたりして起きるんだけど、タイトルを使ったままだったから、誰に何かをされることはなかった。
寝れるのはいいんだけど、これはこれで困るな。この感じだと、先生にも気づいてもらえてないだろうし。
タイトル至上主義であるこの世界では、学校の単位もその多くがタイトルの能力によって反映される。
俺の場合、その分が正当に評価できないため、ちゃんと出席や課題提出をこなさなければならない。
「このタイトルは一旦保留だな。<タイトルウィンドウ>」
俺が<タイトルウィンドウ>と言うと、目の前にタイトルが渡されたときと同じようなウィンドウが出現する。
俺はそのウィンドウが表示する項目の中から<能ある鷹は爪を隠す>を選択し、使用を解除した。
「は~、能力は完璧なんだけど、寝るよりも単位の方が優先だからな」
俺はその場で伸びをしながら、そんなことを一人つぶやく。
その時だった。
「——え?」
「え?」
バッと後ろを振り返ると、そこには一人の生徒がいた。
なんだ、誰もいなかった訳じゃないのか。
「な、なんでそこに。誰もいなかったはずなのに」
「い、いや~」
ごもっともな疑問だ。
だが、そんな質問を答えるよりも優先するべきことがあった。
「えっと。じゃ、じゃあ、俺は何も見てないから。驚かせてすみませんでした!」
「えっ?ちょ、ちょっと待って——」
俺は素早くその場から逃げ出した。
どうしてあんな奴があそこで一人泣いてんだよ!
指輪 月。タイトル保持者の中で一番と言っていいほどの有名人。そんな彼女が一人、教室で泣いてるとか。
巻き込まれたら、俺の生きる道に邪魔が入ること間違いなし!
「絶対にあんなのと関わるもんか!」
♢
「はぁはぁ。ここまで来れば大丈夫だろ...」
別に追いかけられてる訳でもないが、できる限り学校から距離を置くことで、指輪との接触率を下げようという考えだった。
「ふぅ。この辺りに来るのは久しぶりだな~」
気づくと、俺は最近訪れていなかった方へと逃げていたらしい。
この辺りの地区に来るのは幼少期以来だろうか。それほどまでに普段訪れないような場所まで来ていた。
「せっかくだし、ぶらついてみるか」
まだ時刻は五時と六時の間だ。
帰宅したとしても、どうせすることもないんだ。
なら、折角来たこの辺りを見て回るのもいいだろう。
「へー。あんまり変わってないな」
最近はタイトル保持者の育成に力を入れている世界各国。
もちろん、先進国である日本も同じく、保持者への育成を積極的に行っている。
その影響か、昔に比べて、タイトル保持者のレベルが比較的高い。それに伴って国全体の生活水準も高まっている。
東京や横浜、大阪などの大都市は高度発展し、この数十年で見違えるほどの変化が起こっていた。
今俺がいる辺りも、大都市と呼ばれるような場所だが、他の場所に比べれば、まだ昔の名残があると思う。
「なんだか懐かしいな...」
そんな街並みを眺めたことで、幼少期のことを少し思い出す。
自身がまだ天才と呼ばれていた頃。そして、<器用貧乏>のタイトルを貰った頃。
「ふー。帰るか」
別に、過去について何かを感じることはない。
ただ、今の俺には必要のないもの。思い出さなくていいもの。
俺は早く帰ろうと考え、裏道へと横切る。
「ん?」
すると、その先にあるモノがいた。
なぜ、この世でタイトル保持者が強さを求めるのか。
今まで、おとぎ話とされていた力を得ようとすることもあるだろう。魔法を使えるようになるって言われてるんだ。世界中が喉から手を出すほどに欲することだろう。
だが、それよりも大事なことであり、理由は単純明快である。それは、「命」に関わるため。
「グルルルッ」
「...まじかよ」
目の前には、それもまたおとぎ話のような事象の存在がいた。
「化物」。タイトルと時を同じくして現れたとされるモノたち。
どっかのお偉いさんが言ったことらしいが、奴らは違う世界からこちらに来るらしい。
そのため、いつ、どこで、どのように現れるかは計り知ることは難しい。
「だからって、たまたま通りかかった裏道に、さも当然かのようにいられても困るんだが?」
化物は狼のような姿をしており、ゴミ箱の中を漁っていて、こちらにはまだ気づいていない。
もちろん、こういう奴らを討伐するための「専門家」たちがいるため、そちらに連絡し、片づけてもらうのがいいだろう。
その場から一旦離れ、通報しようと考えた。だが、少々遅かった。
「...グゥゥ」
「あ、やべ」
こちらに気づいたようだ。
「はぁ、まったく。<器用貧乏>の俺にどうしてこんなことが」
「グルルル...。——グアッ!!」
「——<炎宮殿の主人>」
バララ——
化物は炭と化し、俺の目の前から消え去った。
「...ははっ。やっぱり俺はこの世界で生きるのが好きなんだろうな」
不適に笑っているだろう自身の顔を想像して、そう思い直す。
「かーえろっと」
少しばかり浮かれ足で帰路に着く。
「ギャハハ!このバカが!」
「器用貧乏はそこに這いつくばってろ!」
校舎裏に呼び出されたと思ったら、いきなり三人の男子生徒に殴られ始めた。
どうやら俺のことを憂さ晴らしかとかそんなもので、サンドバッグにしているんだろう。
「っん...」
俺は言われた通りその場に這いつくばる。
「そうそう、お前はそうしてればいいんだよ。けっ」
三人の中に、俺をイジメる筆頭角が偉そうにそう吐き捨てる。
俺を這いつくばさせたことで満足したのか、三人はその場から去っていく。
完全に姿が見えなくなった時。
ピコンッ!
『<ガチムードメーカー>のタイトルが渡されます。受け取りますか?』
俺の目の前に、ゲームなどでよくあるステータスウィンドウが現れた。
更に<Yes>か<No>と書かれたタッチボタンも表示される。
もちろん俺は<Yes>を押す。
『<ガチムードメーカー>を保持しました。既存保持タイトルの影響で、<ガチムードメーカー>は<能ある鷹は爪を隠す>に変化します』
「...はは。やっっっっっと手に入れたー!」
俺は蹲った状態から、一気に飛び上がる。
「いやー、今回の条件は結構シビアだったからなー。更にタイトル昇華にも成功したし。良かった良かった」
さっきまで這いつくばって、泣き喚いていた自分が嘘だったかのように、とびきりの笑顔を浮かべる。
実際、嘘だったんだけど。
「俺の勘が確かなら、このタイトルの能力は...。よしっ、やっぱり隠密系の力だな」
俺は早速そのタイトルを使用する。
「これでもう少しマシな日常になるかな」
まさか、この歳にして日常のあれこれを問うとは。
俺、朝比奈 夕人はそんなことは考えながら空を見上げる。
「...ん?」
空を見上げていた途中、遠くにある時計が目に入る。
「やべっ。もうホームルームが始まっちまう」
俺は急いで教室へと駆けていく。
なんとか間に合った俺は、自分の席に着く。
そこで気づく、いつもなら嘲笑が聞こえてくるのだが、今日はその声が聞こえてこない。
これが<能ある鷹は爪を隠す>の力か。これは使えるな。
これで、しばらくは静かに過ごせそうだ。...少し疲れた。
俺は、顔を机に突っ伏し、そのまま目を閉じる。
♢
この世には、「タイトル」と呼ばれる能力が渡されることがある。
人間はそんな世界に適合するために、タイトル保持者にそれぞれランクを課した。
俺はそのランクの中で一番下。Eランクのタイトル保持者とされている。
もちろん、Eランクのタイトル保持者は数億といる人間の中に五万といる。
ただ、その中で俺は一番に目をつけられてしまった。そのせいで、日々イジメられている。
最初はそのことに悔しさや劣等感を感じていたが、俺は俺自身を信じることをできた。
その甲斐あって、今は逆に生きることに必死で、毎日を楽しく過ごせていた。
♢
「んがっ...。う~ん、あれ。俺寝てた?ていうか、今何時だ?」
どうやら、少し休むつもりが、かなりの時間を寝ていたらしい。
気づくと、周りに他の生徒はおらず、ただ夕日が窓から差し込んでいた。
そのまま時計を見ると、すでに全ての授業が終わった後だった。
いつもなら、誰かに殴られたりして起きるんだけど、タイトルを使ったままだったから、誰に何かをされることはなかった。
寝れるのはいいんだけど、これはこれで困るな。この感じだと、先生にも気づいてもらえてないだろうし。
タイトル至上主義であるこの世界では、学校の単位もその多くがタイトルの能力によって反映される。
俺の場合、その分が正当に評価できないため、ちゃんと出席や課題提出をこなさなければならない。
「このタイトルは一旦保留だな。<タイトルウィンドウ>」
俺が<タイトルウィンドウ>と言うと、目の前にタイトルが渡されたときと同じようなウィンドウが出現する。
俺はそのウィンドウが表示する項目の中から<能ある鷹は爪を隠す>を選択し、使用を解除した。
「は~、能力は完璧なんだけど、寝るよりも単位の方が優先だからな」
俺はその場で伸びをしながら、そんなことを一人つぶやく。
その時だった。
「——え?」
「え?」
バッと後ろを振り返ると、そこには一人の生徒がいた。
なんだ、誰もいなかった訳じゃないのか。
「な、なんでそこに。誰もいなかったはずなのに」
「い、いや~」
ごもっともな疑問だ。
だが、そんな質問を答えるよりも優先するべきことがあった。
「えっと。じゃ、じゃあ、俺は何も見てないから。驚かせてすみませんでした!」
「えっ?ちょ、ちょっと待って——」
俺は素早くその場から逃げ出した。
どうしてあんな奴があそこで一人泣いてんだよ!
指輪 月。タイトル保持者の中で一番と言っていいほどの有名人。そんな彼女が一人、教室で泣いてるとか。
巻き込まれたら、俺の生きる道に邪魔が入ること間違いなし!
「絶対にあんなのと関わるもんか!」
♢
「はぁはぁ。ここまで来れば大丈夫だろ...」
別に追いかけられてる訳でもないが、できる限り学校から距離を置くことで、指輪との接触率を下げようという考えだった。
「ふぅ。この辺りに来るのは久しぶりだな~」
気づくと、俺は最近訪れていなかった方へと逃げていたらしい。
この辺りの地区に来るのは幼少期以来だろうか。それほどまでに普段訪れないような場所まで来ていた。
「せっかくだし、ぶらついてみるか」
まだ時刻は五時と六時の間だ。
帰宅したとしても、どうせすることもないんだ。
なら、折角来たこの辺りを見て回るのもいいだろう。
「へー。あんまり変わってないな」
最近はタイトル保持者の育成に力を入れている世界各国。
もちろん、先進国である日本も同じく、保持者への育成を積極的に行っている。
その影響か、昔に比べて、タイトル保持者のレベルが比較的高い。それに伴って国全体の生活水準も高まっている。
東京や横浜、大阪などの大都市は高度発展し、この数十年で見違えるほどの変化が起こっていた。
今俺がいる辺りも、大都市と呼ばれるような場所だが、他の場所に比べれば、まだ昔の名残があると思う。
「なんだか懐かしいな...」
そんな街並みを眺めたことで、幼少期のことを少し思い出す。
自身がまだ天才と呼ばれていた頃。そして、<器用貧乏>のタイトルを貰った頃。
「ふー。帰るか」
別に、過去について何かを感じることはない。
ただ、今の俺には必要のないもの。思い出さなくていいもの。
俺は早く帰ろうと考え、裏道へと横切る。
「ん?」
すると、その先にあるモノがいた。
なぜ、この世でタイトル保持者が強さを求めるのか。
今まで、おとぎ話とされていた力を得ようとすることもあるだろう。魔法を使えるようになるって言われてるんだ。世界中が喉から手を出すほどに欲することだろう。
だが、それよりも大事なことであり、理由は単純明快である。それは、「命」に関わるため。
「グルルルッ」
「...まじかよ」
目の前には、それもまたおとぎ話のような事象の存在がいた。
「化物」。タイトルと時を同じくして現れたとされるモノたち。
どっかのお偉いさんが言ったことらしいが、奴らは違う世界からこちらに来るらしい。
そのため、いつ、どこで、どのように現れるかは計り知ることは難しい。
「だからって、たまたま通りかかった裏道に、さも当然かのようにいられても困るんだが?」
化物は狼のような姿をしており、ゴミ箱の中を漁っていて、こちらにはまだ気づいていない。
もちろん、こういう奴らを討伐するための「専門家」たちがいるため、そちらに連絡し、片づけてもらうのがいいだろう。
その場から一旦離れ、通報しようと考えた。だが、少々遅かった。
「...グゥゥ」
「あ、やべ」
こちらに気づいたようだ。
「はぁ、まったく。<器用貧乏>の俺にどうしてこんなことが」
「グルルル...。——グアッ!!」
「——<炎宮殿の主人>」
バララ——
化物は炭と化し、俺の目の前から消え去った。
「...ははっ。やっぱり俺はこの世界で生きるのが好きなんだろうな」
不適に笑っているだろう自身の顔を想像して、そう思い直す。
「かーえろっと」
少しばかり浮かれ足で帰路に着く。
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