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第一章 二人の魔術師
1-3-1 化物狩の朝
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午後七時。
「ん、んっ」
「お、ようやく起きたか」
「...おはよう」
俺が身支度を整えていると、ソファで寝ていたユイが目を覚ます。
「...私、寝てた?」
「あぁ。疲れが溜まっていたんだろう。俺はこの後外に出るけど、ユイはここで待ってるんだよ」
「...」
ユイは何も言わずにエリスの方を見る。
「大丈夫。彼女は仲間だ。信頼できるかは別だが、ユイに危害は加えられないから安心して」
「...分かった」
自分一人でエリスと残るのが心配だったのだろう。
ユイは”あの話”を聞いていない。だから、エリスがどういった人物なのかを知らない。
「それじゃあ、ユイのことを頼むぞ」
「えぇ、任せて」
俺がエリスに念を押しておく。
「行ってくるな。ユイ」
「...うん」
俺はユイの顔を後にし、化物狩のギルドへと向かう。
♢
俺がギルドに着くと、『やはり』といった感じだった。
俺とユイがグラネスからグリーンコーストまでに一週間かけて移動した。
その間に、グリーンコーストにいるギルド職員はグラネスへ往復で一週間かけて移動していた。
そのため、すでにグラネス崩壊についてギルドの中で大騒ぎになっていた。
(とはいえ、あの場所にはもう誰一人としていいなかったから、どうなっていたのかの様子程度しか情報は回っていないだろうな)
もう何日かすれば、ラヴィたちが逃げた西の方からこちらに生存情報が流れてくるだろうと考える。
ラヴィたちと一緒に逃げた人たち以外にも北、東、南に逃げた人もいるとは思うが、あの量の化物だ。生きていられるとは思えない。
とりあえず今は面倒事は避けたいため、何知らぬ顔でギルドの受付まで行く。
「この騒ぎは一体何なのですか?」
「あれ、まだお知りになっておりませんか?先ほど、グラネスが崩壊したという報せが入ったんです」
「あのグラネスがですか?それは信じられませんね」
(信じるも何もそこの生存者だけどね)
「まだ正確な調べはされていませんが、どうやら化物によって起こされたようで」
「そんなに強力な化物が現れたんですか?」
「いえ、こちらの推測としては力よりも数が凄まじかったと考えているようですね」
「大量の化物による襲撃ですか」
「なので、こちらのギルドも警戒態勢に移ろうと化物狩の方たちに召集がかかったんです」
「なるほど。それでこの騒ぎなんですね」
「なにせ、グラネスでの生存者は一人として確認がとれていません。情報が少なすぎるんです」
大体の把握はできた。
やはり、生存者はまだ確認されていないのか。
「あの、あなたも化物狩の方ですよね。できれば、協力していただくとギルドとしてもありがたいのですが」
「えぇ、もちろん。ぜひ協力させてください」
またいつああいった異常事態が起こるのか分からないが、またすぐに何か起こる予感がする。
その時に何かできるように準備を整えないとな。
「ありがとうございます!私、このギルドで受付をしています。クリスといいます。よろしくお願いします」
「俺はテスタです。最近この都市に来たばかりなので、なにかとよろしくお願いします」
軽い挨拶を済まし、俺はギルドから出る。
(今のところ想定通りだな。なら、森の方はどうなっているか確認するか)
グラネスと同じようなことが起こる可能性は十分にある。
ならば、次は同じようにはさせない。
俺はグリーンコースト北東にある森までやってくる。
この森はグラネス東にある森と全く同じ森である。
グラネスからグリーンコーストまではこの森がひたすらに横に続いている。
「あの日の化物たちがこの森から出てきたのなら、どっちにしたって行くしかないよな。どうしてあんなことが起きたのか調べるために」
どうして化物たちが大量に集まり、グラネスを襲撃したのか。
その答えはエリスに聞かせてもらった。
しかし、どうしても俺はその答えをいまだ信じれずにいた。
だから、自分の目で真相を確かめる。
(だいぶ密集しているな)
森の中へ入ってみると、木々が生い茂り、人が通れるような道は一切なかった。
だが、今の俺では軽々とその中を通り抜くことができた。
「それにしても驚いた。あんなに感覚的だった魔術の使用がここまで緻密に制御できるようになるなんて」
俺がずっと手を焼いていた魔術の使用が一時的にではあるが、手になじむように扱える。
それもこれも、エリスが渡した魔導具によるものだった。
『この腕飾り、実は私が作った魔導具でね。魔術の制御を補助してくれる。本来なら未熟な子供が使うものだけど。”今”の君には必要だろうからね』
確かに、化物と戦ったあの時は使えたが、その後あまりうまく扱えていない。
少々挑発じみた言葉ではあったが、エリスの言ったことは正しい。
おかげで俺は”reinforcement”の魔術を駆使し、森の中を颯爽と駆け抜けていく。
「”search”」
俺は探知の魔術を使って辺りに異変がないかを確認する。
気づくと俺は、森の奥深くまで入り込んでいた。
ここまで森の中に入るのは一人では初めてだった。
いつもならラヴィたちと一緒に化物を狩りに入っていたが、生憎と今はいない。
「魔術が使えるといっても、危険なことに変わりはないからな」
俺は魔術を使い、警戒しながら進む。
そして俺はある疑問を持つ。
「ここまで来たのに化物どころか、動物が一匹もいないのは不自然だな」
嵐の前の静けさ。そんな不気味な感覚に陥る。
「これは、本格的に何か起こる気がしてきたな」
俺はそれまでの勘が確かなものだったと考え、より森の奥へと入る。
そうして、俺は大樹海の中でようやくあるものを見つけた。
「化物...」
森の中に一部分だけ、円形に開けた場所が存在していた。
ただ、その場所は大量の化物によって覆いつくされたいた。
「グラネスの時と同じか...」
俺は声を下げて、一人言を漏らす。
化物たちはグラネスの時と同様に大群を成していた。
「このままではグリーンコーストも崩壊させられてしまうかもしれない...」
俺の目にはあの日の光景がフラッシュバックしていた。
大量の化物による都市襲撃。
「やはりエリスが言っていたことは本当なのか...?」
大量の化物が集まり、都市を襲撃する。
まるで何かに統率されているかのように。
「今はそんなことを考えている場合じゃないな。今の俺にならできるはずだ」
グリーンコーストが襲われる前に、今ここで俺が化物を討伐する。
そうすれば、今度は皆を助けられる。
「”ice”、”fire”」
俺は茂みから飛び出し、身体強化がかかった足で思い切り飛び上がる。
そして空高くから化物たちの中心に氷と炎の魔術を打ち込む。
「”fly”」
飛行の魔術を使用し、そのまま空中に留まる。
「”sword”」
俺は自身の手中に銀と銅の剣を両手に持つ。
「”enchant”」
すると、銀と銅の剣にそれぞれ氷と炎を纏わせる。
そしてようやく、化物たちはどこから攻撃されたのか気づき、俺目掛けて攻撃をしてくる。
(最初の攻撃でやれたのは四体くらいか。これは骨が折れるな)
まだ目先だけでも軽く百は超える化物の軍勢に頭を痛められる。
俺は化物たちの攻撃をかわしながら、こちらからも攻撃を与える。
「ペース上げるか。”speed”」
加速し、より早く飛び、より早く攻撃をする。
そうして一時間ほどが経った。
「くそっ。全然終わりが見えない」
グラネスの時は俺以外にもラヴィたちや他の化物狩がいて、戦っていた。
その分俺が最後に相手した数より多いのは覚悟していたが、あの時よりも遥かに数が多い。
開けたこの場所にいる化物を倒したと思ったら次々と森の奥から化物が現れてくる。
「元凶を絶たないと駄目か」
こうして化物が増え続けるには何か理由があるはずだ。
「よし、なら次はこれを試してみるか。”pure sun”」
俺は手に金の水晶を手にする。
「ん、んっ」
「お、ようやく起きたか」
「...おはよう」
俺が身支度を整えていると、ソファで寝ていたユイが目を覚ます。
「...私、寝てた?」
「あぁ。疲れが溜まっていたんだろう。俺はこの後外に出るけど、ユイはここで待ってるんだよ」
「...」
ユイは何も言わずにエリスの方を見る。
「大丈夫。彼女は仲間だ。信頼できるかは別だが、ユイに危害は加えられないから安心して」
「...分かった」
自分一人でエリスと残るのが心配だったのだろう。
ユイは”あの話”を聞いていない。だから、エリスがどういった人物なのかを知らない。
「それじゃあ、ユイのことを頼むぞ」
「えぇ、任せて」
俺がエリスに念を押しておく。
「行ってくるな。ユイ」
「...うん」
俺はユイの顔を後にし、化物狩のギルドへと向かう。
♢
俺がギルドに着くと、『やはり』といった感じだった。
俺とユイがグラネスからグリーンコーストまでに一週間かけて移動した。
その間に、グリーンコーストにいるギルド職員はグラネスへ往復で一週間かけて移動していた。
そのため、すでにグラネス崩壊についてギルドの中で大騒ぎになっていた。
(とはいえ、あの場所にはもう誰一人としていいなかったから、どうなっていたのかの様子程度しか情報は回っていないだろうな)
もう何日かすれば、ラヴィたちが逃げた西の方からこちらに生存情報が流れてくるだろうと考える。
ラヴィたちと一緒に逃げた人たち以外にも北、東、南に逃げた人もいるとは思うが、あの量の化物だ。生きていられるとは思えない。
とりあえず今は面倒事は避けたいため、何知らぬ顔でギルドの受付まで行く。
「この騒ぎは一体何なのですか?」
「あれ、まだお知りになっておりませんか?先ほど、グラネスが崩壊したという報せが入ったんです」
「あのグラネスがですか?それは信じられませんね」
(信じるも何もそこの生存者だけどね)
「まだ正確な調べはされていませんが、どうやら化物によって起こされたようで」
「そんなに強力な化物が現れたんですか?」
「いえ、こちらの推測としては力よりも数が凄まじかったと考えているようですね」
「大量の化物による襲撃ですか」
「なので、こちらのギルドも警戒態勢に移ろうと化物狩の方たちに召集がかかったんです」
「なるほど。それでこの騒ぎなんですね」
「なにせ、グラネスでの生存者は一人として確認がとれていません。情報が少なすぎるんです」
大体の把握はできた。
やはり、生存者はまだ確認されていないのか。
「あの、あなたも化物狩の方ですよね。できれば、協力していただくとギルドとしてもありがたいのですが」
「えぇ、もちろん。ぜひ協力させてください」
またいつああいった異常事態が起こるのか分からないが、またすぐに何か起こる予感がする。
その時に何かできるように準備を整えないとな。
「ありがとうございます!私、このギルドで受付をしています。クリスといいます。よろしくお願いします」
「俺はテスタです。最近この都市に来たばかりなので、なにかとよろしくお願いします」
軽い挨拶を済まし、俺はギルドから出る。
(今のところ想定通りだな。なら、森の方はどうなっているか確認するか)
グラネスと同じようなことが起こる可能性は十分にある。
ならば、次は同じようにはさせない。
俺はグリーンコースト北東にある森までやってくる。
この森はグラネス東にある森と全く同じ森である。
グラネスからグリーンコーストまではこの森がひたすらに横に続いている。
「あの日の化物たちがこの森から出てきたのなら、どっちにしたって行くしかないよな。どうしてあんなことが起きたのか調べるために」
どうして化物たちが大量に集まり、グラネスを襲撃したのか。
その答えはエリスに聞かせてもらった。
しかし、どうしても俺はその答えをいまだ信じれずにいた。
だから、自分の目で真相を確かめる。
(だいぶ密集しているな)
森の中へ入ってみると、木々が生い茂り、人が通れるような道は一切なかった。
だが、今の俺では軽々とその中を通り抜くことができた。
「それにしても驚いた。あんなに感覚的だった魔術の使用がここまで緻密に制御できるようになるなんて」
俺がずっと手を焼いていた魔術の使用が一時的にではあるが、手になじむように扱える。
それもこれも、エリスが渡した魔導具によるものだった。
『この腕飾り、実は私が作った魔導具でね。魔術の制御を補助してくれる。本来なら未熟な子供が使うものだけど。”今”の君には必要だろうからね』
確かに、化物と戦ったあの時は使えたが、その後あまりうまく扱えていない。
少々挑発じみた言葉ではあったが、エリスの言ったことは正しい。
おかげで俺は”reinforcement”の魔術を駆使し、森の中を颯爽と駆け抜けていく。
「”search”」
俺は探知の魔術を使って辺りに異変がないかを確認する。
気づくと俺は、森の奥深くまで入り込んでいた。
ここまで森の中に入るのは一人では初めてだった。
いつもならラヴィたちと一緒に化物を狩りに入っていたが、生憎と今はいない。
「魔術が使えるといっても、危険なことに変わりはないからな」
俺は魔術を使い、警戒しながら進む。
そして俺はある疑問を持つ。
「ここまで来たのに化物どころか、動物が一匹もいないのは不自然だな」
嵐の前の静けさ。そんな不気味な感覚に陥る。
「これは、本格的に何か起こる気がしてきたな」
俺はそれまでの勘が確かなものだったと考え、より森の奥へと入る。
そうして、俺は大樹海の中でようやくあるものを見つけた。
「化物...」
森の中に一部分だけ、円形に開けた場所が存在していた。
ただ、その場所は大量の化物によって覆いつくされたいた。
「グラネスの時と同じか...」
俺は声を下げて、一人言を漏らす。
化物たちはグラネスの時と同様に大群を成していた。
「このままではグリーンコーストも崩壊させられてしまうかもしれない...」
俺の目にはあの日の光景がフラッシュバックしていた。
大量の化物による都市襲撃。
「やはりエリスが言っていたことは本当なのか...?」
大量の化物が集まり、都市を襲撃する。
まるで何かに統率されているかのように。
「今はそんなことを考えている場合じゃないな。今の俺にならできるはずだ」
グリーンコーストが襲われる前に、今ここで俺が化物を討伐する。
そうすれば、今度は皆を助けられる。
「”ice”、”fire”」
俺は茂みから飛び出し、身体強化がかかった足で思い切り飛び上がる。
そして空高くから化物たちの中心に氷と炎の魔術を打ち込む。
「”fly”」
飛行の魔術を使用し、そのまま空中に留まる。
「”sword”」
俺は自身の手中に銀と銅の剣を両手に持つ。
「”enchant”」
すると、銀と銅の剣にそれぞれ氷と炎を纏わせる。
そしてようやく、化物たちはどこから攻撃されたのか気づき、俺目掛けて攻撃をしてくる。
(最初の攻撃でやれたのは四体くらいか。これは骨が折れるな)
まだ目先だけでも軽く百は超える化物の軍勢に頭を痛められる。
俺は化物たちの攻撃をかわしながら、こちらからも攻撃を与える。
「ペース上げるか。”speed”」
加速し、より早く飛び、より早く攻撃をする。
そうして一時間ほどが経った。
「くそっ。全然終わりが見えない」
グラネスの時は俺以外にもラヴィたちや他の化物狩がいて、戦っていた。
その分俺が最後に相手した数より多いのは覚悟していたが、あの時よりも遥かに数が多い。
開けたこの場所にいる化物を倒したと思ったら次々と森の奥から化物が現れてくる。
「元凶を絶たないと駄目か」
こうして化物が増え続けるには何か理由があるはずだ。
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