5 / 9
第一章 二人の魔術師
1-2-1 元魔術師
しおりを挟む
長い夜の戦いが終わった。
グラネスは半壊状態。建物も人も多くを失った。
「ちゃんと俺の言いつけ通り逃げたみたいだな」
俺はグラネスの西にある港にいた。
港には船が一隻も残っておらず、街の全員がここから逃げたことが分かる。
街の中は静寂に包まれていた。
昨夜の騒動で動物や虫が一匹も存在していなかった。
グラネスは中央都市だが、そこまで大きい訳ではない。
すぐ隣に森と海が広がっている田舎だ。
更にこの国の王が住む居城は北の都市にあり、南にある都市の方がアクセスしやすいためにそちらの方が盛んである。
そもそも、国がかなり東に存在するため発展国家という訳でもない。
「まぁ、とりあえずは今後どうするのか考えよう。...の前に、朝飯からだな」
今回の騒動でこの街に残っているのは俺ともう一人。
まだ名も知らぬ可愛らしい少女との二人だけである。
「朝飯は何が食べたい?」
「...パン」
「パンか。どっかに残ってりゃいいけど...。とりあえず探すか」
俺は瓦礫まみれになった街を見て、気が遠くなりそうになりながら、パンを求めて歩き出す。
(そういえば、あの光る女は何だったんだ。俺の幻か?)
あの戦いの後、彼女はまた消えてしまい、声も聞こえない。
あれは俺の妄想だったのかと疑ってしまう。
「”fire"」
しかし、それは俺の手から出る炎によって現実だと教えられる。
この力は彼女が俺の頭に数式を流したことで使えるようになった。
(魔術。聞いたことがないな。おとぎ話に出てくるのは魔法だし。それに、なんで俺はこの力の使い方が分かってる?)
まったく知らない知識であるのに、なぜだか体は思うように動く。
「あっ。そうだ!これなら...」
俺は目を閉じ、周囲へ感覚を巡らす。
「”search”」
俺は周囲への感知能力が高まり、第三者の視点で辺りを見渡す。
そこら中が酷い状態だ。
しかも化物たちが通ったせいで、生気がめちゃくちゃにされている。
そしてその中で俺は見つけた。
「あった!」
俺は魔術で目的の物を探し当てると、その場所へ向かってみる。
そして、たどり着いた場所はまだ壊れずになんとか建っている宿だった。
中に入り、厨房を探してみると...。
「おっ。本当にあったぞ。まだ全然食えるパン」
他にも色々食料は残っていたため、これで何日かは耐えることができる。
なんとか食事がとれるようにテーブルとイスを用意し、パンや目玉焼きにソーセージが本日の朝飯となった。
「いただきます」
「...いただき、ます」
少女は少しずつだが、パンをつまんでは口に入れていた。
あんなことがあったんだ。まだまだ小さい子供には大変だったろう。
「自己紹介がまだだったね。俺の名前はテスタ。君の名前はなんて言うんだい?」
「...ユイ」
「そうか、ユイちゃんね」
この街に結構いるが、俺の知らない名前だ。
「...お兄ちゃんのことは知ってる」
「えっ」
「最強のパーティにいた人でしょ?」
「あ、あぁ。そうだね」
(まさか俺のことを知ってたなんて。パーティのみんななら認知度は高いけど、俺のことを覚えていたとは)
俺は少し嬉しかった。
「そういえば、ユイちゃんのお父さんやお母さんはどうしたの?」
「...」
(あれ?返事が返ってこない)
こんな状況で聞いちゃまずかったかと、おそるおそるユイちゃんの顔を覗く。
「...すぅ。...すぅ」
「...寝ちゃったか」
昨夜のあの後、俺たちは休憩がとれていない。
化物を全部倒したとはいえ、まだ他にいるかもしれないため、俺は夜通し警戒を続けた。
ユイちゃんは恐怖からか震えていたため、碌に休めていなかったのだろう。
俺はユイちゃんを抱き上げ、宿のベッドに寝かせてあげた。
その隣にあった椅子に腰かけ、一息つく。
(まさかあの俺が人を助けられたなんて)
家族を失った時、俺は何もできなかった。
仲間のために戦おうとした時も、俺は挫けてしまった。
それでも、この少女を守れたことが俺にとってはかけがえのない奇跡だった。
「”fire”」
俺はその奇跡がなんなのか確認するために、もう一度魔術を使う。
(不思議な点は三つ)
一つはこの魔術という力が一体なんなのか。
二つ目は俺がこの力の使い方を知っていること。
「そして三つ目は金と銀と銅の武器が俺の体に融合したこと」
あの女にこの力をもらった際、手に持っていた武器がその場から消えた。
いや、正しくは俺の体の中へ入っていった。
「金剣。銀槍。銅斧」
カランッ
俺がその武器たちを呼ぶと、それらは実体を持ってどこからともなく目の前に出現した。
「...まったく、意味が分からねぇよ」
観察力には自信があったが、俺はさっぱりだった。
♢
テスタが一休みしている頃。
場所は都市グラネスから西の方向。
リサラ西部に存在する大陸。その小さな港町。
「これで全員です」
「今回はありがとうございます。突然の訪問であり、避難民を受け入れていただきまして」
「いえ、三種族の英雄様と聖女様の頼みでしたらなんなりとお申し付けください。では、私はこの辺で」
ここにはグラネスから船で逃げてきた民とラヴィアナたちパーティがいた。
「いい加減オレたちも休むとしようぜ。ラヴィアナとアリアはもう限界だろ」
「そうですね。避難も完了しましたしね」
「...」
「おい、ラヴィアナよ。お主大丈夫か?」
「...やっぱり、あの時私たちも残るべきだったかしら?」
その言葉に他の三人が黙る。
そんな空気を破ったのはカルドスだった。
「ラヴィアナ。今後そのことを考えるな。もう過ぎたことだ」
「でも!忘れられないの。テスタの後ろ姿が。頭の中でずっと」
「...それはオレも一緒だ。だけどな、考えることと忘れることは全く違う」
カルドスはいつもとは打って変わって真剣に話す。
「あの時のことは忘れるな。この先、あんなことは二度と起きないように教訓として。ただし考えるな。今考えたところで後悔しか答えは出ねぇだろ。なら、考えるのはまだ先だ。今はとりあえず必死に生きろ。心が死んじまったら、この先苦しいだけだぞ」
カルドスの言葉にみんなが聞き入る。
「まったく。一番年上のわしが恥ずかしくなるわい。こんな坊主に説教されるとはのう」
「坊主言うな。まったく。爺さんまでうじうじしちまいやがってよう」
「...そうですね。カルドスさんの言う通りですね。今は何よりも生きることをしましょう」
「ありがとう。あなたのお陰で気持ちが楽になったわ...。それにしても、あなたあんな風に喋ることもできたのね」
「あぁ?どういう意味だこらぁ!」
ラヴィアナたちパーティはいつも通りとは完璧に言えなくとも、前に進む決心をすることができた。
「ならまずは武器を手に入れなくちゃね。逃げる際に手放してきちゃったから」
「なら、わしがいいところを知っておる。ちょうどこの先、西へ行くと帝国がある」
「なるほどな。確かにあそこだったらいい武器がゲットできそうだな」
帝国インフェリオ。通称軍事国家と呼ばれるその国にはありとあらゆる武力が集まっている。
武器を入手する場所としては打ってつけである。
「では行きましょう。インフェリオへ」
グラネスは半壊状態。建物も人も多くを失った。
「ちゃんと俺の言いつけ通り逃げたみたいだな」
俺はグラネスの西にある港にいた。
港には船が一隻も残っておらず、街の全員がここから逃げたことが分かる。
街の中は静寂に包まれていた。
昨夜の騒動で動物や虫が一匹も存在していなかった。
グラネスは中央都市だが、そこまで大きい訳ではない。
すぐ隣に森と海が広がっている田舎だ。
更にこの国の王が住む居城は北の都市にあり、南にある都市の方がアクセスしやすいためにそちらの方が盛んである。
そもそも、国がかなり東に存在するため発展国家という訳でもない。
「まぁ、とりあえずは今後どうするのか考えよう。...の前に、朝飯からだな」
今回の騒動でこの街に残っているのは俺ともう一人。
まだ名も知らぬ可愛らしい少女との二人だけである。
「朝飯は何が食べたい?」
「...パン」
「パンか。どっかに残ってりゃいいけど...。とりあえず探すか」
俺は瓦礫まみれになった街を見て、気が遠くなりそうになりながら、パンを求めて歩き出す。
(そういえば、あの光る女は何だったんだ。俺の幻か?)
あの戦いの後、彼女はまた消えてしまい、声も聞こえない。
あれは俺の妄想だったのかと疑ってしまう。
「”fire"」
しかし、それは俺の手から出る炎によって現実だと教えられる。
この力は彼女が俺の頭に数式を流したことで使えるようになった。
(魔術。聞いたことがないな。おとぎ話に出てくるのは魔法だし。それに、なんで俺はこの力の使い方が分かってる?)
まったく知らない知識であるのに、なぜだか体は思うように動く。
「あっ。そうだ!これなら...」
俺は目を閉じ、周囲へ感覚を巡らす。
「”search”」
俺は周囲への感知能力が高まり、第三者の視点で辺りを見渡す。
そこら中が酷い状態だ。
しかも化物たちが通ったせいで、生気がめちゃくちゃにされている。
そしてその中で俺は見つけた。
「あった!」
俺は魔術で目的の物を探し当てると、その場所へ向かってみる。
そして、たどり着いた場所はまだ壊れずになんとか建っている宿だった。
中に入り、厨房を探してみると...。
「おっ。本当にあったぞ。まだ全然食えるパン」
他にも色々食料は残っていたため、これで何日かは耐えることができる。
なんとか食事がとれるようにテーブルとイスを用意し、パンや目玉焼きにソーセージが本日の朝飯となった。
「いただきます」
「...いただき、ます」
少女は少しずつだが、パンをつまんでは口に入れていた。
あんなことがあったんだ。まだまだ小さい子供には大変だったろう。
「自己紹介がまだだったね。俺の名前はテスタ。君の名前はなんて言うんだい?」
「...ユイ」
「そうか、ユイちゃんね」
この街に結構いるが、俺の知らない名前だ。
「...お兄ちゃんのことは知ってる」
「えっ」
「最強のパーティにいた人でしょ?」
「あ、あぁ。そうだね」
(まさか俺のことを知ってたなんて。パーティのみんななら認知度は高いけど、俺のことを覚えていたとは)
俺は少し嬉しかった。
「そういえば、ユイちゃんのお父さんやお母さんはどうしたの?」
「...」
(あれ?返事が返ってこない)
こんな状況で聞いちゃまずかったかと、おそるおそるユイちゃんの顔を覗く。
「...すぅ。...すぅ」
「...寝ちゃったか」
昨夜のあの後、俺たちは休憩がとれていない。
化物を全部倒したとはいえ、まだ他にいるかもしれないため、俺は夜通し警戒を続けた。
ユイちゃんは恐怖からか震えていたため、碌に休めていなかったのだろう。
俺はユイちゃんを抱き上げ、宿のベッドに寝かせてあげた。
その隣にあった椅子に腰かけ、一息つく。
(まさかあの俺が人を助けられたなんて)
家族を失った時、俺は何もできなかった。
仲間のために戦おうとした時も、俺は挫けてしまった。
それでも、この少女を守れたことが俺にとってはかけがえのない奇跡だった。
「”fire”」
俺はその奇跡がなんなのか確認するために、もう一度魔術を使う。
(不思議な点は三つ)
一つはこの魔術という力が一体なんなのか。
二つ目は俺がこの力の使い方を知っていること。
「そして三つ目は金と銀と銅の武器が俺の体に融合したこと」
あの女にこの力をもらった際、手に持っていた武器がその場から消えた。
いや、正しくは俺の体の中へ入っていった。
「金剣。銀槍。銅斧」
カランッ
俺がその武器たちを呼ぶと、それらは実体を持ってどこからともなく目の前に出現した。
「...まったく、意味が分からねぇよ」
観察力には自信があったが、俺はさっぱりだった。
♢
テスタが一休みしている頃。
場所は都市グラネスから西の方向。
リサラ西部に存在する大陸。その小さな港町。
「これで全員です」
「今回はありがとうございます。突然の訪問であり、避難民を受け入れていただきまして」
「いえ、三種族の英雄様と聖女様の頼みでしたらなんなりとお申し付けください。では、私はこの辺で」
ここにはグラネスから船で逃げてきた民とラヴィアナたちパーティがいた。
「いい加減オレたちも休むとしようぜ。ラヴィアナとアリアはもう限界だろ」
「そうですね。避難も完了しましたしね」
「...」
「おい、ラヴィアナよ。お主大丈夫か?」
「...やっぱり、あの時私たちも残るべきだったかしら?」
その言葉に他の三人が黙る。
そんな空気を破ったのはカルドスだった。
「ラヴィアナ。今後そのことを考えるな。もう過ぎたことだ」
「でも!忘れられないの。テスタの後ろ姿が。頭の中でずっと」
「...それはオレも一緒だ。だけどな、考えることと忘れることは全く違う」
カルドスはいつもとは打って変わって真剣に話す。
「あの時のことは忘れるな。この先、あんなことは二度と起きないように教訓として。ただし考えるな。今考えたところで後悔しか答えは出ねぇだろ。なら、考えるのはまだ先だ。今はとりあえず必死に生きろ。心が死んじまったら、この先苦しいだけだぞ」
カルドスの言葉にみんなが聞き入る。
「まったく。一番年上のわしが恥ずかしくなるわい。こんな坊主に説教されるとはのう」
「坊主言うな。まったく。爺さんまでうじうじしちまいやがってよう」
「...そうですね。カルドスさんの言う通りですね。今は何よりも生きることをしましょう」
「ありがとう。あなたのお陰で気持ちが楽になったわ...。それにしても、あなたあんな風に喋ることもできたのね」
「あぁ?どういう意味だこらぁ!」
ラヴィアナたちパーティはいつも通りとは完璧に言えなくとも、前に進む決心をすることができた。
「ならまずは武器を手に入れなくちゃね。逃げる際に手放してきちゃったから」
「なら、わしがいいところを知っておる。ちょうどこの先、西へ行くと帝国がある」
「なるほどな。確かにあそこだったらいい武器がゲットできそうだな」
帝国インフェリオ。通称軍事国家と呼ばれるその国にはありとあらゆる武力が集まっている。
武器を入手する場所としては打ってつけである。
「では行きましょう。インフェリオへ」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
因果応報以上の罰を
下菊みこと
ファンタジー
ざまぁというか行き過ぎた報復があります、ご注意下さい。
どこを取っても救いのない話。
ご都合主義の…バッドエンド?ビターエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる