罪の花と運命の糸

文字の大きさ
上 下
39 / 39

説教と説明

しおりを挟む
 この部屋に一つしかない扉から、五人の人物が入ってきた。
 先月起きた魔界での戦争。その貢献者たちだ。
 氷を操る剣術士、氷室ひむろ 七星ななせ
 火を操る弓術士、緋瑠ひりゅう 紅璃あかり
 情報を操る鏡術士、越智おち 鏡月みつき
 土を操る銃術士、木茎きくき 悠莉ゆうり
 そして、生力を操る刀術士、開花ひらばな 透禍とうか
 霊界が今も存在し続けることができたのは、彼女らがいたお陰だろう。
 今回の戦争を生き残っていなければ、世界が一つ消えたかと思うと、ゾッとする。

「こんなところに呼び出して、一体なんのつもり?」

 やはりというべきか。
 一ヶ月放置され、わざわざこんなところまで来たのだ。透禍がキレていてもなんらおかしくはない。
 ここは、透禍たちと何回か訪れ、使用した秘匿訓練場と同じように軍に管理され、秘密にされている場所。

「まさか、軍の基地の更に下にこんな場所があったなんて」
「私たち軍の者でもここの存在を知っているのは極わずかなの」

 紅璃の感想に、鏡月が説明を加える。

「で、ここはどんな場所なの?」
「それでもって、どうしてそんな場所にあなたがいるの?」

 七星と透禍が俺に向かって質問を投げかけてくる。

「そうだな、そういったこと全てを答えるためにわざわざ呼んだんだ。まぁ、まずはちゃんとした自己紹介からしようか。日本危機対策対抗自治自衛隊直属の諜報と安全保障を担う、工作員。通称、軍影掃ぐんえいそうの総責任者、夜桜 幸糸だ。改めて、よろしく頼む」
「...」
「軍えい、そう?」
「えっと、初めて聞く部隊名だけど...」
「う、うそ...」
「ちなみにいうと、本当だよ」

 何も知らない紅璃と七星は頭の上に”?”が浮かんでいる。
 一方、すでに軍に配属している透禍はこの名前に覚えがあるらしい。というか、否定しようとする。しかし、鏡月の言葉によって、その願いは打ち砕かれてしまうこととなる。

「あの、軍影掃って何なんですか?」

 七星が聞いてきた。

「それは、悠莉に任せようか」
「はい、分かりました」
「なんか悠莉ちゃんいつもと雰囲気が違う、かも?」

 悠莉は簡単にこの部隊の説明を七星と紅璃に教えていた。
 この部隊は、軍が表立って動けない案件や、公式部隊では解決できない案件などといった雑務を任される部隊。
 まさに、軍の掃除屋だ。軍影掃は軍の中でも極一部の人間しか存在を知らないため、ちょっとした噂がある程度。
 透禍が驚いていたのはそういうことの影響だろう。

「驚くのも無理はない。ここは特別、機密性が高いから...」
「違うわよ」
「え?」
「私が驚いているのはここの存在じゃなくて、どうしてあなたがここの責任者なわけ!?」
「えっと」
「さも当然かのように振る舞って。あなた、覚悟しなさい?」
「...」

 あれ、また俺死ぬのか?
 なんだろう、殺気がすごい。

「まぁまぁ、一つずつ答えていくからちょっと待って」
「そうやってまたはぐらかそうとしてないでしょうね?」
「大丈夫だって、少しは信頼してほしいな」
「信用を失わせてるあなたが悪いのよ?」
「...はい」

 そんな言い合いというか、文句というか、説教というか、なんというか...。
 ちょっと長い時間続き、ようやくひと段落した。

「本当にすみませんでした」
「分かればいいのよ」
「やっと終わったっぽいね」
「そうだね」
「...」
「まぁ、若い頃は元気が一番だけど、これはさすがに有り余りすぎかな?」

 俺と透禍のやりとりを仲裁すらしてくれなかった連中が色々と言い始める。

「と、とりあえず本題に入ろうか」
「そ、そうね!」

 軍影掃のことは一旦置いておくことになった。
 自分で言うのもあれだが、置いておけるほどの軽い情報でもない。なにせ、この部隊は世界を殺すことが可能と判断された術士すらを押さえつける存在だから...。

「さてと、どこから話したものかな?」

 そんなことを一人呟いてみるが、全員の視線は厳しいものだった。

「じゃあ、いつぞやの時と同じように質問形式で、それに答えていこうか」

 俺がどっかりと偉そうにお高い椅子へ座り、足を組むと痺れを切らしたように、透禍が話始めた。

「幸糸って幽霊じゃないわよね?」
「違うね。怖いこと言わないでよ」
「だって...。あなたは一度...」

 そこで透禍が言い淀む。

「あぁ、確かに俺は一度死んだ」
「なら、どうやって?」
「簡単に、大雑把に言えば、神様に助けてもらったんだ」
「...?」

 みんなの顔に”?“の文字が浮かんでいるのがわかる。

「この話をするにはまず...。お前らは他の世界とそれによって分けられた事象や概念があることを知っているんだよな?」
「えぇ」

 世界は元々は一つだけだった。人間と精霊、魔族と魔物、そして神。これらは同じ世界に存在していたものだった。
 だが今では、それぞれは分けられた世界にのみ存在するものとなった。
 存在しないもの同士を互いに忘れて。

「要するに、神とは精霊や魔物と同じだということかな?」
「まぁ、七星のその考えで合っている。ただ、少し違う」
「というと?」
「神は一段階上の存在ってことさ。世界を分けたのはそいつらの力だからな」
「世界を分ける力...」

 なんとも想像のつかないような話だろうな。

「ま、そんな力をもったヒトたちだ。俺を生き返らせるくらいは造作もない。流石に何度も死ねるわけではないけども」
「それが、幸糸が生きていた理由ってこと?」
「そうだ。力は強いが、色々制約があってな。なんでもできるわけではない。それでも、俺たちよりも強いといえる存在さ」

 全員が理解したようで、想像ができていないことはその顔で分かった。

「まぁ、そのうち分かるようになるさ。その時が来ればね」
「?」
「それよりも、だ。他にも質問したそうな奴がいるけど」

 透禍が後ろを見れば、他にも質問をしたいという目があった。

「次は私!ずっと思ってたんだけど、悠莉ちゃんはどうして幸糸くん側にいるの?雰囲気もいつもと違うし」
「あ、私も知らない。どうして悠莉、あなたがそっちにいるのよ」
「...」

 紅璃と透禍が距離を詰めるが、悠莉は依然沈黙のまま。

「悠莉。その仕事モードはいいから。今回はこっちが先に嘘をついていたのだから、悪いのは俺たちだ。ここでは守秘義務を持たなくていい」
「そういうことだったら、私もそうさせてもらお!」

 俺の許可と共に、悠莉はいつもの元気満杯の女の子へと変貌する。

「私がこっちにいるのは、私もこっち側だからに決まってるじゃん!」
「そっち側って...」
「悠莉も幸糸と同じ軍影掃の所属ってこと?」
「七星くんせいか~い!」

 七星の推理が当たっていたことに悠莉が盛大な正解音を鳴らす。

「どういうこと!?」

 そして、その答えを聞いて一番に驚いていたのは、悠莉の昔からの友人である透禍だった。

「いつの間に?私はそんなこと一切知らないんだけど!?」
「気づかれないようにするのは大変だったよ。しかも年単位で」
「そんなに前から!?」

 悠莉が軍影掃に所属することになったのは俺のスカウトによる。
 数年前。当時中学生になったばかりの悠莉に俺が軍に入らないか?と聞いたのだ。
 結果、悠莉は俺に付いていくことを決め、これらの情報を一切透禍を含めた外部へと漏らさないことを条件に。

「ちょっと待って。ってことは幸糸はその頃からそんな権限を軍の中で手に入れてたの?」
「あぁ。なんなら小学生の時からかな?」
「...」

 まぁ、そりゃ言葉もなくすだろうな。
 俺は普通の子供じゃなかった。そもそも、この世界と今の俺とではズレが生じている。

「まぁ、どうしてそうなったかを説明するよ。ただ、ちょっとどころじゃないくらいに長い話になるけど。ただ、この話がこれからの戦いで必ず知っておくべきことだから——」

 これから話すのは、俺に託された多くの者の希望と願望。そして、それらの命。
 どうしてそうなったかの話。
 この戦争が始まってしまった物語の起源となる。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

女尊男卑 ~女性ばかりが強いこの世界で、持たざる男が天を穿つ~

イノセス
ファンタジー
手から炎を出すパイロキネシス。一瞬で長距離を移動するテレポート。人や物の記憶を読むサイコメトリー。 そんな超能力と呼ばれる能力を、誰しも1つだけ授かった現代。その日本の片田舎に、主人公は転生しました。 転生してすぐに、この世界の異常さに驚きます。それは、女性ばかりが強力な超能力を授かり、男性は性能も威力も弱かったからです。 男の子として生まれた主人公も、授かった超能力は最低最弱と呼ばれる物でした。 しかし、彼は諦めません。最弱の能力と呼ばれようと、何とか使いこなそうと努力します。努力して工夫して、時に負けて、彼は己の能力をひたすら磨き続けます。 全ては、この世界の異常を直すため。 彼は己の限界すら突破して、この世界の壁を貫くため、今日も盾を回し続けます。 ※小説家になろう にも投稿しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

処理中です...