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魔力と霊力
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私の前では想像を超える戦いが繰り広げられていた。
幸糸が使う術は私と同じもののはずなのに、私が魔族の男と戦っていたときとは比べ物にならないほどの激闘が行われていた。
強さを求める私には、この戦闘を一瞬たりとも見逃したくなかったが、今はやらなければならないことがある。
本当に私にできるのかは分からない。でも、やらなければならない。
私が諦めたら、この戦争は終わらない。
紅璃と七星くんが助けてくれた。悠莉が託してくれた。幸糸が、私を導いてくれた。
みんなの意志を無駄にはできない。
そのために、私は魔族の力を手に入れる。
ブワッ!
「なに!?」
「これは...」
「あれは、魔力?なぜ、透禍が」
「...俺たちの勝ちだな」
私の体に爆発的な量の魔力が瞬時に集まり始めた。
そして、私の頭の中に言葉が吐き出される。
「う、うぅ。あ、クッ...」
死ね。
消えろ。
役立たず。
ゴミ。
あほ。
屑。
馬鹿。
マヌケ。
そんな罵詈雑言がいくつも、大量に流し込まれる。
それはとても気分のいいものではない。
これが、悪によって生まれた力。
私たちの世界にはない力。霊術士には使えず、魔術士に使える。正に、反対な力のはずなのに、私はその力をこの身に宿すことができた。
「まさか。この数分であの力を使えるようになったとういのか!?」
あの力。男が言うそれは、私が自身を俯瞰していた時に使っていた力のことだろう。
私が本当に魔力を扱えるとは。
だが、まだ駄目だ。今は魔力を自身に集めるだけ。それを使うと頭が弾け飛んでしまうくらいにはすでに苦しかった。
私はその場に蹲る。
「悪いが、俺はここで負ける訳にはいかないんだ。魔力を使って何をするかは分からないが、今ここで消えてもらう」
男が私に向かって、人差し指を伸ばす。
くっ。避けなきゃ。頭ではそう考えても、その考えを体に指示する前に、頭の中で雑言がそうはさせてくれない。
「花はここで燃えろ」
炎の魔術が私に飛びかかろうとする。
「”鎮火”」
「”氷零剣”」
紅璃と七星が術を使って魔術を撃ち落とそうとする。
しかし——。
「——無駄だ」
風と土の魔術がそれぞれの術を邪魔する。
”鎮火”で酸素を燃やし、炎の魔術の威力を下げようとするが、風の魔術でより多くの酸素を集められる。
”氷零剣”で炎を分散しようとするが、氷よりも硬さも質量も超える岩がその刃を通そうとはしない。
「くそっ。これじゃあ」
「透禍ちゃん!」
炎の魔術は勢いを落とさず、私を燃やそうと狭まる。
くっ。
せめて痛みに耐えようと歯をくいしばる。
...。
しかし、一切の痛みがない。
目を開けると、私の目の前には幸糸が立っていた。
「...」
幸糸は抜刀した状態で残身を取っていた。
「貴様。魔術を弾くでも、分かつでもなく、斬ったというのか」
「あぁ。果物を切っているかのようだったぞ」
「俺の魔術が軽いと言うか。なら、透禍や小細工なしで俺に勝ってみせろ」
「それは無理だな」
「ふざけるなよ!それで道理が通るものか!」
「道理?いつからお前はそんなことを言うようになったんだ。それこそ、魔族の生き方こそ道理が立たないじゃないか。お前らみたいなのが道理がなんだなんて語るなよ。使えるものは全て使う。ただそれだけだ」
「いいだろう。なら俺もそうしよう」
魔族の男は魔術の標的を幸糸から私たち三人に変える。
「せいぜい抗ってみせろ。運命とやらにな」
先ほどまでとは比べ物にならないほどの魔力を詰め込まれた魔術が無数に放たれる。
「紅璃!七星!俺の後ろに下がれ!」
ゴォォォ!
強い圧迫感が私たちを包み込む。
幸糸は刀を鞘に戻すと、居合抜刀の構えを取る。
「こう、し...」
「ふぅぅぅ...」
幸糸は極限まで集中し、魔術を見やる。
魔術が幸糸の居合の範囲に入ると、すかさず素早い抜刀が行われた。
先ほどと同様に、幸糸が魔術を斬り、私たちを助けてくれると思った。
しかし...。
ダアァンッ!
「ぐあっ!」
魔術は斬られることがなく、刀身に着弾。
爆発と共に幸糸は私たちよりも後ろへと吹っ飛ぶ。
「なんだ。さっきのはただのまぐれか?」
「くそっ。勘が鈍ったな」
幸糸自身はなんともないかのような顔をしながら、後方で膝をついていた。
「そんなところでへばっていていいのか?」
まだ放たれた魔術はいくつもある。
幸糸が止めたのはその最初の一撃のみ。
「くっ」
幸糸は先ほど受けた魔術のせいで未だ動けていなかった。
このままでは、魔術の雨に打たれてしまう。
「あかり。なな、せくん。あなたたちだけでも、にげて」
男の狙いは私。動けない私がここにいるせいで、彼女たちも魔術を喰らってしまう。
なら、犠牲を少なくしなければと思い、私は確かに”逃げて”と言った。
「声が小さくてよく聞こえないな~」
「このままだとあいつのやりたい放題だしね。そろそろ僕たちも反撃にでようかな」
「なにを、いって」
「透禍ちゃん。今更そんな言葉はないよ」
「ここに来た時点でみんな覚悟はしていたことだしね」
「だめ、にげて」
「...」
紅璃と七星くんは私の前からどこうとはしなかった。
私を守るために。
「さぁ、行くよ」
「ラジャー」
紅璃と七星くんがそれぞれ弓を構え、氷の剣を構える。
ヒュッ
カキンッ
紅璃と七星くんは順調に魔術を撃ち落としいていく。
もともと実力が高い二人。更に、幸糸が普段消費する霊力よりも多くの霊力を渡してくれている。
ここまでの戦いで私たちはかなり強くなった。一人で数百の魔獣を倒すことができるほどに。
しかし、それでも届かない高みに幸糸もあの男も立っている。
「ぐっ」
次第に二人が押されるようになる。
それでも多少の時間を稼ぐことができた。幸糸が戦えるようになるくらいの時間を。
だが、幸糸に動けるような気配はない。正しく言えば、動く気がない。
ただ、こちらをじっと見ている。
紅璃と七星くんがこの魔術の雨を耐えうる力があると思ってのことなのか。しかし、彼女らは押されている。誰が見てもそんなことは無理だと分かる。
ならーー。
幸糸と目が合う。一瞬でも、一秒や二秒でもない。長い時間幸糸と目が合う。
そうして気づく。
幸糸が見ているものは私たちではなく、私一人なのだと。
私が立たないと。
ずっと誰かに頼っている自分から抜け出さないとと分かっていた。だけれど、ずるずるとそのままにしていた。
今、彼女らを救う力を有しているのに、使えないからという理由でまた、誰かに頼ろうとする。
私はこのまま逃げ続けるのか?
駄目だ。
”何かを斬る刀ではなく、何かを咲かせる刀を”
私は誰かを、世界を、全てを救う力をーー。
♢
透禍も気づいたみたいだな。
これで、ここまでの道のりが無駄にならずに済んだ。
バチッ!バチ!
周囲の空気が変わる。
紫の光が透禍を中心に広がっていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...」
雷光は大気の状態、空気中にある微量な塵やホコリによって、反射する光に違いが現れる。または見る場所、見る角度や距離によって色が変わって見え、赤や青、白などと様々である。
しかし、透禍の周りの光は違う。全てが綺麗な紫の色を発している光なのだ。
それもそのはず、あの光は外的要因によって色が違うのではなく、本質的に紫色をしているのだから。
存在的に悪の塊である、魔力を自身に溜め、それを解放、術として自身の外へ放出しようとしている。
先ほど、透禍が自身の体から離れた時。その時に放った力はただ魔力を固めたものを飛ばしただけ。
しかし、今彼女は、普段霊力で行使していた術を魔力をもってして発動させようとしている。
本来、そんなことは人間にはできないが、透禍の体質。透禍の術、ヒラバナの術の三つの条件が重なることで、それは実現する。
透禍は重い足取りながらその場に立つ。
「くっ」
「もう...」
「終わりだ」
紅璃と七星が限界なのを知り、クラウスはより多く、より大きな術を放つ。
「透禍!」
俺は腰に差していた刀を透禍に投げる。
こちらを見向きもせずに刀を受け取る様はさながら小説の主人公。
まぁ、実際そんなもんか。
透禍は腰に鞘を構え、柄に手を添える。
「”紫電雷刀華”」
その瞬間、時が一瞬止まったように見えた。
幸糸が使う術は私と同じもののはずなのに、私が魔族の男と戦っていたときとは比べ物にならないほどの激闘が行われていた。
強さを求める私には、この戦闘を一瞬たりとも見逃したくなかったが、今はやらなければならないことがある。
本当に私にできるのかは分からない。でも、やらなければならない。
私が諦めたら、この戦争は終わらない。
紅璃と七星くんが助けてくれた。悠莉が託してくれた。幸糸が、私を導いてくれた。
みんなの意志を無駄にはできない。
そのために、私は魔族の力を手に入れる。
ブワッ!
「なに!?」
「これは...」
「あれは、魔力?なぜ、透禍が」
「...俺たちの勝ちだな」
私の体に爆発的な量の魔力が瞬時に集まり始めた。
そして、私の頭の中に言葉が吐き出される。
「う、うぅ。あ、クッ...」
死ね。
消えろ。
役立たず。
ゴミ。
あほ。
屑。
馬鹿。
マヌケ。
そんな罵詈雑言がいくつも、大量に流し込まれる。
それはとても気分のいいものではない。
これが、悪によって生まれた力。
私たちの世界にはない力。霊術士には使えず、魔術士に使える。正に、反対な力のはずなのに、私はその力をこの身に宿すことができた。
「まさか。この数分であの力を使えるようになったとういのか!?」
あの力。男が言うそれは、私が自身を俯瞰していた時に使っていた力のことだろう。
私が本当に魔力を扱えるとは。
だが、まだ駄目だ。今は魔力を自身に集めるだけ。それを使うと頭が弾け飛んでしまうくらいにはすでに苦しかった。
私はその場に蹲る。
「悪いが、俺はここで負ける訳にはいかないんだ。魔力を使って何をするかは分からないが、今ここで消えてもらう」
男が私に向かって、人差し指を伸ばす。
くっ。避けなきゃ。頭ではそう考えても、その考えを体に指示する前に、頭の中で雑言がそうはさせてくれない。
「花はここで燃えろ」
炎の魔術が私に飛びかかろうとする。
「”鎮火”」
「”氷零剣”」
紅璃と七星が術を使って魔術を撃ち落とそうとする。
しかし——。
「——無駄だ」
風と土の魔術がそれぞれの術を邪魔する。
”鎮火”で酸素を燃やし、炎の魔術の威力を下げようとするが、風の魔術でより多くの酸素を集められる。
”氷零剣”で炎を分散しようとするが、氷よりも硬さも質量も超える岩がその刃を通そうとはしない。
「くそっ。これじゃあ」
「透禍ちゃん!」
炎の魔術は勢いを落とさず、私を燃やそうと狭まる。
くっ。
せめて痛みに耐えようと歯をくいしばる。
...。
しかし、一切の痛みがない。
目を開けると、私の目の前には幸糸が立っていた。
「...」
幸糸は抜刀した状態で残身を取っていた。
「貴様。魔術を弾くでも、分かつでもなく、斬ったというのか」
「あぁ。果物を切っているかのようだったぞ」
「俺の魔術が軽いと言うか。なら、透禍や小細工なしで俺に勝ってみせろ」
「それは無理だな」
「ふざけるなよ!それで道理が通るものか!」
「道理?いつからお前はそんなことを言うようになったんだ。それこそ、魔族の生き方こそ道理が立たないじゃないか。お前らみたいなのが道理がなんだなんて語るなよ。使えるものは全て使う。ただそれだけだ」
「いいだろう。なら俺もそうしよう」
魔族の男は魔術の標的を幸糸から私たち三人に変える。
「せいぜい抗ってみせろ。運命とやらにな」
先ほどまでとは比べ物にならないほどの魔力を詰め込まれた魔術が無数に放たれる。
「紅璃!七星!俺の後ろに下がれ!」
ゴォォォ!
強い圧迫感が私たちを包み込む。
幸糸は刀を鞘に戻すと、居合抜刀の構えを取る。
「こう、し...」
「ふぅぅぅ...」
幸糸は極限まで集中し、魔術を見やる。
魔術が幸糸の居合の範囲に入ると、すかさず素早い抜刀が行われた。
先ほどと同様に、幸糸が魔術を斬り、私たちを助けてくれると思った。
しかし...。
ダアァンッ!
「ぐあっ!」
魔術は斬られることがなく、刀身に着弾。
爆発と共に幸糸は私たちよりも後ろへと吹っ飛ぶ。
「なんだ。さっきのはただのまぐれか?」
「くそっ。勘が鈍ったな」
幸糸自身はなんともないかのような顔をしながら、後方で膝をついていた。
「そんなところでへばっていていいのか?」
まだ放たれた魔術はいくつもある。
幸糸が止めたのはその最初の一撃のみ。
「くっ」
幸糸は先ほど受けた魔術のせいで未だ動けていなかった。
このままでは、魔術の雨に打たれてしまう。
「あかり。なな、せくん。あなたたちだけでも、にげて」
男の狙いは私。動けない私がここにいるせいで、彼女たちも魔術を喰らってしまう。
なら、犠牲を少なくしなければと思い、私は確かに”逃げて”と言った。
「声が小さくてよく聞こえないな~」
「このままだとあいつのやりたい放題だしね。そろそろ僕たちも反撃にでようかな」
「なにを、いって」
「透禍ちゃん。今更そんな言葉はないよ」
「ここに来た時点でみんな覚悟はしていたことだしね」
「だめ、にげて」
「...」
紅璃と七星くんは私の前からどこうとはしなかった。
私を守るために。
「さぁ、行くよ」
「ラジャー」
紅璃と七星くんがそれぞれ弓を構え、氷の剣を構える。
ヒュッ
カキンッ
紅璃と七星くんは順調に魔術を撃ち落としいていく。
もともと実力が高い二人。更に、幸糸が普段消費する霊力よりも多くの霊力を渡してくれている。
ここまでの戦いで私たちはかなり強くなった。一人で数百の魔獣を倒すことができるほどに。
しかし、それでも届かない高みに幸糸もあの男も立っている。
「ぐっ」
次第に二人が押されるようになる。
それでも多少の時間を稼ぐことができた。幸糸が戦えるようになるくらいの時間を。
だが、幸糸に動けるような気配はない。正しく言えば、動く気がない。
ただ、こちらをじっと見ている。
紅璃と七星くんがこの魔術の雨を耐えうる力があると思ってのことなのか。しかし、彼女らは押されている。誰が見てもそんなことは無理だと分かる。
ならーー。
幸糸と目が合う。一瞬でも、一秒や二秒でもない。長い時間幸糸と目が合う。
そうして気づく。
幸糸が見ているものは私たちではなく、私一人なのだと。
私が立たないと。
ずっと誰かに頼っている自分から抜け出さないとと分かっていた。だけれど、ずるずるとそのままにしていた。
今、彼女らを救う力を有しているのに、使えないからという理由でまた、誰かに頼ろうとする。
私はこのまま逃げ続けるのか?
駄目だ。
”何かを斬る刀ではなく、何かを咲かせる刀を”
私は誰かを、世界を、全てを救う力をーー。
♢
透禍も気づいたみたいだな。
これで、ここまでの道のりが無駄にならずに済んだ。
バチッ!バチ!
周囲の空気が変わる。
紫の光が透禍を中心に広がっていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...」
雷光は大気の状態、空気中にある微量な塵やホコリによって、反射する光に違いが現れる。または見る場所、見る角度や距離によって色が変わって見え、赤や青、白などと様々である。
しかし、透禍の周りの光は違う。全てが綺麗な紫の色を発している光なのだ。
それもそのはず、あの光は外的要因によって色が違うのではなく、本質的に紫色をしているのだから。
存在的に悪の塊である、魔力を自身に溜め、それを解放、術として自身の外へ放出しようとしている。
先ほど、透禍が自身の体から離れた時。その時に放った力はただ魔力を固めたものを飛ばしただけ。
しかし、今彼女は、普段霊力で行使していた術を魔力をもってして発動させようとしている。
本来、そんなことは人間にはできないが、透禍の体質。透禍の術、ヒラバナの術の三つの条件が重なることで、それは実現する。
透禍は重い足取りながらその場に立つ。
「くっ」
「もう...」
「終わりだ」
紅璃と七星が限界なのを知り、クラウスはより多く、より大きな術を放つ。
「透禍!」
俺は腰に差していた刀を透禍に投げる。
こちらを見向きもせずに刀を受け取る様はさながら小説の主人公。
まぁ、実際そんなもんか。
透禍は腰に鞘を構え、柄に手を添える。
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