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戦争の開戦
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事件解決を任されてから翌日。
今日の正午、私たちは戦争を始めようとしていた。
普通なら学校に行き、術の訓練をして、日常を過ごすはずだった時間。
それが今や魔族との戦争にまで足を踏み入れてしまうとは、入学式のときには思いもしなかった。
ここまでそれなりに色々とあった。
開花家で育てられてきた私は最強の術を持っているのだろう。
「...」
最強、最弱。一体これらは誰が決めるのだろう。
今まで言われてきて疑問に思ってこなかったが、今こうして本物の戦いに行く覚悟が決まったことで分かった。
私は皆に言われるような強さを持ち合わせていない。
たとえ、どんなに強い術を持っていたとしても私自身があまりにも弱すぎるのだ。
数百の戦闘をして、そのことようやくに気づいた。
この戦争で勝つためには私は本当の最強にならなければならない。
だって、強さを決めるのは人でも、戦う相手でもない。
この世界が決めること。これはそういった運命なんだ。
♢
人間共が戦争の準備をしている間、俺たちは何もしなかった。
”運命の糸”を殺した時に、多くの魔族を向こうの世界に連れて行ったことで遂に、霊界でも”悪”という事象を見るようになった。
相手はこちらの世界に来る術を知らない。ならば、”悪”を取り除くことを選ぶだろう。
だが、事象や概念といったものは目に見えることはない。
やつらが使う術のエネルギーである、霊力。そして、それらを生み出す精霊。それらは目に見えなくとも感じることができる。
だが、あれらはそんなものとは比べられないほどに権限のレベルが高い。
与える影響力が段違いなのだ。
それを取り除こうとすることは、戦いを諦めることと他ならない。
何せ、そんなことをしている間にこちらが手を加えてやれば、俺たちの勝ちが確定する。
「まぁ、そんなことをしなくても、時間と共に”悪”に浸食され続けた世界は、勝手に自ら滅ぶことになるだろう」
つまり、すでに魔族の勝ちが決まったと言っても可笑しくない状態だった。
「この方法は卑怯かもしれないが、これも立派な戦争のやり方だ。恨むならどうぞ勝手に俺を恨んでくれてかまわない。その分さっさと消えてくれ」
誰が聞いてるでもなく、俺は空にそう投げかけた。
魔界には特にこれと言って、物がない。
あるのは、砂に埋もれた廃墟。道がなく、方向が分からなくなる草木の生い茂った深く暗い森。
そういった人が住めないような場所がただ続いている。
唯一、この世界にも人が住めそうな場所がある。それが、俺が今見ている月を覆い隠すほどの大きさの城。
他の世界を見た時に、魔という存在は城の最果てで朽ちるものらしい。
そんなものをこの世界に残すなんてあまりにも皮肉なことだが逆に言えば、城は魔との繋がりがとても強い。
そのため、城が課す盟約を守りさえすれば、絶大な力を手にすることができる。
俺たちが使う魔力は負のエネルギーからできている。
なぜだか、この世界は元々他の世界から負のエネルギーだけが流れていた。
それら負のエネルギーを優先順位をつけて、渡してくれるのが盟約による力だ。
こちらとしてはありがたい力だが、扱われ方はゴミと同じ。
そう思うようになったのは俺がいつの頃だっただろうか。
そんな大昔に俺は、他の世界を壊してやりたいと思い、ここまでやって来た。
「まさか、その間に数百年が過ぎるとは思いもしなかった」
これで遂に我々の、俺の悲願が叶う。
楽しみでしょうがない。
「”運命の糸”にも見てもらいたかったが、奴は世界が生み出したバグだからな。危険なものは早めに消えてもらう他ないな」
その分、残された者たちに思う存分地獄を見せてやろう。
「ククク...」
絶望に染まったその顔を思い描くだけで、笑いがでてしまった。
「そんなに楽しい?」
「...!」
「なら、同じようなことを私たちもしてあげようかしら」
「なぜ貴様らがいる?」
声が聞こえた方を見やると、そこにはこの世界に存在するはずのない者たちがいた。
「幸糸は殺したはずだ。なのにどうやってここまで来た。透禍!」
目の前にいる奴らはたった数人。
本来なら警戒する必要はなく、倒せる相手のはず。
だが、この世界に渡って来た。それにはある一定量の権限。事象や概念と同じで、その者の与える影響力が強くなければ成立しない。
つまり、俺と同じ力量を持っている可能性がある。
「どうしてあなたが私の名前を知っているのかしら?初めましてのはずだけど」
「...そうだな、まずは自己紹介からいこうか。俺は今は名がないからな、悪いが紹介できない。すまないな」
「いいわよそれくらい。どうせ今日で尽きる名になるだけだもの。私のことはもう知っているようだから自己紹介はしないわね」
互いに皮肉を言い合う。
こんな相手に会うのはいつぶりだろうか。
どうやってこちらに渡って来たのか。本当に俺と同じ権限を手に入れたのか。
疑問が残ったままだが、これはこれで楽しめそうだ。
♢
魔界に行く直前。
私たちは幸糸が死んだ場所に集まっていた。
わざわざこんな場所に来て行わなければならないことがあったから。
「もしかしたらこれが最後の任務になるかもしれないけど、大丈夫?」
「ここまで来て今更退けないよ」
「覚悟はもう決まってるしね」
聞くまでもなかったかな。
彼らの目がこの数か月で軍人のそのものになっていた。
数か月前まで、総戦高校に入学するまでは私にはなかったもの。
彼らとの短くも長く感じるような数か月の授業が私を変えてくれた。
”最強”の称号を持つべきは本来は彼らのような存在だろう。
それでも、その称号を持つ権利を与えられた身として、それを諦めるつもりはない。
もう迷うことはない。
「それにしても、まさかこっちから攻め入るなんて。透禍は怖いことを思いつくな」
「これしか選択肢がなかったからしょうがないでしょ」
「まさか世界を渡ることになるとは、総戦高校入学の時には思いもしなかったな~」
それは私もそうだ。
「それにしても、よくそんな術を作れましたね。やっぱり鏡月さんはすごいですね」
「まぁ、立案者は私じゃないよ。私は言われたことを可能にしただけだからね」
それはそれですごいことをしているような気もするのだが。
そして、その立案者はというと...。
「やっぱり私って天才だからね。伊達に開花家に仕えてるわけじゃないからね」
自信満々に胸を張って、ドヤ顔を決めていた。
まったく。私は私の従者であり、家族であり、親友のことをまだまだ理解できていないらしい。
一体いつのまにそんな術を作っていたのか。
だが、優秀なことは昔から知っている。
だから私はただ、彼女を信じることを決めた。
「それじゃあ、早速行こうか」
「そうだね。越智さん、お願いします」
「まったく、簡単に言うけど、この術一回使うだけで私は五日間は動けなくなる計算なんだけど。それほどに霊力と私の演算能力のリソースを食うんだからね。もし、向こうで戦争を終わらせられなかったら怒るからね?」
「任せてください。絶対に終わらせてみせます」
「...やれやれ。本当、最年少で軍の大将に成れた私は天才だと思っていたけど、とんだ驕りだったね。こんなにも強い術士がまだまだ若い学生の中に四人もいるとは」
なんだか、年老いた人の言葉だったけどそれは言わないことにした。
これから私たちが行く魔界には学生である私たちだけ。
今の世界には軍人が足りないほどに落ち着いていない。
これは名目上は”魔術師殺し”の事件解決だが、中身は魔族との戦争。
許可は出ても、応援は一切なし。そして、最悪の展開である全滅。それを最小限、即ち四人だけにするといった対応のためである。
だが、私たちに負ける気はない。必ず勝って見せる。
そのために、やってきたことを。教えてくれたものをなくさないために。
見てなさい、”最弱”。あなたが馬鹿にしていた私たちがどれだけの術士か、”最強”である私が見せてあげる。
親しみを込めて、私は彼に誓いをささやく。
「それじゃあ術を展開し始めるわよ」
「はい」
私たちは目の前に突如として現れた扉を開け、先の見えない道を歩み始める。
後ろでは悠莉が越智さんに何かをささやいていることだけが見えた。
「悠莉。早くしなさい!」
「分かってるよ。今行くよ」
こうして私たちは魔界へと赴き、彼を殺した魔人と相対することになる。
今日の正午、私たちは戦争を始めようとしていた。
普通なら学校に行き、術の訓練をして、日常を過ごすはずだった時間。
それが今や魔族との戦争にまで足を踏み入れてしまうとは、入学式のときには思いもしなかった。
ここまでそれなりに色々とあった。
開花家で育てられてきた私は最強の術を持っているのだろう。
「...」
最強、最弱。一体これらは誰が決めるのだろう。
今まで言われてきて疑問に思ってこなかったが、今こうして本物の戦いに行く覚悟が決まったことで分かった。
私は皆に言われるような強さを持ち合わせていない。
たとえ、どんなに強い術を持っていたとしても私自身があまりにも弱すぎるのだ。
数百の戦闘をして、そのことようやくに気づいた。
この戦争で勝つためには私は本当の最強にならなければならない。
だって、強さを決めるのは人でも、戦う相手でもない。
この世界が決めること。これはそういった運命なんだ。
♢
人間共が戦争の準備をしている間、俺たちは何もしなかった。
”運命の糸”を殺した時に、多くの魔族を向こうの世界に連れて行ったことで遂に、霊界でも”悪”という事象を見るようになった。
相手はこちらの世界に来る術を知らない。ならば、”悪”を取り除くことを選ぶだろう。
だが、事象や概念といったものは目に見えることはない。
やつらが使う術のエネルギーである、霊力。そして、それらを生み出す精霊。それらは目に見えなくとも感じることができる。
だが、あれらはそんなものとは比べられないほどに権限のレベルが高い。
与える影響力が段違いなのだ。
それを取り除こうとすることは、戦いを諦めることと他ならない。
何せ、そんなことをしている間にこちらが手を加えてやれば、俺たちの勝ちが確定する。
「まぁ、そんなことをしなくても、時間と共に”悪”に浸食され続けた世界は、勝手に自ら滅ぶことになるだろう」
つまり、すでに魔族の勝ちが決まったと言っても可笑しくない状態だった。
「この方法は卑怯かもしれないが、これも立派な戦争のやり方だ。恨むならどうぞ勝手に俺を恨んでくれてかまわない。その分さっさと消えてくれ」
誰が聞いてるでもなく、俺は空にそう投げかけた。
魔界には特にこれと言って、物がない。
あるのは、砂に埋もれた廃墟。道がなく、方向が分からなくなる草木の生い茂った深く暗い森。
そういった人が住めないような場所がただ続いている。
唯一、この世界にも人が住めそうな場所がある。それが、俺が今見ている月を覆い隠すほどの大きさの城。
他の世界を見た時に、魔という存在は城の最果てで朽ちるものらしい。
そんなものをこの世界に残すなんてあまりにも皮肉なことだが逆に言えば、城は魔との繋がりがとても強い。
そのため、城が課す盟約を守りさえすれば、絶大な力を手にすることができる。
俺たちが使う魔力は負のエネルギーからできている。
なぜだか、この世界は元々他の世界から負のエネルギーだけが流れていた。
それら負のエネルギーを優先順位をつけて、渡してくれるのが盟約による力だ。
こちらとしてはありがたい力だが、扱われ方はゴミと同じ。
そう思うようになったのは俺がいつの頃だっただろうか。
そんな大昔に俺は、他の世界を壊してやりたいと思い、ここまでやって来た。
「まさか、その間に数百年が過ぎるとは思いもしなかった」
これで遂に我々の、俺の悲願が叶う。
楽しみでしょうがない。
「”運命の糸”にも見てもらいたかったが、奴は世界が生み出したバグだからな。危険なものは早めに消えてもらう他ないな」
その分、残された者たちに思う存分地獄を見せてやろう。
「ククク...」
絶望に染まったその顔を思い描くだけで、笑いがでてしまった。
「そんなに楽しい?」
「...!」
「なら、同じようなことを私たちもしてあげようかしら」
「なぜ貴様らがいる?」
声が聞こえた方を見やると、そこにはこの世界に存在するはずのない者たちがいた。
「幸糸は殺したはずだ。なのにどうやってここまで来た。透禍!」
目の前にいる奴らはたった数人。
本来なら警戒する必要はなく、倒せる相手のはず。
だが、この世界に渡って来た。それにはある一定量の権限。事象や概念と同じで、その者の与える影響力が強くなければ成立しない。
つまり、俺と同じ力量を持っている可能性がある。
「どうしてあなたが私の名前を知っているのかしら?初めましてのはずだけど」
「...そうだな、まずは自己紹介からいこうか。俺は今は名がないからな、悪いが紹介できない。すまないな」
「いいわよそれくらい。どうせ今日で尽きる名になるだけだもの。私のことはもう知っているようだから自己紹介はしないわね」
互いに皮肉を言い合う。
こんな相手に会うのはいつぶりだろうか。
どうやってこちらに渡って来たのか。本当に俺と同じ権限を手に入れたのか。
疑問が残ったままだが、これはこれで楽しめそうだ。
♢
魔界に行く直前。
私たちは幸糸が死んだ場所に集まっていた。
わざわざこんな場所に来て行わなければならないことがあったから。
「もしかしたらこれが最後の任務になるかもしれないけど、大丈夫?」
「ここまで来て今更退けないよ」
「覚悟はもう決まってるしね」
聞くまでもなかったかな。
彼らの目がこの数か月で軍人のそのものになっていた。
数か月前まで、総戦高校に入学するまでは私にはなかったもの。
彼らとの短くも長く感じるような数か月の授業が私を変えてくれた。
”最強”の称号を持つべきは本来は彼らのような存在だろう。
それでも、その称号を持つ権利を与えられた身として、それを諦めるつもりはない。
もう迷うことはない。
「それにしても、まさかこっちから攻め入るなんて。透禍は怖いことを思いつくな」
「これしか選択肢がなかったからしょうがないでしょ」
「まさか世界を渡ることになるとは、総戦高校入学の時には思いもしなかったな~」
それは私もそうだ。
「それにしても、よくそんな術を作れましたね。やっぱり鏡月さんはすごいですね」
「まぁ、立案者は私じゃないよ。私は言われたことを可能にしただけだからね」
それはそれですごいことをしているような気もするのだが。
そして、その立案者はというと...。
「やっぱり私って天才だからね。伊達に開花家に仕えてるわけじゃないからね」
自信満々に胸を張って、ドヤ顔を決めていた。
まったく。私は私の従者であり、家族であり、親友のことをまだまだ理解できていないらしい。
一体いつのまにそんな術を作っていたのか。
だが、優秀なことは昔から知っている。
だから私はただ、彼女を信じることを決めた。
「それじゃあ、早速行こうか」
「そうだね。越智さん、お願いします」
「まったく、簡単に言うけど、この術一回使うだけで私は五日間は動けなくなる計算なんだけど。それほどに霊力と私の演算能力のリソースを食うんだからね。もし、向こうで戦争を終わらせられなかったら怒るからね?」
「任せてください。絶対に終わらせてみせます」
「...やれやれ。本当、最年少で軍の大将に成れた私は天才だと思っていたけど、とんだ驕りだったね。こんなにも強い術士がまだまだ若い学生の中に四人もいるとは」
なんだか、年老いた人の言葉だったけどそれは言わないことにした。
これから私たちが行く魔界には学生である私たちだけ。
今の世界には軍人が足りないほどに落ち着いていない。
これは名目上は”魔術師殺し”の事件解決だが、中身は魔族との戦争。
許可は出ても、応援は一切なし。そして、最悪の展開である全滅。それを最小限、即ち四人だけにするといった対応のためである。
だが、私たちに負ける気はない。必ず勝って見せる。
そのために、やってきたことを。教えてくれたものをなくさないために。
見てなさい、”最弱”。あなたが馬鹿にしていた私たちがどれだけの術士か、”最強”である私が見せてあげる。
親しみを込めて、私は彼に誓いをささやく。
「それじゃあ術を展開し始めるわよ」
「はい」
私たちは目の前に突如として現れた扉を開け、先の見えない道を歩み始める。
後ろでは悠莉が越智さんに何かをささやいていることだけが見えた。
「悠莉。早くしなさい!」
「分かってるよ。今行くよ」
こうして私たちは魔界へと赴き、彼を殺した魔人と相対することになる。
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