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策略と掃除屋
しおりを挟む「私の術、”情鏡写知”であなたたちが今、何を学べばいいのかがすぐに分かるのだから」
まさか、私が本当に彼女らの教師になるとは思ってもみなかった。
私自身、この学校を卒業した者であるため、どんな授業をすればいいのかは大体分かっていた。
ただ、人に勉学などを教えるのはあまり経験がないため、多少なり不安はある。
が、幸いにも私にはそういったことに向いている術がある。
”情鏡写知”。指定したものの情報を見ることのできる術。
これを使ってそれぞれがこれから伸ばすべき能力。また、足りていない能力。
それらを見つけることで、どういった授業をするのかの方針を個々に作る算段。
「それじゃあ、順番に見ていくね~」
四人全員を見て回った結果、どれもこれも能力数値が黒塗りされており、見ることが出来なかった。
こんなことは滅多にない。というか、これまでにこんなことがあったのは、幸糸を見た時以来であった。
彼女らは幸糸となにか同じものを持っている。彼となにかしらの関係を持っている。
まったく、お前は何をしようとしてるんだ。
確かに、彼女らにはまだ扱いきれていない潜在能力が秘められているとは聞いたが、同じようなステータスを見せられるとは思ってもいなかった。
「どうかしましたか?」
全員を見て回って、どうしようかと考える。
結局、どこの能力を上げるべきか分からず、授業内容が建てられず仕舞いだ。
「よ~し、皆これからテストをするから準備よろしく~」
「え!?」
「抜き打ちテスト...」
「実習じゃないということは...」
「私たちに足りないのは学力だった...」
うーん。本当にごめん。
幸糸からなにも言われていないのに、色々言うのも気が引けちゃって。
決して、ステータスが見れなかったなんて、私の術が上手くいかなかったとか思われたくなかったとかじゃないから。
♢
「さてと、向こうはちゃんとやってるかね」
授業を鏡月に任せたが、大丈夫だろうか。
まぁ、たまに残念な人になるけど、優秀ではあるからな。多分、大丈夫だろう。
「それよりも、言い残す言葉はないか?菊明 光人」
「...なんだ、お前」
俺は早速、魔術士を見つけるために動き始めた。
これはその結果だ。
「はっ、とぼけるなよ。お前だろ、こっちに潜り込んでる魔人は」
「...」
「無言は肯定とみなすが?」
「...はぁ、案外早くバレちまったな。あぁ、そうだぜ。俺が魔人だ」
今回の戦いの末で、鍵となる者。
「いや~、それにしてもなぜ分かった?」
「簡単だ。この”眼”で見た」
「あ?」
「お前は知らないだろうから、説明すると俺は少々”眼”が良くてね。霊力、魔力といった力の動きが見れるんだ」
「なっ!?」
俺の”眼”は力の流れを見ることができる。
眼に何か術を施したとか、特別な眼を持っているとかではない。
俺の血が半分濁っているだけ。
「おっ、その様子だと俺のことは知ってるんだな」
「なるほどね、お前があの”運命の糸”か。だが、お前は死んだと聞いたが」
「それが間違ってるんじゃない?今、お前が見ているもの。それが真実さ」
「なるほどね」
やっぱり、俺も有名になったものだね。
昔、魔族たちと向こうの世界で戦っていたとき。俺は殺されかけた。
しかし、相手は俺のことを殺した気でいたらしい。
「いつからだ?」
「さっき」
「...はっ、まじか」
「まじさ。俺の仲間には感覚共有をすることができる術を持った者がいてね。そいつに協力してもらって、”精霊”と感覚共有し、軍の全体を見て回った。そうして辿り着いたのさ」
こいつが魔人だと分かったのはついさっき。
精霊の眼を借りて、ようやく見つけ出した。
今まで何度か会ったが、よく見なければ分からないほどに力を隠されていた。
とはいえ、今まで気づかなかった自分が恥ずかしい。
「精霊との感覚共有ね。それはいい情報を貰った」
「何をバカなことを言ってる。お前は向こうには返させねーよ」
「さて、そうかな。あの”運命の糸”とはいえ、俺はそう簡単にやれねーよ」
まさに、一触即発。ピリついた空気が広がる。
手のひらを術で作った亜空間に入れ、両手に”倶旅渡”をはめる。
これからの戦いを左右する戦いが始まる。
そう思ったとき。
「あれ、菊明先輩。どうしたんですか?こんなところで」
「え、木茎」
俺たちがいる場所は軍の敷地内だ。
軍に所属している悠莉がいてもおかしくない。
「あれ、幸糸くんも。しかも...、喧嘩?」
「...いや~、夜桜のやつが急に突っかかってきて困ってたんだよ」
「え、そうなんですか!?すみません、私の友達が」
「いや、いいんだよ。木茎からもちょっと言っといて。じゃ、よろしく」
たまたま現れた悠莉をいいように、俺を悪者に仕立てあげた。
このままだと、魔人に逃げられてしまう。
だが——。
バンッ!
強く、大きな銃声が一つ、辺りに鳴り響いた。
「うっ、いっつぅー!!」
その直後、魔人はその場に倒れ伏せた。
「い、一体なに...が」
そう、それは”もし”、たまたま現れた場合だ。
「はぁ~、全く。人使いの荒い人だ」
「これくらいは荒くねぇよ。なんならホワイトな方だろ」
「責任の問題だよ。給料にボーナスつけてね、”社長”」
この場に現れた悠莉。それは、こちらの味方だった。
「な、なんでお前が俺を撃つ?」
「え、分かんないの?私があなたの敵だからよ」
そういうのを聞きたいんじゃないと思うんだけどな。
「悠莉は俺のとこの社員でな。これはお前を確実にやるための作戦」
「社員?作戦?」
「はぁ~、一発撃たれたくらいで混乱状態か?本当に情報を集める潜入員なのか?」
俺はこの年齢で術士として、ほぼ”最強”の場所にいるだろう。
そんな俺を軍は秘匿人物にしてもおかしくはない。
だが、別に俺は軍に所属していない。
確かに、何件も軍でも片づけられない依頼を請け、手伝ってきた。
ただ、それは俺が会社として、請けてきたものだ。
俺の本職。それは掃除屋。
軍でも請けられないような面倒事をなんでも解決する仕事。
俺はその運営から、現職までを担当している。
悠莉はそこの社員だ。このことは軍でも知らない超機密情報。
そういったことは、情報を多く持っている者にとっては恐ろしいほどに、強い武器となる。
「とまぁ、お前はまんまと俺たちの策略にはめられたってわけだ」
「なるほどな。ごほっ」
「おいおい、たった一発だろ。それでも魔人か?」
魔人は魔力の扱える者が多い。その理由として、常に魔力に満ち溢れた体であるため。
その影響で、人間よりも頑丈である。
「まぁ、仕方ないよ。ここは”あっち”とは違うし。それに、私が撃った弾丸は特別に魔人特化にして、霊力を高めておいたから」
「容赦ねぇ~」
この子がこっち側の人間でよかった~。
「まぁいいや。そのまま眠りな。お前には後で色々と聞くことがあるからな」
「くそっ...」
そこで、倒れ伏した魔人は気を失った。
なんとか作戦通り行ってくれてよかった。
「ふぅ。悠莉もお疲れ様。人形の方は大丈夫か?」
「うん。ちゃんと私の代わりとして授業に出てるよ」
悠莉の土を操る術で、普通の人間同様の姿形をした土塊を作った。
その中に俺の”糸”をつなぐことで、遠くから操ることのできる人形を作り、身代わりとしている。
”こっち”の仕事があるときは毎回この方法で抜け出している。
「ま、とりあえず一件落着。事務所に帰りますかね」
「うん」
今回も掃除屋の仕事は何事もなく終わる。
はずだった...。
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