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対話と食事
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彼からの電話がない。
普段なら、一瞬で出るくせに。こういう時に限って出てこないなんて、本当に何かあったのかもしれない。
そうは思えないが、その考えしか、今は出てこなかった。
私たちは急いで、魔族が逃げた方向へと走った。
「もう、見つかってもおかしくないくらいの距離なんだが...」
「まったく、どこに行ったのよ」
ちょうど、そのタイミングで、目の前で、物音がした。
全員がそのことに気づき、慌てて近づく。
「ふぅ、やっと終わった...。ん?あれ、みんなしてどうしたの?」
案の定、そこには彼、夜桜 幸糸の姿があった。
「どうしたのじゃないわよ。どうして電話に出ないのよ!?」
「電話?...あ!そうだった、俺、スマホ変えたんだよ」
「...ならどうして、同じ電話番号じゃないのよ?」
「え!?スマホって変えても同じ電話番号でいいの?」
「...」
なんだろうか、無性に腹が立ってきた。
「どうしてそんなことも知らないのよ?」
「いや~、スマホを変える時、面倒で、毎回買ってたんだよね」
「毎回?」
「うん、俺どうしても週一くらいでスマホ壊しちゃうんだよね」
「壊したスマホは?」
「知人に渡して、解約だのなんだのしてもらってる」
「...ならその人にスマホを変えてもらいなさいよ!」
やはり、彼はどこか頭のねじがとんでしまっている。
「ごめんごめん。どうせなら自分で選びたいじゃん」
「まったく、とりあえず無事でよかったわ。ところで、こっちに魔族が来なかった?数体逃しちゃったのよ」
「あ~、それってこいつら?」
すると、幸糸は自分の手で握り潰していた魔族の頭を見せつけてきた。
「げ...、なんてひどい姿にしてんのよ」
「いや~、いきなり襲い掛かってきたもんだから、加減できなくて」
暗くて分からなかったが、月の光が木の葉の間から差すと、彼の姿が露わになると、全身が赤黒い液体で染まっていた。
そして、その傍らには数体の魔族が粉々になって、散らばっていた。
「ま、とりあえず今回の戦闘はこれにて終いとしまして、帰りましょうかね」
「分かりました、処理班呼んでおきますね」
「じゃあ、僕は備品の回収に行ってくるね」
「私は、帰りの車を待ってるね~」
「お前も片づけを手伝え」
「え~、ななくんのけち~」
各々が、初めての経験を積んでいる中、まるで経験者のように動いている。
元がいいのか、成長のスピードが早いのか。その両方か。
まぁ、結局はどちらもなのだろう。
「とう。お疲れ様」
「...お疲れ様」
肩を叩かれたが、今はそれが心地いいほどに疲れていた。
互いに、賞賛の言葉を言い合う。
疲れて、眠たい体。今にも倒れてしまいそうだが、そんな体を無理矢理動かし、帰路に就く。
♢
「さて、お前は何か知っているのか?アタリー」
「...あなたが生きているって情報は本当だったようだね、”運命の糸”」
透禍たちが来る数分前、俺は襲い掛かって来た魔族数体とそれを指揮する一人の女を討滅した。
女は、魔人であり、俺の知り合いであった。厳密に言えば、女ではなく、木の塊なのだが。
今日はやけに昔の知り合いと出くわすな。しかも、特に顔を見たくなかった者でもあった。
「そりゃそうだろう。あれくらいで俺が死ぬとでも?」
「他の連中は死んだけど?」
「...」
俺は手に力を入れる。
「あらあら、痛い痛い。怒っているのかしら?」
「まさか、お前とは長い付き合いだからな。そろそろ決着を付けようと思ってな」
アタリー。魔族の軍に所属し、長年俺と戦ってきた因縁の相手である。
こっちで言うところの、隊長。天谷さんのような役職に就いており、単純に強い。
彼女は生半可な攻撃では殺すことができないから。
彼女が扱う術は簡単に言えば、操り人形。自分で作った物、そうして命を与えた物を操ることができる。
今俺が握っているアタリーも木でできた人形であり、壊すことはできても、殺すことはできない。
俺はそれを知ってなお、手に力を入れ、相手の頭を強く握る。
今、俺の手には、首から上、アタリーの頭だけが残っている。逆に、首から下、胴体は周辺に飛び散っており、原型を留めていない。
「随分と腕を上げたようで。それにしても、なんであなたがこっちにいるのよ?どうやって世界を渡ったの?」
「企業秘密だ」
「相変わらず秘密主義者なのは変わらないのね。変わったのはその口調だけ」
「...」
昔の俺を知っている者は本当に面倒だ。
あまり思い出したくない記憶、過去。昔の俺は幼稚すぎるガキだった。
いや、今もガキのまんまか。なんか自覚すると悲しくなってきた。
「それよりも、そっちの情報を教えてもらおうか」
「あなたは私の質問に答えなかったくせに?」
「言えば、次は本気で殺りあってもいいぞ?」
「何を聞きたいの?」
こいつはバカな戦闘狂だからな。
ほんと、単純なやつは相手がしやすい。
「とりあえず、一つだけ。どうせ、お前もそれくらいしか話してくれないからな」
「私のこと理解してくれるのは、あなただけよ」
「気持ち悪い、近づこうとするな」
体がないのに、腕が自身の体に纏わりつくような感覚がして気分が悪い。
「はぁ...。お前らはなんでこっちに来れてんだよ?」
「ん?そんなのはあなたでも分かるでしょ?彼のおかげよ」
「そういうことじゃない」
「?」
「お前ら、”あれ”に触れただろ」
「...」
”あれ”。俺が直接名を呼ぶことができないモノ。
ならば、相手はそれが何かなんてすぐに分かる。
こいつらが例え、あの男の力を借りたとしても、世界を渡るのはほぼ不可能だ。
もし、こいつらが”あれ”を手に入れているのなら、次はないかもしれない。
「そういうこと。それは——」
そこで俺はすぐさま後ろを振り返る。
後ろから足音。先に続く、魔族の隊か。いや、この足音は透禍たちのものだ。
それを理解すると、俺は術を使い始める。
「くそっ。ここまでか、それじゃあまたな」
「え、ちょっとまだ話が終わってn——」
ぐしゃ。
話はそこで終わり、回想もここで終わる。
♢
初めての隊での戦闘から数日。
その間、異界の扉が開かれることはなく、俺たちの授業もある程度、簡単な訓練で終わっていた。
ある日の昼。俺たちは一緒になって昼食をとることになった。
場所は教室。五人で机と椅子を囲い合っての昼食となった。
出会って数日、約一か月の間だが、かなり仲が深まったのだろう。
「幸糸はそれだけでお昼足りるの?」
「あぁ、俺はあんまり食べないな。自分でも思うけど、かなりの少食だからな。俺は菓子パン一つと缶コーヒーだけで十分だな」
「逆に僕はかなり食べないと足りないな~。授業中とかはかなり苦痛だもん」
「ってことはまだまだ伸びそうだな」
なんだか、一人おいてかれそうだ。
いつのまにか、七星だけ百八十の高身長イケメンになってそうだ。
そうなったら、なにか悪戯してやろ——。
「...」
急激な寒さが伝わってきて、俺はすぐさまその考えを振り払った。
「それよりも七星、あれをなんとかした方がいいんじゃないか?」
「あ~。僕らに出来ることは見守っていることだけだよ」
「慣れてるな~」
俺たちは同じ方向を、遠い目で見ながら食事をしていた。
その方向で起こっていることは...。
「え!?なにその可愛いお弁当」
「ふふん!当たり前だよ。なにせこれは私が作ったんだから」
「さっすが、悠莉。料理とかも出来るんだ」
「...それはいいから、いい加減食べてもいい?」
「ちょっと待って!写真とるから」
やはり、一応は女子である。こういったことには目がないらしい。
食事を一緒にとろうと言い始めたのは彼女たちだからな。
まったく、俺にとっては眩しすぎて直視できない。
いや、単純に周りの注目を集めていて恥ずかしい。
今までのことを考えれば、まぁ、こういうのも悪くないのかもしれない。
昼といったら、空き教室とか、鏡月のところで過ごしていたからな。
ただ、やっぱり今の俺にここは少し窮屈かもしれない。
「じゃ、俺は飯食い終わったから。用事を済ませに行ってくるわ」
「あ...。うん、分かった」
お前らの厚意には感謝するが、とりあえずは退散。
まぁ、ちゃんとした食事はまたその内にでも。
俺は一人で教室から出ていった。
普段なら、一瞬で出るくせに。こういう時に限って出てこないなんて、本当に何かあったのかもしれない。
そうは思えないが、その考えしか、今は出てこなかった。
私たちは急いで、魔族が逃げた方向へと走った。
「もう、見つかってもおかしくないくらいの距離なんだが...」
「まったく、どこに行ったのよ」
ちょうど、そのタイミングで、目の前で、物音がした。
全員がそのことに気づき、慌てて近づく。
「ふぅ、やっと終わった...。ん?あれ、みんなしてどうしたの?」
案の定、そこには彼、夜桜 幸糸の姿があった。
「どうしたのじゃないわよ。どうして電話に出ないのよ!?」
「電話?...あ!そうだった、俺、スマホ変えたんだよ」
「...ならどうして、同じ電話番号じゃないのよ?」
「え!?スマホって変えても同じ電話番号でいいの?」
「...」
なんだろうか、無性に腹が立ってきた。
「どうしてそんなことも知らないのよ?」
「いや~、スマホを変える時、面倒で、毎回買ってたんだよね」
「毎回?」
「うん、俺どうしても週一くらいでスマホ壊しちゃうんだよね」
「壊したスマホは?」
「知人に渡して、解約だのなんだのしてもらってる」
「...ならその人にスマホを変えてもらいなさいよ!」
やはり、彼はどこか頭のねじがとんでしまっている。
「ごめんごめん。どうせなら自分で選びたいじゃん」
「まったく、とりあえず無事でよかったわ。ところで、こっちに魔族が来なかった?数体逃しちゃったのよ」
「あ~、それってこいつら?」
すると、幸糸は自分の手で握り潰していた魔族の頭を見せつけてきた。
「げ...、なんてひどい姿にしてんのよ」
「いや~、いきなり襲い掛かってきたもんだから、加減できなくて」
暗くて分からなかったが、月の光が木の葉の間から差すと、彼の姿が露わになると、全身が赤黒い液体で染まっていた。
そして、その傍らには数体の魔族が粉々になって、散らばっていた。
「ま、とりあえず今回の戦闘はこれにて終いとしまして、帰りましょうかね」
「分かりました、処理班呼んでおきますね」
「じゃあ、僕は備品の回収に行ってくるね」
「私は、帰りの車を待ってるね~」
「お前も片づけを手伝え」
「え~、ななくんのけち~」
各々が、初めての経験を積んでいる中、まるで経験者のように動いている。
元がいいのか、成長のスピードが早いのか。その両方か。
まぁ、結局はどちらもなのだろう。
「とう。お疲れ様」
「...お疲れ様」
肩を叩かれたが、今はそれが心地いいほどに疲れていた。
互いに、賞賛の言葉を言い合う。
疲れて、眠たい体。今にも倒れてしまいそうだが、そんな体を無理矢理動かし、帰路に就く。
♢
「さて、お前は何か知っているのか?アタリー」
「...あなたが生きているって情報は本当だったようだね、”運命の糸”」
透禍たちが来る数分前、俺は襲い掛かって来た魔族数体とそれを指揮する一人の女を討滅した。
女は、魔人であり、俺の知り合いであった。厳密に言えば、女ではなく、木の塊なのだが。
今日はやけに昔の知り合いと出くわすな。しかも、特に顔を見たくなかった者でもあった。
「そりゃそうだろう。あれくらいで俺が死ぬとでも?」
「他の連中は死んだけど?」
「...」
俺は手に力を入れる。
「あらあら、痛い痛い。怒っているのかしら?」
「まさか、お前とは長い付き合いだからな。そろそろ決着を付けようと思ってな」
アタリー。魔族の軍に所属し、長年俺と戦ってきた因縁の相手である。
こっちで言うところの、隊長。天谷さんのような役職に就いており、単純に強い。
彼女は生半可な攻撃では殺すことができないから。
彼女が扱う術は簡単に言えば、操り人形。自分で作った物、そうして命を与えた物を操ることができる。
今俺が握っているアタリーも木でできた人形であり、壊すことはできても、殺すことはできない。
俺はそれを知ってなお、手に力を入れ、相手の頭を強く握る。
今、俺の手には、首から上、アタリーの頭だけが残っている。逆に、首から下、胴体は周辺に飛び散っており、原型を留めていない。
「随分と腕を上げたようで。それにしても、なんであなたがこっちにいるのよ?どうやって世界を渡ったの?」
「企業秘密だ」
「相変わらず秘密主義者なのは変わらないのね。変わったのはその口調だけ」
「...」
昔の俺を知っている者は本当に面倒だ。
あまり思い出したくない記憶、過去。昔の俺は幼稚すぎるガキだった。
いや、今もガキのまんまか。なんか自覚すると悲しくなってきた。
「それよりも、そっちの情報を教えてもらおうか」
「あなたは私の質問に答えなかったくせに?」
「言えば、次は本気で殺りあってもいいぞ?」
「何を聞きたいの?」
こいつはバカな戦闘狂だからな。
ほんと、単純なやつは相手がしやすい。
「とりあえず、一つだけ。どうせ、お前もそれくらいしか話してくれないからな」
「私のこと理解してくれるのは、あなただけよ」
「気持ち悪い、近づこうとするな」
体がないのに、腕が自身の体に纏わりつくような感覚がして気分が悪い。
「はぁ...。お前らはなんでこっちに来れてんだよ?」
「ん?そんなのはあなたでも分かるでしょ?彼のおかげよ」
「そういうことじゃない」
「?」
「お前ら、”あれ”に触れただろ」
「...」
”あれ”。俺が直接名を呼ぶことができないモノ。
ならば、相手はそれが何かなんてすぐに分かる。
こいつらが例え、あの男の力を借りたとしても、世界を渡るのはほぼ不可能だ。
もし、こいつらが”あれ”を手に入れているのなら、次はないかもしれない。
「そういうこと。それは——」
そこで俺はすぐさま後ろを振り返る。
後ろから足音。先に続く、魔族の隊か。いや、この足音は透禍たちのものだ。
それを理解すると、俺は術を使い始める。
「くそっ。ここまでか、それじゃあまたな」
「え、ちょっとまだ話が終わってn——」
ぐしゃ。
話はそこで終わり、回想もここで終わる。
♢
初めての隊での戦闘から数日。
その間、異界の扉が開かれることはなく、俺たちの授業もある程度、簡単な訓練で終わっていた。
ある日の昼。俺たちは一緒になって昼食をとることになった。
場所は教室。五人で机と椅子を囲い合っての昼食となった。
出会って数日、約一か月の間だが、かなり仲が深まったのだろう。
「幸糸はそれだけでお昼足りるの?」
「あぁ、俺はあんまり食べないな。自分でも思うけど、かなりの少食だからな。俺は菓子パン一つと缶コーヒーだけで十分だな」
「逆に僕はかなり食べないと足りないな~。授業中とかはかなり苦痛だもん」
「ってことはまだまだ伸びそうだな」
なんだか、一人おいてかれそうだ。
いつのまにか、七星だけ百八十の高身長イケメンになってそうだ。
そうなったら、なにか悪戯してやろ——。
「...」
急激な寒さが伝わってきて、俺はすぐさまその考えを振り払った。
「それよりも七星、あれをなんとかした方がいいんじゃないか?」
「あ~。僕らに出来ることは見守っていることだけだよ」
「慣れてるな~」
俺たちは同じ方向を、遠い目で見ながら食事をしていた。
その方向で起こっていることは...。
「え!?なにその可愛いお弁当」
「ふふん!当たり前だよ。なにせこれは私が作ったんだから」
「さっすが、悠莉。料理とかも出来るんだ」
「...それはいいから、いい加減食べてもいい?」
「ちょっと待って!写真とるから」
やはり、一応は女子である。こういったことには目がないらしい。
食事を一緒にとろうと言い始めたのは彼女たちだからな。
まったく、俺にとっては眩しすぎて直視できない。
いや、単純に周りの注目を集めていて恥ずかしい。
今までのことを考えれば、まぁ、こういうのも悪くないのかもしれない。
昼といったら、空き教室とか、鏡月のところで過ごしていたからな。
ただ、やっぱり今の俺にここは少し窮屈かもしれない。
「じゃ、俺は飯食い終わったから。用事を済ませに行ってくるわ」
「あ...。うん、分かった」
お前らの厚意には感謝するが、とりあえずは退散。
まぁ、ちゃんとした食事はまたその内にでも。
俺は一人で教室から出ていった。
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