罪の花と運命の糸

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会議と人影

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 なぜ俺がこのように、軍の隊に参加させてもらい、実戦をさせるのか。
 もちろん、彼女らの戦闘勘を育ててもらい、本職の隊員さんたちに教わってもらうためだ。
 そして、もう一つ。大事な理由がある。それは...。

「俺が忙しくなるのが嫌だから」
「は?」
「お前らが優秀なのは知っているが、やはり人にものを教えることほど大変なことはない。そこで、俺はやはり軍の人たちにお前らの担当をしてもらえるような授業を組んだという訳さ」
「...——そんなことで軍の隊にわざわざお願いしたの!?」
「その通り」
「...なんだかもう、呆れて来たわ」

 なんと呆れられてしまった。そのまま透禍たちは『なんだいつものことか』と、そそくさと俺を置いて行ってしまった。
 俺はそこに追いつこうとせず、見送ると、自動販売機で炭酸飲料を買うと、すぐ隣にあるベンチに腰かけた。
 冷えた液体を勢いよく体へ流し込む。炭酸で喉を痛めながら、俺は窓の外の景色へと目をやった。
 実際、俺も自分の言動にあまり好感が持てていない。だが、嫌ってはいない。
 いつかの時、数多くの人たちが俺にそうしてくれたように。俺も誰かを救える自分に変わりたいから。
 彼女の、彼女らの意志を引き継いで。この両手から零れてしまいそうなほどに貰った恩を返してもらうために。
 
「とはいえ、今更ながら俺も少々鈍ってきたし、俺は俺で鍛錬でもしてこようかなっと」

 俺は椅子からすっくと立ち上がると、空になったボトルをゴミ箱へと入れ、透禍たちが行ったのと逆の方向の訓練場へと歩みを進める。
 ちなみに、俺が自分の言動に好感が持てない理由は一つ。それは、嘘をつくこと。


 ♢


 私たちは今、軍の基地に数多ある会議室の内の一つで作戦を立てていた。
 今回は、この授業のために、特別編成された隊での行動となる。天谷さん、七星くん、紅璃、悠莉、私の五人での隊。
 私と悠莉、天谷さんは今まで同じ隊として一緒に戦ってきた。しかし、七星くんと紅璃は戦闘経験も隊としての戦いも知らない。
 それを補うために、二人はこの隊の先輩である二人に軍の戦いというものを教わっていた。

「いいな~。二人は代わりの人材が見つかって。俺だけが仕事だなんて」
「そんなことを未来ある若者の前で言わないでくださいよ」
「まぁ、気持ちが分からないでもないけれど」

 私が所属している隊の隊員、副隊長の四季 秋奈さんと先輩隊員の菊明 光人さん。
 二人はもともとこの隊で活動していたが、今回の授業の影響で、代わってもらう他なく、しばらくの仮休暇となった。
 そのため、天谷さん一人だけが休みを貰えておらず、嘆いているのだ。
 正直、学生の前で発していい言葉ではない。けれど、そう言えないほどに天谷さんは多忙な人であるから仕方ない。
 よくよく考えれば、私たちの隊長ってすごい人だということを思い直した。
 隊長でありながら、軍の参謀や書類整理など、上から下までのほぼ全ての仕事をこなしている。
 普通に考えたら、かなりの凄腕上司だ。どうしたら、そんな生活ができるのか。もはや生活が仕事と言っても過言ではない。

「コホンッ。とまぁ、俺のことは軍の雑巾だと思ってくれてかまわない。何か質問や提案があればずけずけと言ってくれ。変に上司だという考えがあると、戦場などで命に関わるからな」
「安心してください。彼らはそんなことは気にしないタイプです」
「知ってる。事前に夜桜から聞いていたからな。ただまぁ、せっかくだ。いずれ軍に入る若者たちに先輩面をしてもいいだろう?」

 まぁ、私たちの隊長は優秀ではあるが、性格は少々いい加減だ。しかし、それも含めて、彼のカリスマ性の有様だろう。

「さてと、早速だが今日、これからゲートが開くとの情報があった。それに俺たちの隊が行くことになったから、準備を進めておくように」
「はい、分かりました」

 なんとも、タイミングがいいと言っていいのか。
 何か嫌な予感がする、と言うとフラグを建てることになるため、心の中に留めておこう。
 私たちは各々の速さで会議室をあとにした。電気を落とすと、部屋は静かに閉じられた。


 ♢

 
 時はほんの少し、会議が終わってから十時間ほどが経った。
 やはり、時の流れとはなんとも早いものだ。
 今は時計の針が夜の十二時を指す手前。
 これから、彼女ら生徒の初めての実戦となる予定である。
 まぁ、初めてではない者が半分以上であるが、生徒の授業としては初なのだから、気を引き締めて行うのがいいだろう。
 それよりも、この胸から離れない嫌な予感が、俺の頭に警鐘を鳴り響かせている。

「はぁ、もうなるようになっちまえ」

 すべてが面倒に思えてきて、思考が投げやりになる。
 透禍たちが戦った、前回の状況から考えると、敵も少なからず、本腰を入れてきたということ。
 あまり、悠長に構えていると、寝首を掻かれてしまうかもな。
 まぁ、実際どうにかなるだろう。なんたって、こっちには優秀な術士がいるのだからな。

「四人とも、調子はどうだ?」

 俺は各々がこれから起きることに準備をしている中、邪魔に入る。

「もちろん!逆にわくわくしてきて、体が震えてきたところだよ」
「それ、緊張してね?」

 なんか、怖くなってきた。俺の信頼を裏切らないでくれよ。

「まぁ、大丈夫じゃないかな?僕も紅璃は割と本番は強い方だから」
「わお、七星が言うとそんな気がしてきた」

 さっすがイケメン。言葉の重みが違う。
 まぁ、俺も言葉の重みはある方だけど。

「二人はいつも通りって感じ?」

 今度は、すでに実戦経験がある二人に話しかけてみる。
 しかし...。

「...」
「...あれ?二人ともどうしたの?体調でも悪い?」
「...二人を怪我させたら、私は自害での謝罪を」
「私は一生二人の世話役、いや、奴隷として働かしてもらおうかな」
「あちゃ~、変な方に行ってるな」

 実戦経験がある先輩であるがために、新参者の後輩二人を気遣っている。
 二人とも途轍もないほどに優しいからな。だが、これは少々過剰の域に差し掛かっている気がする。

「まぁ、やる気があるのはいいことか。二人ともほどほどに頑張ってね」
「...」

 無視されたわけじゃないよね?
 すでに二人は集中しきって、声が届いていない。
 戦闘になれば、いつも通りに戻ると思うから、まぁいいか。

「さてと、そろそろ俺は離れるよ。あとは頑張ってね」

 腕時計に目をやり、もうすぐ、十二時になることを確認する。
 その言動で、もう時間だということを読み取り、四人は天谷さんが待機している方向、俺が進む方向とは逆の方向へと歩いて行った。
 魔族たちが現れる扉は、大抵が森や山、海などといった自然界の中に発現する。
 理由としては、やつらが使う力、”魔力”はこの世には存在しない。その力が少しでも使えるようにするには、やつらの”世界”に近い、自然の中でしか扉を開くことができなかったから。
 やつらの世界には”科学”という力はない。あるのは、よどんだ空気くらいなものだろう。
 あまり言うと、やつらにも可哀そうだろう。それほどに、あの”世界”は死んでいる。
 この話を他の人に話したことが何回かある。そのたびに、どうしてそんなことを知っているのかを聞かれたことがある。
 これは毎回答えているから、隠すようなことではない。
 自分で言うのもあれだが、毎回嘘を平気でしている俺が言っても、信憑性に欠ける。
 そのため、たまに真実を言っても、信じられたことがあまりない。
 まぁ、だからこの答えは毎回、事実を述べている。
 少し逸れたが、答えは簡単。
 実際にそれらを”見てきた”から。俺は何度か世界を越えたことがある。

「だが、そんなことを言わなくても、お前はそれを信じるだろ。いや、知っているの間違いか」
「...」

 俺は目の前に立ちはだかるその人影に向かって、そう投げかける。
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