罪の花と運命の糸

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苦難と解答

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 対戦の最中、対戦を仕掛けてきたであろう者から途中で対話へと変貌させられてしまった。

「そうだな...。まずは君の疑問から答えていこうか」

 私は予期せずして、臨んだ展開へとなった現状に対して歓喜なのか、困惑なのかどちらに似つくも、似つかないといった感情を抱く。
 またも、彼がいないところで考え、話した内容が筒抜けと言わんばかりの状況に多少イラついてしまう。
 私があなたに一体どれだけの疑問があるのか自覚しているのなら、さっさと話しなさいよね。

「疑問ってのは質問してもいいのよね?この際私の気が済むまで答えてもらうわよ」
「あぁ、いいよ」

 なぜだか案外に素直なところに怪しさを覚えながらも私は質問した。ここで聞かなければ、こういった機会は早々ないと思ったから。

「じゃあ、二つだけでいいわ。この質問だけ真摯に答えて。いい?」
「わかったわかった。で、その質問ってのは?」

 透禍は二つの内、先に聞くべきものを選択する。

「まずは一つ目。あなたの構えについて」
「俺は構えなんてしてなかったと思うけど?」
「確かに、あなたは試験の時も、さっきの対戦の時も構えなんてとらなかった。”そう見えた”。けど実際は構えを取っていた。極限まで集中しなければ分からないほどに細かく、緻密に組んでいた。そして、その構えの基礎にはヒラバナ流の型が滲み出ている」
「...」

 幸糸は無言のまま、何も言わない。そして、透禍は疑問の真なる部分を問う。

「開花家は由緒正しき術士の家系。術やヒラバナ流は代々、家門の中でしか継承させてこられなかった。なら、どうしてあなたはそれを知っているの?」
「...双一楼さんに教わったんだよ」
「また嘘。真面目に答える約束よ。お父さん、現開花家当主も同じで、術や流派を他の人に教える考えは持っていない。その証拠がこの秘匿訓練場でしょ」

 透禍は軍に入る前からこの秘匿訓練場を知っていた。
 この場所は今では術の流出を防ぐための訓練場となっているが、元は双一楼が幼き透禍に術とヒラバナ流を教えるため”だけ”に建てた場所である。
 術の継承を邪魔されないようにするため。盗まれないようにするためだけに軍に一つの大きな訓練場を作るほどだ。そんな人が簡単に開花家ではない者に流派を教えるとは思えなかった。

「...じゃあ、嘘をつかないけど、変な言いがかりはなしだからな」
「は・や・く!」
「はぁ...。俺がヒラバナ流を知っているのは...」
「知っているのは?」
「...“お前”が僕に教えてくれたんだ」
「...え」

 理解が追いつかなかった。
 試験の時に初めて見た彼の動き、先ほどまでの対戦で見た構え。それらに思った疑問の答えをついに明かされた。だが、それは絶対にありえない答えであった。その答えに私自身が関与しているなど、誰が信じるだろうか。
 しかし、その答えを信じる他に私には道がなかった。なぜなら、今までの彼から返ってきた答えが、嘘をついている時に感じられたものが感じられなかったから。
 私は昔からこういった真実や嘘といったものを見分ける力を持っていた。なんとなく、そんな曖昧な勘でしかないものだが、一度たりともそれが間違ったことはない。
 そのため、絶対にありえないと思うような答えなのに、それが嘘だと思えない私は否定しきれなかった。
 その結果が呆けた声となり、体を石化したかのように動けなくさせてしまった。
 そんな私にはその答えを受け入れる他、選択肢がなかった。

「...分かったわ...。なら、それについて詳しく話して!」
「無理。それは問題の解説であって、答えではないから範囲外。よって話せません」
「そんな御託はいいから早く答えて!」
「仮に答えたとしたら、もう一つの質問には答えません」
「なっ!卑怯よ。最初は質問に回数制限なんてなかったのに!」
「自分から二つだけって言い出したんだろ!」

 そんな言いがかり合いをし続けること数刻。結果私が折れる他なく、その答えについて聞くことができなかった。
 どうして疑問を質問したのに、その答えを知ったら新しい疑問が浮かんでくるのだろうか...。
 やっぱり一度ぶっ飛ばした方がいいのかしら。...さっきの対戦の内容からして無理かもしれないけど。
 そんな風に自嘲的な思考をしてしまう。だが、事実なのだからしょうがない。

「はぁ...。はぁ...」
「どうした?そんな溜息ばかりしてると運が逃げるぞ」
「誰のせいだと...」

 一度、静かになってしまうことで、私は今の状況を整理しようとする。
 だが、余計なことまで考えてしまい、気分が更に落ちてしまう。

「...」

 今日、私がここに来た理由。
 自分だけが術の応用、術の強化授業で術を発動できなかったこと。理由は分からない。でも、自分だけがそれを成し得なかった。
 周りの皆、悠莉、七星くん、紅璃は何の苦難もなくそれらを成功させてみせた。
 周りは壁にぶつかることなく、飛び越えていき、自分だけが取り残されてしまった感覚が酷く嫌になる。それは、取り残されたことに対するものではなく、簡単に飛び越えていける力を持っていることに対して嫉妬している自分自身に。
 そんな時に言われたのが、今日の特別授業の話。悔しいが、彼は私なんかよりもよっぽど強い。噂の話とはいえ、”最弱”というイメージに楽観視していた自分を憎むほどに。
 彼に教われば、強くなれると思う。だが、結局のところ、対戦の内容は酷いものだった。
 試験の時は油断していたという考えで、同じ技を使って対戦をし、雪辱を晴らそうと思ったのだが、それは叶わなかった。試験の時の彼は全力ではなかった。そして今回も...。
 特別授業は終わってしまった。私はもうこれ以上強くなれないのかもしれない。
 そう考えると、どうしても、気力が失われてしまい、動けなくなってしまいそうだった。

「私は...」
「...はぁ、そう落ち込むなって」
「でも、もう...」
「授業はこれから、君はこれからもっと強くなれるぞ。なぜなら、俺が強くなれたのは”お前”のお陰だからな」

 なぜだろうか、ただの言葉にすぎないその一言一言によって生まれた力を、刀を納めていた鞘を一際強く握りしめることで自分の心が破裂するのを逃れる。
 
『どうして、君はいつもそんな言葉をかけてくれるの?』
 
 前にも同じような言葉を彼からもらった気がした。
 だがその一秒後、その記憶は綺麗さっぱり消えてしまった。それすらも私は忘れてしまい、残されたのは満ち溢れた気力だけだった。


 ♢


 透禍は俺の言葉を聞くと、安心したような顔をすると急に困惑した顔に変化した。

「ん、どうかしたか?」
「...あれ」
「大丈夫か?」
「え、えぇ。大丈夫よ」

 透禍はそんなことを言っているが、とてもそうには見えなかった。だが、なぜだか彼女のやる気だけは回復したようでよかった。

「で、授業って何をするの?」
「あぁ、そうだったな。じゃあ、まずはおさらいからしよう。透禍は術が使えなかった時に何か違和感を覚えなかったか?」
「違和感?」
「今までも、そして今の戦いでも透禍は術を使用できている。なら、それら術と応用の術にある違いを見つける必要がある」

 透禍の術は完璧に作られている。術を発動させるための動き、その術の鍵言と名。それらを組み合わせ、精霊の力を利用する。透禍の術はそれらをクリアできている。その証拠に精霊の力はちゃんと透禍とその刀へと送られている。
 ならばなぜ、透禍は術を発動できないのか。

「今までの術は開花家から受け継いだ術で、術のオリジナルを作るのは初めて。ならばそこに答えはある。君はこの術を作る時にどんな思いを込めた?」
「思い...」
「霊力はそのものの感情や魂によって異なりが生じてしまう。君が使ってきたヒラバナの術と君が作った術。それは本当に君の思いを背負っているのかい?」
「...」

 透禍はそこで考え込む。
 しばらくすると、そこにいたのは全ての抵抗を振り払うかのような、意志を決意した者がいた。

「もう一度私と戦って」

 彼女は俺なんかよりも強い。状況に臨機応変に立ち向かい、後ろを気にしながらも、前を歩いて行ける。

「あぁ、臨むところだ」

 第二ラウンドの始まりだった。
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