罪の花と運命の糸

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尋問と精霊

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 あれから一週間が経った。
 日常は特に何も変わることはなく、平穏な日々を過ごしていた。
 学校に行き、授業を淡々と受ける。軍の任務があれば、着々と熟す。自主訓練も毎日欠かさずに行う。
 そんな単調な日々であった。

「透禍様、大丈夫ですか?」
「え、えぇ。大丈夫よ」
「そうですか...」
 
 一つ変わったとしたら、気が抜けていること。
 あの日、夜桜 幸糸と対戦した日から。彼は四対一という状況でありながら、勝って見せた。
 試験前、四日間の間に私たちはできる限りの時間を訓練に割いた。その中で分かったことだが、私たちの班はかなり優秀であった。
 悠莉は言わずもがな、全てを託せるほどの冷静な判断能力を持つ。
 七星くんは術の練度が桁違いに高く、どんな状況でも臨機応変に動ける力を持つ。
 紅璃は大きな術を使わない代わりに、術の応用と工夫を加えた攻撃などの特殊な戦闘スタイルを持つ。
 だけど、彼はそれを軽々と越えて見せた。
 入学式当日、一人意識が逸れていた人物。”最弱”と言われている人物。なぜか私に話かけ続けた人物。
 そして、なぜだか視線が行ってしまう人物。
 私の中で彼は何かを占めている。
 試験後、少しだが彼から色々なことが聞けた。だが、その内容の全てに隠し事が含まれている気がする。
 疑問の理由や回答を知ることはできたが、その本質までは話さなかった。
 あえてそうしたのだろうが、それが未だに私の中で渦を巻いている。

「やっぱり、直接聞き出すしかなさそうね」

 たとえ、それが武力行使になってでも聞き出してやる!

「透禍様、カップが壊れてしまいますよ」
「あ」

 危ない危ない、つい手に力が入ってしまった。
 明日は遂に試験後最初の実習授業。つまり、夜桜くんの授業がある。
 まずはお手並み拝見させてもらおうじゃない。


 ♢


 
「術士が術という力を行使するためには、この世界に住む”精霊”と言われる者たちに力を貸してもらう必要がある。基本的に精霊はそこら中にいるため、力を貸してもらわずとも術を行使するためのエネルギーを得ることができる。だが、術の威力、精度、大きさを使いこなすためには精霊の力を貸してもらわなければならない。ここまでで何か質問はあるか?」
「質問です!」
「はい、紅璃さん」
「精霊ってなんですか?」
「...おい、七星。お前の彼女って術士の家系だよな?」
「そのはずなんだけどな~」
「は~...」
「ん?」

 この世には”精霊”と呼ばれる者たちがいる。
 彼らはこの世界に住む生物の中で唯一、異能と呼ばれる能力を使うことが出来る。
 この世界は一分一秒と変革している。一秒前の世界と一秒後の世界、これらを作り出すためのエネルギー。
 精霊たちはこの力を扱うことができ、異能を使うことが出来る。
 異能は風を起こしたり、雨を降らしたりといった自然現象を発現させることができた。
 彼らは何かと共存したり、敵対するでもなく、同じ世界に住んでいるだけの生物。
 精霊は基本的には人に見えることはなく、干渉することも、してくることもない。
 だが、そんな精霊たちを見ることが出来る人物が現れた。
 彼は彼らと過ごしていくうちに、精霊たちが使う異能の力を彼自身も使うことが出来るようになった。
 精霊が身近にいることを知ることで、自然現象だったものが”異能”というものに入れ替わることで、その身に微かだが、精霊と同じ遺伝子が生まれた影響だった。
 だが、同じように世界のエネルギーを扱うことはできず、精霊が集めたエネルギー、”霊力”を貰うことで異能が使うことができた。
 それを術という。そして術を扱うことができるのは同じ遺伝子を持つ術士の家系のみ。
 これがこの世界、精霊、術、術士についての説明となる。

「要するに、精霊は術を使うための力をくれる存在だ。精霊がいることで俺たちは術を使うことができる」
「ほ~、なるほど」
 
 まぁ、今回はしょうがない。だが、次はないから気を付けるんだぞ。

「これは基礎の基礎だから覚えておけよ。特に、”俺の授業”を受けた後には」
「すみません、私からも質問してもいいでしょうか?」
「はい、悠莉さん」
「その授業とは精霊と関係しているんですか?」
「その通り。今回の授業のテーマは術の練度を上げること。これは俺の見解なんだけど、練度ってのは応用のことだと思ってる。つまるところ、術の使い方を増やしたりとか」
「術の使い方を増やす」
「そう、例えば俺の糸術の中に物を引っ張ることができるものがある。こんな風に」

 そう言って、俺はボールペンを五メートル程先に投げる。そしてそれを糸で巻き付け、手元に戻して見せる。

「こうやって物を取ることができる。だけど、これは戦闘時に使えそうにない。普通ならそう思うだろう。だが、引っ張る物が違ったら、例えばそれが刃物や敵の足の場合。引っ張る速さをもっと速くしたら?こんな風に」

 ビュン!

「え...」

 四人が座っている席の後方からすごい速さで物体が四つ、飛んで行った。
 そしてその物体は俺の手元へと。

「こうして、ただ物を引っ張るだけの術、”張糸引”は攻撃手段へと変わることができる。これが、術の応用」
「...って、危ないじゃない!」
「でも分かりやすかったでしょ?」
「そういう問題じゃない!」

 怒られてしまった。講師として分かりやすくしてみたんだけどな。
 まぁ、それは置いておいて。
 
「そして、ここからが本題。精霊との関係になる。こうした術の応用を行う場合、できる限り想像力を上げ、技の完成像を描く必要がある。術を発動させるためには術の名前、それに対応した動きをしなければならない。これは自分が起こしたい術の内容を精霊に知ってもらい、精霊に適格な力を渡してもらうためだ」
「へぇ~、家で習った術の名前と動きにはそんな理由があったんだ」
「紅璃は知らずに習っていたのか」
「うん、とりあえず流されるままに」
「それでよくあんなに細かい術が使えるな」
「それほどでもないよー。なんたって私は天才だからね」
「紅璃、そこまでにしておこうか」
「おっとっと、ごめんごめん」

 七星の抑制で脱線した車両が元に戻される。

「話を戻すけど、結局は応用を使うためにはそれを精霊に汲み取ってもらう必要がある。だからこそ、自分の術を忠実に行うだけの想像力が必要になってくる」
「なるほど、内容は分かりました。それで、具体的にはどんなことをすればいいのですか?」
「あぁ、そこで今回の課題は”お絵描き”だ」
「...はい!?」
「え、お絵描き知らない?」

 最近の若者はお絵描きすらしなくなってしまったのか。
 
「知ってますけど、どうしてお絵描きなんですか?」

 よかった、知っているらしい。お兄さん悲しくなるところだったよ。

「想像力を上げるためには、脳内で考え続けるよりも外にメモしていった方がいいからね。だから、今回は自分で作り出した術を描いてもらおうかと思って」
「それなら、実践場に行ってそのまま術を使ってみればいいじゃないですか」
「即興で作った術だと何が起こるか分からない時があって危険だからね。今回はまず考えることだけをしようと思って」
「でも...」
「いいじゃん、私はお絵描き大好きだよ」
「ちゃんとした理由があるのなら僕も別に構わないかな」
「私も大丈夫ですよ~」
「みんな...」

 透禍がさっきからかなり反論してくる。まぁ、その理由を知っているんだけどね。

「じゃあ、これを描かないと今回の授業の単位はなしな」
「な!?そんなの職権乱用じゃないですか!」
「はい、チェックが入りますよ~?」
「ぐっ...分かりました」
 
 こうして四人はそれぞれ目の前に広げられた白紙の中に自分の色を落としていく。
 さて、どんなことができるようになるのか楽しみだな。
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「罪の花と運命の糸」をお手にとって頂き、ありがとうございます。
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