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初日の出来事
しおりを挟む「新入生の皆さん、改めまして入学おめでとうございます——」
よくある長ったらしく、鬱陶しいと思ってしまう文言。皆誰もが一度は思ってしまう場面。
なにか行事があるたびに、よくあんな長い文を思いつくなと感心してしまう。
まぁ、私も同じようなものかと思い直す。
「続きまして、新入生代表挨拶。開花 透禍さん、お願いします」
壇上に立つと、この場にいるほぼ全員からの視線をその身に受けることが、否が応でも分かってしまう。
さすがにもう慣れたと思ったけど、存外にこれはいつ食らっても緊張するものだと再認識する。
「来賓の皆さま、先生方、先輩方、保護者の皆さま、この春の暖かい日に私たちのためにお集まりいただき、ありがとうございます。そして今日、私と同じく新入生となる生徒の皆さま、これから三年間よろしくお願いします——」
そんなよくある挨拶を淡々と話していく。
正確に言えば、緊張して勝手に淡々となってしまっているだけなのだけれど。
「——頑張っていきたいと思います。...では、以上で新入生代表挨拶を終わりとさせていただきます。ここからは私個人の挨拶をさせていただきます。」
会場中がどよめいたことが分かった。だが、一瞬だったのは私の身分のためか。
「私はこの学校に強くなるために来ました。強くなることで、より多くの被害に対応できるように。私は既に軍に配属していますが、より高みを目指したいと思っています。そのためにも、これからの学校生活を楽しみにしています。以上です、ありがとうございました」
私は降壇し、自分の席へと戻る。
最後に何か気の利いたことを言おうと思ったのだが、結局こんな風に少々固い話になってしまった。
そんなことを悩んでいるうちに入学式、さらに担任の先生の連絡なども終わってしまっていた。
♢
入学式翌日。
今日はそれぞれの授業の第一回目ということで、ほとんどの授業が先生の自己紹介や授業の簡単な説明で終わった。
そんなこんなで、すでに半日が終わってしまった。正確にはあと十分ほどで午前中の授業が終了するのだが、先生が授業内容は終わったからあとは好きにしていいとのことだった。
今は教室の中で生徒達が各々談笑し合っていた。
自分もあの輪の中に入れたらなと思うのだが、なかなか入る勇気が持てないでいる。
そうしてどうしようかと考えているとき、いきなり教室の扉が開く。先生が帰ってきたのかと思い、そちらに視線をやると一人の男子生徒が入ってきた。
『こんな時間に登校?』や、『彼は誰だろう?』といった簡単な疑問が浮かんできた。
するとクラスの中から抑えきれていないのか、わざとなのか、話声が聞こえてきた。
「おい、あんなやついたっけ?」
「あぁ、あいつはあれだよ」
「あれって?」
「”最弱”」
「え、あいつが?そんな奴がこんな時間に登校なんて肝が据わってんな」
更に疑問が浮かぶ。”最弱”?それはいったいどういうことなのか私には分からなかった。
その時、授業終了のチャイムが鳴った。
昼休憩の時間になったため、クラスの者は、学食に行く者、弁当を机の上で広げる者と散り散りになった。
「ねぇ、さっきの教室でのことなんだけど...」
「ん?さっきの...あ~、透禍ちゃんは夜桜くんのこと知らないんだっけ」
私はお弁当箱を持って、校内にある中庭のベンチで友人と共に昼食をとっていた。
彼女は木茎 悠莉。幼い頃、もっと言えば家柄の関係で生まれてからかなりの時間を彼女と一緒に過ごしてきた私の幼馴染である。
だから、友人というよりは姉妹の方が近いような気がする。
そんな彼女は私より世間に詳しいため、さっき教室で起こった出来事について聞いてみた。
そして案の定、彼女は彼について知っているようだ。
「よざくら?それが彼の名前?」
「夜桜 幸糸。糸術士の家系で、糸に運命の力を編み込むことで、時間や空間といった事象に触れることができる」
「え、それって強くない?」
「もしかしたら透禍ちゃんと同じ“最強“格の術士になれたかもね」
「それならどうして”最弱“なんて呼ばれてるの?」
それほどまでの術を持ってなぜ、”最弱”などになっているのか。
「それはその術に少々欠点があるから...」
「欠点?」
「はい、”運命“と言ってはいますが、正確には時間的概念と空間的概念を操ります。それは”運命“が過去や未来の事象ですから。そして、それらは私たち人間が扱うことのできないほどの力です。そのため、基本的に術は使えず、使えたとしても身体が保たないでしょう」
「...そんな」
「そのため、あの家系の糸術士は力を継承することはあっても使うことがなく、結果”最弱”と呼ばれるようになったんです」
「...」
夜桜家がどういうものなのかは分かった。彼がどういう状況なのかも。
だが、私が知りたいことは彼自身について。
なぜだか、彼を見てから心の中に何かざわつく思いが溢れてる。
それが一体何なのか。今の私には分からなかった。
「まぁ、大体分かったわ。それよりも悠莉、話し方がいつもみたいに固くなってる」
「おっと、つい癖でいつもの感じになっちゃうんだよ」
彼女は私の友人であり、姉妹のような人だけどそれに加えて、私の従者という役割を持っている。
木茎家は代々開花家の家来として、私たち家族に尽くしてくれている家系である。
それを私はあまりいい気持ちで受けられることができず、悠莉には友人として接してもらうようにしている。
たよりになる従者でもあり、私にはもったいないほど。
ほんとに恵まれすぎてるな。そう改めてそう実感する。
私たちは昼食をとり終え、教室に戻る。
♢
数時間前。
いつかの日か見たいつかの未来。そこで俺は二つの選択肢を迫られた。
昔の俺はそれを選ぶことができなかったけど、今の俺はそれらどちらかを選ぶことができるだろうか。
「...ん、...また夢か」
よく見ることがある夢。今となっては悪夢と化してきている。
「はぁ、いい加減決めなきゃな」
俺はベッドから起きて着替え始める。
今日から俺は総戦高校に通うことになっているのだが、まともに行かせてくれることはないらしい。
俺のスマホから着信音が軽快に鳴りだす。
「もしもし」
「あ、もしもし~?依頼を頼みたいのだけど——」
「知ってる」
「あら、それならよろしく~」
「あいよ」
そんな短い会話。俺にとってはもう日常茶飯事であり、慣れてしまった。
午前中に終わらせなきゃな。
俺は朝食も取らずに急いで家を出る。
♢
この世界には次元を切り開き、その中からこの世を奪おうとする連中がいる。
それらから世界を守るため、ここ”日本東京都立総合戦闘術育成専門高等学校”、通称、総戦高校。
ここではそれらに対抗できるだけの力を身に着けるために年々数多くの術士がこの学校にやって来る。
そして俺も例に漏れずこの学校に入学することになった。
今日からそんな新生活が始まるはずだったのだが。
視線がすげ~。
今朝の依頼のせいで初日から遅刻というよく聞く展開。教室に入るやいなや、生徒たちがこちらを見てくる。
とりあえず自分の席に着くが、着いた瞬間に授業終了のチャイムが鳴り、昼休みの時間へとなる。
そういえば朝食を食べてなかったから腹減ったな。今日は弁当を作ってきてないし、どうするか。
視線は気になるものの、そこまで酷い視線は感じられないため、今の自分に必要な栄養補給兼、休憩時間をどうしようかと一人悩む。
とりあえず購買にでも行こうかな。まだ何かしら残っているだろう。
そして俺は今座ったばかりの席を立ち、購買がある方を一度見てから、逆の方向へと歩き始める。
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