碧ヶ岳の気まぐれな短編特集

緋い瞳

「…リサ！クラリサ！クラリサ・ラ・ルー！」
　何やら聞き覚えのある声がして、クラリサ・ラ・ルーは目を覚ました。
「…揚羽？」
　親友の名を呟きクラリサは目を覚ました。白睫毛に縁取られた緋い瞳が露わになる。
「もうレッスン終わったわよ。全く、今日のレッスンの先生が優しいミス・カレンだったから良かったものの、明日はミスター・スミスの数学なんだからちゃんと家で寝なさい」
「はぁい、お母さん…」「私は揚羽です！」
　ここは全国有数の子息たちが集う名門私立学園。そこに通う少女クラリサは、この学園史上おそらく一番珍しい「庶民」の出であった。
　クラリサは、世にも珍しい緋い瞳を持つ少女。その理由は、でぃーえぬえーのさいぼうかくがどうたらこうたらというのを説明しなければならないので省くが、緋い瞳を持った「特異体質」の少女は、政府により特別待遇を受けているのである。もっとも、この少女の研究のためという下心は丸見えなのであるが、こんな眼をした自分を受け入れてくれる学校や職場はこの世にないということをクラリサはわかっているので、満二十歳までの残り四年の人生を満喫しているのである。
「なんで緋い眼だと寝る時間が常人の一，五倍になるんでしょうね」
　クラリサが生活している政府の施設にクラリサを送るため、坂を登りながら揚羽はふとつぶやいた。彼女のアーモンド色の眼が太陽の光に反射してきらりと光る。
「さあね」
　クラリサがから返事をしながら小さくあくびをした。
「じゃ、また明日」
「じゃあね」
　手を振り替えした揚羽の、茶色いコンタクトにまぎれた緋い瞳が煌めいた。