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勇者?いいえ魔王補佐です
人のふりをする魔族もいるらしい
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「おーいアレックス、入って良いか?」
「おいそれ聞くのか?お前なら顔パスだよヴラド。……て、後のは?」
「ああ、俺の親戚。しばらく王都で暮らすんだよ。」
そうか、と呟きアレックスと呼ばれた門番はにっこり笑って大きく声を張り上げた。
「ようこそ水の都市ヴィネリーアヘ!歓迎するよ御両人!」
門を潜った先に見えたのは、大きな川だった。
透き通った美しい大河に行き来する細長い船。橋はなく、どうやら全て船で移動するらしい。
大河の先のは大きな滝が存在しており、まるでその滝に守られているかのように美しい白亜の城が君臨していた。
「……すごい。」
住んでいた帝国と全く違う神秘的な光景にヴィクトールは思わず息を呑んだ。そんなヴィクトールに小さく笑ってヴラド__何を隠そう、人に化けた西公は答えた。
「そうかねぇ?南公の別荘の方がすっごいぞー?あいつ海の底に氷の城建ててるんだぜ?」
「いやそれも凄いですけど……人間が、こんな建物を作れるんですね……。」
「……見たところ、あれは水の天幕で城を守っているようだな。上手い作りだ。魔法で作られた水は毒や病に犯されることはない。水不足で死ぬ人間もいなくなるだろう。」
命が守られるのは、良いこだ。そう愛おしそうに目を細める魔王にヴィクトールは虚を突かれる。
ついで、ヴィクトールの頬も知らずに綻んだ。
__この人は、本当に優しい人なのだと。
「……そうですね、陛下。」
「今はルルと呼べ……ん、読んでください。」
「かしこまりました。ルル。」
一般人がその口調だと可笑しいと気がついたらしく、頑張って普通の言葉を使おうとする姿に思わず笑みが零れる。
なんというか、妹(弟?)が出来た気分だ。魔王の方が遥かに年上なのは理解しているが。
「イチャイチャするのも良いけどおじさんを無視しないでねー。と、まずはおじさんの家に行こっか。」
その言葉にヴィクトールは思わず首を傾げた。それに面白そうにその青灰色の目を細めて西公は口を開いた。
「そ、俺__ヴィネリーア所属Sランク冒険者“ヴラド”の家にな。」
西公の王国での拠点は思ったよりも大きく豪勢だった。
貴族の家と言っても可笑しくないほどの美しく大きな家、否邸宅。Sランクなら当然とも言えるが__
「何考えているんですか西公様!?人間社会で貴方が地位を上げるとか……色んな意味で自殺行為ですよ!?」
「落ちつきなされ若いの。あ、お菓子食べる?」
「これが落ち着いていられますか!!あ、お菓子は貰いますこれすっごく美味しいです。」
モグモグと一心不乱に出された茶菓子を頬張る魔王のために紅茶を淹れながらツッコミを入れるヴィクトールを微妙な顔で見ながら西公は微笑んだ。
「いやね?おじさんも別に何にも考えずにここにこうしているわけじゃないよ?考えてごらん?冒険者はどこにいても不思議じゃないし情報を集めるには最適さ。ここは帝国とは距離を置いているから俺の正体が露見する可能性は低いしなにより魔族の領地に近い。ほら、理にかなっているだろう?」
それに、と呟いて西公はヴィクトールが淹れた紅茶を啜りながら口を開いた。
「人間の国で暮らす魔族は結構多いんだぞ、ねえ陛下?」
「……は?」
「むぐ、ん、そう、だな。この屋敷の使用人は『全員』魔族だ。」
その言葉にヴィクトールは思わず絶叫した。それに大声で笑いながら魔王は続ける。
「まあそれ程多くはないがな、人のふりをする魔族は。けど、……魔族の中には、どうしても弱い個体がいる。そいつらに魔族の中で暮らすのは無理だ。弱い奴は自然と淘汰されてしまうから。」
「……あ、そう、でした。」
文化的な生活を送っているとはいえ、魔族はやはり力こそが正義。その力がないものは魔族の中では生きられない。
そのことに悲しくなって目を伏せるヴィクトールに笑いかけて西公は続けた。
「だからこーしておじさんが働ける場所確保してんだよなー。ここなら皆正体知ってるから気軽だし、『俺』という監視もいるから変な気も起こさない。一石二鳥だろ?」
納得したか?と問いかけてくる西公に頷いてヴィクトールはため息をつく。
__やっぱり自分は、まだまだだ。
「……ま、まだ坊ちゃんは若いからねー。勿論人間としてだよ?ゆっくり成長してきゃあいいさ。なぁに、人間のゆっくりは魔族に取っちゃ一瞬だ。気負う必要も無いよ。」
ヘラと笑いながら慰めてくれるその声が嬉しくて、ありがとうございますと答えながらそれでもこの人達の役に立ちたいとヴィクトールは静かにそう思った。
「おいそれ聞くのか?お前なら顔パスだよヴラド。……て、後のは?」
「ああ、俺の親戚。しばらく王都で暮らすんだよ。」
そうか、と呟きアレックスと呼ばれた門番はにっこり笑って大きく声を張り上げた。
「ようこそ水の都市ヴィネリーアヘ!歓迎するよ御両人!」
門を潜った先に見えたのは、大きな川だった。
透き通った美しい大河に行き来する細長い船。橋はなく、どうやら全て船で移動するらしい。
大河の先のは大きな滝が存在しており、まるでその滝に守られているかのように美しい白亜の城が君臨していた。
「……すごい。」
住んでいた帝国と全く違う神秘的な光景にヴィクトールは思わず息を呑んだ。そんなヴィクトールに小さく笑ってヴラド__何を隠そう、人に化けた西公は答えた。
「そうかねぇ?南公の別荘の方がすっごいぞー?あいつ海の底に氷の城建ててるんだぜ?」
「いやそれも凄いですけど……人間が、こんな建物を作れるんですね……。」
「……見たところ、あれは水の天幕で城を守っているようだな。上手い作りだ。魔法で作られた水は毒や病に犯されることはない。水不足で死ぬ人間もいなくなるだろう。」
命が守られるのは、良いこだ。そう愛おしそうに目を細める魔王にヴィクトールは虚を突かれる。
ついで、ヴィクトールの頬も知らずに綻んだ。
__この人は、本当に優しい人なのだと。
「……そうですね、陛下。」
「今はルルと呼べ……ん、読んでください。」
「かしこまりました。ルル。」
一般人がその口調だと可笑しいと気がついたらしく、頑張って普通の言葉を使おうとする姿に思わず笑みが零れる。
なんというか、妹(弟?)が出来た気分だ。魔王の方が遥かに年上なのは理解しているが。
「イチャイチャするのも良いけどおじさんを無視しないでねー。と、まずはおじさんの家に行こっか。」
その言葉にヴィクトールは思わず首を傾げた。それに面白そうにその青灰色の目を細めて西公は口を開いた。
「そ、俺__ヴィネリーア所属Sランク冒険者“ヴラド”の家にな。」
西公の王国での拠点は思ったよりも大きく豪勢だった。
貴族の家と言っても可笑しくないほどの美しく大きな家、否邸宅。Sランクなら当然とも言えるが__
「何考えているんですか西公様!?人間社会で貴方が地位を上げるとか……色んな意味で自殺行為ですよ!?」
「落ちつきなされ若いの。あ、お菓子食べる?」
「これが落ち着いていられますか!!あ、お菓子は貰いますこれすっごく美味しいです。」
モグモグと一心不乱に出された茶菓子を頬張る魔王のために紅茶を淹れながらツッコミを入れるヴィクトールを微妙な顔で見ながら西公は微笑んだ。
「いやね?おじさんも別に何にも考えずにここにこうしているわけじゃないよ?考えてごらん?冒険者はどこにいても不思議じゃないし情報を集めるには最適さ。ここは帝国とは距離を置いているから俺の正体が露見する可能性は低いしなにより魔族の領地に近い。ほら、理にかなっているだろう?」
それに、と呟いて西公はヴィクトールが淹れた紅茶を啜りながら口を開いた。
「人間の国で暮らす魔族は結構多いんだぞ、ねえ陛下?」
「……は?」
「むぐ、ん、そう、だな。この屋敷の使用人は『全員』魔族だ。」
その言葉にヴィクトールは思わず絶叫した。それに大声で笑いながら魔王は続ける。
「まあそれ程多くはないがな、人のふりをする魔族は。けど、……魔族の中には、どうしても弱い個体がいる。そいつらに魔族の中で暮らすのは無理だ。弱い奴は自然と淘汰されてしまうから。」
「……あ、そう、でした。」
文化的な生活を送っているとはいえ、魔族はやはり力こそが正義。その力がないものは魔族の中では生きられない。
そのことに悲しくなって目を伏せるヴィクトールに笑いかけて西公は続けた。
「だからこーしておじさんが働ける場所確保してんだよなー。ここなら皆正体知ってるから気軽だし、『俺』という監視もいるから変な気も起こさない。一石二鳥だろ?」
納得したか?と問いかけてくる西公に頷いてヴィクトールはため息をつく。
__やっぱり自分は、まだまだだ。
「……ま、まだ坊ちゃんは若いからねー。勿論人間としてだよ?ゆっくり成長してきゃあいいさ。なぁに、人間のゆっくりは魔族に取っちゃ一瞬だ。気負う必要も無いよ。」
ヘラと笑いながら慰めてくれるその声が嬉しくて、ありがとうございますと答えながらそれでもこの人達の役に立ちたいとヴィクトールは静かにそう思った。
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