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魔王様のお望みのままに
聖剣の取り扱いにはご注意を
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魔王補佐ヴィクトールは悩んでいた。
目の前には豪奢でありながら繊細な細工をこれでもかと凝らされた美しい長剣が置かれており、まるでヴィクトールにその本体を振るわれるのを待ち望んでいるかのようにその剣身を輝かせている。
「……魔王陛下。」
「………どうしたヴィー。」
「これ捨てちゃ駄目ですかね?」
その言葉に、まるで言語を解しているかのように長剣がガタガタと震え始める。それはまるで必死の抗議にも見え、苛立ちの余りヴィクトールは思わず舌打ちをしてしまった。
「……人間に拾われたら色んな意味で厄介だから却下だ。あとヴィー、舌打ちは己の品位を下げるから止めておいた方が良い。」
「申し訳ありません陛下の前で大変な失礼を……!このヴィクトールなんと申し開きすれば!この聖剣を折るのでどうかお許しを……!」
「……折りたいんだな、どうしても……。」
「それはもうこの上なく。」
激しくなる元仕事道具の抗議に青筋を立てながらヴィクトールはにっこりと完璧なロイヤルスマイルを浮かべ今までの鬱憤を晴らすかのように捲し立て始めた。
「この駄女神の加護という名の駄女神が憑いてるがこの性剣(笑)のせいで俺がどんだけ精神削られたのか教え差し上げましょうか!?『力が欲しければ私と交わえ』ってどんだけ欲求不満なんだよ女神!!だいたい剣とどうヤれと!?しかも勇者選定の基準が初代皇帝に似てるか否かですよ!?泣きたくもなりますし捨てたくもなりますし折りたくもなります!!」
「何やってるんだ人間界の女神は。」
ちなみにずっとそれこそストーカー並みに夢に進入してきた聖剣()は魔王の居城で厳重に封印されているせいなのか加護の力を発揮できずただガタガタ震える剣と化し、ここ最近のヴィクトールは快眠絶好調である。絶対魔王陛下を裏切らないと誓った要因の一つである。
「というわけで折って良いですか?」
「まて、聖剣…と思いたくないが……というか唯一この我を殺せる武器である聖剣(一応)が我が軍にあるのは長い歴史の中で初のことだ。あるうちに徹底的に調べておきたい。」
「伏せ字が隠しきれてませんよ陛下!…あれ?確か歴代の勇者は魔王様を封印する代わりにこの世を去ったと聞いているのですが、なぜ魔王軍に聖剣があるのが初なのですか?」
そう、勇者はその命を犠牲に魔王を封印する存在である。封印すればするほど魔王の力は弱くなり、対して例え死んでも次の勇者は必ず強くなるという魔王側からしてみれば『お前らふざけんじゃねーぞ?』と言いたくなる性能を持つのが勇者軍勢である。
そんな勇者のパートナー()である聖剣、勿論勇者の死に際にも存在したはずである。なのに、魔王の居城に、軍にもたらされたのは初めて、どういうとこだ?
「……我が勇者を始末した途端神殿に帰るのだ。テレポートで。そして次の勇者が産まれたらどこまでもついて行く。」
「うわ何それ気持ち悪いにも程があります。」
気持ち悪いが逆に言うと勇者であるヴィクトールが死なない限りこの聖剣は魔王軍にあり続けるということで、聖剣がなければ新たな勇者が帝国から送られてくることも無い。……なんだ。
「なら陛下!『これ』技術部に届けてきますね!徹底的に調べてもらいます!」
「……一応我の勅命状も持っていけ。その方が簡単にすむ。」
「仰せのままに!」
より一層腕の中でその身を震えさせる聖剣を軽く無視して、ヴィクトールはとびきりの笑顔を浮かべて歩きだす。
ようやく、これで勇者という肩書を全て捨て去ることができると信じて。
「そういえば陛下って専用の武器持ってないんですか?魔剣とか。」
「あるぞ。我等が魔族の守護神にして月の女神の加護を受けた魔剣がな。」
「え、それって……。」
「安心しろ。どこぞの脳内お花畑太陽駄女神とちがってかの女神は純粋に力を貸してくれてるだけだ。第一処女神だぞ?」
「安心しました。」
「まあその前に魔族に生殖機能などないがな。」
「え。」
「え?」
今日も魔王城は平和です。
目の前には豪奢でありながら繊細な細工をこれでもかと凝らされた美しい長剣が置かれており、まるでヴィクトールにその本体を振るわれるのを待ち望んでいるかのようにその剣身を輝かせている。
「……魔王陛下。」
「………どうしたヴィー。」
「これ捨てちゃ駄目ですかね?」
その言葉に、まるで言語を解しているかのように長剣がガタガタと震え始める。それはまるで必死の抗議にも見え、苛立ちの余りヴィクトールは思わず舌打ちをしてしまった。
「……人間に拾われたら色んな意味で厄介だから却下だ。あとヴィー、舌打ちは己の品位を下げるから止めておいた方が良い。」
「申し訳ありません陛下の前で大変な失礼を……!このヴィクトールなんと申し開きすれば!この聖剣を折るのでどうかお許しを……!」
「……折りたいんだな、どうしても……。」
「それはもうこの上なく。」
激しくなる元仕事道具の抗議に青筋を立てながらヴィクトールはにっこりと完璧なロイヤルスマイルを浮かべ今までの鬱憤を晴らすかのように捲し立て始めた。
「この駄女神の加護という名の駄女神が憑いてるがこの性剣(笑)のせいで俺がどんだけ精神削られたのか教え差し上げましょうか!?『力が欲しければ私と交わえ』ってどんだけ欲求不満なんだよ女神!!だいたい剣とどうヤれと!?しかも勇者選定の基準が初代皇帝に似てるか否かですよ!?泣きたくもなりますし捨てたくもなりますし折りたくもなります!!」
「何やってるんだ人間界の女神は。」
ちなみにずっとそれこそストーカー並みに夢に進入してきた聖剣()は魔王の居城で厳重に封印されているせいなのか加護の力を発揮できずただガタガタ震える剣と化し、ここ最近のヴィクトールは快眠絶好調である。絶対魔王陛下を裏切らないと誓った要因の一つである。
「というわけで折って良いですか?」
「まて、聖剣…と思いたくないが……というか唯一この我を殺せる武器である聖剣(一応)が我が軍にあるのは長い歴史の中で初のことだ。あるうちに徹底的に調べておきたい。」
「伏せ字が隠しきれてませんよ陛下!…あれ?確か歴代の勇者は魔王様を封印する代わりにこの世を去ったと聞いているのですが、なぜ魔王軍に聖剣があるのが初なのですか?」
そう、勇者はその命を犠牲に魔王を封印する存在である。封印すればするほど魔王の力は弱くなり、対して例え死んでも次の勇者は必ず強くなるという魔王側からしてみれば『お前らふざけんじゃねーぞ?』と言いたくなる性能を持つのが勇者軍勢である。
そんな勇者のパートナー()である聖剣、勿論勇者の死に際にも存在したはずである。なのに、魔王の居城に、軍にもたらされたのは初めて、どういうとこだ?
「……我が勇者を始末した途端神殿に帰るのだ。テレポートで。そして次の勇者が産まれたらどこまでもついて行く。」
「うわ何それ気持ち悪いにも程があります。」
気持ち悪いが逆に言うと勇者であるヴィクトールが死なない限りこの聖剣は魔王軍にあり続けるということで、聖剣がなければ新たな勇者が帝国から送られてくることも無い。……なんだ。
「なら陛下!『これ』技術部に届けてきますね!徹底的に調べてもらいます!」
「……一応我の勅命状も持っていけ。その方が簡単にすむ。」
「仰せのままに!」
より一層腕の中でその身を震えさせる聖剣を軽く無視して、ヴィクトールはとびきりの笑顔を浮かべて歩きだす。
ようやく、これで勇者という肩書を全て捨て去ることができると信じて。
「そういえば陛下って専用の武器持ってないんですか?魔剣とか。」
「あるぞ。我等が魔族の守護神にして月の女神の加護を受けた魔剣がな。」
「え、それって……。」
「安心しろ。どこぞの脳内お花畑太陽駄女神とちがってかの女神は純粋に力を貸してくれてるだけだ。第一処女神だぞ?」
「安心しました。」
「まあその前に魔族に生殖機能などないがな。」
「え。」
「え?」
今日も魔王城は平和です。
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