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神隠しの怪
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「あ、こんなところにいた!」
草むらから飛び出してきた小さな男の子は不思議そうにきょろきょろと周囲を見渡した後、天狗の彼に駆け寄りその太ももにぴったりと寄り添った。
その手には犬の形をしたぬいぐるみが大事そうに抱えられている。
すりすりと頬を天狗の彼に擦り寄せながら、にぱ、と花の咲くような笑顔を浮かべるその子。
見た目からして……幼稚園児くらいだろうか?
「あれ? けがしてるの? だいじょーぶ?」
「お、おい。今すぐ戻れ。下がっていろ」
なにやら慌てた様子の天狗の彼がそう言うが、男の子は意に介す様子もなくこちらをちらりと見やると、また笑顔になった。
「あ、わんわんだ! かわいいー!」
両手を広げてバディに駆け寄ろうとしたその男の子を天狗の彼はそっと抱き上げる。
「やだー! わんわんさわるのー!」
「こら暴れるな! ダメだったら!」
「やーだーあ!」
小さなその子は天狗の顔を手のひらでぐいぐいと押し、こちらに駆け出そうと暴れていた。
何が起こっているかわからずぽかんとしているとバディが少しズレたキャスケットを被り直す。
「ほら、言ったろう。火のない所に煙は立たぬ、とね」
するといつの間にか僕の腕の中で寛いでいたミケが迷惑そうに顔をくしゃりと歪ませた。
「火どころか炎上騒ぎですよ、旦那。あんな小さな子供がこんなところで、しかも天狗に懐いてるなんて」
ふいとこちらを見上げたミケと目が合う。
「お兄さん、流石にあれは弟さんじゃないですよね……?」
「あ、当たり前だろ。高校生だぞ」
「そんじゃあこの噂は弟さんとは関与してないってことですねぇ。どうしましょう、旦那、お兄さん。最初に奴さんに言われた通り、とんずらしますかい?」
好機は今しかないかも知れませんえ、と続けた彼。
確かに逃げるなら今かもしれないけど……。
「でも、あの子は? 僕と同じ、ちゃんと生きてる人間、なんだよね……?」
あの男の子がどういった経緯で天狗とともに居るのかはわからない。
でも、もしかしたら自分と同じように、あの子を大切に思う誰かがあの子を探している可能性は十分にある。
「あの子を置いて、このまま帰るなんてできないよ」
大切な人を見失う悲しみは、知っているつもりだから。
「ですって、旦那。今回の依頼人は随分お人好しのようですねぇ」
「ふふ、そのようだね。だが私好みの勇敢な答えだ」
どこか楽しそうに笑う彼らの心理がわからず首を傾げると、バディの額がこつんと頬に当たった。
ふわりと、コーヒーと少しだけキセルの煙の匂いがする。
彼は少しの間そうしたあと、笑みを浮かべながらゆっくりと離れていった。
「茜は下がっていなさい。ミケ、やつが向かってきたら頼むぞ」
「へえ。まあ奴さん、子守で一杯一杯みたいですがねぇ」
泣きじゃくる男の子を必死の形相であやしている天狗の彼を、ミケは鋭く睨みつける。
続いてバディが一歩前に出ると、男の子はそれに気がついたのか泣き止み、涙目のまま笑顔を浮かべた。
「まさか天狗隠しをこの目で見られるとは。長生きはするものだね」
バディの言葉に、天狗の彼は不愉快そうに眉を顰め、低く唸る。
「憶測でものを言うのは関心しないな。探偵なら尚更だ。この子供は此方側に迷い込んでいたところを保護しただけなのだから」
「その割には随分よく懐いているね。まるで何年も一緒に過ごしたかのようだ」
「ずっと親を探してやっていた」
「それは素晴らしい。ところで、金色堂のお菓子は気に入ってもらえたのかい?」
「……貴様」
「そう怖い顔をしないでおくれよ。私は君と争いたいわけじゃない。話をしたいんだ。その子供にも危害を加えたりする気はない。約束するよ」
「連れに俺の腕を噛ませておいてよく言えたものだな」
「それは申し訳ないことをした。だが、君はいきなり私の大切な依頼人を人質に取った。お互い様だと思わないか?」
バディの言葉に、ぐ、と天狗の彼は言葉を飲む。
「その子供を親元に帰す気があるのなら、私の話を聞いてはくれないか?」
「……わかった。だが、妙な真似をしたら容赦しないからな」
相変わらず腕の中でもだもだと暴れている男の子の悲鳴と、天狗の彼は小さなため息が森の中に鳴り響いた。
◆ ◇ ◆ ◇
「こいつと出会ったのは、ほんのすこし前だ」
さらりとした風が頬を撫でる。
天狗の彼に倣って太い木の幹に腰掛けると、ぎしりと歪む音がしたが、老木に見えるそれは案外しっかりと体重を支えてくれた。
「山の麓から泣き声が聞こえてな。妖怪の類かと思ったんだが念のため確認しに行ったんだ。そしたら、こいつが転がって泣きじゃくっていた」
ちらりと天狗の彼が腕の中に視線を落とす。
そこには暴れ疲れたのか静かに寝入ってしまった男の子が大切そうに抱えられていた。
「それでとりあえず、子供が好きそうな菓子を買ってやったんだ。そうしたら懐かれてしまってな」
そう話す彼の目は優しく、愛おしいものを見るようで。
「人間は脆い。放っておいたら勝手に死んでしまいそうで片時も目を話すことが出来なくてな。かといって俺には変化の術もないし、こいつを現世に連れていくのもなかなか難しく二の足を踏んでいたところだ」
「へんげのすべ……?」
知らない言葉を思わず鸚鵡返しすると天狗の彼は、ああ、と呟く。
「お前たち人間が俺たちという存在をどう思っているかは知らんが、基本的に俺たちは知名度があればあるほど人間に認知されやすいんだ」
「え、えっと、つまり有名な妖怪であればあるほど僕たちに気付かれやすい……ってこと、ですかね?」
「そうだ。そもそも妖怪の強さや存在感というのは信仰の厚さ、つまり"どれだけ存在を知られているか"に帰属する。私のような広く一般にも知られている妖怪はお前たちの世界で忍ぶのは難しいんだ。猫や犬のように現世にも居る生き物の姿をしているか、化け狐のように人間に化ける能力があれば別だが、生憎俺はそのどちらも持たないのでな」
なるほど。
確かに天狗といえば、名を聞いたら大体の人が姿を想像できるくらいの有名な妖怪だ。
今の時代、うっかり写真に取られてその存在を知らしめてしまったら……大変なことになるかもしれない。
まあCG技術の進化がどうとかで誤魔化せるかもしれないけど、不安要素は取り除くに越したことはない。
「どうしようもなく、とりあえずこの子供の世話を焼いていたというわけだ」
よく見たら天狗の彼の顔は随分げっそりとしていて、子育ての大変さが伺えた。
頑張ったんだな……なんて、ほろりとしているとずっと膝の上にいたミケが小さく笑って、僕の肩をよじ登る。
「そんなこと言って、案外本当に"天狗攫い"しようとしてたんじゃありませんかえ?」
くすくすと悪戯っぽく笑うミケを天狗の彼はぎろりと睨みつけた。
ミケはと言うと僕の肩の上で丸まりながら、おお怖い怖い、なんて楽しそうに笑っている。
「もう。やめなよ、ミケ」
「へえへえ、すんまへん」
あまり反省の色が見えないけど……。
「なるほどね。状況は大体わかったよ」
と、空気感を変えるようなタイミングでバディが少し大きめにそう声を上げた。
「とにかく、君にはその子を親元に返すつもりがあるということでいいのだろう?」
そう続いた彼の言葉に、天狗の彼はこくりと頷く。
するとバディは落ち着けていた腰を上げ、こちらにちらりとだけ視線をやった。
「では私たちでその子の帰るべき場所を見つけるとしよう。それでいいかな」
「ああ。お願いしたい」
ぺこり、と頭を下げた天狗の彼にバディは笑みを浮かべる。
「承った。さて、じゃあ早速情報集めと行きたいところだけど……茜、あの子の情報を集めるのになにか良い手を思いついたりはしないかい?」
「え、僕……?」
「私は生憎、最近の現世については疎くてね。どうやらとても便利な時代になっているんだろう? なんだっけか、えーっと……いんたーねっと? とやらで調べたりできないだろうか」
バディは博識でなんでも知っていると思っていたが、どうやら最近の情報化社会文化には疎いらしい。
少しおじさんくさい"インターネット"の発音に思わず少し笑ってしまった。
「確かに弟を探す時、警察署のホームページに情報を記載するって言われたことがあるよ。この子の情報ももしかしたら載ってるかもしれない」
「それは本当か? それでその、"ほおむぺえじ"とやらはどうやって見ればいいんだい?」
……ダメだ、バディが慣れない横文字を喋ると、見た目の可愛さとそれに対する声のギャップも相まって思わず笑いそうになってしまう。
「旦那、お兄さん。そんなまどるっこしいことしなくてもさっさとあのガキンチョを警察に届けてやればいいんじゃないですかえ?」
割って入ってきたミケの言葉に、確かに、と頷きかけたが、すぐ天狗の彼が首を横に振った。
「それはだめだ」
「え?」
「先程見た通り、こいつは俺の傍を離れたがらない。少々懐かれすぎてしまったようでな……。嫌がる子供を無理やり警察に連れ込んだりしたら最悪、そこの人間が誘拐犯と疑われても文句は言えないぞ」
……それは困るなあ。
「自然に家に帰れるようにするか、もしくはこの子を探している人物と引き合わせないといけないということだね。どちらにせよ情報が必要だな」
むむ、となにやら考え込んでいたバディがふいと顔を上げる。
「茜、とりあえずは最初に言った通り、あの子の情報を集めよう」
「じゃあ、えっと……事務所にパソコンはなさそうだから、僕の家に行こうか」
スマホで見てもいいんだけど、生憎家に忘れてきてしまったのでどちらにせよ一度帰らなければいけない。
「では善は急げというし、早速向かおう。何かわかったら報告に来るよ」
「ああ、宜しく頼んだ」
今度は深々と頭を下げた天狗の彼に手を振り、僕たちは山を後にした。
草むらから飛び出してきた小さな男の子は不思議そうにきょろきょろと周囲を見渡した後、天狗の彼に駆け寄りその太ももにぴったりと寄り添った。
その手には犬の形をしたぬいぐるみが大事そうに抱えられている。
すりすりと頬を天狗の彼に擦り寄せながら、にぱ、と花の咲くような笑顔を浮かべるその子。
見た目からして……幼稚園児くらいだろうか?
「あれ? けがしてるの? だいじょーぶ?」
「お、おい。今すぐ戻れ。下がっていろ」
なにやら慌てた様子の天狗の彼がそう言うが、男の子は意に介す様子もなくこちらをちらりと見やると、また笑顔になった。
「あ、わんわんだ! かわいいー!」
両手を広げてバディに駆け寄ろうとしたその男の子を天狗の彼はそっと抱き上げる。
「やだー! わんわんさわるのー!」
「こら暴れるな! ダメだったら!」
「やーだーあ!」
小さなその子は天狗の顔を手のひらでぐいぐいと押し、こちらに駆け出そうと暴れていた。
何が起こっているかわからずぽかんとしているとバディが少しズレたキャスケットを被り直す。
「ほら、言ったろう。火のない所に煙は立たぬ、とね」
するといつの間にか僕の腕の中で寛いでいたミケが迷惑そうに顔をくしゃりと歪ませた。
「火どころか炎上騒ぎですよ、旦那。あんな小さな子供がこんなところで、しかも天狗に懐いてるなんて」
ふいとこちらを見上げたミケと目が合う。
「お兄さん、流石にあれは弟さんじゃないですよね……?」
「あ、当たり前だろ。高校生だぞ」
「そんじゃあこの噂は弟さんとは関与してないってことですねぇ。どうしましょう、旦那、お兄さん。最初に奴さんに言われた通り、とんずらしますかい?」
好機は今しかないかも知れませんえ、と続けた彼。
確かに逃げるなら今かもしれないけど……。
「でも、あの子は? 僕と同じ、ちゃんと生きてる人間、なんだよね……?」
あの男の子がどういった経緯で天狗とともに居るのかはわからない。
でも、もしかしたら自分と同じように、あの子を大切に思う誰かがあの子を探している可能性は十分にある。
「あの子を置いて、このまま帰るなんてできないよ」
大切な人を見失う悲しみは、知っているつもりだから。
「ですって、旦那。今回の依頼人は随分お人好しのようですねぇ」
「ふふ、そのようだね。だが私好みの勇敢な答えだ」
どこか楽しそうに笑う彼らの心理がわからず首を傾げると、バディの額がこつんと頬に当たった。
ふわりと、コーヒーと少しだけキセルの煙の匂いがする。
彼は少しの間そうしたあと、笑みを浮かべながらゆっくりと離れていった。
「茜は下がっていなさい。ミケ、やつが向かってきたら頼むぞ」
「へえ。まあ奴さん、子守で一杯一杯みたいですがねぇ」
泣きじゃくる男の子を必死の形相であやしている天狗の彼を、ミケは鋭く睨みつける。
続いてバディが一歩前に出ると、男の子はそれに気がついたのか泣き止み、涙目のまま笑顔を浮かべた。
「まさか天狗隠しをこの目で見られるとは。長生きはするものだね」
バディの言葉に、天狗の彼は不愉快そうに眉を顰め、低く唸る。
「憶測でものを言うのは関心しないな。探偵なら尚更だ。この子供は此方側に迷い込んでいたところを保護しただけなのだから」
「その割には随分よく懐いているね。まるで何年も一緒に過ごしたかのようだ」
「ずっと親を探してやっていた」
「それは素晴らしい。ところで、金色堂のお菓子は気に入ってもらえたのかい?」
「……貴様」
「そう怖い顔をしないでおくれよ。私は君と争いたいわけじゃない。話をしたいんだ。その子供にも危害を加えたりする気はない。約束するよ」
「連れに俺の腕を噛ませておいてよく言えたものだな」
「それは申し訳ないことをした。だが、君はいきなり私の大切な依頼人を人質に取った。お互い様だと思わないか?」
バディの言葉に、ぐ、と天狗の彼は言葉を飲む。
「その子供を親元に帰す気があるのなら、私の話を聞いてはくれないか?」
「……わかった。だが、妙な真似をしたら容赦しないからな」
相変わらず腕の中でもだもだと暴れている男の子の悲鳴と、天狗の彼は小さなため息が森の中に鳴り響いた。
◆ ◇ ◆ ◇
「こいつと出会ったのは、ほんのすこし前だ」
さらりとした風が頬を撫でる。
天狗の彼に倣って太い木の幹に腰掛けると、ぎしりと歪む音がしたが、老木に見えるそれは案外しっかりと体重を支えてくれた。
「山の麓から泣き声が聞こえてな。妖怪の類かと思ったんだが念のため確認しに行ったんだ。そしたら、こいつが転がって泣きじゃくっていた」
ちらりと天狗の彼が腕の中に視線を落とす。
そこには暴れ疲れたのか静かに寝入ってしまった男の子が大切そうに抱えられていた。
「それでとりあえず、子供が好きそうな菓子を買ってやったんだ。そうしたら懐かれてしまってな」
そう話す彼の目は優しく、愛おしいものを見るようで。
「人間は脆い。放っておいたら勝手に死んでしまいそうで片時も目を話すことが出来なくてな。かといって俺には変化の術もないし、こいつを現世に連れていくのもなかなか難しく二の足を踏んでいたところだ」
「へんげのすべ……?」
知らない言葉を思わず鸚鵡返しすると天狗の彼は、ああ、と呟く。
「お前たち人間が俺たちという存在をどう思っているかは知らんが、基本的に俺たちは知名度があればあるほど人間に認知されやすいんだ」
「え、えっと、つまり有名な妖怪であればあるほど僕たちに気付かれやすい……ってこと、ですかね?」
「そうだ。そもそも妖怪の強さや存在感というのは信仰の厚さ、つまり"どれだけ存在を知られているか"に帰属する。私のような広く一般にも知られている妖怪はお前たちの世界で忍ぶのは難しいんだ。猫や犬のように現世にも居る生き物の姿をしているか、化け狐のように人間に化ける能力があれば別だが、生憎俺はそのどちらも持たないのでな」
なるほど。
確かに天狗といえば、名を聞いたら大体の人が姿を想像できるくらいの有名な妖怪だ。
今の時代、うっかり写真に取られてその存在を知らしめてしまったら……大変なことになるかもしれない。
まあCG技術の進化がどうとかで誤魔化せるかもしれないけど、不安要素は取り除くに越したことはない。
「どうしようもなく、とりあえずこの子供の世話を焼いていたというわけだ」
よく見たら天狗の彼の顔は随分げっそりとしていて、子育ての大変さが伺えた。
頑張ったんだな……なんて、ほろりとしているとずっと膝の上にいたミケが小さく笑って、僕の肩をよじ登る。
「そんなこと言って、案外本当に"天狗攫い"しようとしてたんじゃありませんかえ?」
くすくすと悪戯っぽく笑うミケを天狗の彼はぎろりと睨みつけた。
ミケはと言うと僕の肩の上で丸まりながら、おお怖い怖い、なんて楽しそうに笑っている。
「もう。やめなよ、ミケ」
「へえへえ、すんまへん」
あまり反省の色が見えないけど……。
「なるほどね。状況は大体わかったよ」
と、空気感を変えるようなタイミングでバディが少し大きめにそう声を上げた。
「とにかく、君にはその子を親元に返すつもりがあるということでいいのだろう?」
そう続いた彼の言葉に、天狗の彼はこくりと頷く。
するとバディは落ち着けていた腰を上げ、こちらにちらりとだけ視線をやった。
「では私たちでその子の帰るべき場所を見つけるとしよう。それでいいかな」
「ああ。お願いしたい」
ぺこり、と頭を下げた天狗の彼にバディは笑みを浮かべる。
「承った。さて、じゃあ早速情報集めと行きたいところだけど……茜、あの子の情報を集めるのになにか良い手を思いついたりはしないかい?」
「え、僕……?」
「私は生憎、最近の現世については疎くてね。どうやらとても便利な時代になっているんだろう? なんだっけか、えーっと……いんたーねっと? とやらで調べたりできないだろうか」
バディは博識でなんでも知っていると思っていたが、どうやら最近の情報化社会文化には疎いらしい。
少しおじさんくさい"インターネット"の発音に思わず少し笑ってしまった。
「確かに弟を探す時、警察署のホームページに情報を記載するって言われたことがあるよ。この子の情報ももしかしたら載ってるかもしれない」
「それは本当か? それでその、"ほおむぺえじ"とやらはどうやって見ればいいんだい?」
……ダメだ、バディが慣れない横文字を喋ると、見た目の可愛さとそれに対する声のギャップも相まって思わず笑いそうになってしまう。
「旦那、お兄さん。そんなまどるっこしいことしなくてもさっさとあのガキンチョを警察に届けてやればいいんじゃないですかえ?」
割って入ってきたミケの言葉に、確かに、と頷きかけたが、すぐ天狗の彼が首を横に振った。
「それはだめだ」
「え?」
「先程見た通り、こいつは俺の傍を離れたがらない。少々懐かれすぎてしまったようでな……。嫌がる子供を無理やり警察に連れ込んだりしたら最悪、そこの人間が誘拐犯と疑われても文句は言えないぞ」
……それは困るなあ。
「自然に家に帰れるようにするか、もしくはこの子を探している人物と引き合わせないといけないということだね。どちらにせよ情報が必要だな」
むむ、となにやら考え込んでいたバディがふいと顔を上げる。
「茜、とりあえずは最初に言った通り、あの子の情報を集めよう」
「じゃあ、えっと……事務所にパソコンはなさそうだから、僕の家に行こうか」
スマホで見てもいいんだけど、生憎家に忘れてきてしまったのでどちらにせよ一度帰らなければいけない。
「では善は急げというし、早速向かおう。何かわかったら報告に来るよ」
「ああ、宜しく頼んだ」
今度は深々と頭を下げた天狗の彼に手を振り、僕たちは山を後にした。
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