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疑惑
しおりを挟む戦争かあ…怖いな。それに、あの白昼夢?三の方と会わないといけない気がする。いや、私はそれより元の世界に帰る方法を…。うーん。でも、色んな人に会った方が方法も見つかるかもしれないし?
紅葉は亜子と里子の居ない隙を見計らうと、城の裏庭に来ていた。
何処かに抜け道とか、無いかな?3の国への行き方なんて知らないし、危険だって分かってる。それでも、壱刄に言えば止められちゃうよね。
キョロキョロと視線を移しながら、塀を探る。
「…どうしましたか?」
「あ…えっと。」
塀をよじ登ろうかと考え始めた紅葉に、背後から突然声が掛かった。
どうしよう、見つかった…?!って…うわあ~。美人な人。
栗色の髪を編み込み背に流し、キリリとした表情に小さく笑みを浮かべる清廉な美女。斎女と似た衣服だが、スカートは短く下はピッタリとしたズボンを履いている。
「初めまして。私は、1の国侍従長を務めております、流華と申します。紅神子様とお見受けしますが、どうされましたか?」
うっ、ばれてたんだ。まあ、まさか全くバレずに来られるわけないと思ったけど。
自分の浅薄さに少し落ち込みつつ、壱刄の侍従長を眺めてみる。
ケイラさんと同じ立場かあ…壱刄ってば、こんな綺麗な人が側に居たんだ。
驚く紅葉は何故か、心臓にチクリと痛みを感じていた。
ん?何だろう、今の。
首を傾げて胸を抑え、流華の視線に慌てて顔を向ける。
「…あの、ちょっと散歩でもしようかと。」
おずおず言うと、相手は気にする様子も無くニコリと笑う。
「左様でございますか。それでは、お供をさせて頂いてもよろしいですか?」
「…は、はい。」
うう、逃亡失敗か。
内心ホロリと涙を溢し、流華を連れて歩き出す。
「流華、は…壱刄とはどれぐらい一緒に居るんですか?」
亜子にあれだけ言われたし、呼び捨てにした方が良いよね?
スラリとした美しい女性を横目に、何か話さなければと浮かぶ疑問を口にする。
「はい。一の方様が成人されてからですので、60年はお仕えしております。」
にこやかな美女の言葉に紅葉は「へえー。」と目を見開く。
「60年…やっぱり、十神衆って普通の人とは違うんですね。」
「その十神衆を唯一従えるのが、貴女様だけなのですよ?」
ふふっと、流華の楽しげな笑みがこぼれる。
そう言われても。神子って…今いち実感ないんだもん。
「…壱刄は…。」
思わず紅葉の口から滑り落ちた。
「…壱刄は、そんなに紅神子を待ってたんだ。」
そんなに長い時間、紅葉を待っていたのだろうか。
いつ来ぬとも知れぬ〈モミジ〉を。
「今は、貴女様がいらっしゃいます。」
考えの読めない瞳で紅葉を見つめる流華に、少し居心地が悪くなる。
「…紅神子様が居られない時、氷の様に冷たい方でした。喜怒哀楽など見たことが無い。ただ日々の義務をこなす方。」
壱刄の自分への態度を思い返し、紅葉にはただ驚き想像すら出来ない。
「…異性には恐ろしい程潔癖でしたね。まあ、最悪の場合には、私がお慰め致しましたが…。」
え?
瞬間、紅葉は鈍器で頭を殴られた様な衝撃を受けた。その流華の言い方で、中学生の紅葉も理解するのは十分な物だった。
え?だって?私、をずっと待ってったって…。
紅葉の中の、もう一人の自分が荒れ狂う。
どうして?どうして?どうして?
目を伏せた紅葉に、それを気づかぬ流華は探るような視線を向けていた。ふと、紅葉の顔が上がる。流華の予想に反し、紅葉は至極変わらぬ表情で笑みさえ浮かべる。
「お話ししてくれて、ありがとうございました。もう、そろそろ部屋に戻りますね。」
「左様でございますか。いえ、私も共に過ごせ大変光栄にございました。」
何とか返事をした紅葉は、部屋に送られる間も笑みを崩さずにこやかに別れた。何か言ってこようとする亜子を部屋から出し、扉を背に座り込む。
『お慰め致しました』
その言葉がぐるぐると頭を回る。暫く、それだけをぼんやりと考え込む。
やっぱり、私だけを愛する人がいるはずないんだ。
三の方も、偽物を好きみたいだし。壱刄も、流華としてるんだ。もう、日本に帰りたいよ。
膝を抱え考え込んでいると、扉が叩かれる。浮かぶ涙を拭い、ゆっくりと扉を開いた。
「…はい?」
「モミジ、失礼致します。どうかしましたか?部屋から出ないと聞いて…ご気分でも?」
美しい顔を心配事そうに眉を下げ、紅葉をいとおしそうに見つめる人。一番信頼していたのに、今は一番会いたくない。堪えていたものが、また溢れていく。
「…モミジ?!どうしました?誰かに何か言われましたか?」
それを見た壱刄は、慌てて紅葉を抱き寄せ胸に抱くと優しく背中を撫でる。
(もしもこの方を傷つけた者を見つけたら、末代まで根絶やしにしてやろう)
ぎゅっと紅葉を抱き締める壱刄だが、紅葉の行動で思考が止まってしまう。
「離して。」
思ったより無機質な声を発し、壱刄を押し返す。勿論普通なら紅葉の力で離せる筈も無いが、愛しい人の拒絶に壱刄は固まる。
「…モミジ?」
「明日、私を3の国に送って欲しい。」
偽神子のメイド長なら、私が来た方法を知ってるかも?会ってみよう。
「…モミジ、一体なにが?」
視線を会わせようともしない相手に、壱刄の不安は募るばかり。
「…もう、壱刄と一緒に居たくない。」
室内に、紅葉の悲痛な声が響いたのだった。
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