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思考の荒波
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戦争?
穏やかで無い内容に戸惑う紅葉に気付いた亜子が、直ぐに廊下で話す者を追い払い声が聞こえなくなる。
「…大丈夫でございますよ。戦など、そう簡単に起きる事などありません…どうぞ、お心安らかにお過ごし下さい。」
そう言うと紅茶を淹れてくれ、紅葉は胸のモヤモヤを感じながら紅茶を口にする。
そう、だよね?戦争なんて…。
平和な世界から来た紅葉にとって、簡単に想像は出来ないが、一般の人に危害が及んだらと少し不安になってきた。
亜子が片付けで出ていき、休息を薦められ寝台に横になる。記憶は無いと言え、自分の先祖が関係を持っていた者が争い会う。
あまり良い気分では無い。
どうして…ずっと気分が落ち着かない。三の方など、自分を殺そうとしたのだ。心配する義理はないのに。私にとって大事な事は、元の世界に戻る事だけ。それだけなのに。
「……?!痛っ。」
その時、頭が割れる様な痛みに襲われる。
何これ?
ガンガンと揺れる頭を押さえていると、視界がぼやけた。
……
『一言、言っておこうと思って…貴方を側室に入れる気は無いわ。』
自然と自分の唇が動く。目の前に居る美しい男性は、目を見張って呆然としていた。
それを知りつつ《私》は直ぐに立ち去る。男性は何か必死に言い募るが、それを振り払い足を進めた。
《私》の部屋に戻ると、一人で泣き崩れる。
本当は、彼は…魅影は《私》の者だ。愛している。壱刄と劣らぬほど。でも、見てしまった。魅影が斎女と口付けを交わすのを…。
魅影が自分を最も愛し、慕ってくれているのを知っている。なのに、遊びとは言え他の女性と触れあうのを許せなかった。そう、嫉妬してしまったのだ。
紅の神子が、斎女に嫉妬など恥ずかしい。きっと、彼を側室に入れたら、もっと酷い醜態を晒すだろう。だから、彼を縛らない事にした。
自由な魅影には伸びやかに過ごして貰おう。例え、それが魅影を傷つけるとしても。
彼は…私の美しい影。彼は、十神衆。紅神子の三の方。魅影と初めて会った時、どれだけ心が踊ったか。今日からこの美しい男性は、自分の物なんだと。
彼が《私》を孤高で美しい存在だと、崇拝している。だから、その自分のまま生きよう。彼を酷く傷つけて、突き放した罰として、自分を変えずに生きて、死のう。
……
紅葉は、スッと開けた視界で、暫くぼんやりと周囲を見渡す。
今のは、一体?魅影…?三の方…?
胸元をぎゅっと手で押さえ、俯いた。ふと、3の国と5の国の状況を思い出す。今の紅葉の心臓は、痛いほど鼓動が早くなっていた。
コンコン
扉が叩かれ、見知った人物が部屋に入ってくる。
「モミジ、ご機嫌はいかがですか?」
「…壱刄。お仕事じゃないの?」
優しい笑みを向けてくる相手に、紅葉も少しほっとして笑みを浮かべた。
「いえ。モミジに会いたくて、抜けて来てしまいました。」
少し茶目っ気混じりに片目を閉じる様は、紅葉の心を奪う。
うっ…か、かっこ良すぎる!じゃなくて…。
瞳を蕩かせ髪を撫でてくる相手に、鼓動を早めながら思いきって聞いてみる。
「あの、3の国と5の国が戦争になるかもしれないって…。」
その言葉に、壱刄の笑みが一瞬だけ止まる。他の者なら気付かぬ時間だが、彼の神子である紅葉には分かってしまう。
「…いえ。噂はありますが、話し合いで済みそうですね。大丈夫ですよ、お気に為さらずに。」
ニコッと笑った相手に、紅葉も合わせて笑み頷く。
「そう、良かった…。」
やっぱり、危ないんだ。
紅葉の心に、微かな違和感が生まれるのであった。
穏やかで無い内容に戸惑う紅葉に気付いた亜子が、直ぐに廊下で話す者を追い払い声が聞こえなくなる。
「…大丈夫でございますよ。戦など、そう簡単に起きる事などありません…どうぞ、お心安らかにお過ごし下さい。」
そう言うと紅茶を淹れてくれ、紅葉は胸のモヤモヤを感じながら紅茶を口にする。
そう、だよね?戦争なんて…。
平和な世界から来た紅葉にとって、簡単に想像は出来ないが、一般の人に危害が及んだらと少し不安になってきた。
亜子が片付けで出ていき、休息を薦められ寝台に横になる。記憶は無いと言え、自分の先祖が関係を持っていた者が争い会う。
あまり良い気分では無い。
どうして…ずっと気分が落ち着かない。三の方など、自分を殺そうとしたのだ。心配する義理はないのに。私にとって大事な事は、元の世界に戻る事だけ。それだけなのに。
「……?!痛っ。」
その時、頭が割れる様な痛みに襲われる。
何これ?
ガンガンと揺れる頭を押さえていると、視界がぼやけた。
……
『一言、言っておこうと思って…貴方を側室に入れる気は無いわ。』
自然と自分の唇が動く。目の前に居る美しい男性は、目を見張って呆然としていた。
それを知りつつ《私》は直ぐに立ち去る。男性は何か必死に言い募るが、それを振り払い足を進めた。
《私》の部屋に戻ると、一人で泣き崩れる。
本当は、彼は…魅影は《私》の者だ。愛している。壱刄と劣らぬほど。でも、見てしまった。魅影が斎女と口付けを交わすのを…。
魅影が自分を最も愛し、慕ってくれているのを知っている。なのに、遊びとは言え他の女性と触れあうのを許せなかった。そう、嫉妬してしまったのだ。
紅の神子が、斎女に嫉妬など恥ずかしい。きっと、彼を側室に入れたら、もっと酷い醜態を晒すだろう。だから、彼を縛らない事にした。
自由な魅影には伸びやかに過ごして貰おう。例え、それが魅影を傷つけるとしても。
彼は…私の美しい影。彼は、十神衆。紅神子の三の方。魅影と初めて会った時、どれだけ心が踊ったか。今日からこの美しい男性は、自分の物なんだと。
彼が《私》を孤高で美しい存在だと、崇拝している。だから、その自分のまま生きよう。彼を酷く傷つけて、突き放した罰として、自分を変えずに生きて、死のう。
……
紅葉は、スッと開けた視界で、暫くぼんやりと周囲を見渡す。
今のは、一体?魅影…?三の方…?
胸元をぎゅっと手で押さえ、俯いた。ふと、3の国と5の国の状況を思い出す。今の紅葉の心臓は、痛いほど鼓動が早くなっていた。
コンコン
扉が叩かれ、見知った人物が部屋に入ってくる。
「モミジ、ご機嫌はいかがですか?」
「…壱刄。お仕事じゃないの?」
優しい笑みを向けてくる相手に、紅葉も少しほっとして笑みを浮かべた。
「いえ。モミジに会いたくて、抜けて来てしまいました。」
少し茶目っ気混じりに片目を閉じる様は、紅葉の心を奪う。
うっ…か、かっこ良すぎる!じゃなくて…。
瞳を蕩かせ髪を撫でてくる相手に、鼓動を早めながら思いきって聞いてみる。
「あの、3の国と5の国が戦争になるかもしれないって…。」
その言葉に、壱刄の笑みが一瞬だけ止まる。他の者なら気付かぬ時間だが、彼の神子である紅葉には分かってしまう。
「…いえ。噂はありますが、話し合いで済みそうですね。大丈夫ですよ、お気に為さらずに。」
ニコッと笑った相手に、紅葉も合わせて笑み頷く。
「そう、良かった…。」
やっぱり、危ないんだ。
紅葉の心に、微かな違和感が生まれるのであった。
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