地下牢の神子

由紀

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1の国にて

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英単語を頭の中で思い浮かべるだけ暗唱しつつ、寝台から降りる。

紅神子付き侍女は斎女と呼ばれるらしく、私には二人の斎女がついた。一人は30代半ば程の亜子あこ。もう一人は、13才の里子りこである。
本来は各国より斎女が1000人ずつ献上されるそうだが、まだ紅葉の御披露目就任の儀式を行っていないのと、三の方と偽神子の問題があるから少し様子を見ているようだ。

出来ればやめて欲しい。…絶対無理だよ。そんな儀式。

因みに斎女は、先祖血縁が十神衆か歴代神子に仕えた《乙女》のみと決まっているらしい。
何か大変そう…。犯罪歴や、前職も全て調べられるそうだし。そんなに斎女って良いもの?

「はい!世界の創り手であり、人々を苦しめる魔を払える高尚なる方に仕えられるのは、全ての女性の最高の願いですから!」

そう語ったのは13才の里子ちゃん。呼び捨てで、と呼ばれたがそうもいかない。里子ちゃんは紫の髪を三つ編みにした、素朴で可愛い子である。
基本的に亜子さんが他の侍女さんたちへの指示や、壱刄との連絡役を、里子ちゃんが身の回りを手伝ってくれている。

あと、壱刄にはいつでも他の国に行っても良いと言われている。歴代の紅神子のほとんどは、正室の国に住むか、転々と国々を移動する人も居たらしい。

「…そうですね。1の国か、5の国に住まわれる方が多いと聞きます。」

朝の着替えと朝食が終わり、亜子さんにお茶を淹れて貰いつつ少し情報収集をしておく。
1の国は、十神衆筆頭だからかな…。

「何で5の国も?」

不思議に思いそうに尋ねる紅葉に、亜子は穏やかな雰囲気のまま答える。

「五の方様は、初代より物静かで穏やかな方が多いと知られています。どのような方とも打ち解けやすいのかと。」

なるほど~。元の世界に戻る方法を探すにしても、他の国も知りたいな。でも…3の国はちょっと嫌だけども。

多感な年齢の紅葉にとって、処刑されそうになったり、偽神子となったメイド長といちゃついていた(?)三の方は悪印象だったのだ。

というか、いつ言おうか?壱刄、忙しいみたいだし。タイミング逃したけど…メイド長が偽神子だって言った方が良いよね?

「どうかされましたか?」

考え込む紅神子を心配し、亜子は静かに紅葉を見つめる。

「…あ、えーっと、神子って何をしたら良いのかなあって?」

相手を心配させまいと、慌てて首を横に振って思い付いた疑問を口にする。亜子は少しホッとし、何から言おうかと考えながらゆっくりと語り出す。 

「…そうですね。御披露目就任の儀式を終えてからだとは思いますが…国々の調整、神事祭事、退魔が主だと。」

へえ~よく分からないけど。難しそう…。

「…とゆうか、亜子さんって詳しいですよね?」
「亜子、で結構でございます。紅神子様。」
「いや、でも…。」

やっぱり、自分より倍生きる人に対してはちょっとな~。お姉さんって感じがするし。

「私は元々1の国国主に仕える一族でございます。紅神子様が一の方様を呼び捨てなさるのに、私に敬称をつけるのと敬語は許されません。どうか、お聞き下さいませ。」

あまり変わらぬ亜子の表情が、心底困った様に眉が下がり視線が下がっていた。

うう…罪悪感が。でもなあ~…うう。しょうがないのかな?

「…分かったよ、亜子。あの、これで良い?」

紅葉の言葉にやっと亜子は微笑みを浮かべた。

「はい。ありがとうございます、紅神子様。」
(黒い髪が不思議だけれど、この赤い瞳と纏う変わった雰囲気は神子だからでしょう。)

その後、1の国の様子を聞いているとにわかに廊下がさざめき出していた。

「…おい、本当か?!」
「…ああ………らしいぞ。」

なんだろう?

「…5の国と3の国が戦を始めるらしい。」




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