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ー見習いメイドー
しおりを挟む「…今日から新しくメイド見習いとなります。フウさんです、皆さん分からない事は教えてあげて下さいね。」
「フウです。よろしくお願いします!」
9の国宮城のメイド控え室、30代後半頃のメイド長の隣には年若い少女が頭を下げた。この時期は6の国~10の国では蒼神子の帰還を待っており、侍女やメイドの募集が広く行われていた。その為、毎日の様にメイド見習いも増えているのだ。
思っているよりも温かな反応に【フウ】も内心安堵し、先輩メイドの説明に耳を傾ける。
…ああ、良かった。一般人がお城のメイドになって虐められたりとか心配してたけど大丈夫そうね。というか、楓って名前が駄目だなんて…面倒。
フウと名乗ることとなった楓は一人息を吐く。9の国と呼ばれる国のある異世界に迷い込み、運良く親切な少年『志津』に拾われお世話になる事三日目。元の世界に戻る方法を考えなければならないが、ただ居候となっているのも申し訳無いと名乗り出れば…メイド見習いはどうかと提案されたのだ。時期的にも人数を集めており、見習いならば仕事も難しくないらしい。
服装はメイドより淡い色のエプロンスカートに、大分色の出てきてしまった髪はお団子1つに纏めて誤魔化している。
「フウさん、花壇の水やりをお願いできるかしら?」
「あ、はい。分かりました。」
先輩メイドに水差しを借り、広く豪奢な庭園へ向かう。メイド見習いと言っても、楓を推薦した志津は侍従という役職で結構なお偉いさんらしく、他のメイドの見る目も異なり丁寧に接してくれる。
志津君て私より2つ上ってだけの17才だよね?若いのに凄いなー。でも私の方は何だかコネみたいで悪い気がする…。
山茶花だろうか?美しく咲き乱れる華々に目を移し、順番に水をあげていく。陽に輝く花に見入っていれば、何やら回廊を急ぎ足で歩くメイド数人に気付いた。先輩メイドに教わった通り、手をお腹の前で重ねて頭を下げ「ごきげんよう」と挨拶をしようと振り向いた時だった。
此方に気付いた一人のメイドが慌てて手招きしてくる。
「そこの見習い、ええと侍従様の推薦だったかしら?少し手伝ってちょうだい。」
「?はい。どうしたんですか?」
高そうな菓子を載せたトレーを持つようにと渡され首を傾げると、メイドは額に汗を滲ませていて表情も固かった。
「…ええ。実は今十の方様が九の方様へご訪問にいらっしゃって、急な事で人手が足りないらしいの。ああ大丈夫、貴女は運ぶだけで良いわ。」
「…はい。」
十の方?えっと、確か九の方が9の国の王様でだから…十の方は10の国の王様?…え?凄くない?!私今日が初出勤だよ?あ、でも運ぶだけで良いなら、うん…大丈夫。
焦るメイドの後に続き、メイド長ですらあまり入る事の無い中央宮への回廊を進んでいく。9の国では国主がまだ12歳と年若く仕える者の年も比較的若い者が多いが、今は十の方が訪れている為ベテランの従者が多く見られ緊張感に包まれている。
うわあ…先輩大丈夫?顔が真っ青。
目に見えぬ圧に気圧されているのか、メイドの手は微かに震えていた。それでも、辿り着いた最も豪奢な扉の前で深呼吸し息を整えると扉を軽く叩く。
「…失礼致します。お茶をお持ち致しました。」
「ああ、入れ。」
緊張の面持ちで楓に「貴女は此処で待っていなさい」と小さく囁いたメイドは、侍従の開けた扉をくぐっていく。心配になった楓はこっそりと扉に耳を寄せた、中の音に意識を向けてみる。
…んん。あ、ちょっと聞こえてきた。
『…全く。九の方はまだ記憶が無いから、気遣うようにと六の方様に言われているから来てやってるものの。…何故待たされなけりゃならねえ?』
『まあまあ十の方様、どうぞ気を落ち着かせ下さいませ。』
『…ッチ。落ち着けるか!ったく他国に煩わされている場合じゃねえのに。』
二人の男性の声が聞こえる。十の方と呼ばれる綺麗な声に合わない粗野な口調の人と、その男性を宥める年配の男性の声。
『あ、あのっ…!』
あ、先輩の声?
『…お、恐れながら…九の方様もお支度をされておりましたので、直ぐにいらっしゃるかと存じ上げます。』
先輩メイドの震え声がうっすらと扉から聞こえると、楓でも気付いたが外で待つ侍従達の雰囲気が変化した。固い表情に息を呑む侍従達に不思議に思って見ていれば、室内からの声に理由を知る事となる。
『…メイド風情が。』
『……っ!も、申し訳ございません!お、お許しを…』
神子に対して直接声掛けを許されるのは、十神衆・侍従長・斎女・侍女頭と限られる。そして十神衆に対しては、侍従長・侍従・斎女・侍女頭・メイド長…とやはり身分に限りがあるのだ。
一介のメイドが、間違っても直接意見を言上するのは有り得ない。
更に十神衆という存在は、神子のみを崇拝し心酔し愛を捧げるのだ。一般のメイドなど、そこらの雑草や塵の様な物だろう。
先輩メイドの謝罪が何度も聞こえ、年配の男性の取り成す声が続く。ただでさえ苛立っていた十の方の機嫌が急降下してしまった様だ。
廊下の侍従達は右往左往し、早く九の方は来ないかと10の国の侍従に当たっている始末。
…私なんかじゃ無理かもだけど、先輩が可哀想よね。せめて、ちょっと気を逸らせれば。
待っている様に言われたが、一度手元のトレイを見下ろし扉を叩くと返事も待たずに勢い良く開けたのだ。
「失礼致します。」
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