異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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波乱の3日目

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「おはようございます、朝食の準備を致してもよろしいでしょうか?」

部屋の外から聞こえる声に覚醒し、飛び起きて血の気が引いた。妙にスッキリした身体と裏腹に、隣で眠り込む鬱血痕だらけの扇状的な正室。
シーツはぐしゃぐしゃ、枕は吹っ飛び体液だらけのベッド。しっかりと事後の寝所に頭を抱え、素早くベッドから降りて裸体にガウンを羽織る。

ピクリともしないエドウィンは呼吸は確認したが、目覚める気配は無い。前回は俺より先に起きて朝練に行ったのだが、相当負担を掛けてしまったようだ。

はい、記憶はバッチリです。
馬鹿です。めちゃくちゃ気持ち良かったです。

天蓋の布を落としエドウィンの姿を隠してから、少しドアを開ける。前髪をかき上げながら待機する使用人に微笑むと、ボンッと真っ赤に染まる顔。

「朝食の準備は必要無いかな。第2正室が休んでいるので、暫く声を掛けなくて良い。」
「…、しょ、承知致しました!」

シャワーを浴びてくると伝え、浴室へ向かう。通り過ぎる使用人達が覚束ない足取りで座り込むものなので、フェロモンが出ているのかと慌てて抑制剤を飲んでおいた。
行為後は抑えられた筈なんだけどな…。

身体の汗を流し終え、使用人から受け取ったグラスを傾けて水を飲み干す。色々と考える事は多いが、何をするべきか分かる。

今夜の夜会は無事に終わらない。見張られている以上、誰かと情報共有も出来ない。何が起こるか分からない。何も準備出来ない。
それでも逃げず参加するべきだ。
どうにかして、事を起こさなければ。見張りにバレないように、皇帝へ伝えられないだろうか?
せめて、警戒を強めて欲しい…と。


一つ溜め息を漏らし、外向けの衣服に袖を通す。身支度を終え、部屋を後にした。
向かうのはもう一人の愛する正室の元。

近くの使用人から案内を受けて辿り着く。扉を開けてくれる従者に礼を言い、中へと進んだ。
まだ眠っていると伝えられたので珍しいと口にすると、帰って来た時間が遅かったのだと返される。

フレデリクに引き留められたのか?
過ぎる不安を振り払う様に歩みを早める。見知ったファビアンの従者から挨拶を受け、部屋の奥まで着いた。

「此方が寝室です…が。」
「そうか、ありがとう。」

部屋の前で待機する小柄な従者が、此方を伺う様に見上げてくる。
躊躇なく扉を開けようとするが「え!?」と声を上げられ動きを止めた。

「え?」
「え?」

お互いに首を傾げて疑問符を浮かべる。
あれ?何か変な事をしたのか?

「えっと、ご主人様はまだ起床しておりませんが。」
「ん?うん、知ってるけど。」

うん?駄目なのか?寝顔でも堪能して、ベッドに潜り込もうとしたんだけど。
あれ?何か貴族の暗黙のルールとかあったっけ?寝てる正室の部屋に入ってはいけない?とか。うん?でも夜を一緒に過ごすのに?無理じゃね?

グルグルと回る脳内で固まっていると、小柄な従者が言葉を重ねる。

「その…目が覚めるまで、どなたも入れてはいけないと命じられてまして。」
「ああ…。」

そういう事か。真面目なのかなこの子。
雰囲気的にフィッツ家っぽいと思ったんだけど。仕事は凄く出来そうだし、タチに対して此処まで言えるのは凄いな。

えーーっと…じゃあ、やめとくか。
仕事を頑張る相手を責めるのは無粋だよな。

苦い笑みを浮かべ、踵を返しまた元来た道を戻る。引き戻して来たアルフレッドに驚く使用人達には笑いそうになるが、特に理由は付けず部屋を出て行った。
閉じられた扉を背に堪えきれず噴き出しつつ、次の目的地を探す。

ラティーフ、は会いに行ったら嫌がるよな。
チコは舞踏会で疲れただろうし。
夜の為に、自分ももう少し寝た方が良いのか…。

ふらりと歩いていると、見知ったファビアンの従者を見かける。声を掛ければ「フィッツ様のお茶を用意していました」と明るく返される。ジレス?アンリ?他の子?
何となく着いて行った部屋に入ると、楽しげな声が聞こえてきた。

『…~旦那様…が…!」
『…ええ~!やっぱり………で、…~…れ……だよ。』

直ぐ判別出来る、ジレスとアンリの聞き慣れた声に笑みが浮かぶ。声を掛けようとする従者へ手を上げて制し、そっと扉の隙間に耳を近付ける。

「…本当に素敵だったな。いつも優しげな貴公子なのに、あの時凄く凛々しくってドキドキしちゃったよぉ!ね、ジレス。シュタルト様がザッハー先輩を叱ったって本当?」
「ああ。あの様に声を荒げられるのは初めて見た…勿論、当然のお振舞いだと思う。それに…」
「それに?」
「怒った顔も格好良かった…。」
「わあ~!見たーい!」

…俺の話だな。
口元を覆って込み上げる恥ずかしさに内心身悶える。何でこの兄弟は朝から元気にお喋りしてるんだ?!騎士科だから早起きなのか?そうなのか?!
やめてくれ!違う話題にしてくれー!

駄目だ…羞恥で死ねる。
黙ってその場を後にしようとするが、閉めかけた扉が向こう側から開かれてしまう。

すっかり開いた扉の中で、隣同士で椅子に座ったフィッツ兄弟と目がかち合った。

「きゃあーーー!」
「あっ、え?!…なっ?!」

話しを聞かれたと気付いたのか、顔を赤くし悲鳴を上げるアンリ、混乱し挙動のおかしいジレスが椅子をひっくり返し立ち上がった。

「あー、おはよう。」

とりあえず、爽やかに手を上げて置くことにした。






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