異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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いざバルディオス帝国V

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第一夜の晩餐会は、それは和やかに進んだ。席順が決まっている事もあり各人が付近の者との談笑を楽しみながら、バルディオス産の食材が使われた食事に舌鼓を打った。

身体的な都合で食べられない物がある場合は、個人によって別の物を用意する等も配慮があったそうだ。あと宗教的な要素もあるらしい。神聖国家フォーランでは肉食を好まれていないと言うので、フォーラン出身者のメイン料理は魚になっていた。

「アルフレッドさんはいつ頃まで滞在しますか?」

晩餐会もデザートが出され、終わりへと差し掛かかった頃…ユミルとアルフレッドは、最初よりも更に打ち解けた会話を交わす。その間、フレデリクとは一切言葉を交わさなかったが。
ファビアンはユミルの正室と淀みなく話していたり、同じテーブルで緊張するネコへと声を掛けて労っていたりと自然な気遣いを行っていた。

「明後日の最終日まではバルディオスに滞在する予定です。第一皇子殿下の居城におりますので、直ぐお会い出来ますよ。」
「そうでしたか…!あ、すみません嬉しくて。…また明日もお話し出来ますね。」

思わず大きな声を上げたのを慌てて謝罪する王子に微笑む。此処まで好意を見せて来るのは気恥ずかしいが、タチの弟がいたらこんな感じかと想像してしまう。

ふと周囲を見渡すと、まばらに立ち上がり皇帝の元へと向かう人々を目にする。
正室からの耳打ちによれば、特に終わりを告げる挨拶は無いのでキリの良い所で主賓に挨拶をしてから出て行くという。

マジか、皇帝に挨拶とか流石に緊張するなあ。でもファビが一緒だし、たぶん…大丈夫な筈?
挨拶の順序にも暗黙の了解がある様で、入り口付近のテーブルの客から徐々に減って行く。その間は、のんびり食後の飲み物を口にし適度に会話をしながら待機した。

すぐ後ろのテーブル席に人が居なくなり、そろそろかとファビアンと目配せする。こういった場では、クラスの高いタチから離席するのが礼儀なのでアルフレッドも腰を浮かそうとする。…が、斜め前の行動を見て直ぐ様腰を落とした。

えーっと…フレデリク王子…?ん?何で?え?晩餐会だと王族から先なんだっけ?あれ、でも家で家庭教師に習った時はタチのクラスが優先されるんじゃ…?

疑問符だらけのアルフレッドの視界に、椅子から立ち上がるフレデリクと「え?どうしよう?」と言いたげに此方を伺うフレデリクの正室。
ファビアンの柳眉が寄るが、皇帝主催の夜会で問題を起こすのは避けたい。ファビアンの膝の上の手はみるみる内に強く握られ、さり気無くその手に触れる。

「…飲み終わっていないので、どうぞお先に。」

フレデリクを真っ直ぐに見据え、空だったカップを手に取り周囲にも見える様飲む振りをしておく。
アルフレッドの行動に張り詰めた緊張感が途端に解けて行く。顔は見なかったが、相当なご立腹だろうが許せ。此処で君を無視していれば、見ていた周囲から咎められる。結果的にフレデリクの従兄弟であるファビアンだって被害を被るかもしれないし。

はあ…何なんだ一体。

一息吐いていると視界に居たフレデリクが何故かテーブル席を回り、此方に近付くのを感じる。ぴたりと背後で止まり、顔が近づいて来るのを察する。まだ何かするのかと身構えるが、ファビアンにも聞き取れない声で囁いてくるだけだった。

「(良いか、ファビアンは本来なら僕の物だ。お前は一時の幸運を授かっているのを忘れるなよ。ふん、いつか僕に返して貰うからな。…ああ、田舎育ちで言葉が解ればだけどな。)」

これ…バルディオス帝国語か。あーあ、聞き取れちゃった。ごめん、勝ち誇った顔してるけどさ。

意気揚々と皇帝へ挨拶をしようと進むフレデリクの後ろ姿を見送る。間を空けずに立ち上がり、ユミルへ丁寧に礼をしてから周囲へ会釈して皇族のテーブル席へ向かう。

未だフレデリクが皇帝と話している為立ち去って居ないのを確認してから、わざと隣の皇后へと礼を取る。

「今宵は御招待ありがとうございます。お初にお目にかかります、私の名はアルフレッド・シュタルトと申します。共に参りましたのは、ジルックェンド連合国が伯爵のファビアン・デルヴォーです。」
「これはご丁寧に…。此方こそ、お噂は伺っております。我が子息ルキウスの夫君ルーク殿のご友人であれば、どうぞ今後も親しくさせて下さいね。」

柔らかな声音と共に、朗らかな笑みを向けられ安堵する。続いてファビアンが皇后へと挨拶を交わすのを横目に、フレデリクが皇帝から離れた隙を逃さず歩を踏み出した。
目的は、フレデリクに聞かせる為。

「…おお、そなたがシュタルト殿か。」
「お初にお目にかかります…。」

皇帝に声を掛けられ、上流貴族と見間違うだろう完璧なお辞儀を返す。視界の端で、フレデリクが歩みを緩めている事は分かっていた。
さてと…。やられっぱなしにはさせない。
頭を上げて、好意的な瞳を向けてくる皇帝へと微笑みを返して口を開く。

『…本日は素晴らしい夜会に参加させて頂き、誠に感謝致します。』
「おお…なんと!」

皇帝の瞳が見開かれる。周囲からのどよめき、驚愕は直ぐ様憧憬へと変化した。共通語を使用するのは夜会でのマナーだが、バルディオス国の皇帝に対して個人的にバルディオス帝国語を使うなら親愛を示す良い方法だ。

『皇帝陛下の仰った様に、今夜の月は見事な物でございました。人生で初めてバルディオスを訪れましたが、私の記憶に深く刻まれる素晴らしい光景となりました。残りの滞在も、きっと私と正室つま達にとってかけがえ無い思い出となりましょう。』
『うむ。…そなたの様なタチにそこまで言って貰えるとは嬉しい限りだ。どうかバルディオスでの滞在楽しんで欲しい。』
「…ええ。それでは、失礼致します。」

公の場で、バルディオス帝国語を初めて披露してみたが問題無かったようだ。フレデリクへの当て付けのつもりだったが、効果はアルフレッドの考えていた以上の物となっていた事は後日知ることとなる。



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