異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

文字の大きさ
上 下
71 / 120

いざバルディオス帝国IV

しおりを挟む





お断りされてしまった…?!

周囲の騒めきが耳に入る。ポカンと口を開けて此方を見つめる青年、眉を顰めて耳打ちし合う者、ネコよりもタチからの厳しい視線が刺さる。クラスが低い者から高い者へ無礼な振る舞いは言語両断。暗黙の了解ルールが崩されるに等しい。

試しにユミル王子に横目で視線を向けると、特に表情の変化は無い。感情を表に出さない王侯貴族としての礼儀が垣間見えて感心してしまうが、今はフレデリクの相手が優先された。

「…失礼、そろそろ晩餐会が始まりますので御着席お願い致します。」

後方からさり気無く掛かる執事の声に、軽く頷き腰を下ろす。フレデリクを横目に見ると、今にも飛び掛かってきそうな形相なので目を合わせない様にする。
手に触れる隣人からの指先の感触に視線を移すと「申し訳ありません…。」と囁き声が返された。

いやいや!ファビは悪く無いからね。悪いとしたら…俺。うん、気に入られなかった俺って事だよな。

開かれていた正面の扉に、煌びやかに着飾った騎士が左右に分かれて並ぶ。誰に合図されずとも自然と椅子から立ち上がる列席者達に、アルフレッドもそれに倣う。

「…これよりバルディオス帝国皇族方入場されます。」

皇族用テーブル近くで待機していた執事が声を張り上げ、会場脇の楽団が楽器を手に取り曲を奏で始めた。先ほどまでは談笑を遮らない穏やかな曲調だったが、今度は荘厳で華やかな曲調へと変わっていた。
迫力のある曲だな…確か、皇族が居る時だけにしか弾けないんだったか。

ゆったりとした老齢の動きとそれでいて威厳に満ちた人物の姿が見えると、目の前を通り過ぎるまで会場のタチは頭を下げネコは片膝を落として礼を取る。
先ほど声を上げた執事は、テーブル席へと着く人物一人ひとりの名を口にした。

「バルディオス帝国…オスカー・キケロ・バルディオス
皇帝陛下です。」
「…次に、バルディオス帝国皇帝第一正室…ソラリシア・バルディオス皇后陛下です。」

あれがバルディオスのトップ二人か…。
「次に………~~殿下です。」
ん?今度は他の正室か。なるほど、皇后の他は3人しか正室を置いて無いのかー。へえ、意外と少なくないか?いや、違うな…皇后並みの家柄を持っている3人を参加させたとか。

「…続いて、バルディオス帝国第一皇子…ルキウス・キケロ・バルディオス皇子殿下です。」
「次に、バルディオス帝国第一皇子殿下の夫君…ルーク・フェルナンド様です。」

皇帝皇后二人の入場は重々しい物だったが、今度は若く美しい二人の姿にパッと雰囲気が華やいだ。特に今回ルーク・フェルナンドは、初めて公式に姿を現した事も注目を集めているそうだ。
どの様な場所でもクラスの高いタチは貴重なのだ。勿論アルフレッド同様、若いネコから関心を持って視線を送られていた。

いやー凄いな。貴族出身って言ってたもんな。ぜんっぜん緊張見えないけど、俺が参加する必要あったのか?

そつなくこなす友人を見つめていると、気付いたのか微笑と会釈を返される。周囲の若いネコ達から甲高い悲鳴が聞こえた気がした。

「…やっぱルークって格好良いなー。」

思わず呟く言葉と、同腹の弟の顔が脳裏に過ぎる。ネコ同士は寵を競うと言うが…帝国の皇子と争うのは骨が折れるだろう。

皇族用のテーブル席に全員が揃うと、中央に立つ皇帝がグラスを手に取ると楽団の音楽が止まる。それと共に、客のさざめきも止み会場に静寂が訪れた。

「…本日、空を見上げただろうか。今宵を祝福する様な見事な三日月であった。古来より、バルディオスでは三日月の夜の出会いは、人を深く結びつけたと言う。大地の神テーラスが初めに産み出したのも月の神。太陽の輝きは繁栄を…月の輝きは親愛を…。皆々方、本日の夜会も月が更に輝く物となる事を祈ろう。…それでは、乾杯。」

皇帝の口上は威厳に満ちた雰囲気とは異なり、優しく温かい声音であった。後にエドウィンから聞いたのだが、皇帝の挨拶では必ず月の話が出るらしい。
全員がグラスを掲げ、一口口にしてから着席する。

腰を掛けると、至る所から楽しげな会話が耳に入る。皇族のテーブル席ではルークが客人と笑顔で談笑する姿を目にし、アルフレッドも視線を前方へと戻す。
朗らかに話しかけてくるユミルに笑みを返し、殺気をぶつけてくるフレデリクを極力視界に入れない努力をすることにした。



しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

処理中です...