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いざバルディオス帝国II
しおりを挟む城門から会場入り口まで引かれた赤い絨毯の上を、ゆっくり歩き進める。隣を歩く第1正室ファビアンをエスコートし、二人の直ぐ後ろを第2正室エドウィンが続く。入り口の時点で従者や護衛は控え室に案内される為、此処からは本当に招待客のみとなる。
共に来たルーク・フェルナンドはバルディオス帝国皇子の夫である為、主催者側になるべく別の入り口へと行ってしまっていた。
アルフレッドにとっては初の公式パーティー。初めて訪れる国、社交界自体が初めてであった。まさか、誘って来たルークと離れる事になるとは思っていなかったのだ。
ヤバい…。背中既にびっしょびしょだわ。落ち着けー。よし、復習しよう。夜会は三日間で、今日は晩餐会だけ。明日は舞踏会で、明後日が全員参加…うん、よしよし。
会場扉を開ける従僕に会釈し、ファビアンが招待状を手渡す。扉の近くに控えている執事が中を確認し、一向を会場の中へと先導していく。
様々な国から客の来訪がある為、言語は共通語となっている。
「…シュタルト様、第1正室様は此方へお願い致します。第2正室様はどうぞ此方へ。」
豪奢な廊下の突き当たりに立ち止まり、エドウィンのみ別室へと誘導される。先を歩くハレムも分離されていたので、どうやら主人と第1正室のみ会場が別のようだ。
エドウィンは気にせずアルフレッドに目礼してから、隣の会場へと向かって行った。
「…私達は皇帝陛下と第1正室が主催の会場で、キャベンディッシュ卿は第2正室以下が主催の会場に分かれましたね。」
「なるほど。似た経験が?」
「はい。ジルックェンドも国王主催は会場を分けておりました。」
前を向いたまま、お互いに聞こえる声音で会話する。アルフレッドの不安を知ってか知らずか、ファビアンから自然と母国と準えた補足を口にした。
エドウィンと離れてしまったのは残念だが、華やかな場に慣れたファビアンが居る事で気持ちに余裕が生まれる。
「…此方のお席でございます。皆様お揃いになるまで、どうぞお寛ぎ下さいませ。」
一際豪華な会場に足を踏み入れ、奥のテーブル席へと案内される。
整然と並んだ長テーブル、目に眩しい天井から吊るされたシャンデリア。テーブル上を彩る花々は、バルディオス帝国の威光を主張するかの様に華やかな物が飾られた。
部屋の端に等間隔に並ぶ宮廷執事は、席に着いた者を見つける度に飲み物の確認を行う。
…………ひょえ。
顔だけは崩さぬまま、椅子に腰掛け横目に自身の正室を確認する。
うん、世界一の美人発見。問題無し。
側に来た執事に飲み物を伝え、目だけは会場の様子を伺う。腰掛けたテーブル席は、最奥中央に鎮座する皇帝用らしい席から数えて三番目。あまり良い予感はしない。
皇帝が来るまでは自由にして良いらしいけど…寛げないって。
少しずつ会場には人が集まって行く。タチとネコの2人組は、まるでそれが当たり前だと錯覚してしまえる程だ。これだけ多くのタチと関われる機会など、今後あるだろうか。
「あの、初めてお会いしますね?」
空いていた目の前の席に腰掛けたのは、灰色の髪をキッチリ纏め上げた柔らかい雰囲気の少年だった。服装としてはタチだと直ぐに理解出来る。
差し出された手を握り返し、にっこりと外向けの笑みを返す事に成功した。
「ええ。初めまして。」
「よろしくお願い致します。私は、セリアル国代表として参りました、ユミル・パパドプロスと申します。共に居るのは正室のカーリン、セリアル国では商家を営んでいます。」
セリアル国の代表?え?年は近そうだけど、結構偉い人なんじゃないか?いや、でも妙に丁寧な口調だしな…。性格なのか?
にこやかに頷いてみるが、勿論社交界が初めてなので誰だか検討がつかない。自らも名乗りを上げる僅かの間に、ファビアンの囁き声が耳に入る。
『…セリアル国の王子殿下です。』
ほんっとうにありがとう!
「これは丁寧に…。此方こそよろしくお願い致します、ユミル殿下。私は、ルキウス・キケロ・バルディオス殿下の夫であるルーク・フェルナンド殿の友人として参列した、アルフレッド・シュタルトと申します。共に参りましたのは正室のファビアン、ジルックェンド連合国の伯爵です。」
隣のファビアンが立ち上がり、優雅に礼をする。ファビアンの事は知っているのか、軽く頷き直ぐにアルフレッドに顔を向けて来た。
「私は15歳なのですが、シュタルトさんはお幾つですか?少し上かと思いますが…あ、すみません。馴れ馴れしかったですね。」
挨拶が終わるやいなや、ユミルから直ぐに会話を続けて来た。嬉しそうに話したかと思えば、躊躇いがちにはにかむ様子は何だか微笑ましい。王子だと言うのに気取った様子は無く、むしろ気安いさえ言えた。
「いえ、どうぞアルフレッドと。私は16歳になる年です。」
「!では、アルフレッドさんとお呼びします。良かった…実は、国の使節となるのは初めてで少々緊張していまして。優しいお気遣い痛み入ります。」
「そうだったのですね。此方こそ、華やかな場に圧倒されていたのでユミル殿下に声をかけて頂き、緊張が和らぎましたよ。」
ユミルの雰囲気が何となく弟と重なり、外向けの口調から同年代に向けた声に近付ける。お互いに笑みを交わし、正室も交えて会話を楽しんでいく。
少しずつ会場の客も増え、同テーブルに椅子も埋まっていく。席を案内する執事の中でも、セリアル国の王子と話す人物は誰かと噂話が広がっていたようだ。
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