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いざバルディオス帝国
しおりを挟むバルディオス帝国。4大国の一つで、現在の皇帝はオスカー・キケロ・バルディオス。70歳近い老齢でありながら、権力は絶大で臣民の忠誠心は高い。後継者として1歳となるタチの皇子が居るのだが、幼すぎる為ネコであるが兄の第1皇子…ルキウス・キケロ・バルディオスが暫く政務を行うとの事だ。
…なるほど。確かタチの王子が四人も産まれたジルックェンドとは違って、バルディオスには中々タチが産まれなかったのか。
学園が休みに入りルークとの約束の日となった今日、バルディオス帝国の夜会に向かう馬車での道中にエドウィンから事前情報を聞いて置く。使用する馬車の1台目には、ルークとルキウス、2台目には俺とファビアンとエドウィン。3台目にルークの側室達。4台目に従者達。馬車の周囲には、護衛騎士。
夜会1日目はタチと正室のみの参加であり、ラティーフとジレス、チコは翌日訪れる事となる。
昨日の夕方、転移門でバルディオス帝国内のルキウス・キケロの居城に泊まり、昼頃から夜会の為各家の使用人総出で支度を行った。タチはまだしも、ネコは更に早くから起きて準備に勤しんでいた様だ。
あー…流石にバルディオスは大国だけはあるなあ。馬車の揺れが小さい。
エドウィンだが流石はバルディオス帝国騎士団長の子息だけはあり、細かな詳細も教えてくれる。
どうでも良い事をつらつらと考え続けるアルフレッドは、決して初めての夜会に緊張している訳でも、馬車の揺れで気分が悪くなっている訳でも無かった。いや、それもあるのか…。
左に座る第1正室、正面に座る第2正室。何となく目が合うと頬を染めて視線を落とす二人。
「今日は暑いねー。」
「そうですね。」
「バルディオスは盆地にありますので…。」
黙って更に顔を赤く染める正室2人。アルフレッドをチラチラ見ているが、中々視線が定まらない。
…ヤバい。そろそろ限界なんだけど!自意識過剰じゃないよな?!見惚れてくれてるって事で良いんだよね?!いや、考え過ぎか?
「…えーっと、ごめん。正装ってあまり慣れてないから、変だったら笑ってくれても全然良いからね。」
「まさかっ!」
「っとんでもありません!」
足を組んだ姿勢で照れ笑いする夫に対し、勢い良く返答する2人は真剣そのものだった。普段声を荒げないファビアンと、清廉実直なエドウィンの気迫を否定出来る筈無い。
正室の瞳に映るのは、同年代に比べて高い身長に良く似合う燕尾服とタチを表す黒い蝶ネクタイ。普段下ろしている髪を上げて、形の良い額と凛々しい眉は露わになっている。普段自分を飾る事の無いアルフレッドの耳には、右に黒真珠のピアス。左に銀の宝石が使われたピアスが輝く。
誰の為に合わせた色なのか、最初に見たデルヴォー家の従者は内心絶叫したらしい。
「そっか…。それなら、こんな素敵な正室達と並んでも許されるかな。」
「……は、はい。」
隣に座るファビアンの髪先に触れる。ネコ用の燕尾服を身に付けた麗しさは、正に気品と相まって圧倒的だ。
タチ用と異なるのは、腰が細いデザインで裾が長く広がる様になっている点だろう。髪飾り、装飾品、靴、ネクタイの色や柄、ネコにとって自身のセンスが試される場となる。
上機嫌な夫に対し、ファビアンは平静を装うのがやっとである。整いかけた呼吸は、至近距離で放たれた発言により乱れに乱れた。そんな中で返事を出来た自分を褒めたい。
力を振り絞りエドウィンに視線だけで助けを求めようとするが、顔を両手で覆って何か呟いており諦めたのだった。
…いやー、美人は何を着ても似合うもんだな。ファビアンは燕尾服めっちゃ似合ってるし、エドウィンの軍服姿なんかネコにしとくのが勿体無い位決まってるし。
ふと、馬車の進む速さが変わり次第に揺れが収まっていく。
「エーデルベルク城、到着致しました。」
「…分かった、ありがとう。」
外から掛けられた声に返答し、静かに姿勢を正した。開かれた馬車の扉へ眼を向けると、沈みかけた夕陽に登る三日月で彩られた空。
馬車から降りて、バルディオス帝国随一の荘厳さを持つ城門に目を奪われる。
中央の門へ、馬車から降りた人々が次々に移動して行く。手の掛けられた衣装や装飾品、洗練された立ち居振る舞いは非日常を感じさせる。
うっわ。緊張して来た…。
「…あ、ファビ。足元気をつけて。」
「ありがとうございます、アルフレッド様。」
「エドウィン、つかまって。」
「はい。失礼致します、背の君。」
馬車から降りる正室に気付き、自然と手を差し出す。
何となく周囲の視線は気になるが、いつもの事だと察した。ネコへの配慮をするタチが珍しい…いや、変だとでも言いたいのだろう。
はいはい、見たいならどうぞ。いくらでも。
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