異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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びば学園生活30

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一日置いた翌日、愛する第1正室の対応は見事な物だった。ラティーフ・ジレス・アンリを呼んで、個人の意思を確認してから謹慎の期間と処罰の内容を伝えたそうだ。

元々謹慎のみだったジレスは淡々と受け止め、問題は他の2人だった。アンリはと言えば、何やら葛藤や困惑を浮かべながら承諾したらしい。何故か少し喜色が混じっていたのが不思議だったと言うファビアンに、ケールから自分宛の手紙と同じ内容の物が届いたとアルフレッドは察した。

ラティーフについては、ファビアンも言い包めるのに時間が掛かった様だ。今回の問題で自分には否が無いと言い張っていたのだから、アンリを側に置く事も、処罰内容も納得出来なかっただろう。
ハレムの中で唯一敬意を払うファビアンから丁寧に伝えられた事で、受け入れざるを得なかった筈だ。

半日以上をラティーフとの話し合いに費やしたと微笑むファビアンには頭が上がらない。

「本当にありがとう!」と感謝の念を込めて強く抱きしめれば「いいえ。受け入れてくれたのは彼らですから。」と何とも反応はアッサリとした物だった。それでも、頬が緩んでいた相手の反応を忘れない。

さーてと…。
目まぐるしかった日々がやっと落ち着いたかと、伸びをしながら大きく息を吐く。

ファビアンの目を盗んで、ジレスとアンリが何度も御礼を言いに来たのは少し笑ってしまったけど本当に良かった。
でも、ケール・フィッツがアンリに躾をしないと言った訳では無いし、ファビアンへは隠し事が出来てしまった。正直な所、胸を彷徨う靄はずっと残るだろうな…。

脳内を掠る不安を振り払う様に軽く頭を振り、手元の紙に視線を落とす。バルディオスでの夜会は、既に残り4日を切っていた。招待状を目で追い、最後に参加者を記載する欄にペン先をつける。本来は開催される日から、三月は早く出さなければならない物だが、ルークが無理に押し通して可能となったらしい。

ルークは軽く言ってたけど、結構な大事じゃないか?
最初はもっと軽く考えていたが、この招待状に押された紋がバルディオスの王家の印章だもんな。

えーっと、参加者は…
ファビアン・デルヴォー 第1正室
エドウィン・キャベンディッシュ 第2正室
ラティーフ・シャヒーン 第1側室
ジレス・フィッツ 第2側室
チコ・ドラード 第3側室

あれ?チコを連れて行くんだっけか…。嫌がるかな?
僅かの時間手を止めるが、気を取り直して続けて記入して置く。よし、こんなとこかな。
あっ…そうだ。そういえば、今日誰かに謝罪される日だったっけ。本当に誰なんだか見当が付かないんだよなー。

ファビアンが言っていた謝罪される場を設けたのは、講義等が一通り終わった刻限だ。朝から思案を続けても、相手が思い付かないのが現状だった。





貴族科、他のニ科共に講義の終了した夕刻。アルフレッドの自室に他人を招き入れるのを躊躇ったファビアンによって、設定されたのはファビアンの自室の客間である。

客間の中央に在る長テーブルの正面奥の椅子にはアルフレッドが座り、その右斜め側にはファビアン。時間の合ったラティーフが左側に腰掛けた。
謝罪内容がどの様な物か分からない現状、大事にするのはどうなのかと配慮した為、エドウィン・ジレス・チコは不在。その空いた時間を活用して、エドウィンとジレスがチコへ夜会のマナーや注意する点を伝えているらしい。

…ほんとに誰なんだ。というか、ラティーフに会うの久しぶりだな。謹慎以前に、中等部だから中々会う機会無かったもんなー。

相変わらず整った容姿をこっそり観察しておく。ファビアンと品の良い挨拶を交わす姿は、やはり上流階級なのだと感心してしまう。

「…シュタルト様、お客様が見えられました。」

おお!…よし、顔を見れば分かるかな?うん、全然知らない人だったら終わりだけどね。

「分かった、通してくれるかな。」
「畏まりました。」

デルヴォー家の従者が扉を開けると、入室した人物に視線が集まる。揃えられた栗色の髪の人物は、獣人だと証明出来る耳と尻尾を持ち、騎士科の証明制服を身に付けていた。
扉から近い椅子には座らず、躊躇いなくその場で片膝を着き深々と頭を下げる。

「…本日は貴重なお時間を下さり、誠に有難う御座います。騎士科二学年X組、ヴィム・ザッハーと申します。」

ヴィム・ザッハーの挨拶を受けて、アルフレッドと視線を交わしてからファビアンが口を開く。今回は事前に、ハレム外の者と話す為ファビアンが話を主導すると決めていたのだ。
第1正室へ何とか真剣な表情を作れたが、アルフレッドは獣人を目にした時から動揺していた。

あの子だよな?たぶん、仮眠室でタチとヤってた…。あれか?謝罪と見せかけて、遠回しに「覗いてましたか?」とか言われるんじゃないだろーな?それに、やっぱり何か俺に言ってたとか?「何で言った事覚えてないんだー」みたいな。

「いいえ。…その体制では話しづらいでしょう。椅子にどうぞ?」
「…失礼致します。」

ファビアンの口調はあくまで丁寧だが、声だけで与える緊張感は尋常では無い。聞いているだけのアルフレッドですら、じんわりと手の平に汗が滲むし、ラティーフは涼しげな顔に見えて一瞬肩が上下した。

「それで…私がドラードから伝えられたのは、アルフレッド・シュタルト様へ謝罪をしたいという旨でしたが、異論はありますか?」
「…っいえ、仰る通りでございます。…本題に入る前に、私の言葉が拙く自国語が出てしまう事、お許し頂きたくお願い申し上げます。」
「構いませんよ。」

ソツ無く共通語で話す相手を不思議に思うアルフレッドだが、ファビアンは特に気にせず受け負った。ファビアンにとっては、謝罪内容についてが重要で早く確認したかったからだ。


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