異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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びば学園生活25

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「ケール・フィッツ…殿からの手紙?」
「はい。シュタルト様に直接お渡しするようにと仰せつかっております。」

裏側にフィッツ家の印章が押された仰々しい封筒は、フィッツ家の従者から手渡される。
仮眠室から出て常の様に一定の距離で付いて来る護衛は気にしない事にして、寮へと戻って自室に入り一息吐く。授業が終わり次第来るらしいファビアンから命じられて、使用人が普段より多く控えている。

「どんな事でもお申し付け下さい。」と体調不良を理由に休んだと思われているからなのだが、正直放って置いて欲しい…。とは言えず、寝室に籠っているとフィッツ家の従者だと言う者から渡された封筒を見つめる。
何だろう。実を言うと、会話の後半辺りは頭が回っておらず内容も不鮮明だった。思い出そうと記憶を辿ってみるが、ハッキリしない部分も多い。

…不味いな、覚えてない事突っ込まれたら終わるぞ。というか、あいつも結構飲んでたよな?よく手紙書く気力あったな。
返事を書き終わるまで待っているという従者は部屋の外に出て行き、一人になった所でとりあえず中身を確認しようと封を切る。

何々…お固い挨拶に、昨日のお礼に…うん?
手触りの良い高級紙に記された宛名から始まり、一枚の紙に丁寧に綴られた形式的な挨拶と、直接見送り出来なかった謝罪にと続く。またお話し出来る機会があれば嬉しい…と締め括られた手紙に首を傾げていると、手に触れた2枚目に気づく。

こっちが本題か。
一枚目を机に置いて、二枚目に目を向けた時に扉が数度叩かれる。

「…シュタルト様、ご学友がお見えになられておりますが…お引き取り頂きましょうか?」
「え?誰だろう。…同じクラスの人かな?」
「はい、チャップマン様がお見舞いなさりたいようで。」

あー、リオだったか。意味あり気に別れちゃったから、心配して見に来てくれたのかな。アンリに何があった~って見に行ってからの休みだもんな。…あれ、そういえば。

「リオネル一人?」
「はい、お帰り願いましょうか?」

ドア越に従者の声音が低くなる。先程から遠回しに追い返そうとする意思を感じるのは、気のせいでは無い筈。この声の従者はファビアンの側によく居る子で、俺の世話をしっかり言い含められたのだろう。
確かに、ハレム外のネコがハレムの者を連れずに単独で来るのは、非常識とも言える。ハレムの者と一緒ならば、客間には通されたのだから…その差だ。

手紙は消える物じゃない…。

リオネルと最後に話した時何かを言いたそうだった事、アルフレッドにとって伝手となって貰いたい相手である事、その2点で粗雑に扱えない理由として充分だった。
通して欲しい旨を伝えて、薄い上着を羽織って居間へと出て行く。普段より多い使用人達は自然を装っているが、椅子に座るリオネルへさり気なく視線を向けていた。

「…っシュタルト様、体調の優れない中お時間を頂き申し訳ありません。御身体の具合は如何ですか?」
「いや、わざわざありがとう。」

慌てて立ち上がるリオネルの目にはアルフレッドの姿しか映っていない。流石は貴族科と言うべきか、使用人の視線など気にも留めていなかった。
むしろアルフレッドの方が落ち着かず、ファビアンの従者に手招きする。

「ゆっくり話したい事があるから、少し人を減らせるかな。」

心得たとばかりに、使用人を居間から動かし数名残すのみとなった。その数名も、磨き上げた窓ガラスを拭き直す等必要無い仕事をさせて、話しやすい様にさせる。それでも、二人きりにならない様配慮したのか、二人の使用人は小声で話せば聞こえない距離に控えていた。

向かい合わせに腰掛け、飲み物を用意されてやっとお互いに視線を交わす。
そういえば…ファビってどのぐらいに来るんだっけ?まさか、この状況で来られても気まずい…か?いや、大丈夫。リオは普通に友人としての親交だし。

「…リオ、お見舞いありがとう。少し身体が怠かっただけだから、明日には学園に行ける予定だよ。」
「そうなのですね!体調を崩してお休みされたと聞いて、居ても立ってもいられず…。お顔を見られて安心しました。」

ほっと安堵する相手に知らず罪悪感が生まれる。まさか理由が二日酔いなんて格好悪過ぎる。もう平気だから帰って良いよ…なんて事は言えず、取り止めのない会話を続けていく。
学園での些細な変化、ネコ同士の噂話、ホームルームの内容…。商人だけはあり、リオネルの話し方は中々興味を引く物だった。

「あっ…そういえば、フィッツさんは大丈夫でしたか?」

!…フィッツさんて、アンリの事だよな。
特に深い意味は無いだろう。最後にリオネルと別れた時、フィッツ家からアンリの事で呼び出されたのを見ていたのだから。

「あー、うん。大丈夫ー。うん…それなんだけど、少し内輪での事も絡んでいるから、他言無用でお願いしたいんだ。」
「…分かりました。」
「ありがとな。それと、もうこの件については追及しないでくれると助かる。」

やんわりと踏み込んでくるのを拒む。一瞬口角が下がった気がするが、リオネルの表情は変わりなく思えた。

「…それは、私がハレムの者では無いからですよね。」
「え?あ…そう、いう訳でも無いんだけど。ハレムへも周知しづらい内容もあるというか…。」
「フィッツさんをハレムに入れる時期を検討中だからですか?」
「あー、うんうん。確かにそれも考えてはいるかな…え。」
「…………」
「…………」

今…なんて言った?
いや、なんて聞かれた?


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