異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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びば学園生活24

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うん。無理でした。
学校に向かって歩き出したアルフレッドだが、身体中を悪寒が駆け巡った瞬間に心が砕けた。
思い出すなあ。前世は冬になると、数年に一回は風邪引いたものだ。今世はこの体の性質なのか、体調を崩すなんて無かったから。

足を引き摺り向かうは仮眠室。付かず離れず居た護衛の1人を手招きする。「…ファビアンには寝不足、エドウィンには酒による不調と伝えてくれ。あと、エドウィンには口止めを。学校側には…軽い体調不良とだけ頼む。」
「畏まりました。」と機敏に対応する護衛を見送り、他の護衛には外での待機をお願いする。ラティーフは中等部だし、チコは普通科なので気付かれない…と思う。いつもゴメンよ、護衛君達。

仮眠室に入り、窓側のシンプルな寝台に倒れ込む。ブレザー位は脱いだ方が良いけれど、体は悲鳴を上げていた。あー、やっと休める。





ふと目が覚め、瞼を開けた目に映る窓からの陽射し。
微睡む視界の中で映る光は、体感として昼過ぎ頃だろうか。うつ伏せで制服のまま眠ってしまったからか、体の節々が固まってしまっており、起き上がるまでかなりの労力を使う。寝台の上で座ってみたものの、顔を覆って呻くだけ。
…寝たけど寝た気がしないと言うか、楽にはなったと思いたいんだけど、あれ?まあまあ、まだ寝起きだから辛いだけ…。
思案を止めて、ぼんやり床へ視線を落とす。今度は天井へ視線をずらして少しずつだが脳を覚醒を促し、周囲の気配を認識し始める。

勢いで入った広い室内は以前利用した個室では無く、不特定多数の利用出来る大部屋だった。室内には4つの寝台がカーテンで仕切られている。眠る前に力を振り絞って閉めたカーテンに手を伸ばし、開ける…のを止めた。

耳に入る熱を帯びた甘い声に、荒い息遣いと想像力を駆り立てる水音。カーテンの隙間から見える、斜め向かい側の寝台で絡み合う二人組。何をしているのかは想像に容易い。
…大部屋では止めてくれませんかね。カーテン閉めてたから誰か居るって分からないかな!俺も仮眠室で前やっちゃったから人の事は言えないけど、せ・め・て…個室で!

出て行く事を諦めて、仕方なく布団を覆い被さってなるべく耳に入れない様にする。それでも、ただの布を通り過ぎる音は予想以上である。
早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ…アルフレッドの熱心な思いが通じたのか偶然か、カーテンの開く音と共に会話が続く。

『…今回も中々悪く無かった。なあ、ビム?やはり手付き人なのが惜しいな、妾に召し上げたいものだ。』
『身に余る光栄です。勿体ないお言葉。』
『ははは!体は良いのに、本当に可愛げの無い奴だな。笑顔の一つも見せ無いとは、そこが気に入ってるんだが。…まあ良い、次回も楽しませて貰うぞ。』
『…承知、有難き幸せです。』

タチとネコの関係らしいが、何だかハレム内の関係じゃないらしい。尊大なよく見かける種類のタチと、手付き人の固い口調のネコといった雰囲気か。
姿は見えないが、タチは2学年以上なのは確実。

タチが出て行ってからネコの衣擦れの音が響く。彼が出て行くのを待とう。と思ってからそれなりの時間は経っていったのだが、一向に扉を開ける様子は感じない。
どうする?このままいつまでも此処に居てもな…。よし。

「…ふわー。よく寝たなあー。」

今起きましたよーって言うのを装って、腕を上げながら肩の凝りを大袈裟にほぐし、視線は扉を真っ直ぐ見据えて気付かない振りを貫く。一点集中。

「あー、もう昼かあ。食堂にでも行って食事にするかー。」

うん、すっごい視線感じる。ビシバシというか、突き刺さるというか。我慢しろ、絶対目を合わせるな。あくまで今さっき起きたばかりで、誰が居たのかも知りませんよ…で行け。
よし、オッケー。このまま扉を開けて…出られたから、後は閉めれば完璧。

「…これだからタチは…#◆▽▲~~■%∂□。」

閉めながら聞こえた吐き捨てられた嫌悪。声を低めていたのと、後半は共通語では無い言語に混乱する。何より、放たれたタイミングを思うに俺へ向けて放たれた気がする。ジルックェンド、バルディオス語じゃ無かった。フォーランは舌の使い方が違うので除外。

セリアル国の言葉だな。ゆっくりなら聞き取りだけは出来るけど、早口で声が小さかったから分からなかった。それにセリアル国は地域によって、抑揚や声の出し方の違いが大きい。
えーっと思い出せ。#◆▽▲~~■%∂□…音の雰囲気は掴めたが、まったく分からない。響きとしては、何となく否定の音が入っているって事だけ。チコにでも聞いてみるか。


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