異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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びば学園生活20

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室内が普段よりも薄暗かったからか、アンリの違和感に気づくのが遅れていた。よく見れば、シーツに包まれた首元や袖から僅かに覗く手首にも痣や皮膚が破けた様な傷が目に入る。
思わず相手の手首を掴むと、痛みで小さく呻くアンリの反応に直ぐ手を離す。

「…その傷は?いや、俺の方に来てくれるかな。」
「っ…………はい。」

悪いと思いながらも、相手の断れない声音で「お願い」した。目の前まで来た震えるアンリからシーツを剥ぎ取り、無意識の抵抗なのかピクリと動く指先は強く握りしめられた。
慎重に相手の袖を捲ると、やはり酷い有様だった。俯くアンリの背中を露わにすると、背後に控える従者が息を呑む。

「アンリ、傷を手当てしよう。いいね?」

何も言わず小さく肯定を示す相手に安堵し、後ろの従者に目を向ければ反応は早い。簡単な手当ての道具が用意され、適切な処置が施されていく。
従者の者達も、やっとアンリの姿が見れて安心したようだ。

さてと、どうしようか。
実は、あの傷には心当たりがある。確か…ネコや子ども用の躾鞭の傷の筈だ。アンリが昨夜フィッツ家に行ってからだというのなら、家で受けたのだろう。
今回のラティーフとアンリ、ジレスの件はファビアンが上手く収め、ハレムの主であるアルフレッドが罰を決める予定でいた。ファビアンにも待っているように言い含めていた。

ならば、フィッツ家の独断になる。

「…シュタルト様…!」
「ああ…何かな?」
「…あ、アンリ様の手当てを終え、ました。」

ありがとう、と告げて部屋に入る。従者の顔色が悪いのは、十中八九俺のせいだ。たぶん、今の気分が顔に出てんだろうな。あー、やばいイライラしてきた。何で、勝手に俺のハレムの問題に首突っ込んできたんだ?ああ?
アンリが怒ったのだって理解出来る内容だからこそ、俺が色々考えて後腐れのないようにしようと思ってたし。そこらの護衛ならともかく、信頼してたアンリを痛めつけられて気分悪いわ。

「…アンリ。単刀直入に聞くけど、誰にされた?」
「…………申し訳、ありません…」

寝台に座り身体中に包帯を巻かれて痛々しい姿に、アルフレッドの苛立ちは募る。その表情に叱責されたのかと思うアンリは、潤む瞳で深々と頭を下げた。
今にも泣きそうな様子に頭がスッと冷え、隣に腰掛けると怯える相手の肩に手を回す。

「大丈夫、怒ってないから。…君のことが心配なんだよ。どうしてそうなったか教えてくれないか?」
「…っはい。」

瞳から溢れる滴を指先で掬ってやるが、次から次と溢れてくる。愛らしい容姿だからか、それだけで庇護欲が掻き立てられるのは。
ぽつりぽつりと語られた内容に、アルフレッドの眉間は狭くなる。

…アンリが昨夜フィッツ家から呼ばれ帰宅後、呼び出したのはフィッツ家後継であるケール・フィッツだと知り兄の部屋へと向かった。冷たく自分を見据える兄は、仕えるデルヴォー家のハレムで問題を起こした事に強く嫌悪を示した。
タチの兄に言い返すことなど出来ず、ただ従順に謝罪するが、一本気の兄はそのままアンリに罰と称して何度も鞭を振るった。

当初は歯を食い縛って耐えたのだが、あまりの痛みに泣き叫び最後には失神してしまった。兄は鞭打ちを終えると、アンリの頭から水を浴びせ無理やり意識を取り戻させた。
無感情に告げられたのは、

『お前をデルヴォー家の護衛から外す。それと、学園ケラフにも居させられない。』

デルヴォー家への士官をさせない…つまり、ファビアン様に任せられたシュタルト様の護衛は出来なくなる、
理解した頭で、直ぐに兄へ謝罪する。泣くのを堪えて、二度と過ちを犯さない、家の為に主家の為に尽くすと懇願した。
だが兄の決定は覆らなかった。…


「私は、これほど自分が嫌になると思いませんでした。一時の感情で、全てを失うなんて…。」
「…大丈夫、泣かなくて良いんだ。」

そっと胸に抱き寄せ、優しく頭を撫でる。アンリの脳内では、慈愛に満ちたアルフレッドの表情が浮かぶ。最後に良い思い出だった、と微笑んだ。
もしもこの時のアルフレッドの顔を見たら、ルークすら何も言わずに逃げ帰っただろう。

俺さあ…騎士の誇りとか、家の問題とか普段なら大事だとは思うよ?けどなあ、タチが抵抗出来ないネコに暴力振るうのは許せねーんだわ。あ?ハレムの問題すら解決出来無い若造って舐めてんのか?こちとら人生二度目だわ。ふざけんなおい、首洗って待ってろクソ騎士が。
名前は忘れねーぞ、ケール・フィッツ。

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