異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

文字の大きさ
上 下
41 / 119

シュタルト兄弟参るⅣ

しおりを挟む

「…みみみ…ミカエル・シュタルト、です。兄とは同じ産みの親を持ち、実家近くの中等学校に通ってます。あの、よろしくお願い致します!」

緊張しつつもなんとか自己紹介を終えたミカエルは、きっと蔑みや嘲りを受けると思っていた。超絶美少年なラティーフ・シャヒーンの案内で無事に兄と会えたのは二時間前。
兄の寮の自室のベッドに眠る弟の姿に安堵し、みっともなく涙を流したのが今は恥ずかしい。

ミカエルが落ち着いた頃、アルフレッドの計らいでハレムの者が集められた。「絶対場違いだから嫌ー」と叫んだミカエルに対し、兄のアルフレッドは「絶対大丈夫だから」と軽い物だった。
未だに眠る末弟は寝かせたままで、集まったハレムの者達へ挨拶を始めたのだ。

「よろしくお願いしますね。」と微笑んだのは、絹の様な黒髪の傾城級。第1正室のファビアン・デルヴォーの美しさは際立っていた。

うわあああ。可愛い!綺麗!ええ!?兄さんの正室だから、私にとっては義兄だよね。同じネコとは思えないよ…。

「…緊張しているのかな?大丈夫ですよ、アルフレッド様の可愛いらしい弟君に会えて、とても嬉しいのですから。」
「っは、は、ひゃい…。」

ファビアンの言葉は本心からで、タチの同腹の兄弟は重く見られる。外見もアルフレッドに似通った色と雰囲気、素直そうな気質に好感を持つには充分だった。

「ありがとうございます!えっと、第1側室のラティーフさん、第2側室のジレスさん、第3側室のチコさん。そして、第1正室のファビアンさんに、第2正室のエドウィンさん…アルフレッド兄さ…ま、これで全員?」
「ああ。自慢のハレムだよ。」

アルフレッドの軽く放たれた言葉に、その場のネコは赤面したり俯いたり、はにかんだりと様々な反応を見せる。

実弟のミカエルは思う。故郷の田舎町に居た時は若いネコが居なかったから知らなかった。この優しい兄は、どうやらネコ泣かせかもしれない、と。

紹介も終えた所でお茶にしようかと立ち上がりかけた時、奥から元気な足音が聞こえてきた。

「アルくーん!ミカちゃーん!」
「グレイ、おはよう…じゃない、一人にさせてごめんねえ!」
「よく寝られたみたいだな。おはよう、グレイ。」

すっきりと昼寝から目覚め、勢い良くアルフレッドに飛び付く末っ子にミカエルは眉を下げる。言われたグレイソンはあどけなく「いいよー」と笑って、大好きな兄に頭を撫でられてご満悦だ。

「あ!そうだ、エドちゃんは?」
「ん?エドウィンならそこに…」
「…エドちゃん!」

兄の指し示す方を見るグレイソンの瞳には、穏やかに自分を見つめるネコが映った。素早く兄の膝から滑り降りた子どもが向かうのは、すっかり懐いた年上の騎士だ。

「エドちゃん、エドちゃん。ぼくね、エドちゃん好きなの!」
「っそうか。その、ありがとう。」

真っ直ぐな気持ちに少し気恥ずかしくなりながらも、エドウィンはしっかりとグレイソンを抱き上げ膝に乗せる。
そんな二人を見つめるアルフレッドは数度目を瞬かせた。

…グレイってわりと人見知りしないけど、こんなに懐くのも珍しいな。母性…じゃない、親性が強いのか、相性が良いのか何にせよ。

「エドウィンは良い“正室はは”になりそうだね。」
「!あ、ありがとう、ございます。」
「「「……………」」」

深く考えずに口にした内容だが、表情の変わらないネコ達に衝撃を与えていた。この場では一つ上というだけだが、年長者であるエドウィンすら喜びに口元を弛ませる程だ。
自分の夫からの誉め言葉としては、最上級の部類に入る。だよね、と振られたミカエルの方がその場の空気に気付いており、生きた心地がしなかった。

(兄さん!気付こうよこの空気に…!)





無事に弟と再会出来たミカエルは、兄アルフレッドの見送りでグレイソンを連れてワープゾーンまで向かう。のんびりと兄弟水入らずでの校内散策に自然と笑顔が浮かぶ。
というのも、一般的にネコからタチの兄弟へは特に親愛が強くなり、親子間でもそうだ。

「ねえ、そういえば兄さんは…「アルフレッド。」

穏やかな会話の最中に、後方から声が掛かる。振り向いた先にはアルフレッドにとっては唯一の対等な友人である。

「ルーク。…もう用事は終わったのか?」
「ああ。それで、もう一人の弟君とは会えたのかい?」

その疑問に直ぐ頷くと、何故かルークを見つめたまま動きを止める弟を手で指し示す。「二つ下で、同腹のミカエルだよ。」との紹介にも、当のミカエルは口を閉ざし俯いてしまう。
その反応に特に気分を害すことも無く、ルークは貴族的な微笑みを贈る。

「大人しい子なのかな?俺はルーク・フェルナンド。兄君の友人で親しくさせて貰っている、よろしく…ミカエル。」
「……はい。」

じゃあ、また…とにこやかにその場を去っていくルークの背中から目が離せない。グレイソンの手を繋ぐアルフレッドは、そんな弟の様子に大方を察した。
まあ、ルークなら悪くないか。ネコに手を上げないし、爽やか好青年なイケメンだし、同じタチから見ても優良物件だよな。

「…フェルナンド様………。」




しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!

ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。 らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。 なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ──────────── ※感想、いいね、お気に入り大歓迎です!!

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...