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シュタルト兄弟参るIII
しおりを挟む「…食事でも行かないか?」
「いや!」
「っじゃあ、何かして遊ぶ?欲しい物は?」
「い~やあああああ!」
エドウィンから迷子の子どもを託されたものの、ジレスは困り果てていた。特別子どもの扱いが下手だという事では無く、グレイソンがエドウィンにすっかり懐いてしまったからだ。
此処に居ても仕方ないと覚悟を決め、泣き叫ぶグレイソンを抱き抱え移動する。
「いやーーーーー!!エドちゃんがいいのー!ジレスきらーい!!わああああああん…」
「……………………」
子どもに嫌われるというのはこんなに辛いのか…と、暴れるグレイソンに内心悲しくなってくる。大声で叫ぶものなので、周囲からの視線が痛い。何事かと見に来る者達も、ジレス・フィッツの疲れ切った様子に何か察したのか憐れみを向けていた。
「…ジレス様、よろしければ変わりましょうか?」
「ああ…。いや、大丈夫だ。」
「いやーーーーー!」
同じ騎士科でフィッツ家に仕える者が気を遣ってくれるが、キャベンディッシュ様に頼まれたことだと首を横に振る。
将来国を守るフィッツ騎士団に入るのなら、一人の子どもの相手位で戸惑っていてはならない。
ジレスはどこまでも真面目だった。
しばらく泣き叫んでいたグレイソンだったが、泣き疲れたのか次第に声が聞こえなくなっていく。微睡む子どもを慎重に横抱きにし揺らしていると、閉じられた瞳と可愛らしい寝息。
「…ふう。寝たか。」
ほっと安堵の息を洩らす。子どもらしい寝顔を見下ろし、何処かに寝かせようとまた歩みを進める。
仮眠室に向かう道すがら、遠くに見えるのは学園の中で頂点に君臨するタチの二人だ。気付いた他の生徒が端に寄り、側室であるジレスは通れる場所を空けておく。
近付いてきた二人組の片方が先にジレスに気付き、その腕の子どもへ目を向けると意味ありげに口角を上げる。
「へえ、アルフレッド。もう子どもが産まれたのかな?おめでとう。」
「はあ?流石にそれは早すぎる……………って、え?」
「…シュタルト様?」
友人と軽口を叩き合うアルフレッドだったが、ジレスが抱く子どもの姿にピタリと動きを止める。
「…グレイソン?」
「っ!?この子をご存知でいらっしゃいましたか?」
ジレスの問いかけに「ああ」と頷き、アルフレッドの手が眠る子どもの顔に触れる。頬を何度か突っつき、肩を軽く揺らす。
もぞもぞとジレスの腕の中で動き始めたかと思うと、ぱちりと開いた瞳がアルフレッドを捉えた。
「…んう………!アルくん!」
「久しぶりだね、グレイ。」
ぱあっと輝く瞳が、優しく笑みを浮かべる相手を見つめる。自然と伸ばされた両手から、体ごと受け取り当たり前の様に腕に抱く。
やはり君の子なのか?とでも言いたげなルーク。親しげな様子に驚くジレスに気付き、苦笑しグレイソンを抱っこしたまま口を開いた。
「この子は俺の弟。末っ子のグレイソンだよ。まさか、ジレスと一緒に居たのがこの子だったなんて。」
「…シュタルト様の弟君、だったのですね。」
目を見張るジレスに頷き、「弟が迷惑かけたよな、ごめん」と頭を下げれば、慌てて「とんでもありません」と両手を振る側室だ。
それに…とジレスが続ける。
「弟君を保護されたのは、キャベンディッシュ様でございますので。…」
ふむふむ。
「ぼくねー、エドちゃん好きなの。」
「エドちゃん?…ああ、エドウィンのことか。エドウィンに遊んで貰ったのかな?」
「あのねー、エドちゃんやさしいんだよ。あとね、きれいなの。」
よほどエドウィンが気に入ったのか、子ども特有の早口で一生懸命話している。そんな弟に答えながら、迷惑かけただろうから埋め合わせしないとなーと思う。
あれ?そういえば…
「この子、1人で居たのか?」
アルフレッドの疑問にジレスも直ぐに頷く。ジレスの見たままならば、迷子であった一人の子どもをエドウィンが保護し、自分に託したといった所だ。
実家にある本を届けに来てくれると連絡をしてきたのは、同腹の弟であるミカエルの筈。流石に5才の幼児が一人で学園には来られない。ということは。
ミカエルも迷子か?
とりあえず眠そうなグレイソンを寮の自室へと連れていきながら、用事のあるルークとは一度分かれる事になった。
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