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たのしい休日7
しおりを挟む朝に訪ねてきたファビアンはにこやかにアルフレッドの部屋へと入室する。私服の貴族らしい仕立ての良い衣服は良く似合っており、魅力を一層引き立てていた。
部屋で料理人に調理させた朝食を二人きりでゆっくりと口にする。焼きたてのクロワッサンとプレッツェル。数種類のジャムやバター、蜂蜜が並び、大皿から取り分けるサラダ。よく焼いたベーコンとゆで卵、フライドポテト。ヨーグルトに、俺は珈琲でファビアンは紅茶を選ぶ。
「…それで、どうなったんだ?」
「はい、彼らと話しをしまして…」
会話の流れで昨日の事になり、ファビアンが詳細を話し出す。部屋へと連れて行き、1人ずつ個別で話しをして言い分を聞いた様だ。
ラティーフはファビアンには謝罪し反省の弁を述べていたが、手を出されたことを不快に思っていた。ジレスは終始、全て自分が悪かったと言い続けていた。アンリは叩いてしまった事を悪いと言いながら、ラティーフに対して憤っていた。
「…なるほど。ファビ、苦労かけたね。」
「いえ、アルフレッド様がお気になさる事ではございません。彼等には、ハレムの主の部屋で騒ぎを起こした罰として、授業以外は部屋での謹慎を命じております。」
アルフレッド様のお許しが出るまで、としていますのでと微笑んだ。ああ、俺が期限を決めるのか。あくまで部屋で騒いだ罰なのは、他の件で罰するには少々入り組んだ状況だからだ。
ラティーフとジレスは俺のハレムの子だから、俺が最終的に対応すべきだと言う。アンリはどうするのかと聞くと、ファビアンの顔が曇る。
「…元々は私の護衛から、アルフレッド様の護衛にと差し上げた者です。ですが、今回ハレムの者同士の会話に、部外者が勝手に割り込んだ形となってしまいました。」
ハレムの主の護衛が、ハレムの者を傷付けてしまった。それは、事実で言い逃れ出来ない。
護衛から外し、フィッツ家に戻す…それがラティーフを納得させる最善策だ。
「…ファビ、結論は少し待ってくれるかな。」
「はい…?」
「俺も良い方法を考えてみよう。」
申し訳ありません、ありがとうございます…とファビアンが頭を下げる。ジレスとアンリはファビアンにとって元々側に置いていた護衛だった。心優しい彼にとって、本当はアンリを遠ざける判断は心苦しいのだろう。
食事を食べ終えて、椅子から立ち上がる。同じく立ち上がったファビアンの手を取り、部屋を出ていく。いつも居てくれた護衛二人が居ないのは寂しいが、今日は仕方ない。
「…さあ、この話しはおしまいにしよう。今日はのんびり街を見て回ろう。」
「はい、よろしくお願い致します。」
*
学園の門に待機させていた馬車に乗り込む。着いて来るらしい護衛と従者は、側で馬に乗りながら付かず離れずに居るようだ。
行き先の方向に向いた座席に並んで座り、窓の外へと目を向ける。整頓された美しい石畳の街並みに、活気のある数多くの店が並ぶ。
馬車に乗ったままなのはもどかしいが、基本的にタチは表に出て行かない世界だ。混雑した場所に出て行き、護衛達を困らせるのは申し訳ない。
「…あそこの噴水広場では、毎日大道芸人が芸を披露しています。あの店は、宝石商ですね。…あれですか?私は口にした事がありませんが、鹿と牛を扱う串焼きが売られていて…」
おお、串焼き…出た!
窓の外から見える物の説明を受けていると、気になっていた串焼きの店が目に映る。従者の一人に声を掛け、買いに行って貰い1串を手に持ってかぶり付く。大振りな牛肉の肉汁が口の中いっぱいに広がる。しっかり香辛料が使われていて臭みは無く、普段食べている高価な肉料理と違う雑さがまた良い。
興味深そうに眺めてくるファビアンに気付き、飲み込んでから串焼きの反対方向を向ける。
「ほら、一回食べてごらん。」
「えっ…あの。…い、いただきます。」
ファビアンが気に入る味かは分からないし、串焼きなんて王族が食べる物ではないだろう。怖々と顔を近付け、小さく噛みちぎり手で口元を隠し咀嚼する様は可愛いらしい。飲み込んでパッと瞳を輝かせる。
「どう?美味しい?」
「…こういった露店の物は初めてなのですが、新鮮です。」
コクコクと頷くファビアンの口端についたタレに気付き、唇を寄せて素早く舐めとる。「うん、うまい」と笑うアルフレッドに、頬を赤く染め上げて固まるファビアン。
買い食いに弾みのついた勢いで、目に入った気になる食べ物を買っていく。ファビアンと共に食べてみたり、護衛や従者にも薦めると喜ばれた。前世の甘酒に似た飲み物を見つけた時には驚いたものだ。
馬車に乗ったまま街中を散策していれば、露店が並ぶ通りを抜けて、しっかりと建てられた店舗が連なる場所へと景色が変わる。
ファビアンの説明では此処から区画が変わり、旅人へと提供された宿屋、冒険者の寄合所、万人向けに仕立てられた服屋、食事処、ボードゲームが楽しめる遊び場等があるらしい。
冒険者…という言葉にタチ心を擽られるが、この世界の冒険者はゲームや物語のイメージとは大分異なるようだ。
行く当ての無いネコや、仕事の持てないネコが何でも良いから仕事を請け負う場所らしい。花街のネコよりも更に酷い扱いを受けるという。夢も希望も無いな。
ぼんやり景色を眺めていると、すれ違う馬車が急に止まり、従者らしき者が此方へと近付いて来る。従者づてにファビアンへと話しが伝わり、不思議そうなアルフレッドに顔を向ける。
「どうやらあの馬車はチャップマン君が乗っているようで、此方に気付いて声を掛けてきたそうです。」
「…チャップマン?ああ、リオが乗ってたんだ。」
クラスメイトのリオネルの姓を思い出し、馬車が止まった理由に納得したのだ。
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