異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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たのしい休日6

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…え?ええー?
ラティーフの考えに驚愕すると共に、扉を開こうとするアンリの腕を掴む。騎士科らしい気迫を纏う姿にドキリとするが、此処で踏み入るの得策じゃない。

「…アンリ、良いから。」
「ですが、あのような無礼な物言い許せません!シュタルト様のハレムに入れるなら、いいえ…手付き人ですら構わないと言う者ばかりなのに。まさか、傲慢にも側室に選ばれた事を誇るどころか…あんな戯れ言を。」

憤る相手には悪いが、「え?手付き人ですら構わないと言う人が居るの?」と混乱する。貴族科で穏やかに過ごす自分にとって、タチであることの重要さは理解はしていたが。

『貴方の考えは同意出来ません。側室に選ばれたのなら、その役割を全うすべきだ。』
『…君の意見なんか聞いてない。ぼくにはぼくの思いも、目的だってあるのだから。護衛から成り行きで選ばれただけの君が、口を挟む余地は無い問題だよ。』

ラティーフの言葉が終わった瞬間、扉が勢い良く開かれた。咄嗟にアルフレッドは身を隠したので事なきを得たが、驚き振り返る二人の目には怒り心頭のアンリが立っていた。
つかつかと歩いて行ったアンリの手が、固まるラティーフの頬をひっぱたく。バチーンと良い音がアルフレッドの耳にも確かに聞こえた。

『ジレスを貶めるのは許さない!…っジレスは、ジレスは、フィッツ家の中で努力と才覚だけで認められたんだから!私と違って、ジレスは凄いんだから…謝ってよ!』

呆然と叩かれた頬に触れたラティーフは、みるみると身体を震わせ眉を吊り上げる。

『…お前、誰に向かって手を上げたか分かってるの?たかが護衛ごときに意見された上に、何で叩かれないといけないんだよ。』

怒りに震えるラティーフに、慌てて間に入るのはジレスだ。アンリに落ち着け、と言いながらラティーフに何度も頭を下げている。

『…どうか、お許しを!少し直情的でして、決して根は悪い者では無いのです。全てオレの至らない所から起きたことでして、どうか、この通りです!』

壁に寄りかかってアルフレッドは頭を抱える。此処で俺が出ていけば場は収まるが、良い方向に行く筈無い。
戻って来ないラティーフの様子を見に来た従者に気付き、そっと呼び寄せて何とか頼んでおいた。ファビアンを呼んで欲しい…と。

素早く去っていった従者は、間もなく急ぎ足のファビアンを連れて戻ってきた。困り果てた俺の様子に気付いたのか、慌てて駆け寄ってくる。

「お呼びと伺いまして…何か問題でもありましたか?」

心配そうに此方を見上げてくる姿に安心して、先程から起こっていた状況を簡単に伝える。それと、俺が入るよりもネコ同士のファビが間に入った方が角が立たないことも。
話し終えると、ファビアンの顔から笑みが消える。

あれ?俺何か失敗した?
口元だけに笑みを浮かべ、「どうかお任せ下さい」と、部屋へと入っていく姿は妙な圧を感じる。すっごく頼りになるなー。ああ、思い出した。幼い頃に、下らないことで喧嘩した俺と弟に渇を入れた第1正室ははに似ているんだ。

『失礼します。』

ファビアンが部屋に足を踏み入れると、室内から声が消えた。怖い…どんな顔してるんだろう。

『二度は言わない。全員部屋から出なさい。』
『『『っはい…!』』』

ひえっ。声だけなのに怖いとか、実際に言われたら泣きそう。うん…ファビは怒らせないようにしよう。そう心に誓った。

部屋から連れ出される三人の表情は青ざめていて、少々可哀想だが此所はファビアンに任せるしかない。脳内に流れる曲は、子牛が荷馬車で運ばれていく映像付きだ。
そっと柱の影から見送り、目が合うファビアンがペコリと頭を下げてくる。三人を呆れた様にチラと見て、「ちょっと説教してきます」と言いたげに苦笑した。

三人が揉めた理由が俺のことも含まれているので、ファビには大変申し訳無い。ありがとう、と手を合わせておく。







何となくこのまま部屋に戻るのも気が乗らず、反対方向へ足を向けて医務室に行くことにした。チコの個室に案内されると、名前の表記が「チコ・ドラード」へと変更されている。

「チコ、お見舞いに来たよ。」
「…!シュタ、ルト様。」

声を掛けると獣耳がピンと立ち、此方を振り向いた途端にへにゃりと笑みを浮かべる。
窓際で外の景色を見ていたらしく、入り口まで嬉しそうに寄ってきてくれた。お見舞いとして籠に入れた果物を手渡すと、にこにこと大事そうに受け取る。

「…あ、ありがとうございます。フィッツ様は毎日来て下さいますが、でも…」

一度言葉を切って、瞳を潤ませてアルフレッドを見上げる愛らしさは、猫よりも小動物を連想させる。

「シュタルト様が、来て下さるのが…い、一番嬉しい、です。」

なんだこの可愛すぎる生き物は!
純粋に慕ってくれる相手は、心から言っているのだと感じる。思わず抱き締めると、幸せそうに目を閉じて安心しきって身を寄せてくる。
大丈夫か?…可愛すぎて、変な奴に連れていかれるんじゃ無いか? 本気で心配になり、「知らない人には付いて行っちゃ駄目だぞ」と言っておく。

「…?はい。えっと、分かりまし、た?」

小首を傾げて頷くチコに、それでも心配は尽きなかったりする。

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