異世界には男しかいないカッコワライ

由紀

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たのしい休日5

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デルヴォー家の使用人がそれぞれの前に、1人ずつ確認しながらケーキを取り分けていく。アルフレッドがわざと甘ったるいクレープ系を選んだのは、糖分が欲しかったからだとか。

お茶会の始まりは、自然とネコ達の自己紹介へと移っていく。俺が言うのでは無くて、ファビアンから「改めて名乗り上げてもよろしいでしょうか」と切り出してくれたのだ。
どちらかと言えば、お茶会といった場自体はタチよりもネコ主体が一般的で、ネコの情報共有や社交の場になると言われる。

「…では私から、第1正室のファビアン・デルヴォーです。高等部1年Ⅱ組で、出身はジルックェンド連合国になります。皆様どうかよろしくお願いしますね。」

品の良い笑みと共に語られた説明は簡潔だが、しっかりとハレムの中で必要となる役割は忘れない。最初の自己紹介は模範となり、次に続いていく者がこれで進めやすくなっただろう。

「第2正室のエドウィン・キャベンディッシュという。高等部2年の騎士科なので、アルフレッド様とデルヴォー伯爵とは離れた距離なのだが、共に過ごす時間を重ねていきたい。バルディオス帝国の出身だ、皆よろしく頼む。」

正室でありこの中では年上らしさを加え、礼儀に叶った挨拶を行う。二人の挨拶が終わったタイミングを見計らい、ラティーフが一度会釈をしてから口を開いた。

「第1側室となる予定の、ラティーフ・シャヒーンです。中等部2年Ⅲ組で、出身は神聖国家フォーランです。よろしくお願い致します。」

予定を若干強調した様に思えたのは、単なる気のせいだろうか。正室二人は特に反応は無い。大方、指輪をまだ贈られていない為、正式なハレムの一員では無いことを言いたいだけに見えたのだ。
ラティーフの挨拶が終わり、室内の視線がジレスへと移る。護衛中とは違い、まるで普通のネコの様に困惑と緊張を浮かべる当人は、アルフレッドへ助けを求めていた。

ああ、俺から言うべきだよな。

「…ジレスとは昨日話したばかりなんだけど、彼には側室となって貰おうと思っているんだ。」

そう言うと、他の3人も表面上は受け入れてくれたようだ。元々はファビアンの護衛だったから反応は気になっていたんだけど、特に反論は無いみたいだな。
三人の様子を見てから、ジレスもやっと姿勢を正して覚悟を決めたように見える。

「…ジレス・フィッツと申します。ジルックェンド連合国の出身であり、家は代々王家に仕えております。シュタルト様のハレムに入れること、今でもまだ夢の中に居る心地が致します。…どうか皆様これから御導き下さいますよう、よろしくお願い申し上げます。」

誠実で真っ直ぐに語られた言葉に、初めにエドウィンが「よろしく」と微笑する。ファビアンも続いて直ぐに「今後も長い付き合いとなるね」と好感触を見せる。ラティーフの反応が薄いのは気にかかるが、側室として一歩引いているのだと判断する。

固かったジレスだが、少しずつ普段の他愛ない話しへと会話が移っていく内に、相槌だけでなく時折話しに混じる姿も増えていく。
前世では女性は話しを広げたり会話を続けるのが上手いと感じていたが、この世界のネコが正にそれだろう。家を守っていくにあたり、必要なスキルなのだと実感する。

話しの流れで来週はバルディオス帝国に行くことを伝えておく。

「バルディオス帝国ならば庭の様な物なので、ご案内出来るかと。」
「ああ、エドウィンは産みの親がバルディオスの騎士団長だったね。王城にも出入りしたことがあるのかな?」

はい、と頷いてくる。幼い頃から王城にも連れられ、帝国の皇族とも親交があるらしい。夜会にはダンスの時にパートナーを連れて行く必要があり、正室二人は連れて行きたかったのでエドウィンの存在は助かる。
ラティーフとジレスも休みの調整をすると言ってくれたので、大丈夫そうなら連れて行こう。

穏やかに進んだお茶会も、波風立たずに終えることが出来たのだった。







各家の使用人達が素早くかつ的確に片付けを終えて、部屋は以前の形へと戻っていた。いや、むしろ以前より綺麗な程だ。
先に帰って行くファビアンとエドウィンを見送り、廊下から部屋に戻ろうとした。確か、最終確認にジレスが残っていたっけ。

『…シャヒーン様、同じ側室同士これから色々と相談させて下さい。』

室内から聞こえる声に、もう1人ラティーフが居たことを知る。ネコ同士の会話を邪魔しては悪いと思い、何となく廊下から戻れず聞き耳を立てた。

『悪いけど、相談には乗れないかな。』

え?!いじめ?
切り捨てる口調に心臓が跳ねる。ラティーフは気位が高そうだと思っていたけど、賢い子だから態度に出さないだろうと。
間に入るべきか迷っていると、二人の会話は続いていく。

『…それは、オレの家格の問題でしょうか?』
『いや、君程度の家格はぼくが気にするまでもないよ。ただ、まだ指輪を受け取っていないから、正式に側室となるかは分からない…』

二人の表情は分からない。だが、あまり良くない雰囲気は感じる。廊下に居る俺に気付いたアンリが心配そうに寄ってきたので、何も言わず扉を指差して耳を寄せさせる。

『…シュタルト様の決められたことに、畏れ多くも抗うと言われるのか?』
『?抗うだなんてとんでもない。ぼくはね、王族であらせられるデルヴォー様はともかく、キャベンディッシュ様には劣らないと思うんだよ。それなのにぼくが側室だなんておかしい…そうに、シュタルト様だって気付かれる筈なんだ。』

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