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たのしい休日3
しおりを挟む中央機関から戻った後のことはあまり覚えていない。普段通りに笑って話しかけたつもりなのに、エドウィンが妙にそわそわと落ち着かない風なのは気のせいだと信じたい。
何となく気分が優れず、顳顬をぐりぐりと押さえワープゾーンで転移を行う。
着いてきて貰った各家の使用人達に礼を言い、彼らが去って行くのを見送る。「今日はありがとう」と言っただけのことで、あそこまで感激されるとは思わなかった。
何となく気分が晴れないままで、寮の部屋へと戻る事となる。心配なそうなエドウィンとジレスには悪いが、少し一人になりたかった。
中央の部屋に置かれたソファーに横たわり、腕を枕にし深く息を吐く。
あー、さいあくだ。何だあのおっさん。自分の理論を押し付けんなよなー。
ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜ、窓辺に置いた装飾箱を目に留める。朝に届いた、エドウィンに贈る指輪の入った入れ物だ。今日は中央機関に行くから、明日には贈ろうと思っていた。
こんな乱れた気持ちで渡すなんて、相手に対して失礼だろう。明日には、気持ちを切り替えないと。
ソファーの上でうだうだとのたうち回る。
ああー、ファビに癒されたい。エドウィンはちょっとまだ緊張、はしないけど年上だし…俺の事をキラキラした目で見てくるからな。なんかまだ幻想を壊したくないというか、いや将来一緒に住むんだから、そんな事言ってらんないか。
ラティーフはまだ指輪をあげてないしなー。あっちから打ち解けてくれるタイプじゃないし。あー、エドウィンとラティーフも皆で顔会わせた方が良いかな。
チコはちょっと迷ってる…。妾にしようか、側室になってもらうか。本人の様子次第だな。そんなチコは来週まで静養させて、じっくり身体を治して貰っている。
らしくなく、ぐるぐると頭の中が回っている。
あんな考え方が一般的だとは思いたくないが、自分も前世を知らなかったら、そうなってしまったのか。
自分の手を見つめる。ジレスに触れられた時、少し安心出来たのは本当だ。ファビアンを正室にしてから、ずっと俺を守ってくれているジレス。アンリとは違い、自分から声を上げたり前に出ていくタイプでは無い。
でも、そんな姿が今は何故か思い浮かんでいた。
大人しい子が好きって訳じゃ無いんだけどな。あの静かな雰囲気が、然り気無く気遣ってくれる空気が好ましいと思う。ジレスを側室にしたいって言ったら、ファビがどう思うかな。まてまて、まず本人にも選ぶ権利あるだろ。
*
気分転換にケラフの図書館へと向かう。なんだかんだ、じっくり本を読めていなかったから丁度良い。部屋を出ると、少しだけ気まずい相手と目が合った。
「…ジレス。休みの時は、護衛は良いと言ったよな?」
「っ申し訳ありません。」
部屋の外で待機していたらしいジレスは、きちんと正装のままである。俺としては、休みは摂ってほしいし先程の考えが過ってしまい、落ち着かないのは確かだ。
しょんぼりと気落ちしてその場から去ろうとする背中を見てしまい、堪えきれず「ぶは」と噴き出す。
「…?!シュタルト様?」
「ふっ…あっはは!…はー。ごめんごめん。」
驚いて振り返ってくるジレスには悪いが、止まらない笑いを収めるのが辛い。何とか咳払いで笑いを止め、困惑しながらも安心した様に見える相手をじっと観察する。
気落ちした時に、側に居ようとしてくれたジレスを可愛く思うのは仕方ないのか。
「…俺のハレムに入る?」
口をついて出たのは無意識で、今言うつもりでは無かった。疑問系になったのでよしとするか。断られたら残念だが、まあ希望は全て叶うとは限らない。
「は、い…えと、是非!」
「え?」
「え?!…あ、冗談だったのでしょうか?」
「あ、いや…。じゃなくて、」
良いの?と首を傾げる。好きなタチが居たら、それを優先して良いんだよ。もし居なくても、これから良いタチとの出会いもあるかもしれないし。人生って長いから。護衛対象に言われたからって、義理立てする必要無いよ。
…そんな事を言い立ててみるが、ジレスは意思の強い瞳で見つめてくる。
「シュタルト様『が』良いです。」
マジで?
嫌われては無いと思ってたけど、好かれているとは思ってなかったから。
「…ジレス。」
「はい。」
手招きして直ぐに寄ってきた相手の手を取り、そのまま繋いで歩き出す。戸惑い気味に繋がれた手と俺を交互に見るジレスから文句は無いが、合わされた歩調は新鮮だ。護衛のジレスと肩を並べることなんて無かったから。
「今から図書館行くんだけど、その前に騎士科を案内してくれるか?厩舎を見てみたくて。」
「…はい。畏まりました。」
護衛然としているのはご愛嬌だ。慣れない俺の横顔をチラチラ見てくるのに気付かぬ振りして「指輪はどういうのが良いかな」と呟く。
ボンと音のしそうに赤く染まる顔に、可愛く思う。流石に気が多いかと反省するが後悔はしないでおこう。
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