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ルーク・フェルナンド視点

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シオンチェスターという海に囲まれた小さな島国で産まれた俺は、父はB級、産みの親は第3正室だった。
父のクラスが高かったせいか、第1正室の産んだ次男もタチであり、一族にタチが二人居る珍しい家だった。貴族である父は兄と俺を連れて、社交界を経験させてくれた。

第1正室の産んだD級の兄、第3正室の産んだA級の弟。ネコと異なり、家格以上に重く見られるクラスは、自然に兄との軋轢を生んだ。
妬ましげで恨めしそうな瞳。お前が産まれなければ、タチは自分だけだったのに…と面と向かい言われた事もある。家の雰囲気としては、俺を後継者として見ていると察していた。

だが、5歳上の兄を思う。第1正室の子で、タチとして産まれた。他の家ならば、文句なく後継者として生きていけた筈だ。俺が産まれた為に、2番手に甘んじることとなった。それ以上に、兄には家を大きくしたいという意欲が有り、俺は正直そこまでの情熱は無い。

というより、国を出て広い世界を見てみたい。騒がしくまとわりついてくるネコも好きじゃないけれど、フェロモンを抑える為にハレムは必要だと知っている。数少ないハレムを連れて、世界を旅してみたい。そう思っている。

俺は12歳、兄は17歳の年の初め。一族の集まる場所で、父の前へと進み出た。

「…父上に申し上げたいことがございます。」
「ふむ。どうしたね?ルーク。」

一族全ての目が自分に集まっていた。

「私は来年より、今の中等学校から学園都市ケラフを受験したいと思っております。その後は、シオンチェスターを出て自分の屋敷を持ち暮らしたいです。」

室内が騒然とする。父は何を言われたのか分からないと言いたげに、自分の顎髭を撫でながら此方を見据える。産みの親はただ静かに座っているだけ。事前に俺の考えを聞いて、驚く程すんなりと受け入れてくれていた。

「…ケラフを受験するのは良いが、お前に譲った子爵の地位と領地はどうする?」
「返上致します。私は何も要りません、身一つで生きていきます。」

ううーむ…と父は呻いた。家を出たいという俺の考えを受け入れ難いのだろう。

A級の俺が家を継げば、名門のネコが喜んでハレムに入り、家を大きく出来る。小国の中流貴族が、4大国へ進出出来るかもしれない。

「…お前は、フェルナンド家を捨てると言うのか。」
「申し訳無く思います。お許し下さい。」

許してはくれなかったが、最後に諦めてはくれたらしい。深々と頭を下げて、 その日より後継者では無くなった自分。「お前は馬鹿なのか」と心底呆れていた兄には、ただ「家をお願いします」とだけ告げた。







意気消沈した父からは親として、ケラフに入るまでの準備はして貰えた。子爵の地位は返上し、成人したら屋敷を出ていく旨も了承させた。家には頼らず、タチとしての補償金で生活するつもりだ。今までの生活とは違い、本当に身一つとなった自分に笑ってしまう。

中等部に入学してからは、家で生活していたよりも穏やかな日々になった。自分の入った貴族科のネコ達は、よく弁えており熱心に関わろうとはしてこない。

だからといって、思春期を迎えた今フェロモンを抑えるのは難しい。その為、同じクラスのルキウス・キケロを正室へと選んだ。普段の様子を見ていて、群れたりせず品も良く感情の起伏も少なく落ち着いているからだ。
正室への誘いの声を掛けると、本当に喜ばれたので内心罪悪感に襲われる。自分にとって、都合の良い存在にしようとしてしまった。

多少の反省と共に、将来世界を見て回りたいと伝える。嫌ならば、逃がしてあげよう。そう思った。

「…素晴らしいお考えです。その時は、是非私もご一緒させて下さい。」

瞳を輝かせるルキウスに、初めてネコへの情が芽生える。もしかしたら、一緒に生きてみたら楽しくなるかもしれない。

そう思った矢先、指輪を渡した日に予想外の事を告げられた。ルキウスの正式な名は、ルキウス・キケロ・バルディオス。バルディオス帝国の第一皇子で、弟にタチが産まれるまでは跡継ぎだと言う。
窮屈な世界に生きる人、そのものだ。流石に自分の為に全てを捨てろとは言えまい。

此所で直ぐに別れを告げては相手に傷がつく…そうだ。ルキウスに相応しいタチを探してやろう。

そう、決心した。

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