18 / 110
ルーク・フェルナンド視点
しおりを挟むシオンチェスターという海に囲まれた小さな島国で産まれた俺は、父はB級、産みの親は第3正室だった。
父のクラスが高かったせいか、第1正室の産んだ次男もタチであり、一族にタチが二人居る珍しい家だった。貴族である父は兄と俺を連れて、社交界を経験させてくれた。
第1正室の産んだD級の兄、第3正室の産んだA級の弟。ネコと異なり、家格以上に重く見られるクラスは、自然に兄との軋轢を生んだ。
妬ましげで恨めしそうな瞳。お前が産まれなければ、タチは自分だけだったのに…と面と向かい言われた事もある。家の雰囲気としては、俺を後継者として見ていると察していた。
だが、5歳上の兄を思う。第1正室の子で、タチとして産まれた。他の家ならば、文句なく後継者として生きていけた筈だ。俺が産まれた為に、2番手に甘んじることとなった。それ以上に、兄には家を大きくしたいという意欲が有り、俺は正直そこまでの情熱は無い。
というより、国を出て広い世界を見てみたい。騒がしくまとわりついてくるネコも好きじゃないけれど、フェロモンを抑える為にハレムは必要だと知っている。数少ないハレムを連れて、世界を旅してみたい。そう思っている。
俺は12歳、兄は17歳の年の初め。一族の集まる場所で、父の前へと進み出た。
「…父上に申し上げたいことがございます。」
「ふむ。どうしたね?ルーク。」
一族全ての目が自分に集まっていた。
「私は来年より、今の中等学校から学園都市ケラフを受験したいと思っております。その後は、シオンチェスターを出て自分の屋敷を持ち暮らしたいです。」
室内が騒然とする。父は何を言われたのか分からないと言いたげに、自分の顎髭を撫でながら此方を見据える。産みの親はただ静かに座っているだけ。事前に俺の考えを聞いて、驚く程すんなりと受け入れてくれていた。
「…ケラフを受験するのは良いが、お前に譲った子爵の地位と領地はどうする?」
「返上致します。私は何も要りません、身一つで生きていきます。」
ううーむ…と父は呻いた。家を出たいという俺の考えを受け入れ難いのだろう。
A級の俺が家を継げば、名門のネコが喜んでハレムに入り、家を大きく出来る。小国の中流貴族が、4大国へ進出出来るかもしれない。
「…お前は、フェルナンド家を捨てると言うのか。」
「申し訳無く思います。お許し下さい。」
許してはくれなかったが、最後に諦めてはくれたらしい。深々と頭を下げて、 その日より後継者では無くなった自分。「お前は馬鹿なのか」と心底呆れていた兄には、ただ「家をお願いします」とだけ告げた。
*
意気消沈した父からは親として、ケラフに入るまでの準備はして貰えた。子爵の地位は返上し、成人したら屋敷を出ていく旨も了承させた。家には頼らず、タチとしての補償金で生活するつもりだ。今までの生活とは違い、本当に身一つとなった自分に笑ってしまう。
中等部に入学してからは、家で生活していたよりも穏やかな日々になった。自分の入った貴族科のネコ達は、よく弁えており熱心に関わろうとはしてこない。
だからといって、思春期を迎えた今フェロモンを抑えるのは難しい。その為、同じクラスのルキウス・キケロを正室へと選んだ。普段の様子を見ていて、群れたりせず品も良く感情の起伏も少なく落ち着いているからだ。
正室への誘いの声を掛けると、本当に喜ばれたので内心罪悪感に襲われる。自分にとって、都合の良い存在にしようとしてしまった。
多少の反省と共に、将来世界を見て回りたいと伝える。嫌ならば、逃がしてあげよう。そう思った。
「…素晴らしいお考えです。その時は、是非私もご一緒させて下さい。」
瞳を輝かせるルキウスに、初めてネコへの情が芽生える。もしかしたら、一緒に生きてみたら楽しくなるかもしれない。
そう思った矢先、指輪を渡した日に予想外の事を告げられた。ルキウスの正式な名は、ルキウス・キケロ・バルディオス。バルディオス帝国の第一皇子で、弟にタチが産まれるまでは跡継ぎだと言う。
窮屈な世界に生きる人、そのものだ。流石に自分の為に全てを捨てろとは言えまい。
此所で直ぐに別れを告げては相手に傷がつく…そうだ。ルキウスに相応しいタチを探してやろう。
そう、決心した。
57
お気に入りに追加
1,100
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
親衛隊総隊長殿は今日も大忙しっ!
慎
BL
人は山の奥深くに存在する閉鎖的な彼の学園を――‥
『‡Arcanalia‡-ア ル カ ナ リ ア-』と呼ぶ。
人里からも離れ、街からも遠く離れた閉鎖的全寮制の男子校。その一部のノーマルを除いたほとんどの者が教師も生徒も関係なく、同性愛者。バイなどが多い。
そんな学園だが、幼等部から大学部まであるこの学園を卒業すれば安定した未来が約束されている――。そう、この学園は大企業の御曹司や金持ちの坊ちゃんを教育する学園である。しかし、それが仇となり‥
権力を振りかざす者もまた多い。生徒や教師から崇拝されている美形集団、生徒会。しかし、今回の主人公は――‥
彼らの親衛隊である親衛隊総隊長、小柳 千春(コヤナギ チハル)。彼の話である。
――…さてさて、本題はここからである。‡Arcanalia‡学園には他校にはない珍しい校則がいくつかある。その中でも重要な三大原則の一つが、
『耳鳴りすれば来た道引き返せ』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる